農研機構育成
炎天下のナシ園、樹齢17年の原木がたわわな実をつけている。農研機構果樹茶業研究部門(つくば市藤本)で育成された極早生の青ナシだ。苗木になっての市場デビューを来年に見据え、「蒼月(そうげつ)」の名をもらって、5日、報道関係者にお披露目された。
「蒼月」は果実重370グラム程度、主力ナシの「幸水」とほぼ同じ大きさで、極早生品種としては大きい果実といえる。「幸水」より果肉が軟らかく、糖度と酸味はほぼ同程度で、ミルキーな甘い香りと優れた食味を備えている。香りを特色とする二ホンナシは珍しい。
農研機構が極早生で果実品質良好な青ナシ品種の育成を目的として、育成に取り組んだのは2007年。早生の青ナシの「なつしずく」に極早生の赤ナシの「はつまる」を交雑して得られた実生から選抜して、つくばのナシ園に植えた。
15年からは全国35カ所の公立研究機関での特性検討に入った。21年に農林水産省に品種登録申請出願、今年3月に種苗法に基づき「蒼月」として品種登録された。

消費者の口まであと10年
ニホンナシは果面のコルク層が発達する赤ナシと、発達しにくい青ナシに大別される。2022年時点で国内栽培の90%以上が赤ナシで、青ナシ品種としては「二十世紀」が知られる程度。収穫時期は中生で、労力分散の観点から熟期の異なる新品種の育成が求められていた。
ニホンナシの需要は7月下旬から8月中旬にかけて高まるが、その時期に露地栽培で収穫できる主力の品種は見当たらず、早生の「幸水」で対応する場合、多くの産地でトンネル栽培を必要とするため、資材費や被覆労力の負担が課題となっていた。このため露地栽培でも8月上旬に収穫可能な極早生品種の育成が求められた。
ナシの主産地の1つである本県でも、温暖化のせいで、収穫・販売できる時期は年々早まってきたが、書き入れのお盆前の出荷は難しかった。逆に西日本では「幸水」に花芽不良がみられるようになって、「蒼月」は温暖化耐性品種ではないものの栽培転換の有力候補になりそうだ。
育成地のつくば市における「蒼月」の開花期は「幸水」と同時期だが、成熟は約20日早く、7月下旬から8月上旬に収穫可能な、早生の「幸水」より20日程度早く収穫できる極早生の品種といえる。また促成栽培が不要なため、導入すれば資材費や被覆労力の軽減が期待できる。
原木から採られた苗木は、今後許諾契約を締結した果樹苗木業者から販売される予定。2026年秋以降の販売開始を目指す。研究担当者の果樹茶業研究部門、髙田教臣落葉果樹品種育成グループ長によれば「苗木からは3年程度で実を採れるが、まずは産地の産直店あたりで扱われることに。一般の消費者に口に入るまでには10年ほどかかるだろう」と見通している。(相澤冬樹)