土曜日, 1月 16, 2021
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〈新刊〉つくばのIT社長がひもとく「ことばがこどもの未来をつくる」

【相澤冬樹】「ことばがこどもの未来をつくる」は、ラボ教育センター(本社・東京)の創設に参加した詩人、谷川雁(たにがわ・がん、1923-95)がつくったキャッチフレーズだ。そっくり表題に採った『ことばがこどもの未来をつくる 谷川雁の教育活動から萌え出でしもの』(アーツアンドクラフツ)は、仁衡琢磨(にひら・たくま)さん(50)による9月の新刊。著者は、研究開発型のIT企業、ペンギンシステム(つくば市千現)を率いる気鋭の経営者だと紹介すると、何かと飛躍が多すぎて、さらに説明がいりそうだ。仁衡さんに話を聞いた。

全人的な教育は芸術作品

谷川雁は、戦後活躍した詩人・思想家として一般には知られるが、1965年から80年にかけ、文壇を離れていた「沈黙・空白」の15年間があった。実はその間こそ、教育活動に専念した時期で、子どものために生きた「教育運動家」の姿が見られると仁衡さんはいう。

1966年に榊原陽らと立ち上げたラボ教育センターは現在、「ラボ・パーティ」名で、子どもに対し、主に英語を通じてコミュニケーション教育、異文化交流などを行う活動の運営会社になっている。「いわゆるペラペラ英語教室とは違う。英語を中心に学ぶが全人的な教育を目指している。母国語、母国文化を大事にしながら外国文化を学ぶ。その中心に物語とことばがあった」

谷川は「らくだ・こぶに」の筆名で、同センターの『ことばの宇宙』などに執筆、ラボ活動の素材となる「ラボ・ライブラリー」(英語・日本語の朗読つきの絵本)に、オリジナル童話や、世界の童話や日本神話を翻案した作品を発表した。アイルランド民話に基づく「グリーシュ」や「ピーターパン」などの物語がある。

ラボ教育には全国2000カ所以上にパーティと呼ばれる教室があり、毎回数人の子どもたちが参加、「詩的センスあふれる作品が1センテンスずつ交互に日本語と英語両方で語られる。教育が芸術作品になっている」そうだ。

日立市生まれの仁衡さんは1976年から84年、小学1年から中学3年まで約9年間、ラボ教育を受けた。実は母の恭子さん(80)が同センターのテューターだった。ラボ教育では指導者をテューターと呼び、会員をラボっ子と呼ぶ。中学2年でアメリカへ1カ月間のホームステイに参加するなど、多感な思春期時代に受けた教育の影響は大きかった。

母親は今でも現役のテューター。この独創的な手法の民間教育が50年以上も続いていることに意味がないはずがない、と本書は3部構成で谷川の思想をひもといた。仁衡さんによれば「第1部は現代にこそ必要な民間教育の在り方を論じ、それを実際に受けて育った私がどう生きたかを後追い実証研究的に記した。第2部ではラボ・ライブラリー作品を取り上げ、実際的に中身に踏みこんだ」。第3部は谷川雁のほか、森崎和江や鶴見俊輔らの表現者に触れての評論になっている。

理系・文系と分ける馬鹿らしさ

仁衡さんは県立水戸一高卒。1988年、上智大学文学部哲学科に入学するものちに退学。1997年、27歳のとき、都内で暮らしていたアパートの隣人との縁からソフトウェア開発会社であるペンギンシステムに入社。2006年、36歳の時に会社の経営を引き継ぎ、同時に会社をつくば市に移転させ「第2の創業」を図った。東京時代6人だった従業員は現在31人に、オーダーメイド型のソフトウェア開発企業として顧客らに好感されている。

2015年からは研究開発型企業約30社の連合体である一般社団法人茨城研究開発型企業交流協会(IRDA)の会長を務める。2019年には産業の発展に貢献があったとして茨城県から表彰を受けた。

傍目には飛躍の多い経歴にみえても、本書で「理系・文系という馬鹿馬鹿しさ」を説いている。「本来、学びに境界線はなく、全人的な力を養うことが大事なはずなのに、自らの学びの場を限ってしまうのは自分で自分に枷(かせ)をはめているようなもの、もったいない」

◆仁衡琢磨著『ことばがこどもの未来をつくる 谷川雁の教育活動から萌え出でしもの』(アーツアンドクラフツ刊)、A5判並製・カバー装、本文364頁、定価3190円(税込み)

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