木曜日, 8月 20, 2026
ホーム土浦土浦一高哲学部のコラム集「放課後の哲学」が書籍化 NEWSつくばで連載

土浦一高哲学部のコラム集「放課後の哲学」が書籍化 NEWSつくばで連載

土浦一高哲学部が今年3月から4月にかけてNEWSつくばで連載したコラム「放課後の哲学」が一冊の本になった。9月から全国の書店で一般販売が始まる。版元はあっぷる出版社(東京都千代田区、渡辺弘一郎代表)。「放課後の哲学」は、部員一人ひとりが日々の暮らしの中で感じた違和感や葛藤を、等身大の言葉でつづったコラム集だ。

当サイトに掲載した哲学部員9人と顧問教諭による10本のリレーコラムのうち、書籍には部員の8本を収録した。このほか新たに執筆を希望した部員らによる書き下ろし5本と、3人の卒業生が在校時代をそれぞれ振り返った「あの時の放課後」、2人が卒業後の現在を見つめる「その後の放課後」、書籍化のきっかけにもなった学外での市民向け哲学カフェ「語るカフェ」を支える地域住民による「地方都市の『語るカフェ』」など、全22本のコラムで構成される。

「放課後の哲学」の表紙(右)と裏表紙の書影

四六判208ページ。表紙を彩る蛇行した虹色の線は、哲学部部長で2年生の大和田哲太さん(17)が自身のコラム「好きな『もの』や嫌いな『もの』とは何なのか」の挿絵として描いた「人間関係の強度」と「好き嫌いの度合い」を図式化したものが基になっている。オーケストラ曲を自ら作曲するなど音楽にも取り組む大和田さんが、人と人との関係を独自の図で表現したものだ。

連載時、読者からは「部員たちによる一生懸命な文章から熱量が伝わってくる」「錯綜したり、混乱したりしている文章が生身の若者丸出しでいい」「自分も若い頃に感じていた、将来への漠然とした不安な気持ちを思い起こした」などの感想がSNSを通じて多数寄せられ、書籍化を望む声も寄せられていた。

生徒自ら書店を巡りPR

8月、発売を前に、哲学部の生徒たちは地元のつくば市や土浦市の書店を訪ね、自ら本のPRを始めた。

リブロ トナリエキュートつくば店では、多和田店長から売り場作りについて説明を受けた

「私たちが書いた本です。ぜひ、よろしくお願いします」。10日、つくば市内の書店、リブロ トナリエキュートつくば店を訪ねた大和田さんは同書の書影が印刷されたチラシを店長の多和田遥さんに手渡し、本の内容や哲学部の活動について説明した。

受け取った多和田店長は「著者が出版物を持って書店をあいさつに回ることはこれまでもあったが、高校生が来たのは初めて。なかなかできないことだし、熱量が伝わってくる。高校に哲学部があるのも全国的に珍しい取り組みで、とても関心がある。力になりたいと思っている」と応じた。哲学部では8月、つくば、土浦市内の書店、合わせて8軒を数日間かけて回る予定だ。

大和田さんは「書籍化されると聞いて、まず驚いた。部員全員で一生懸命取り組んだ結果だし、さまざまな関係者のおかげでもある」と話す。実際に書店を訪ねてみて、「自分たちの取り組みを人に伝えることの大変さも改めて感じた。ただ熱量があるだけでも伝わらない」と感じたと話す。

コーチャンフォーつくば店で店舗責任者に本の説明をする大和田さん

対話を重ねて文章に

「放課後の哲学」は、生徒がそれぞれ書いた完成原稿を持ち寄って始まった連載ではない。連載開始までの約5カ月間、生徒たちは「編集カフェ」と称して毎週月曜の昼休みに学校の図書室に集まり、それぞれが書いた原稿を読み合った。書き手が何を伝えたいのかを聞き、一人ひとりが意見を出す。それを受けて書き手が再び文章に向き合い、書き足したり書き直したりする。哲学部が活動の中で大切にしてきた「対話」を重ねながら、一つ一つのコラムを形にしていった。

生徒自身が書店を訪ねることについて、顧問の飯島一也教諭は、単なる販売促進とは異なる意味があると話す。 「自己表現の一環として、どのような思いで本をつくったのかを書店の方に話すことも、哲学部の活動として意味があるのではないかと考えた。本を書いた思いを皆さんに知っていただく、そうした行動の一環として、生徒自身が書店に出向くことに意味があると話し合った」という。

哲学部は学校の外でも、市民と一つのテーマについて語り合う哲学カフェ「語るカフェ」を、市内のイベントスペースで開いている。2024年から始まり、開催はこれまで6回を数える。高校生の孫を持つ世代から、会社員、大学生などさまざまな市民が参加してきた(5月14日付)。

飯島教諭は「哲学カフェは格闘技ではない」と強調する。相手を言い負かしたり、勝ち負けや一つの正解を求めたりするのではなく、異なる意見を受け取り、対話を通じて自分も相手も少しずつ変わっていく。その過程そのものを大切にする活動だとし、「社会の分断が世界規模で進む中、共通の土壌の上で共同作業をする経験を、どこで積むのか。その一つの答えが哲学カフェだと思っている」と語る。

9月には、土浦やつくば市内で出版記念イベントの計画も進行中だ。飯島教諭は書籍について「生徒自身が表現した切実な思いが皆さんに伝わり、読んだ人の心の中に何か変化が起きて、それがまた社会の何かの変化につながっていくことがあったらありがたい」と期待する。大和田さんは「高校生の私たちが書いた文章によって、本を手に取ってくれた方に何か新しい発見や、日常の見方の変化があれば、一番うれしい」と話した。(柴田大輔)

◆執筆した哲学部員や卒業生、関係者らによる出版記念トークイベント「放課後の哲学ができるまで」が、9月13日(日)午前10時~11時30分、土浦市中央1丁目13-52 公園ビル内「がばんクリエイティブルーム」で開催される。入場無料。事前予約制。同日正午からは会場の向かいにある城藤茶店で希望者による食事会も開かれる。参加予約、問い合わせはメール(daisuke.pp@gmail.com)へ。

➡NEWSつくば連載のコラム《土浦一高哲学部「放課後の哲学」》はこちら

➡NEWSつくばが取材活動を継続するためには皆様のご支援が必要です。NEWSつくばの賛助会員になって活動を支援してください。詳しくはこちら

guest
最近NEWSつくばのコメント欄が荒れていると指摘を受けます。NEWSつくばはプライバシーポリシーで基準を明示した上で、誹謗中傷によって個人の名誉を侵害したり、営業を妨害したり、差別を助長する投稿を削除して参りました。
今回、削除機能をより強化するため、誹謗中傷等を繰り返した投稿者に対しては、NEWSつくばにコメントを投稿できないようにします。さらにコメント欄が荒れるのを防ぐため、1つの記事に投稿できる回数を1人3回までに制限します。ご協力をお願いします。

NEWSつくばは誹謗中傷等を防ぐためコメント投稿を1記事当たり3回までに制限して参りましたが、2月1日から新たに「認定コメンテーター」制度を創設し、登録者を募集します。認定コメンテーターには氏名と顔写真を表示してコメントしていただき、投稿の回数制限は設けません。希望者は氏名、住所を記載し、顔写真を添付の上、info@newstsukuba.jp宛て登録をお願いします。

0 Comments
フィードバック
すべてのコメントを見る
スポンサー
一誠商事
tlc
sekisho




spot_img

最近のコメント

最新記事

「音」で土浦の今を残したい 子どもたちと集めた音でVR・AIアート体験を

22、23日 りんりんポート土浦 普段は意識せずに聞き流している、揺れる木々の音、足音、街のざわめきなど土浦市内の音を録音し、映像やVR(仮想現実)、AIなどの技術と組み合わせて「土浦の音」を体験する展示「土浦サウンドアーカイブプロジェクト 土浦サウンド展」が22、23日、同市川口、霞ケ浦湖畔の休憩施設、りんりんポート土浦で開かれる。 主催するのは、土浦市在住の音楽家、宇津木紘一(44)が代表を務める市民団体「つちうらサウンド・アーカイブ・プロジェクト実行委員会」。昨年から開いてきたワークショップの一環で、地域で集めてきた音や活動を紹介するとともに、来場者自身が音を聞き、触れ、遊ぶことのできる「小さな美術館」のような空間をつくる。地域活性化や地域課題解決を目的とした活動を対象にした市の助成制度「土浦市協働のまちづくりファンド(ソフト)事業」にも採択された。 子どもたちと音を探す 今回の活動は、昨年10月に15人ほどの子どもたちと土浦の街に出て音を集めるところから始まった。市内を走るサイクリングロード、つくば霞ケ浦りんりんロードを自転車で走ったり、霞ケ浦総合公園を歩いたり、霞ケ浦で遊覧船に乗船しながら、スマートフォンを使ってさまざまな音を録音した。水や風の音など自然界の音だけでなく、足音、自転車のきしみなど、普段は聞き流してしまっている音を録音した。参加した子どもたちが驚いたのは、自分の耳で聞く音と、録音した音との違いだったという。 今年2月には、ワークショップで集めた音と、サックス奏者である宇津木さんらによる生演奏によるコラボイベントが、市内の寺院で開かれた。(2月20日付) 宇津木さんは「音を通して、その土地の文化や地域を知ることができる」と話し、「音は人の記憶と結びつく。何気ない一つ一つの音も、複数の音が重なることで、その場所ならではの風景が浮かび上がることがある」、そんな気づきが活動に繋がったと語る。 土浦の音でリズムをつくる 今回の展示では、これまでのワークショップやコンサートを写真や映像、資料で振り返るほか、VRなどを利用した体験型作品も並ぶ予定だ。普段は美術館などに出掛けなければ触れる機会の少ないメディアアートを、身近な地域で気軽に楽しんでもらいたいとする。 映像とともに音の遠近や変化を体験する「土浦サウンドVR」は、暗幕で光を遮った室内に設置された100インチのスクリーンに、AI技術を使用し、土浦市内の風景を元に作られた仮想空間がプロジェクターで映される。参加者は、パソコンを操作しながら空間を移動し、画面上のものに触れるとさまざまな音を聞くことができる。 音遊びゲーム「おとふね」は、企画のために作られたスマートフォン用のアプリを使い、土浦で録った音を素材に、自分でリズムをつくることができる。例えば、足音をバスドラムの「ドン」という音のように使ったり、風や葉の揺れる音を楽器の一つとして組み込んだりする。アプリ上で好きな音を選び、何度も組み合わせながら自分なりのリズムをつくる。スタッフに相談しながら体験できるようにもする予定だ。「私自身、世界にある全ての音を音楽に使えると気付いた時に世界が広がった」と話す宇津木さんの体験が元になったコーナーだ。作った音は、ダウンロードし持ち帰ることができる。 会場にはこのほか、地域で活動する作家と一緒に線香花火や紙パックを使ったランタンを手作りできるコーナーも設ける。 消えていく「音」で町を残す 活動の背景には、「今の土浦を残す」という目的があると宇津木さんはいう。「音から、その地域の文化や歴史を読み取ることができる。ふと耳にした瞬間に昔を思い出すこともある。音にはそんな力がある。街の景色や暮らしは変わり、文化や歴史も失われていく。だから、今しか聞けない音を記録しておきたい」 今はスマートフォンがあれば、誰でも簡単に音を録音できる。宇津木さんが子どもの頃は、録音には専用の機器やカセットテープが必要だった。身近になった録音技術を使って地域の音を残し、さらにVRやAIなど現在の技術と組み合わせることも、このプロジェクトの目的だ。残された音を将来聞いた人が「なぜ、この音がしていたんだろう」と疑問を持ち、当時を知る人に尋ねることで、地域の歴史を知るきっかけにもなると想像する。 「写真は撮るけど、音は撮らないですよね」と話す宇津木さん。「一度、音に意識を向けるようになると、どこへ行っても音に気付くようになる。音を積極的に感じる機会が少し増えるだけでも、日常の楽しみは増えるんじゃないかと思う」とし、「専門的な知識は全然なくて大丈夫。夏休みの思い出づくりに、『ちょっと面白そうだな』という気持ちで来てもらえれば」と呼び掛ける。(柴田大輔) ◆「土浦サウンドアーカイブプロジェクト 土浦サウンド展」は、8月22日(土)、23日(日)、土浦市川口2丁目13-25 りんりんポート土浦で開催。両日とも午前11時~午後5時。手作り線香花火、紙パックランタンの「手作りワークショップ」は午後1時からと、午後3時から。午後3時30分からは、サウンドスケープ・ライブと題して、宇津木さんと、同実行委員会の統括ディレクターを務める作曲家でピアニストの中村浩之さんによる、集めた土浦の音と楽器による即興演奏会が開かれる。入場無料。問い合わせはメール(contact@bbmusic.tokyo)へ。イベントの詳細は、特設サイトへ。

大切な行事と「森の薬膳coco Tea」《ご飯は世界を救う》74

【コラム・川浪せつ子】年齢を重ねると、食べ物や昔からの行事(お盆)などが大切に感じるようになります。今年1月、義理の妹が病気で亡くなり、初盆です。私より少し上でしたが、本当によくしてもらいました。 また我が家は、これからのお墓のことでいろいろ検討中です。そんな中、7月に掲載した「牛久沼泊岬」(7月16日付)に行く途中、大きな墓地があるのに気がつきました。 近所の友人に話したら、10年前、お父さんをその墓地に埋葬したそうです。「そこには見晴らし台があって、牛久沼がよく見えるから、スケッチしたら」と、案内してもらいました。なかなかよい感じのところです。ですが、やぶ蚊が多く、とってもスケッチはできず、写真に収めて家で描くことに…。 お墓参りした後、友人が連れて行ってくれたのが「森の薬膳 coco Tea」(つくば市学園の森)というお店でした。お参りしてから、洋食料理より薬膳料理って、なんだかよい感じです。心も体もいたわる感じで…。 薬膳には興味はありませんでしたが、今回食したカボチャは体を温め、胃腸の働きを高めるそうです。山芋はスーパーフードで、滋養強壮にもいろいろな効果があるそうです。これからの食生活にも、少しずつ取り入れたいものですね。 風景に癒やされ、食事からは元気をもらい、大好きな友人とおしゃべり。そして、これからのご先祖様と私の行く末を考えながら、前向きの気持ちになった一日でした。(イラストレーター)

TX土浦延伸期成同盟会を設立 県内6市町長と議長

つくばエクスプレス(TX)の土浦延伸と茨城空港延伸を目指して、県内の関係6市町長と議会議長が17日、TX土浦延伸期成同盟会を立ち上げ、会長に安藤真理子土浦市長を選出した。TX東京駅延伸を図る沿線首長らによる期成同盟はすでに存在しているが、土浦駅延伸を目指す団体が結成されたことで、双方向延伸実現に向けた政治関係組織ができた。同日、土浦市内の結婚式場「ローブ」で設立総会が催された。 交通政策審での位置付けが課題 メンバーは、土浦、石岡、牛久、かすみがうら、小美玉市、阿見町の市長・町長と、これら6市・町の議会議長の計12人で構成される。土浦駅に近い常磐線沿線の首長のほか、土浦延伸が実現したあと茨城空港(小美玉市)への再延伸を目指して、その経路に当たると想定されるかすみがうら市長も加わった。 採択された設立趣意書では ①TX土浦延伸、さらに茨城空港延伸は、沿線地域の利便性を向上させ、県南・県央・県北と首都圏、さらに諸外国を結ぶ交通ネットワークを強化する ②延伸は交流人口の拡大や産業の活性化、大規模災害時の代替輸送路確保に寄与する ③次期(国土交通省)交通政策審議会答申で、必要路線と位置付けられることが重要課題 ④関係自治体が連携し、強力な推進体制を構築し、関係機関に強く訴える―とうたっている。 土浦延伸と県南50万都市はセット 設立総会には大井川和彦知事、関係市町が選挙区の県会・国会議員、地元土浦の市会議員も出席した。土浦市長や来賓あいさつでは、TX土浦延伸と県南50万都市形成をセットで構想する発言が相次いだ。 会長に選出された安藤土浦市長は「(最近)知事からTX延伸を機に県南に50万都市を建設するとの話があったが、TX延伸はその都市づくりの重要な要素になる。そのために地域がひとつになることが重要」だと述べた。大井川知事は「TXは土浦とつくばを中心とした50万都市づくりの大きな契機になる。そのためには地元自治体の延伸活動が大事」だとし、地元選挙区選出の国光あやの衆院議員は「高市政権の成長戦略では鉄道も重視されている。TX土浦・東京延伸は費用対効果を考えると十分ペイする。50万都市形成を目指す県南でTXが充実することは国の戦略と合致する」などと話した。 常磐線不通の際は替輸送経路 総会後、県の木名瀬貴久政策企画部長が「TX延伸による茨城の未来」という演題で講演、いろいろな視点から延伸がもたらす効果を説明した。この中でも「つくばなど県南・県西と水戸など県央、さらには県北がより近くなることで、県内の大きな経済圏の連携強化につながる」と、県全体に及ぼす経済効果に言及した、 また延伸区間(つくば駅~土浦駅、約10キロ、約9分)のポテンシャルについて「つくばー土浦間の利用者は平日・休日ともに7~8万人もの流動性がある」とし、「これにより一部区間で発生している交通渋滞は鉄道利用が増えることで緩和される」「延伸区間は高架構造を想定しており、河川氾濫などの災害リスクや輸送障害を軽減できる」などと説明。特に、常磐線が不通になった際、TXが代替輸送経路になることを強調した。(坂本栄)

竹園に残る未来の遺跡《デザインを考える》35

【コラム・三橋俊雄】つくば市の竹園地区は、1970年代に研究学園都市の中でいち早く整備された地域の一つです。そのため、この地区には学園都市建設当時の理想や期待が色濃く刻み込まれています。公務員宿舎や公共施設もそうした構想のもとで整備されました。 しかし半世紀近くが過ぎた現在、社会の姿は大きく変わりました。人口構造や働き方、住まい方が変化し、かつて重要な役割を担っていた施設の一部は、その役割を終えています。その結果、閉鎖されたままの公務員宿舎や使われなくなった設備の一部は、街の中に残されることになりました。 毎週水曜・日曜のラジオ体操の際に気になっているのが、竹園ショッピングセンター広場に設置されていた水飲み場(写真右下の2枚)です。もともと、ショッピングセンターと交流センターの間には、3基の水飲み場がありました、しかし5年以上前から、金属製の蛇口は取り外され、石造の基部だけが残されています。かつては夏の日に子どもたちや買い物客の喉をうるおし、まちのやさしさを感じさせる存在だったことでしょう。 それだけではありません。つくば市誕生当初から設置されている案内地図板(写真左の2枚)も今は色あせ、機能していません。研究学園都市として新しい未来を切り開こうとしていたころの期待や希望を映し出していたはずの地図板も、今では静かに時の流れを物語るだけの存在となっています。それらが適切な手入れもされないまま残されている姿は、歴史的景観というよりも、むしろ「廃墟」のような印象を受けます。 さらに昨年から、管理者によって使用が禁止されたままとなっている郵便局脇の掲示板(写真右上)も、そのまま使用できずに残されたままです。子どもたちの通学路でもあるこの広場は、長年にわたり多くの人々が行き交い、掲示板は地域の情報を共有する場として親しまれてきました。掲示板には地域のイベントや活動のお知らせが貼られ、そこには日々の息づかいが感じられていました。その掲示板だけがポツンと残されている光景に、私は一抹の寂しさを覚えています。 「廃墟」と「現在」が同居 使えない水飲み場や、色あせた案内地図板、使用できない掲示板が放置されたまま、この広場には「廃墟」と「現在」が同居しているのです。そうした風景を眺めていると、研究学園都市として船出したころに抱いていた理想や、市民とともにまちを育てていこうとしていた熱意は、どこへ行ってしまったのだろうか?と思わずにはいられません。 まちの魅力は、新しい施設だけによって生まれるものではありません。人々が集い、情報を共にし、地域への愛着を育む場所であってこそ、まちは生き続けることができるのです。水飲み場も、案内地図板も、掲示板も、一見するとささやかな存在かもしれません。しかし、そうした身近な施設にどう向き合っていくかということこそ、そのまちのありようが表れているのではないでしょうか。 今こそ、つくばが研究学園都市として歩み始めたころの志に立ち返り、まちの記憶と誇りを次世代へ受け継ぐための「まちのデザイン」が必要ではないでしょうか。(ソーシャルデザイナー)