土曜日, 2月 7, 2026
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あれから11年 東北未来芸術花火2022《見上げてごらん!》3

【コラム・小泉裕司】時折フラッシュバックする日帰り旅がある。東日本大震災から2カ月が過ぎた2011年5月の連休明け、地元の復旧作業の合間を縫って、甚大な津波被害を受けた宮城県亘理町荒浜地区を訪れた。

復旧間もない東北新幹線で仙台駅を経由し常磐線を南下、到着したJR亘理駅から歩くこと約1時間。途中目に映る「がれき」の山と被災者宅で活動するボランティアの勇姿は今でも鮮明に思い出される。未体験の現実を目の当たりにして呆然(あぜん)とするだけの自分に無力感を覚え、帰宅した後もしばらくの間は安易に訪れたことへの後悔の念にさいなまれる日々が続いた。

持参したカメラは、物見遊山と見られるのではないかと気がとがめ、一度もバッグから取り出すことはなかった。写真を撮影すればするほど記憶が曖昧になる「写真撮影減殺効果」という心理学の研究成果があるらしい。写真を撮ることが目的となってしまい、実際に体験したことが記憶に残らないというのだ。

逆に言えば、亘理町を訪問した11年前の記憶が今も鮮明なのは、一度もカメラのシャッターボタンを押さなかったことで、「減殺効果」が生じなかったからと言えるのかもしれない。

茅ケ崎サザン芸術花火

震災の月命日にあたる6月11日、犠牲者の鎮魂と新型コロナの早期収束を願い、「東北未来芸術花火2022」が亘理町鳥の海公園で開催され、1万人を超える観客が訪れた。この「芸術花火」は全国30カ所以上でツアー型花火大会として開催されており、花火と音楽のコラボによるストーリー性を重視した、1時間ノンストップで展開する花火イベントである。

2009年に国営ひたち海浜公園(ひたちなか市)で開催した「大草原の花火と音楽」から始まったもので、特に2018年の「茅ケ崎サザン芸術花火」(神奈川県茅ケ崎市)では、日本最高峰のバンド「サザンオールスターズ」の名曲と野村花火工業(水戸市)やマルゴー(山梨県)をはじめとする日本花火の「オールスターズ」がコラボし、茅ケ崎海岸に夜空のエンターテインメントショーを見事に演出した。

花火玉の燃えかす「ガラ」拾い

閑話休題、亘理町の花火に話題を戻そう。会場に到着後、震災犠牲者を慰霊する「鎮魂の碑」の前で手を合わせてから観覧席に着いた。当夜は、無風により滞留した煙の合間からしか見えない花火に観客からは落胆の声が聞かれたが、それでも私は頭上を見上げ続けた。雲の上の犠牲者の皆さんには美しい大輪の花火が届いていることを信じながら。

翌日は早起きして、花火会場で行われた「世界一楽しいゴミ拾い」に相棒と2人で参加した。「芸術花火」ではセットとなっている恒例のゴミ拾いイベントだ。時間経過とともに雨量が増す中、マスクや衣服がぬれるのもかまわず黙々と花火玉の燃えかす、いわゆる「ガラ」を拾い集めるボランティア参加者に感動さえ覚えると同時に、短絡的だが「東北人らしさ」を垣間見たような気がした。

花火打ち上げ後、花火師は花火筒の撤去と同時に大きなガラや黒玉(不発玉)を集めるのが通例だが、夜間、小さなガラまで拾い集め切ることはできないため、どこの花火大会でも欠かすことのできない仕上げ作業である。

亘理町との「ご縁」に導かれた今回の花火旅は、荒浜漁港の海鮮丼とカニ汁、アンコウの肝あえで清掃作業の空腹感を満たし、ゴミ拾いイベントの抽選会で当選した豪華なご褒美「牛タンの詰め合わせ」とともに会場を後にした。本日はこの辺で「打ち止めー」。「ドン ドーン!」。(花火鑑賞士、元土浦市副市長)

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ふるさとのない時代《くずかごの唄》154

【コラム・奥井登美子】お正月には誰も故郷に帰りたくなる。私が育ったのは荻窪のみどり幼稚園。緑の名の通り、生垣に囲まれた家と野原の、のんびりした緑色の住宅街だった。 しかし今の東京の町はどこも高いビルばかりで、緑がない。故郷という言葉とはかけ離れた風景になってしまっている。私の故郷と呼べるような所は、もうどこにもなくなってしまったのだ。 幼い時、父の故郷、新富町へもよく連れて行ってもらった。父は歌舞伎座が新富座であった頃の、鉄砲洲小学校出身。「菅原伝授手習鑑」などに寺子屋の子役として駆り出されて、よく出演させられたそうだ。台詞(せりふ)も筋もよく覚えていて、よく私に語って聞かせてくれた。 隅田川のほとりに町があって、父は「〇〇ちゃんの店でノリを買おう」などと、昔の友達の家に寄っておしゃべりするのを楽しみにしていた。父の故郷はいま、日本ではない、高いビルばかりのどこか架空の空間になってしまっている。 タケちゃんの文が朝日に載った 1月27日の朝日新聞「折々のことば 鷲田清一」に、加藤尚武の文が載っていた。「個人の間の平等は、ある程度まで…自然の平等に支えられているが…国力の差は、ネズミとゾウの違いよりも大きい」 加藤尚武は私の弟のタケちゃん。京都大学の哲学教授を務めた後、鳥取に環境大学を創り、環境問題を、哲学のまな板の上に載せた人。「環境問題のすすめ」という著書もある。生活者として、医療と環境を意識して生活している。 加藤家の男たちはみな食べるのが好きで、父も、兄も、タケちゃんも、好きなものを自分で作って食べるのが趣味だ。 私はせめてせめて、お正月くらいは、おしゃべりの好きな弟のタケちゃん、母の昔の味の料理を作ってくれる妹、姪たちに会って、亡くなった父、母、兄の個性を偲(しの)びながら、今の子供たちと比べて、大笑いするしかないのだろうか。(随筆家、薬剤師)