【コラム・坂本栄】2024年秋のつくば市長選挙は五十嵐氏が勝利した。過去8年の市政運営を巧みに宣伝する広報(PR)戦を展開、PR面では控えめだった星田氏が敗退した。ただ票差は約7000(五十嵐氏6万1604票:星田氏5万4580票)に狭まり、五十嵐氏に対する市民の評価は満足と不満足にほぼ二分された。
宣伝戦の巧拙が結果に影響
コラム194(10月21日掲載)でも指摘したように、五十嵐氏のチラシは自己PRが上手だった。これに対し挑戦者・星田氏の方は公約が総花的で訴求力が弱く、チラシの発行数など物量面でも五十嵐氏が圧倒していた。
また、星田氏が市役所内のゴタゴタを正面から取り上げないのは「政治センスが問われる」と書いたように、挑戦者の争点作り下手も五十嵐氏に幸いした。それにもかかわらず、票差が約7000になったのは、五十嵐市政に対する市民の疑問がくすぶっているからだろう。
知事とのギクシャクは続く?
選挙チラシの2ショット写真でも分かるように、大井川知事は星田氏を支援するスタンスを明確に打ち出した。洞峰公園問題などで知事と市長の間にコミュニケーション不足が生じ、知事が五十嵐氏に強い不信感を抱いたからとみられるが、知事と市長の間のギクシャクは選挙後も残るだろう。
選挙で選ばれる首長間のこういった関係は、それぞれの行政現場に微妙な影響を与える。つくば市にとっては厄介なことだ。
例えば、市長選でもテーマになった県立高不足問題。市は県立高の市内新設がすぐには無理ならば、当座の策として既存県立高のクラスを必要数増やすよう県に求めている。これに対し県は、一部県立高の学級増と近隣県立高への遠距離通学推奨で対応、市の要望を軽視している。つくば市に冷たい県のスタンスはまだまだ続く?
選挙を意識した退職金いじり
市長選が終わり、五十嵐氏の2期目の退職金をいくらにするか、現在、ネット投票が行われている。詳細はコラム191(9月16日掲載)を読んでほしい。要は、2期目の仕事振りについて市民に採点してもらい、その平均が100点ならば規定額2040万円を受け取り、評点ゼロの場合は退職金を辞退した1期目と同じ22円になるというスキームだ。
五十嵐氏のユニークな退職金のもらい方について、周辺の市長さんは困惑している。1期目の退職金辞退が発表されたとき、多くの市長さんは唖然(あぜん)としていた。市民受けを狙って退職金がいじくり回されると、施策を競い合う選挙が歪んでしまうからだ。退職金額を市民投票で決めるというアイデアは、選挙を意識したポピュリズムの極みといえる。
知事や周辺市長と五十嵐市長の関係を見てくると、つくば市は他の行政組織から孤立しつつある。こういった流れが市政にどういった影響を与えるか、要注目だ。(経済ジャーナリスト)