【相澤冬樹】競走馬の育成牧場から毎日大量に排出される馬ふんを有効活用し、環境循環型の地域農業への展開を図る「サラブレッド堆肥エコシステムプロジェクト」が県南地域の大学、民間企業、農業従事者の連携で動き出した。良質な堆肥の生産体制が整い、農水省の研究開発プラットフォーム活動の1つに取り上げられたことから、メンバーがコンソーシアム(議長・黒田久雄茨城大学農学部教授)を立ち上げ31日、記者会見を開いてスタートを宣言した。
馬ふんベースの発酵堆肥「サラブレッドみほ」を製造、販売するのはリーフ社(つくば市若栗、鈴木総一社長)。つくば牡丹園(つくば市若栗)の関浩一園長(59)が約20年にわたって培った土壌改良の技術を元に、馬ふんを短期間で完熟堆肥とすることに成功した。関園長は土壌研究のため、東京農工大学の連携大学院のある茨城大学農学部に籍を置き、現在博士課程3年に在学中。
美浦トレセンのある茨城県南には35の育成牧場で作る馬牧場協議会があり、約1500頭が飼われている。ここから出るふん尿まみれの敷きわらは毎日約30トンにもなり、霞ケ浦をはじめとする環境への負荷が懸念された。同協議会が黒田教授に相談したことから、関園長に堆肥化研究の白羽の矢が立った。
競走馬はドーピングの厳しさから飼料に抗生物質や薬物を使わないよう管理されるため、原料としては良質だが、堆肥にする場合、炭素/窒素の比率が高いのがこれまで技術上の課題だった。微生物が大量発生して窒素を消費するため、作物の生育に障害となった。
関園長は米ぬかやカニ殻、酵素などを混ぜることによって、微生物の発生をコントロール。糸状菌や放線菌などの働きにより、ふん尿廃棄物を早ければ20日間で完熟堆肥にすることができた。敷きわらの植物成分は高温ですっかり分解し、ほとんど匂いのしない状態に仕上がる。完熟堆肥を使った土壌は保水力や柔軟性に優れ、肥料や農薬の使用が抑えられるという。現在3棟の堆肥ハウスで製造を行っている。
「作物が丈夫になった」
「サラブレッドみほ」はボタン栽培で実績を積み、今春までに製品化、一部ホームセンターで取り扱いを開始した。さらに阿見町の農事組合法人大地のめぐみの組合員農家で、農作物での実践的な試用が始まっている。同法人の荻島光明事務局長によれば「ハクサイなど今季は台風15号、19号の被害を免れなかったが、作物が丈夫になったと思う。回復力がめざましい。農地の健康が作物の健康、ヒトの健康、地域の健康につながっていくはずだ」という。
今回は茨城大学、大地のめぐみ、リーフ社の3法人でコンソーシアムを組んだ。黒田教授は、阿見町、美浦村を中心につくば市、牛久市、稲敷市の農地に利用を拡大し、定量的な堆肥効果の把握に務める一方、農家レストランへの食材提供などによりブランド価値を高める「プロジェクト」にしていきたい考えでいる。