日曜日, 11月 27, 2022
ホーム つくば 〈新刊〉つくばのIT社長がひもとく「ことばがこどもの未来をつくる」

〈新刊〉つくばのIT社長がひもとく「ことばがこどもの未来をつくる」

【相澤冬樹】「ことばがこどもの未来をつくる」は、ラボ教育センター(本社・東京)の創設に参加した詩人、谷川雁(たにがわ・がん、1923-95)がつくったキャッチフレーズだ。そっくり表題に採った『ことばがこどもの未来をつくる 谷川雁の教育活動から萌え出でしもの』(アーツアンドクラフツ)は、仁衡琢磨(にひら・たくま)さん(50)による9月の新刊。著者は、研究開発型のIT企業、ペンギンシステム(つくば市千現)を率いる気鋭の経営者だと紹介すると、何かと飛躍が多すぎて、さらに説明がいりそうだ。仁衡さんに話を聞いた。

全人的な教育は芸術作品

谷川雁は、戦後活躍した詩人・思想家として一般には知られるが、1965年から80年にかけ、文壇を離れていた「沈黙・空白」の15年間があった。実はその間こそ、教育活動に専念した時期で、子どものために生きた「教育運動家」の姿が見られると仁衡さんはいう。

1966年に榊原陽らと立ち上げたラボ教育センターは現在、「ラボ・パーティ」名で、子どもに対し、主に英語を通じてコミュニケーション教育、異文化交流などを行う活動の運営会社になっている。「いわゆるペラペラ英語教室とは違う。英語を中心に学ぶが全人的な教育を目指している。母国語、母国文化を大事にしながら外国文化を学ぶ。その中心に物語とことばがあった」

谷川は「らくだ・こぶに」の筆名で、同センターの『ことばの宇宙』などに執筆、ラボ活動の素材となる「ラボ・ライブラリー」(英語・日本語の朗読つきの絵本)に、オリジナル童話や、世界の童話や日本神話を翻案した作品を発表した。アイルランド民話に基づく「グリーシュ」や「ピーターパン」などの物語がある。

ラボ教育には全国2000カ所以上にパーティと呼ばれる教室があり、毎回数人の子どもたちが参加、「詩的センスあふれる作品が1センテンスずつ交互に日本語と英語両方で語られる。教育が芸術作品になっている」そうだ。

日立市生まれの仁衡さんは1976年から84年、小学1年から中学3年まで約9年間、ラボ教育を受けた。実は母の恭子さん(80)が同センターのテューターだった。ラボ教育では指導者をテューターと呼び、会員をラボっ子と呼ぶ。中学2年でアメリカへ1カ月間のホームステイに参加するなど、多感な思春期時代に受けた教育の影響は大きかった。

母親は今でも現役のテューター。この独創的な手法の民間教育が50年以上も続いていることに意味がないはずがない、と本書は3部構成で谷川の思想をひもといた。仁衡さんによれば「第1部は現代にこそ必要な民間教育の在り方を論じ、それを実際に受けて育った私がどう生きたかを後追い実証研究的に記した。第2部ではラボ・ライブラリー作品を取り上げ、実際的に中身に踏みこんだ」。第3部は谷川雁のほか、森崎和江や鶴見俊輔らの表現者に触れての評論になっている。

理系・文系と分ける馬鹿らしさ

仁衡さんは県立水戸一高卒。1988年、上智大学文学部哲学科に入学するものちに退学。1997年、27歳のとき、都内で暮らしていたアパートの隣人との縁からソフトウェア開発会社であるペンギンシステムに入社。2006年、36歳の時に会社の経営を引き継ぎ、同時に会社をつくば市に移転させ「第2の創業」を図った。東京時代6人だった従業員は現在31人に、オーダーメイド型のソフトウェア開発企業として顧客らに好感されている。

2015年からは研究開発型企業約30社の連合体である一般社団法人茨城研究開発型企業交流協会(IRDA)の会長を務める。2019年には産業の発展に貢献があったとして茨城県から表彰を受けた。

傍目には飛躍の多い経歴にみえても、本書で「理系・文系という馬鹿馬鹿しさ」を説いている。「本来、学びに境界線はなく、全人的な力を養うことが大事なはずなのに、自らの学びの場を限ってしまうのは自分で自分に枷(かせ)をはめているようなもの、もったいない」

◆仁衡琢磨著『ことばがこどもの未来をつくる 谷川雁の教育活動から萌え出でしもの』(アーツアンドクラフツ刊)、A5判並製・カバー装、本文364頁、定価3190円(税込み)

誹謗中傷するコメントはNEWSつくば編集局が削除します。

0 Comments
フィードバック
すべてのコメントを見る
スポンサー

注目の記事

最近のコメント

最新記事

ふるさと納税の顛末記 ① 《文京町便り》10

【コラム・原田博夫】年末になると、ふるさと納税でソワソワするお宅もあるかも知れない。魅力的な返礼品をめぐる話題である。しかし、これは、制度導入の経緯からすると、妙な話である。今回は、その顛末(てんまつ)を取り上げたい。 そもそも、高校まで地方圏で教育を受けた若者の相当数が、大学入学や会社就職で都会に出て、その後の社会人生活や結婚後もそこで過ごすのは、20世紀後半の日本社会では(都市部と農村地域の間で教育や就業のチャンスに濃淡がある以上)当然だった。 この若者には財政の観点からは、高校卒業までは地元自治体の教育支出が投入されていた。勤務先の企業は、法人税(国税)および法人住民税を(企業の所在地へ)納めている。会社員としては、給与・報酬から所得税(国税)と個人住民税を(居住地の県・市町村へ)納めている。この会社員も企業も、当該年度に関しては立派な納税者である。 しかし、この会社員を高校時代まで成育させた出身地では、この財政収支の流れはやや釈然としない。少なくとも、地方出身者の高校卒業までに投じた財政資金のある部分は、出身の市町村・県に戻してもらいたい。とりわけ、都市部に出た地方出身者が地元に残った同世代よりも高所得者になっている場合には、そうした矛盾を感じる。 故郷へ還元できる制度はないか? 地方交付税制度は、こうした気分を一部解消する制度でもある。主要な国税5税(所得税・法人税・酒税・消費税・地方法人税)の一部(3割強)を地方の固有財源とみなして、全国の地方自治体を対象に、一定の意基準に従って(地方自治体ごとに基準財政需要額と基準財政収入額を算定し、前者が後者を上回っている場合はその差額を財源不足とみて)財源保障のために一般財源として配分する、という制度である(うち、94%は普通交付税、6%は特別交付税)。

ウクライナ避難民支援募金を大使館に寄付 日本つくば国際語学院

学校法人つくば文化学院(東郷治久理事長)が運営する日本語学校「日本つくば国際語学院」(同市松代)が、4月からつくば市内で呼び掛けていたウクライナ避難民支援募金(4月13日付)が9月末までに計24万5000円集まり、10月26日、東京都港区の駐日ウクライナ大使館に寄付した。 募金箱はグループ企業のサンスイグループ(東郷理事長)が運営する市内計8カ所に設置した。当初6月末までの予定だったが延長し、9月末まで寄付を募った。 8カ所は同校のほか、つくばグランドホテル(同市筑波)▽つくばわんわんランド(同市沼田)▽つくば国際ペット専門学校(同市沼田)▽つくば山水亭(同市松代)▽つくば山水亭別亭(同市吾妻、ホテル日航つくば2階)▽KEY’S CAFE(キーズカフェ)ララガーデンつくば店(同市小野崎、10月16日閉店)▽ミスタードーナッツ イーアスつくばショップ(同市研究学園)。特にKEY’S CAFEとつくば国際ペット専門学校に設置した募金箱には多くの寄付が集まったという。 今回の募金活動は「ウクライナ避難民の支援はまず日本語学校から手を挙げてやるべきではないか」という東郷理事長の言葉がきっかけとなった。寄付金を受け取ったウクライナ大使館の担当者からは感謝の言葉が述べられたという。 同校の森山英熙本部長は「みなさんに関心を持って寄付をしていただき、本当に感謝しています。寄付金が避難民の方々のお役に少しでも立てれば」と話し、「これからもウクライナ避難民で日本語を学びたいという人がいたら積極的に受け入れていきたい」と語る。

百年亭再生プロジェクトが進行中 《宍塚の里山》95

【コラム・佐々木哲美】宍塚の自然と歴史の会では、2019年7月に里山に隣接した築100年以上の住宅を購入し、「百年亭」と名付け、修復作業に取り組んでいます。その資金集めに、クラウドファンディング(CF)を使いました。期間は9月5日~10月21日、目標額は300万円としました。 建物の完成には800万円程度が必要ですが、CFに並行して、助成金申込みや様々な手法で、宍塚の里山の重要性を伝えながら資金を集めます。 CFの結果、223名の方から317万5000円の寄付をいただき、目標を達成することができました。どんな方から寄付があったかまとめたところ、会員から27%、非会員から73%と、非会員の寄付が多くを占めました。居住地別では、つくば市32%、土浦市15%など、県内で62%を占めました。 県外では東京都が14%と多く、関東全体では28%を占め、関東以外は9%でした。宍塚から離れると人数は減少しますが、県外からの寄付者が全体の37%にもなり、宍塚の里山保全への支持が全国に広がったことを示しています。 寄付額は1万円が119名(59%)と最も多く、次いで5000円が65名(29%)と続きます。10万円という高額寄付者が4名もいました。今回の成功のカギは、もちろん、寄付していただいた方、知人・友人に働きかけていただいた方、プロジェクトメンバーの努力ですが、ホームページ(HP)の役割も少なくありません。仲介業者READYFORの方々の親身なサポートもありました。 百年亭の創建年と大工名が判明

空気汚染の健康被害を知ってほしい 市民科学者、故 津谷裕子さんの著書を公開

有害化学物質による空気汚染の被害者で、2021年2月に92歳で死去した土浦市の市民科学者、津谷裕子さんが、化学物質による健康被害について知ってほしいと09年に執筆した著書「絵でとく健康への環境対策ープラスチックからの新しいVOC空気汚染」(A5判、98ページ、社会評論社)が、「忘れるな 杉並病・寝屋川病~プラスチックリサイクルで生活を奪われないために」と題したウェブサイト内でこのほど全面公開された。 公開したのは東京都千代田区の市民団体「化学物質による環境汚染を考える会」代表の森上展安さんだ。森上さんは1990年代後半、当時住んでいた東京都杉並区で津谷さんと共に、プラスチックなどの不燃ごみ圧縮・詰め替え施設で健康被害を受けた周辺住民の実態調査や原因究明に取り組んだ。「杉並病」と呼ばれた健康被害だ。 公開された著書は、アレルギーやアトピーなどの患者が増える中、身の回りのさまざまなところから、これまで無かった、ごく微量の揮発性有機化合物(VOC)が発生し、新たな空気汚染が広がっている実態を知ってほしいと執筆された。 東京都杉並区の施設周辺住民の健康被害の調査結果や、プラスチックごみの圧縮や詰め替えで揮発性化学物質がなぜ発生するかをまとめている。その上で「プラスチックは不完全な加熱や機械的処理では、多種類で多様のVOCが発生し、毒性がごく強いものに変質することもある」などと指摘し、今日推進されているプラスチックのリサイクルについても疑問を投げ掛けている。 予防、救済、解明へ