【コラム・原田博夫】9月下旬の週末(20日・21日)、政治社会学会ASPOS第16回研究大会に参加しました。私はこの学会には設立(2010年)当初からメンバーとして参加しています。同学会の狙いは、リベラルアーツの復権と文理融合を目指し、隔年開催の日韓Joint Conference(韓国側はソウル国立大学アジアセンターが中心の韓国政治社会学会KAPS)も柱にしています。
私自身の専門分野でも、既存の学会活動(日本財政学会、日本経済政策学会、日本計画行政学会、公共選択学会など)では、専門を深める点ではそれなりの意義が認められるものの、私としては、21世紀初頭にふさわしい視野を広げる観点から、ソーシャル・キャピタル論やソーシャル・ウェルビーイング研究などに取り組むことで、一歩横に踏み出していました。ちょうど、そうした転身を始めた時期に、この学会がスタートしたわけです。したがって、両者は私にとって車の両輪と言えるものです。
でも今回は、この学会そのものではなく、会場の追手門学院大学(茨木・総持寺キャンパス)について感想を述べさせていただきます。この地は、京都と大阪から鉄道でそれぞれ20分程度の中間点です。このキャンパスは、従来の茨木キャンパスを新設の理工系学部に充当した上で、既存の文系学部の拠点とするべく開設、全面スタートは今年度(2025年度)です。
敷地は東芝の工場跡地で、4~5ヘクタールはありそうです。建物はありきたりの箱型の構造物ではなく、逆三角形や外側は電飾が点灯するなど、デザインが秀逸であるだけでなく、その内装もゆとりをもった空間レイアウトと教室外の動線・交流スペースのレイアウトや、そこに配置されている椅子・テーブルなども個性的な工夫がちりばめられています。
キャンパス空間デザインを競う時代
約40年前、関西のライバル私立大学はお互いに学生食堂の魅力向上を競い合っていました。そのころ、関東の大学は学生食堂にそれほどの重要性を置いていませんでした。料理の味や学生食堂の雰囲気などは二の次の、ボリューム重視でした。要するに、西高東低だったのです。しかし、遅れること10年ほどで、関東の大学でも学生食堂のレベルが向上し始めたようです。
そうしたことを、学会や研究会の会場となる全国各地の大学を訪れることで、肌で感じていました。今や、大学は魅力的なキャンパス空間デザインを競う時代に突入したようです。
それが、18歳人口が減少し、大学の統廃合がひたひたと迫っている環境変化への対応なのか。それとも、そうした変化への対応を外見的に整えることで、やり過ごそうとしているのか、判然としない点もあります。できれば、カリキュラム内容の充実で勝負してもらいたいところです。
それにしても、この地(摂津国の高槻・茨木など)は、かつて長岡京(784~794年)が近接していて、織田信長以前の天下人と言われた戦国大名・三好長慶(1522~64年)や、キリシタン大名・高山右近(1552か53~1615年)が駆け巡った地であること、そして日本の家電を牽引した東芝の工場跡地であることに、世の栄枯盛衰をしみじみ感じた次第です。(専修大学名誉教授)