【コラム・先﨑千尋】「原発の本質はただ二つ。人が管理し続けないといけない。人が管理できなくなった時の被害は想像を絶するほど大きい」。2014年に福井地裁が関西電力大飯原発3、4号機の運転差し止めを命じた際に裁判長を務めた樋口英明さんの講演会が、5月12日、水戸市民会館で行われ、約400人が耳を傾けた。
この講演会は同氏講演会実行委員会(村上達也・海野徹共同代表)が主催し、樋口さんと宮嶋謙かすみがうら市長との対談も行われた。
樋口さんは冒頭、能登半島地震に触れた。震源に近い石川県珠洲市高屋地区に原発の建設計画があった(1975年)が、地元の反対運動で白紙撤回され、事故を起こさずに済んだ。樋口さんは、もし珠洲原発が稼働していたら大変な事故になったはず、国は反対運動をしてきた人に感謝しなければならない、と話した。
能登半島の中部にある志賀原発は運転停止中だったが、今回の地震で外部電源が喪失するなど、耐震性が低いことが証明されている。
大飯原発訴訟の際、住民側は原発周辺で強い地震が起きた際の不安を訴えたが、関西電力側は「大飯原発の敷地内に限っては強い地震は起きない」と主張した。
樋口さんが大飯原発を止めた理由は「原発の過酷事故は極めて甚大な被害をもたらす。それゆえに、原発には高度の安全性と耐震性が求められる。しかし、わが国の原発の耐震性は極めて低い。よって、原発の運転は許されない」というもの。原発の敷地内に限って強い地震は起きないなどということはあり得ない、というのが樋口さんの考えだ。
樋口さんによれば、一般に国民も裁判官も「原発問題は難しい」という先入観がある。原発訴訟は高度の専門技術訴訟であり、裁判所は原発の安全性を直接判断するのではなく、規制基準の合理性を判断すればいいというのが多くの裁判官の判断基準だ。しかし、裁判官も国家公務員であり、極端な権威主義と頑迷な先例主義、科学妄信によって正当な判断ができなくなっている、と樋口さんは話す。
また、全国各地で原発が稼働しているが、これは、政権や電力会社の考えだけでなく、国民が、原発問題は難しい、専門家である原子力規制委員会の審査を経たのだから安全なんだろうという先入観があるからだ、とも述べていた。
かすみがうら市は「非核脱原発平和都市宣言」を決議
宮嶋さんが市長を務めるかすみがうら市は、東京電力福島第1原発の事故から2年後に「非核脱原発平和都市宣言」を決議している。宮嶋さんは市長就任直後の議会で東海第2原発の再稼働に反対することを明言し、「脱原発をめざす首長会議」のメンバーになった。同市は、東海第2原発が事故を起こした際にはひたちなか市から約7600人を受け入れることになっているが、宮嶋さんは「それは無理。バスも調達できないし、パニックになる。避難計画を策定するような危ない原発は止めるべき」ときっぱり言う。
対談の中で樋口さんは最後に「科学は万能ではない。現在の地震学では、地震がいつどこで起きるか予知できない。東海第2原発に関して、日本原電は1009ガル以上の地震は起きないと言っているが、誰がそのことを保証できるのか。99%無理」と結んだ。(元瓜連町長)