水曜日, 10月 22, 2025
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たかが5千円 されど5千円《短いおはなし》44

【ノベル・伊東葎花】

夕方の混み合うスーパーのレジ。

あら、この人、お釣り間違えてる。
2300円買って5千円出したら、お釣りは2700円でしょう。
それなのに私の手には、7700円が載っている。
やっぱり言わないとまずいよね。5千円って大きいもの。
「あの」と言いかけた途端、後ろに並んだ客に肩を押された。

「終わったらさっさとよけて」

弾かれて、私はすごすごと下がった。
ネコババしたわけじゃないのよ。ちゃんと返そうとしたのよ。
なのに、あのおばさんが押すから。
言い訳しながら、万引きでもしたような気分で、ささっと店を出た。

戸惑いながら5千円札を見る。たかが5千円。
そうよ。普段の行いが良いから、神様がくれたご褒美よ。
そう思ったら気が楽になった。

夜になって帰ってきた夫が、やけに沈んでいる。

「何かあったの?」

「実はさ、同期のKくんが、懲戒免職になったんだ」

「まあ、どうして?」

「K君は経理の仕事をしているんだけど、会社の金を使い込んだらしい」

「まあ、いくら?」

「5千円」

「5千円? たったの5千円?」

「たとえ5千円でも横領だよ。ちょっと借りて後で返すつもりだったらしい。これまでも、何度かやってたらしいんだ」

「クビになったら大変じゃないの。どうするの、これから」

「職探しだな。奥さんは駅前のスーパーで働いているらしいよ」

「駅前のスーパー?!」 私はハッとした。

釣銭を間違えた店員のネームプレート、確かKではなかったか。
「飯まだ?」という夫の声など聞こえないほど動揺していた。
罪悪感で押しつぶされそうだ。
明日スーパーに行って、5千円を返そう。

翌日、封筒に5千円を入れてスーパーに行った。
Kさんは、都合よく人気の少ない通路で品出しをしていた。

「あの、Kさん」

話しかけるとKさんは笑顔で振り返った。

「いらっしゃいませ。何か御用でしょうか」

「あの、昨日、レジのお金、合わなかったでしょう?」

「え?」

「ごめんなさい。私、お釣りを多く受け取ってしまって。これ、返します」

「何のことでしょう?」

「いいから受け取って。ご主人だけでも大変なのに、あなたまで辞めさせられたら大変じゃないの。ね、受け取って」

私はKさんのポケットに封筒をねじ込んで、素早く店を出た。
これでいい。これで私が地獄に落ちることはない。

Kさんは、首をかしげていた。

「なんだろう、あの人。レジのお金はきっちり合っていたのに。あら、5千円も入ってる。店長に言った方がいいかな。でも私、今日で辞めて夫と田舎に帰るから、別にいいか。もらっておこう。ラッキー」

Kさんが、意外としたたかだったことなどつゆ知らず、私はその夜家計簿を付けながら、5千円が足りないことに気が付いた。
もしかして私、昨日の買い物で1万円出していた?
あ、そういえば、1万円札だったかも。絶対そうだ。私の勘違いだった。
落ち込む私に息子が追い打ちをかける。

「お母さん、部活の合宿代5千円ね」
                                     (作家)

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