日曜日, 3月 26, 2023
ホーム コラム あれから11年 東北未来芸術花火2022《見上げてごらん!》3

あれから11年 東北未来芸術花火2022《見上げてごらん!》3

【コラム・小泉裕司】時折フラッシュバックする日帰り旅がある。東日本大震災から2カ月が過ぎた2011年5月の連休明け、地元の復旧作業の合間を縫って、甚大な津波被害を受けた宮城県亘理町荒浜地区を訪れた。

復旧間もない東北新幹線で仙台駅を経由し常磐線を南下、到着したJR亘理駅から歩くこと約1時間。途中目に映る「がれき」の山と被災者宅で活動するボランティアの勇姿は今でも鮮明に思い出される。未体験の現実を目の当たりにして呆然(あぜん)とするだけの自分に無力感を覚え、帰宅した後もしばらくの間は安易に訪れたことへの後悔の念にさいなまれる日々が続いた。

持参したカメラは、物見遊山と見られるのではないかと気がとがめ、一度もバッグから取り出すことはなかった。写真を撮影すればするほど記憶が曖昧になる「写真撮影減殺効果」という心理学の研究成果があるらしい。写真を撮ることが目的となってしまい、実際に体験したことが記憶に残らないというのだ。

逆に言えば、亘理町を訪問した11年前の記憶が今も鮮明なのは、一度もカメラのシャッターボタンを押さなかったことで、「減殺効果」が生じなかったからと言えるのかもしれない。

茅ケ崎サザン芸術花火

震災の月命日にあたる6月11日、犠牲者の鎮魂と新型コロナの早期収束を願い、「東北未来芸術花火2022」が亘理町鳥の海公園で開催され、1万人を超える観客が訪れた。この「芸術花火」は全国30カ所以上でツアー型花火大会として開催されており、花火と音楽のコラボによるストーリー性を重視した、1時間ノンストップで展開する花火イベントである。

2009年に国営ひたち海浜公園(ひたちなか市)で開催した「大草原の花火と音楽」から始まったもので、特に2018年の「茅ケ崎サザン芸術花火」(神奈川県茅ケ崎市)では、日本最高峰のバンド「サザンオールスターズ」の名曲と野村花火工業(水戸市)やマルゴー(山梨県)をはじめとする日本花火の「オールスターズ」がコラボし、茅ケ崎海岸に夜空のエンターテインメントショーを見事に演出した。

花火玉の燃えかす「ガラ」拾い

閑話休題、亘理町の花火に話題を戻そう。会場に到着後、震災犠牲者を慰霊する「鎮魂の碑」の前で手を合わせてから観覧席に着いた。当夜は、無風により滞留した煙の合間からしか見えない花火に観客からは落胆の声が聞かれたが、それでも私は頭上を見上げ続けた。雲の上の犠牲者の皆さんには美しい大輪の花火が届いていることを信じながら。

翌日は早起きして、花火会場で行われた「世界一楽しいゴミ拾い」に相棒と2人で参加した。「芸術花火」ではセットとなっている恒例のゴミ拾いイベントだ。時間経過とともに雨量が増す中、マスクや衣服がぬれるのもかまわず黙々と花火玉の燃えかす、いわゆる「ガラ」を拾い集めるボランティア参加者に感動さえ覚えると同時に、短絡的だが「東北人らしさ」を垣間見たような気がした。

花火打ち上げ後、花火師は花火筒の撤去と同時に大きなガラや黒玉(不発玉)を集めるのが通例だが、夜間、小さなガラまで拾い集め切ることはできないため、どこの花火大会でも欠かすことのできない仕上げ作業である。

亘理町との「ご縁」に導かれた今回の花火旅は、荒浜漁港の海鮮丼とカニ汁、アンコウの肝あえで清掃作業の空腹感を満たし、ゴミ拾いイベントの抽選会で当選した豪華なご褒美「牛タンの詰め合わせ」とともに会場を後にした。本日はこの辺で「打ち止めー」。「ドン ドーン!」。(花火鑑賞士、元土浦市副市長)

1コメント

guest
名誉棄損、業務妨害、差別助長等の恐れがあると判断したコメントは削除します。
NEWSつくばは、つくば、土浦市の読者を対象に新たに、認定コメンテーター制度を設けます。登録受け付け中です。

1 Comment
フィードバック
すべてのコメントを見る
スポンサー

注目の記事

最近のコメント

最新記事

7月着工、来年3月ごろ開業へ つくば市旧茎崎庁舎跡地ドラッグストア

ドラッグストアの開業を提案した大和ハウス工業茨城支社(つくば市)を優先交渉権者に決定した、つくば市の旧茎崎庁舎跡地(同市小茎)の利活用について(22年9月26日付)、同市は24日、同茨城支社と23日、30年間の定期借地契約を締結したと発表した。 市公有地利活用推進課によると、今年7月に本格着工し、来年3月ごろまでにオープン予定という。当初、年内オープンを見込んでいたが、コロナ禍で契約締結協議などに時間を要し、開業が約3カ月遅れる見通しだという。 定期借地契約は今年7月1月から2053年6月末までの30年間で、土地賃借料は年約90万円。固定資産税評価額の改定があった時は見直す。 店舗予定地の敷地面積は約2700平方メートル、店舗面積は約1100平方メートル。 周辺住民から要望があった、青果や精肉などの生鮮食品を取り扱うほか、店内に約30平方メートル程度のフリースペースを設け、テーブルといすを置き、来店客が自由に利用できるようにする。さらに敷地内の店外に緑のあるオープンスペースを設け、テーブルといすを置き、来店客がバスを待ったりできるようにする。 茎崎庁舎は2010年4月に閉庁、16年1月に解体され、跡地は更地のままになっていた。(鈴木宏子)

お米を買ってもらい、谷津田を保全 《宍塚の里山》99

【コラム・福井正人】宍塚の里山を構成する重要な環境の一つに谷津田があります。冬にも水が張られた谷津田では、早春、ニホンアカガエルが多数産卵します。カエルが増えると、それを食べるヘビが増え、ヘビが増えるとそれを食べる猛禽(もうきん)類が増えるといった「生き物のつながり」が生まれます。このように、谷津田は生き物の生息域として重要な場所になっています。この環境を守ろうと始めたのが「宍塚米オーナー制」で、今年で25年目を迎えます。 人類が稲作を始めたころ水田が作られたのは、水が手に入りやすい谷津田のような環境だっただろうと言われています。しかし、現代のようなかんがい設備の整った水田耕作では、水が引きにくく、田んぼの形も不揃いで小さく、また周りの木々にさえぎられて日当たりも悪いといった問題があります。さらに、湧き水が入るために水温も低い谷津田の環境は、稲の生育にも作業する人間にとっても不利な状況になっています。 このように、生き物の生育環境としては重要でも、耕作条件としては不利な谷津田での耕作を続けていくためには、いろいろな工夫が必要です。例えば、里山のもつ公益的機能の恩恵を受けている非農家である都市部の市民にもお金や労力を提供していただくことです。私たちの会では、支援としての「宍塚米オーナー制」と労力としての「田んぼ塾」(現在の「自然農田んぼ塾」と「田んぼの学校」)を立ち上げ、谷津田での耕作を維持してきました。 「田んぼの学校」では、たくさんの子どもたちが自然と触れ合い、我々の主食である「お米」がどのように作られるのかを学ぶ場所になっています。 宍塚米のオーナーを募っています 宍塚米オーナー制では、毎年4~9月、谷津田の支援に賛同してくれるオーナーを募り、10月末に谷津田を耕作してくれている宍塚の農家からお米を買い取り、オーナーに発送しています。品種はコシヒカリで、宍塚の里山の猛禽類の象徴サシバにちなんで「宍塚サシバ米」と呼んでいます。

マスクを脱いで巣立ちも 筑波大で4260人の卒業式

筑波大学(つくば市天王台、永田恭介学長)の卒業式・学位授与式が24日、大学会館で行われ、スーツや袴に身を包んだ生徒らが新たな門出の日を迎えた。22年度の卒業・修了者は4260人。マスクの着用については自由で、一部の生徒らはマスクを外して式に臨んだ。 式典は学群が2回と大学院が1回の3回に分けて実施され、永田学長から各学群の代表者に学位記や卒業証書が手渡された。卒業生と修了生のみが参加し、家族や在校生らは会場の様子をライブ配信で視聴する形となった。式典後の祝賀会は開催せず、謝恩会については大学側が自粛を求めた。 永田学長は式辞で、筑波大が東京高等師範学校の創設から数えて150年を迎えたことや、昨年から文部科学省より指定国立大学法人に指定されていることを述べ、「みなさんがそれぞれに新しい挑戦をすることこそが、本学の価値を世界に発信することであり、みなさんに続く後輩たちの活動の幅を広げていく」と激励した。 卒業式で式辞を述べる永田学長 人文・文化学群日本語日本文化学類の鎌田真凜さん(22)は「コロナ禍での生活は、これまでの当たり前を覆すことばかりだった。オンラインが中心となり、友人や先生方と顔を合わせることすら難しくなった時期もあるが、同じ思いや悩みを抱えた仲間がいることが何よりも救いになり、変わり続ける状況の中でも学びを止めることなく進み続けてこられた」と述べ、教職員や地域の人々に支えてくれたことへの感謝の意を伝えた。 式典の前後には、卒業生が在校生や家族らと大学会館脇に咲く桜を背景にして写真を撮影し、喜びを分かち合った。人文・文化学群で西洋史を専攻し、卒業後は就職するという河野太一さんは「時の流れが速く感じ、うまく言葉にできない。対面授業からオンライン授業、オンライン授業から対面授業への切り替えに慣れるのが大変だったので感慨深い。卒業後は仕事と趣味を充実させたい」と話した。人間学群心理学類に所属する女性は「大学院に進学するので実感があまりない。臨床心理士の資格を取り、将来は心理の関係で働くことができれば」と将来の希望を話した。(田中めぐみ)

聖地土浦に「パトレイバー」デザインマンホール デビューを前に市役所で展示

土浦市オリジナルの「機動警察パトレイバー」デザインマンホール15種類が完成し、24日から市役所2階(同市大和町)で展示が始まった。4月9日まで展示したあと、土浦駅周辺道路に設置する。 カプセルトイのアクリル製マンホールキーホルダーも作成、4月下旬からまちかど蔵(同市中央)、きらら館(同市大和町)で販売する。デザインマンホールの情報をSNSで拡散した人には、オリジナルグッズとして紙製コースター(約2000個)を郵送する。 パトレイバーオリジナルキーホルダー 2022年に開催の「機動警察パトレイバー30周年突破記念 in土浦『TV-劇パト2+』展」では全国から約3000人のファンが来場した。根強いファンが多いため、デザインマンホールを設置することで同市を訪れる人を増やし、回遊性や消費を高めるのが狙い。 キャラクターの背景は土浦の風景や名産

記事データベースで過去の記事を見る