木曜日, 9月 23, 2021
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《邑から日本を見る》80 茨城農業の後進性と闘った山口武秀と山口一門

【コラム・先﨑千尋】もう「茨城は後進県」という言葉は死語になっているだろうか。本県では、今日まで国の役人が知事になってきたが、唯一の例外は1959年に就任し、4期務めた岩上二郎だった。その岩上県政のスローガンは「後進県からの脱却」。そのころまで茨城は後進県であり、貧しい県だった。特に鹿行地域は「後進の中の後進」と言われてきた。しかし、その地や石岡大地は今や、日本有数の園芸、畜産地帯。首都圏の台所になっている。

その歴史的な転換はなぜ起きたのか。私は山口武秀(以下武秀)と山口一門(以下一門)という2人の山口の果たした役割が極めて大きかったと考えてきた。岩上二郎も同じだが、「歴史が個人を育て、個人が歴史を創る」のだ。私はこのほど、『評伝・山口武秀と山口一門-戦後茨城農業の「後進性」との闘い』と題する本を出した。

武秀は現在の鉾田市に生まれ、戦前から農民運動に関わり、戦後は常東農民組合を組織し、農地改革が進む中で旧地主勢力を撃破し、未墾地解放を実力で成し遂げ、小作農を解放した。その後、反独占農民運動の旗頭として日本の農民運動に金字塔を打ち立てた。

今日、鹿行地域は旧旭村のメロン、鉾田市の各種の野菜類、行方市のカンショ、ミズナ、セリ、神栖市のピーマンなど、多くの生産量日本一を誇っており、同じ茨城でもほかの地域と全く違う農業が営まれている。武秀と常東農民組合は、茨城の最果ての地を農業の最先進地に変えた触媒の役割を果たした。それが私の見立てである。

茨城の特殊性と2人の運動の普遍性

一門は旧玉里村(現小美玉市)のごく小さい玉川農協(組合員が200人余)を根城に、農民が人間らしく生きられるようにと、水田プラスアルファ―方式(基幹作物の米に畜産、野菜などを加えた複合農業)を確立し、一門たちが産み出した営農団地方式は石岡地域に広まり、さらに全国農協中央会の指導方針に採り入れられ、全国に普及した。

一門はそれだけでなく、知事の岩上や農政学者の桜井武雄らと田園都市運動を興し、農民に人並みの、人間らしい暮らしを営めるように、じめじめした暗い農村の住みにくい環境を変えていくことに全力投球した。一門は、経済活動は農協を軸にし、農村集落や農家の生活を内部から変えていく社会文化活動などは田園都市づくりで、というやり方を展開していった。そしてこの運動は県政の柱の一つとなり、県全体に広がっていった。

本書はその2人の足跡を丹念に追い、同時に、茨城の特殊性と2人の運動の普遍性をまとめたものである。2人の著述に関する資料は多いが、今日では2人の活躍を知る人は少なくなってしまった。私はこれまで、茨城の干し芋の歴史や常陸太田市の明治以降の経済史などをまとめてきたが(茨城新聞社刊『ほしいも百年百話』、『前島平と七人組』など)、史料が散逸し、ごく最近のことでもわからないことが多いということを感じてきた。

記録する、記録を正しく残すことが私たちの責務、役割だと考え、今回の本をまとめた。部数が少ないので値段が少し高いが、茨城の姿を知るために、是非手に取って読んでいただきたい。(元瓜連町長)

『評伝・山口武秀と山口一門-戦後茨城農業の「後進性」との闘い』:日本経済評論社発行、四六判288ページ、定価3200円+税、書店へ申し込むか、私のメールtmassaki@sweet.ocn.ne.jpへ

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