【コラム・先﨑千尋】漁業関係者との文書での約束を一方的に破り、多くの漁民が反対している中で、先月24日に始まった東京電力福島第1原発の汚染水海洋放出。これに対して中国が日本産水産物の輸入を全面的に停止した。野村哲郎農水大臣はこの事態を想定外と発言、さらにアルプス処理水を汚染水と記者団に言ったため、政府は打ち消すのに躍起になった。この問題が今後どうなるかは現時点では分からないが、岸田文雄首相には頭の痛いことだけは確かだ。
こうした中、先月27日、那珂市の「ふれあいセンターごだい」で、「東海村にある日本原電東海第2発電所で事故が起きたら避難できるのか」をテーマとした講演会(同実行委員会主催)が開かれた。主催者の話では170人を超える入場者がいたというから、同原発に対して周辺住民の関心が高いことが分かる。
講演会では、福島県元南相馬市長の桜井勝延さんと美浦村長の中島栄さんが講演した。桜井さんの住む南相馬市は一部が避難区域に指定された。
桜井さんは当時の状況を「避難区域になることを最初に知ったのはテレビ。国、県からは何の連絡もなかった。食料やガソリンなどの生活物資が入らなくなった。市内は原発から20キロの線で分断され、住民の間に亀裂が入った。強制的に避難させられた区域の惨状は口では言い表せない。原発さえなければ、と今でも考える」と怒りを込めながら語り、「東海第2の最良の避難計画は原発の再稼働を止めること。そうすれば避難計画を作らなくていいから」と結んだ。
「美浦村は原発の再稼働に反対だ」
美浦村は、東海第2原発が事故を起こせば、ひたちなか市から2007人(当初は3000人以上)の避難民を受け入れることになっている(県の計画)。しかし、本当にそれだけの人が避難できるのか。中島さんは、それは無理だと言う。
その理由を「ひたちなか市から美浦村までの間に那珂川、恋瀬川、桜川などがあり、避難者がわれ先にと移動すれば、スムーズな避難はできない。避難できたとしても、入院患者、透析患者、要介護者など支援が必要な人にどう対応するか。犬猫などのペットを飼っている人もいる。それらの人たちがどれくらいいるのかを知らされなければ対応できないので、まだ何も決まっていない」などと説明し、「福島の事例でも分かるように、10年以上経っても避難生活を続けている人がかなりの人数になる。住民の負担を減らし、安全な生活を守るために、避難しなくともよい方法を考えるべきだ」と提言した。
中島さんは最後に「美浦村は原発の再稼働に反対だ。原発に頼らなくてすむように、2015年に霞ケ浦湖畔に太陽光発電所を立て、現在は年間で1億円以上の収入を得ている。人間が作った技術で制御できないものは人間社会に不必要であり、地球上につくるべきではない」と結んだ。
那珂市での集会前日には、水戸市で東海第2原発の再稼働を止める大集会が開かれ、県内や首都圏から約600人が参加し、水戸市内をデモ行進した。(元瓜連町長)