【コラム・小泉裕司】毎年8月の最終土曜日に開催される大曲全国花火競技大会は、土浦全国花火競技大会とともに、国内最高峰の内閣総理大臣賞が授与される。会場となる秋田県大仙市大曲には内外から多くの観光客が訪れるが、市内のホテルや旅館は予約もままならず、全国から競技に参加する28花火業者、100人以上が滞在できる施設の確保は困難となっていた。
大曲に花火師専用の宿泊施設
この課題解決に向け、大曲商工会議所が建設したのが、花火師専用の宿泊施設「お宿Onn大曲の花火」。総工費は20億円余り。6階建てで客室は50室。最大156人が宿泊でき、8月の大会本番前後は花火師だけが宿泊できるとのこと。
この期間を除いては一般客も宿泊可能としており、筆者は4月24日オープンの翌日に宿泊した。きれいな部屋と気持ちよいおもてなし、郷土色豊かな朝食メニュー、宿泊料もオープン記念価格でかなりの割安感。ちなみに翌26日の「大曲春の章 新作花火コレクション2025」の予約は早期に完売となり、キャンセルも出ない状況。宿泊料も大会価格で多少高めの設定だったよう。
花火大会史上、画期的な事業
ホテルに隣接する鉄骨3階建ての管理棟(写真中央)は、夏の大会時に審査や大会本部が設けられるという。
これまでの大曲や土浦など競技大会の審査員席は、観客席後方に設置し、雨天時には頭上の単管パイプにシート掛けで対応するのが通例。筆者は、審査員係を担当した過去に、急な雨で集計用の高額なパソコンが故障した経験を持つ。
管理棟のこけら落としとなった26日、この建物で「春の章」の審査が行われ、打ち上げ終了後、最上階6階のレストラン(写真左上)に移動して審査会が行われたとのこと。
この日は、時折降る冷たい雨で、手元の濡れたパンフレットは凍えた指でめくれず、震えながらの花火鑑賞となった。早速、屋根付き審査員席の効果はてきめん。帰りを急ぐ観客の中を審査員席から遠く離れたホテルの審査会に急ぐストレスも解消したことだろう。
数あまたある国内の花火競技大会で、既設の建物から審査を行っている例を私は知らない。

ホテルとしての魅力づくり
部屋や最上階のレストランの窓には、雄物川河川敷や姫神火山群の主峰大平山など自然豊かな眺望が広がる。一方、日が落ちた後、雄物川の水面に映える光源が皆無で夜景の楽しみは少なめ。ホテルスタッフは「午後早めの到着」を推奨する。
ホテルからの徒歩圏内にスーパーやコンビニは皆無。アルコール類を含めたホテル内の飲食提供はメニュー少なめの自販機頼り。大浴場の計画も進められているようだが、ホテルとしての魅力づくりは道半ばのようだ。
ちなみに、筆者が宿泊した日はアルコール類の仕入れが間に合わなかったとのこと。久しぶりの休肝日で熟睡した。宿泊する方は、チェックイン前に、持ち込みの準備を忘れずにしたいものだ。
茨城の花火師が部門優勝
新作花火コレクション芯入り割物の部に出品した山﨑煙火製造所(つくば市)の石井花火師の作品「昇曲付 五重芯銀点滅」(YouTube動画)が、見事優勝に輝いた。昨年の準優勝の悔しさを晴らすかのごとく、見事な6つの真円と消え際の銀点滅は余韻を残しながらも一斉に消える完璧に近い完成度。他の作品を寄せ付けない「ぶっちぎり」の優勝は、我がことのようにうれしい。
夏の大曲、そして秋の土浦でのさらなる躍進に期待しながら、本日は、これにて打ち留めー。「ずどーーん キラキラキラ」。(花火鑑賞士、元土浦市副市長)
※参考資料:大曲商工会議所News「おおまがり」321号(2024/7発行)