FM放送局への転換を進める茨城放送(本社・水戸市、阿部重典社長)が来年2月から、AM放送の停波実験に取り組む。放送免許の更新に当たり、1日、AM放送の土浦と県西(筑西市)の2中継局の停波を総務省に申請した。実験は半年間続き、これ以降閉局になると、土浦市では高津丘陵のランドマークになっていた高さ88.5メートルの送信アンテナが姿を消すことになる。
停波実験は、特例措置として電波を半年間止め、影響を調べるのが目的。同社は、FM転換に向け、FM親局(加波山)に加え、つくば中継局(宝篋山)、日立中継局(高鈴山)にFM補完局を整備し、すでに放送を開始している。AMの2中継局を停波してもFM放送で100%カバーできる体制になっている。FM補完局は、周波数が古いタイプのラジオでも受信できる88.1MHzだが、県央部をカバーするFM親局の周波数は94.6MHzで、ワイドFM対応のラジオが必要になる。このため、今回の実験期間中も、AM親局(水戸、1197kHz)は引き続き受信可能とする。
FM波とAM波は、音声を電気信号に変えて飛ばす仕組みが異なる。AM波は波長が長く広範囲に届くが、建物内で聴きづらくノイズが入りやすい。一方、FM波は波長が短く届く範囲がAM波より狭くなるものの、高音質で音楽の放送に適している。これまで、難聴地や災害の対策として、AM放送を同時にFMで放送するワイドFMの採用が進められてきた。
AMからFMへの転換は、経営基盤の強化や効率的な放送事業の維持継続を図るために、民放ラジオ業界にとって喫緊の課題になっている。全国の民放AMラジオ企業でつくる連絡会が、FM局への転換を目指す方針を打ち出したのが21年6月。現在、44社が2028年をめどに転換を完了させる推進体制をとっており、その先陣を切る形で同社が申請に踏み切った。AMラジオのキー局であるTBSラジオ、文化放送、ニッポン放送はいずれも実施しない。NHKは2025年度にラジオ第2を廃止、ラジオ第1は引き続き存続する。
来夏以降姿消す土浦のランドマーク
茨城放送は1963年4月1日に開局した、県内をカバーする唯一の民間放送局。土浦市上高津の同市旧市街を見下ろす高台にある土浦局(1458kHz)は65年1月20日に開設した。高さ88.5メートルの電波塔は、電波法上の呼び名で「空中線」といい、塔全体が送信アンテナになっている。アンカーボルトに5本ずつ3方向に繋がれた鋼索支線(ステー)は一度だけ交換されたそうだが、鉄塔それ自体は60年近く使い続けられている。50年とされる耐用年数はすでに過ぎ、更新が迫られている。
AM波の特性から電波塔は高さを稼ぐ必要があり、敷地内にはアース線が埋められていて、現在地での建て替えは難しい。技術的には同一ポイントに同様の規模で新電波塔を設置して、並行稼働させて切り替える措置が求められる。資金的にも維持が困難なことから、FM補完局の整備を先行させていた。停波実験の終了する来年8月1日以降閉局になり、電波塔や建屋は早々に撤去される見込みだ。
同社は1日「今後ワイドFMの周知徹底とともに、リスナー、スポンサー、自治体などステークホルダーの皆さまへの丁寧な説明を行い、ご理解とご支援をお願いする所存です」とするコメントを発表。同日から来年1月31日までの3カ月間を告知期間とし、停波期間中の半年間も番組やSNS、ホームページなどで周知、徹底を図っていくとしている。(相澤冬樹)