土曜日, 1月 17, 2026
ホームコラム《映画探偵団》32 野口雨情作詞『爆弾三勇士』

《映画探偵団》32 野口雨情作詞『爆弾三勇士』

【コラム・冠木新市】雨情茨城民謡の謎を解くため、1930年代に作られた映画や1930年代を舞台にした映画を探して見ている。ある日、昭和初期を時代背景に作られた東映の任侠映画があったことに気が付いた。雨情と任侠映画はミスマッチであり盲点だった。

東映の任侠映画は『人生劇場 新飛車角』(1963)から始まる。TVの普及で斜陽となった日本映画界で観客を集め、『日本侠客伝』『昭和残侠伝』『緋牡丹博徒』などのシリーズ物を生みブームは約10年間続いた。だが当時の映画評論家や文化人からは毛嫌いされ、批判の的だった。

鶴田浩二主演『博奕打ち 総長賭博』

ところが、作家の三島由紀夫がある任侠映画を絶賛したところから潮目が変わる。お墨付きを得たからだ。「何という絶対的肯定の中にギリギリに仕組まれた悲劇であろう。しかも、その悲劇は何とすみずみまで、あたかも古典劇のように、人間的真実に叶っていることだろう」

三島が評価した作品とは、ギリシャ悲劇を参考にした笠原和夫脚本、様式美で描いた山下耕作監督の『博奕打ち 総長賭博』(1968)である。

昭和10年、東京江東地区に縄張りを持つ天竜一家の総長が脳溢血(いっけつ)で倒れ、跡目相続問題が起きる。一門の組長でそれぞれ兄弟盃(さかずき)を交わした、中井(鶴田浩二)、松田(若山富三郞)、石戸(名和宏)が総長候補である。

中井の妹は松田の妻、石戸の嫁は総長の娘という関係。さらに一門の叔父貴分の仙波(金子信雄)は、大陸進出の野望を秘め、何かと口を出す。そして総長は石戸に決まり、中井は様々なしがらみに縛られ、花会の準備を進める。

何度か見ていた作品だが、今回初めて気が付いたカットがあった。中井を差し置いて総長の座を受けた石戸に不満のある松田が、自分を狙った刺客は石戸の差しがねと思い込み、事務所に押しかける場面だ。

そこに「ビクターレコード 歌藤原義江 野口雨情作詞 中山晋平作曲」のポスターが貼ってあったのだ。残念ながら、曲名は柱の陰になってわからない。昭和10年は、雨情が日本民謡協会を再興し理事長に就任した年である。

上海事変 満州建国 団琢磨暗殺

その3年前、昭和7年(1932)1月28日に「上海事変」が起きる。3日後の1月31日、2月2日に、雨情は竜ケ崎のまちおこし民謡『今朝も別れか』(常陸竜ケ崎音頭)と『竜ケ崎小唄』を作詞している。2曲は、男と2人の女との別れと出逢いを描いた恋歌である。

2月9日には前蔵相、井上準之助暗殺。2月22日上海事変で肉弾三勇士の戦死を軍部が発表。3月1日満州国の建国宣言。3月5日三井合名理事長、団琢磨暗殺。

時代はテロと大陸進出とで騒然とした雰囲気だった。こうした中でまちおこし民謡をつくる雨情は、大陸での出来事をどう意識していたのだろうか。雨情は昭和7年、『幼年倶楽部』7月号に『爆弾三勇士』の詩を発表する。「上海事変」で爆弾抱えて突撃し亡くなった3人の男の詩だ。

くもの巣よりも なほしげく
縦横無尽に はられたる

鉄条網を うちながめ
にくや 小しゃくな 十九路軍

日本男児の この意気を
今こそ見せん 時は来ぬ
(以下略)

雨情茨城民謡は、日本とアジア大陸とのしがらみの中で読み直せば、いろんな映像が見えてくるのではないかと思っている。サイコドン ハ トコヤンサノセ。(脚本家)

➡NEWSつくばが取材活動を継続するためには皆様のご支援が必要です。NEWSつくばの賛助会員になって活動を支援してください。詳しくはこちら

スポンサー
一誠商事
tlc
sekisho




spot_img

最近のコメント

最新記事

初冬の池とカモと色付く水面《鳥撮り三昧》9

【コラム・海老原信一】木々の葉の色付きが割と遅れて始まる洞峰公園(つくば市二の宮)。12月でも紅葉が楽しめるなんて結構ぜいたくです。また、そのころには北からカモたちがやってきます。木々の林や、植え込み、ヨシの中などには小鳥たちが入ります。 シジュウカラ、ウグイス、メジロ、ホオジロ、コゲラ、ムクドリ、ヒヨドリ、スズメなどの常駐組に交じって、ジョウビタキ、ツグミ、シロハラ、アカハラ、アオジ、シメ、カシラダカなどが越冬のためにやって来るのです。 見かける機会が少なくなったルリビタキにも運がよければ出会えますし、公園に隣接する林や草地にはコジュケイ、カケス、トラツグミ、オオタカなどの姿を見ることもできます。近年、野鳥とは言えないものの、ガビチョウが目立つようになっていて、何ともにぎやかな鳴き声を一度は聞かれているでしょう。 また水辺に目をやれば、ゴイサギ、コサギ、ダイサギ、アオサギ、カワウ、カイツブリ、ヒクイナ、クイナ、バン、オオバンなど、多くの野鳥を見ることができます。「探鳥ガイド」のようになってしまいましたが、肝心なのはカモたちです。 洞峰公園の沼には、11月末ごろからカモたちが姿を見せるようになります。コガモ、ヒドリガモ、オナガガモ、マガモ、ホシハジロ、トモエガモ、オカヨシガモ、キンクロハジロ、アメリカヒドリなどの珍客。季節を問わず見られるカルガモと、いろいろなカモたちを楽しめます。 「お、泥パックかい」 時期を同じくして、沼の周囲を囲む木々が赤や黄に色付き、常緑樹は緑を、建物は壁の色を沼の水面(みなも)へと送り込んできます。朝の柔らかい日差し、夕暮れ時の赤みある光がそれらの色と混ざり合い、とても美しい情景をつくり出します。そこに色とりどりのカモたちの姿が重なり、表現のしようがない程の眺めが出現します。 カモたちが泳げば波紋が起き、その波紋が色付く水面を不思議な世界に変えます。カモの中には、水底にくちばしを差し込んだりして食べ物を探すものもいます。洞峰公園の沼は浅いので、多くのカモが逆立ちしますが、潜水ガモと言われるホシハジロは別格です。水底の泥の中に顔まで入れて探すようで、上がってきた時の顔は泥まみれ。 それだけでも面白いのですが、美しい色合いの所へ顔を出した時は、周りとのギャップについ笑顔に。思わず、「お、泥パックかい」と、突っ込みを入れる自分がいます。人も「泥パック」をすると聞いていますから、そんなことを思い出しながら…。ホシハジロの泥パックは生きるためで、美容とは関係なさそうですけどね。 決して広くはない沼ですが、水が生き物にとって大切なものだと教えてくれる、多くの生き物たち。彼らの見せてくれる情景が寒さとともに美しさを増す、11~12月の洞峰公園が一番好きな私です。そのような場が身近にあり、その場に身を委ねることができる幸運を大事にしたいと思います。心と体を解放できる場として、いつまでもあって欲しいと願いながら。(写真家)

道路工事中に給水管を破損 1軒が断水 つくば市

つくば市は16日、市が発注した同市小野崎の道路改良舗装工事で、同日午前10時50分ごろ、市内の工事受注業者が既存の側溝(U字溝)を撤去する作業をしていたところ、埋設されていた上水道の給水管を誤って破損させ、1軒に断水被害が発生したと発表した。断水は同日夕方5時ごろに復旧した。 市道路管理課によると、工事業者が老朽化した古いタイプのU字溝を新しいタイプのU字溝に入れ替える作業をするため道路を掘削していたところ、道路下に埋設されていた近くの店舗1軒の給水管の一部を破損させた。工事業者はあらかじめ図面で、道路下に給水管が埋まっていることを把握していたという。 工事業者は断水被害を受けた店舗に謝罪し状況を説明。被害店舗はこの日、店を休みにした。 再発防止策として市は、受注業者に是正措置を求めたほか、現在、市の工事を受注している全工事業者に注意喚起を徹底し、再発防止に努めるとしている。

ロウバイが満開 筑波山梅林 早春の訪れ告げる

つくば市沼田、筑波山中腹の梅林でロウバイが満開となり見頃を迎えている。1月中旬は暦の上では小寒から大寒に向かう冬のさなかだが、標高約250メートルにある筑波山梅林では、ろう細工のような、ロウバイの光沢のある黄色い花が甘い香りとともに早春の訪れを告げている。 ロウバイは梅林の筑波山おもてなし館付近の斜面に数十本が植えられている。つくば市観光コンベンション協会によると、正月過ぎから見頃となっている。開花状況は平年並み、見頃は2月初旬ごろまでという。 3連休初日の10日は筑波山神社の参拝客や登山客などで梅林の駐車場は満杯。ロウバイが咲く梅林では、家族連れや写真愛好家などが、青空と黄色のコントラストをカメラやスマートフォンなどで写真に納める姿が見られた。 石岡市から来た藤井浩一さん(63)は「毎年ロウバイを見るために梅林に来ている。これだけたくさんのロウバイが咲くところは貴重だ。今日は珍しいヤマホウジロの写真も撮れたのでうれしい。ロウバイの写真ももっと撮っていきたい」と話していた。 ロウバイは中国原産で、梅に似ているが、梅がバラ科なのに対し、ロウバイはロウバイ科に属する。 筑波山梅林は約4.5ヘクタールの広さがあり、中腹の斜面に約1000本の白梅や紅梅が植えられている。10日時点で、早咲きの紅梅はまだ開花していない。第53回目になる今年の筑波山梅まつりは2月7日から3月15日まで開催される。(榎田智司)

つくば文化会館アルス《ご近所スケッチ》21

【コラム・川浪せつ子】つくば駅近くの図書館と美術館から成る「つくば文化会館アルス」(つくば市吾妻)は、ステキな建物です。この分野では老舗の石本設計事務所(1927年創立)が設計しました。つくば市周辺には、同社のような日本を代表する事務所がいろいろな建物を設計しています。 近くにあるつくばセンタービルは、建築界のノーベル賞と言われる「プリツカー賞」を受賞した磯崎新さんが設計した作品。つくば市には後世に残したい素晴らしい建造物が多いですが、そのような歴史に残るような建物を「描く」のって、至難の業なのです。 私は若いころから、建築の完成予想図を作成する仕事をしてきましたが、今回はそれがアダになりました。上の絵は何度も描き直して、なんと4枚目です。悩みに悩んで、お正月明けにスケッチしました。どうも、面白くない絵になってしまうのですよね…。 ステキな建物とそこに憩う市民 創作活動は何でもそうだと思いますが、自分の表現したいもの、表現したいこと、表現したいテーマは何か―それが重要だと思うのです。創作活動とは、誰かに認めてもらいたいということでなく、自分の「思い」が込められたものを創ることではないでしょうか。そして、たどり着いたテーマは「ステキな建物とそこに憩う市民」です。 緑の季節には葉っぱが多くて建物が見えません。冬は落葉して見えますが、もうひとつインパクトが出ません。そんなジレンマの中、そこに憩う方々をたくさん配置したところ、どうにか納得するものに。「まだまだ」の自分ですが、悩みながら、さまよいながら、つくば市周辺の良さを表現できたらと思っています。(イラストレーター)