土曜日, 7月 5, 2025
ホームコラム《つくば法律日記》9 あおり運転と平和な車社会

《つくば法律日記》9 あおり運転と平和な車社会

【コラム・堀越智也】あおり運転に対する罰則を強化する改正道路交通法が6月30日施行されました。

これまで、あおり運転という言葉に具体的な定義はありませんでした。かつては「安全運転していたら後ろからあおられたよ」みたいな使い方がしっくりきた方は多いのではないでしょうか。それが、痛ましい事件が起き、マスコミで様々な危険な運転のニュースが取り上げられるようになり、あおり運転とはなんだ?後ろからなのか前からなのか?などと、素朴な疑問が国民に生じているさなかの道交法改正です。

あおり運転として10の類型が定められています。車間距離不保持、急ブレーキ、割り込み、幅寄せや蛇行運転、不必要なクラクション等々。あくまでもこれらの運転を「交通を妨害させる目的で」ということになっているのですが、運転があまりうまくないせいで列挙されているような10の類型に当てはまる運転をしてしまう人もいそうで、悪気ない人が不利益を被らないかと若干心配になります。

道交法が改正されたことで、これらの類型を頭に入れて運転している人は,他の車両の運転にも目を光らせることでしょう。例えば、急な車線変更をした車を見かけた時に、それが初心者であったり、道に不案内であったせいでも、警察に通報されるようなことがあれば、初心者や慣れない土地で運転する人は、少し怖くなります。僕も首都高を走っていて、どこで高速を下りるかの判断を迷い、急に車線変更しなければならなくなった時に困るなあと心配になります。

さらに言うと、マスコミで取り上げられたような危険な運転をしている人に、10種類の類型のどれかに当てはまる車を見つけて、嫌がらせをするための武器を与えていないかと心配になります。

一番は思いやり運転

今回の道交法改正は、痛ましい事故の影響を受けている点で、飲酒運転の厳罰化とパラレルに語られることがあります。確かに、飲酒運転の厳罰化の経緯に、マスコミで重大な事故が取り上げられ、かつ当時の法律だと罰則が軽すぎるという事情があったことは、今回と同様です。しかし、飲酒運転は、厳罰化しても、交通ルールを守っている真面目なドライバーにとって何ら困ることはありません。また、僕の手元にデータがあるわけではありませんが、飲酒運転をしているドライバーが多かったことも事実なのだと思います。

しかし、今回の道交法改正に関しては、真面目ドライバーが運転をするのに不安を覚える可能性があると思います。また、悪質なドライバーがどれだけ多いかというデータをとって、国民の運転態度を制限することにしたのか、疑問があります。

ただ、車がないと生きていけない車社会に生きる僕の思いとしては、道交法が改正されたことは仕方ないとしても、その過程で、思いやり運転を推奨する議論をもっとしてほしかったです。

マスコミが取り上げた事例に、周囲の車に腹を立てて危険な運転をしている人がいましたが、実はその周囲の車に悪気はなく、運転技術があまり高くないだけの場合も多いです。そんな時、少し冷静になって他者を思いやれば、腹を立てずに済みます。

また、初心者や運転技術があまり高くない人への思いやり運転を心がけていれば,改正道交法を根拠にむげに他のドライバーを批難することも減るでしょう。車社会に身を置いて大切だと感じることは、個々の運転技術や注意力もさることながら、一番は思いやり運転です。

厳罰化がやむを得ない場合もありますが、「人を罰するよりも許すことの方がはるかに気高い」と言ったガンジーの言葉は、相手の表情が見えにくい車社会では、より当てはまるような気がします。あおり運転を減らそうとした改正道交法が、国民同士の罰し合いをあおらないことを祈るばかりです。(弁護士)

➡NEWSつくばが取材活動を継続するためには皆様のご支援が必要です。NEWSつくばの賛助会員になって活動を支援してください。詳しくはこちら

コメントをメールに通知
次のコメントを通知:
guest
最近NEWSつくばのコメント欄が荒れていると指摘を受けます。NEWSつくばはプライバシーポリシーで基準を明示した上で、誹謗中傷によって個人の名誉を侵害したり、営業を妨害したり、差別を助長する投稿を削除して参りました。
今回、削除機能をより強化するため、誹謗中傷等を繰り返した投稿者に対しては、NEWSつくばにコメントを投稿できないようにします。さらにコメント欄が荒れるのを防ぐため、1つの記事に投稿できる回数を1人3回までに制限します。ご協力をお願いします。

NEWSつくばは誹謗中傷等を防ぐためコメント投稿を1記事当たり3回までに制限して参りましたが、2月1日から新たに「認定コメンテーター」制度を創設し、登録者を募集します。認定コメンテーターには氏名と顔写真を表示してコメントしていただき、投稿の回数制限は設けません。希望者は氏名、住所を記載し、顔写真を添付の上、info@newstsukuba.jp宛て登録をお願いします。

0 Comments
フィードバック
すべてのコメントを見る
スポンサー
一誠商事
tlc
sekisho




spot_img

最近のコメント

最新記事

二十四節季と虫のはなし《続・平熱日記》182

【コラム・斉藤裕之】夏草の生い茂る季節となり、件(くだん)の打ちっぱなしゴルフ場の草刈りに出かける。ついでにナラ枯れの木を数本伐る(確実にナラ枯れは進行している)。そのうちの1本は直径60センチの大きなクヌギで、確か一昨年あたりはカブトムシが群がっていたのを見たのだけれども、かわいそうに新芽もつけずに立ち枯れてしまった。 開けた斜面に立っていたので、伐り倒すのはそう大変ではなかったが、このクヌギの皮一枚下には恐らくカミキリムシの幼虫がはびこっていて、玉切りにした幹から何とも言えない「ワシワシ…」という幼虫のはみ音らしきものが聞こえ、それを割って薪(まき)にして積んでいくと、不気味な音のする壁となった(この幼虫は県が指定している特定外来種ではないようだ)。 しかし、一方では世界中で昆虫がどんどん減っていて、例えばミツバチの減少で草木が受粉できないで困っているとか。とはいえ、我が家では今年も軒下にテニスボールほどのスズメバチの巣を発見したので、人間様のご都合で叩き落した。多分周りはツルツルしたサイディングのお宅ばかりなので、木造の我が家の軒下は巣をかけやすいのだろう。 昔の人は(中国の人は)小さな動く生き物は大ざっぱに虫としたようだ。トカゲやコウモリも虫偏(むしへん)だし、虹も小さな虫の仕業だと思っていたらしい。 最近は聞かなくなったが、赤ちゃんが泣いているのは疳(かん)の虫のせいだなんて言っていたし、虫の居所が悪いとか、目に見えないものの犯人は虫ということにしたのだろう。というのも、パクの目の周りが急に赤くなって医者に連れて行ったらアレルギーだと言われた。飲み薬と塗り薬でよくなったが、昔だったらアレルギーも虫の仕業だと思われたに違いないと思った。 カエルも虫偏? 平熱日記の掲載が月に一度になった。隔週の寄稿が長く習慣になっていたせいか、せっかちな私はあまり早く原稿を書いてしまうと、掲載されるころには季節も世の中の話題も変わっていてやや戸惑っている。 そういえば、2週間をひとつの区切りとする「二十四節季」というのがある(これも大陸経由)ことを思い出した。今まであまり気にしたことはなかったけれども、2週間という長さは何となくひと区切りになる「ちょうどいい周期」なのかもしれない。してみると、草が勢いよく伸び始めたとか、蜂が巣をかけたとかというのは五日毎の七十二候に当たるわけで、はて、私は知らぬうちにこのペースで絵を描いているような気もしてきた。 農作業とも深いつながりのある二十四節季。ひと月前には備蓄米を喜々として手にする人々の画像が流れていたが、よくよく考えてみると米もガソリンも高いから怒っているのではなくて、本来は安いはずのものが高く売られていることに人々の腹の虫は収まらないのだと思う。 パクとの散歩道にある田んぼは、今年とうとう田植えをしまずじまいだ。雨の後などはケチャダンスのようにカエルの大合唱だけが勢いよく響いている。「コメ、カエル? カワズ? ケロケロ…」。カエルも虫偏だな…。(画家)

筑波実験植物園で倒木30本超 1日、35メートルの突風で被害

ダウンバーストかガストフロント 水戸気象台 つくば市が豪雨や雷に見舞われた1日午後、同市柴崎付近で突風が発生した。水戸地方気象台は3日、現地調査を実施し、4日、突風について、ダウンバーストまたはガストフロントの可能性が高いと発表した。突風の強さは秒速約35メートルだったと推定されるという。 発表によると、1日午後4時30分ごろ同市柴崎付近で、豪雨やひょうに伴って突風が発生し、木造住宅の損壊、作業用足場の損壊、倒木などの被害が発生した。同市天久保の筑波実験植物園では樹木30本以上が倒れたり折れたりした。 ダウンバーストは積乱雲から吹き降ろす下降気流が地表に衝突して水平に吹きだす激しい空気の流れ。ガストフロントは積乱雲の下で形成された冷たく重い空気の塊が、重みによって、温かく軽い空気の側に流れ出すことによって発生する空気の流れ。柴崎付近の被害は面的に発生し、突風の強さは、0~5まで6段階で評価する「日本版改良藤田スケール」で、最も小さい0階級(JEF0)という。 全て東から西に倒れる つくば市天久保、国立科学博物館 筑波実験植物園の遊川知久園長によると、雨が降り始めたのは1日午後4時30分ごろ。瞬く間に激しさを増す雨が窓を打ちつけ、建物全体が揺れるような落雷の音が響き渡ったという。同施設内の研究管理棟にいた広報の久保田美咲さんは「全く外に出られないくらいの大雨で、あっという間に屋外が川のようになっていた。帰れないかと思った」と話す。その後、午後5時15分ごろまでに雨は小降りになった。 園内では展示室の一部でガラス窓が割れ、敷地内の東側周辺部を中心に、高さ15メートルほどのモミや、コウヤマキなど30本以上が根本から倒れたり、幹が割れるなどしているのが確認された。折れた木は全て、東から西に向けて倒れていた。 遊川園長は、「台風などで1、2本の木が折れることはあったが、一度にこれだけ倒れたのは初めてのこと。敷地に隣接する住宅に倒れなかったのは風向きが幸いした」とし、「来場者出入りのある主だった部分では倒壊した木々の除去は進んでいる。遊歩道から離れた箇所についてはこれから順次、除去作業を進めていく」と話す。 同市消防本部によると1日午後は、突風の被害やけがなどによる救急車や消防車などの出動要請は無かったという。市危機管理課によると柴崎で2カ所、金田、玉取、今鹿嶋でそれぞれ1カ所倒木の被害があった。市公園・施設課によると筑波実験植物園近くの山鳩公園(同市天久保)のほか、流星台北公園(柴崎)、松見公園(天久保)、天久保公園(同)で各1本、倒木の被害があり、4日までに撤去した。(鈴木宏子、柴田大輔)

常総だから勝たなきゃではなく歴史つくるチームに 島田直也監督【高校野球展望’25】㊦

県内強豪校の名監督インタビュー最終回は、常総学院の島田直也監督。第107回高校野球選手権茨城大会開幕を控え、チームの仕上がりや手応えをお聞きした。 低めの投げ分けがうまい ―今年のチームについて教えてください。昨年と比較してどのような特徴を持っていますか? 島田 昨年は投手力、打撃力、守備力ともに個々の力が高かったのですが、今年は全体的に力が落ちます。投手も野手も、調子の良い選手を見極めながら起用しています。 ―投打の中心となる小澤頼人投手についてですが、秋は最速145キロをマークしながら、春は球速がやや落ちていた印象です。 島田 球速を求めすぎるとフォームが崩れ、コントロールが乱れてしまいます。春の大会ではその点を意識して、あえてコントロール重視で投げていたと思います。土台ができれば球速は自然と戻るもの。鋭いキレのあるボールを意識してほしいと伝えています。 ―春の大会ではインコースとアウトコースの投げ分けが非常に効果的に見えました。 島田 そこが彼の持ち味です。低めへの投げ分けが非常にうまい。関東大会では少し高めに浮いて打たれましたが、夏に向けては修正して臨みます。 ―打撃陣では佐藤剛希選手と柳光璃青選手が印象的でした。 島田 調子を落とした選手がいる中で、この2人がしっかりとカバーしてくれました。小澤と佐藤剛希は昨年メンバー入りしており、今年の中心選手です。柳光も力がありましたがけがでメンバー入りできず、今年こそはチームを引っ張ってくれると期待しています。 次の代のチームつくる難しさ実感 若手の育成と課題 ―春の県大会では1年生の出場も目立ちました。 島田 将来を見据えて、若い選手に経験を積ませました。上級生にも刺激になったと思います。 ―秋・春の戦いを経て見えてきた課題は? 島田 実力ある代の次にチームをつくる難しさを改めて実感しました。監督1年目だった「大川・秋本・田邊世代」のあとも、結果が出なかった。今回も似たような状況で、最初は秋に勝てる気がしませんでした。ですが、そこからチームがまとまり、秋に4強まで進出できたのは大きかったですね。 ―春は県大会3連覇を達成されました。 島田 3年生たちは1年時から優勝の景色しか見ていません。「3連覇を君たちの代で止めるのか」とプレッシャーをかけながら臨みました。達成できたことは大きな自信になると思います。 ―関東大会では東海大相模に大敗。受け止めを教えてください。 島田 強豪校との対戦で悔しさを経験できたことは、選手たちにとってプラスでした。練習に対する姿勢も変わってきたと感じています。 自分の強みアピールしていた ―夏の組み合わせ抽選についていかがですか。 島田 Aシードでしたので抽選はありませんでしたが、会場で結果を見ていて童心に戻りました。「さあ、やるぞ」と気持ちが引き締まりました。 ―これまで出会った指導者の中で、影響を受けた方はいますか? 島田 プロ4球団、独立リーグでも8年やってきましたが、特定の誰かというより、出会ってきた多くの指導者から良い部分を吸収してきたと感じています。 ―ご自身の高校時代を振り返って、どんな選手でしたか? 島田 「絶対負けない」という強い気持ちを持っていました。与えられたチャンスは必ずものにするつもりで、自分の強み(肩・足)をとにかくアピールしていました。 ―今の選手たちとの違いは? 島田 最近の選手は「どうしたら使ってもらえるか」を考える力が弱く、自主練でも好きなバッティングばかり。私は「守備や走塁、バントでベンチ入りできる」と伝えているのですが、なかなか行動に移す選手が少ない。逆に、過去には自己プロデュース力でベンチ入りをつかんだ選手もいました。社会に出ても大事な力ですので、今のうちから身につけてほしいです。 「常総学院の使命」転換点に ―常総学院は夏の甲子園から9年遠ざかっています。そのプレッシャーは? 島田 「常総は勝って当然」という空気が、選手にとってプレッシャーになっていると感じています。これまでは「気にするな」と言ってきましたが、今年は「楽しもう」という方向に意識を変えたいと思っています。 ―「楽しむ」とは、どのような意味ですか? 島田 緊張感の中での本気の楽しさです。その感覚があれば自然と力が出せると考えています。 ―センバツよりも「夏」にこだわりがあるということでしょうか。 島田 やはり「夏の常総」が周囲からの評価にも直結します。「甲子園で勝つ」ではなく、まずは「茨城を勝ち抜く」。そこに焦点を置いています。 ―最後に、今年のチームに期待することを教えてください。 島田 「常総だから勝たなきゃ」ではなく、「自分たちが歴史をつくる」という意識を持って戦ってほしいです。甲子園出場はゴールではなく、その過程で得る経験こそが大きな財産。今年は、常総学院としても大きな“転換点”になる予感がしています。 【取材後記】過去4年間、夏を前にしたタイミングで島田監督に話をうかがってきたが、今年のインタビューではこれまでと少し違う空気を感じた。かつては「今年こそ」という悲壮感がどこかに漂っていたが、今回はむしろ“開き直り”にも似た落ち着きと、確かな覚悟が伝わってきた。選手たちに求めるのは「結果」ではなく「本気の中で楽しむ」こと。そこに、勝ち負けを超えた野球の本質がある。名門・常総学院の重圧を背負いながらも、今あるチームの可能性を信じて進む監督の姿は、頼もしくもあり、まさに“歴史をつくる”旅の先頭に立つ存在だった。今年こそ、夏の常総に新たな物語が刻まれるかもしれない。その瞬間の目撃者でありたい。素直に、そう思わせてくれる取材だった。(伊達康) 終わり

世界が壊れた日 その1《看取り医者は見た!》42

【コラム・平野国美】私たちの社会には、「普通」という暗黙のルールがあります。「空気」を読み、周りに合わせることが求められ、そこから外れる人は「変わっている」「融通が利かない」と見なされがちです。しかし、もし社会の「普通」という前提自体が崩れ落ちてしまったら、一体何が起きるでしょうか。 2011年3月11日に起きた東日本大震災。被災地の町の図書館も例外ではなく、すさまじい揺れで本棚は倒れ、蔵書が床一面に散乱する光景が広がりました。翌朝、出勤したスタッフは言葉を失い、立ち尽くすばかりでした。「どこから手を付ければ…」。誰もが絶望と無力感にさいなまれ、思考を停止していたのです。 その時が止まったような空間に、カツ、カツと規則正しい足音が響きます。定刻通りに出勤してきたKさんです。彼は普段、「仕事は正確だが冗談が通じない」「空気が読めず人を戸惑わせる」と評される、少し不思議な存在でした。 この日も、Kさんはいつもと寸分違わぬ「いつも通り」でした。茫然(ぼうぜん)自失の同僚たちを一瞥(いちべつ)しただけで、散乱した本の山にまっすぐ向かいます。そして静かに一冊の本を拾うと、汚れを払い、記憶の中にある完璧な配置図通り、本来あるべき棚にそっと差し込みました。一冊、また一冊…。 Kさんは、目の前の惨状など存在しないかのように、淡々と本を元の場所に戻し続けます。周りの混乱した空気とは完全に異質なその姿。「空気を読まない」と評された彼の特性が、この極限状況において、誰にも真似できない「不動の精神」として静かな光を放ち始めた瞬間でした。その規則正しい作業は、まるで正確に時を刻む振り子のようでした。 不思議なことに、その姿を見ているうちに、パニックに陥っていたスタッフたちの心は少しずつ凪いでいきます。「…そうだ、こうしていても始まらない」。誰かがつぶやくと、1人、また1人と魔法が解けたように動き出し、Kさんの隣で本を拾い始めたのです。 Kさんの「いつも通り」が、崩壊した世界の中で、秩序を取り戻すための最初の歯車となりました。作業は1日中続きました。しかし夕方5時に終業チャイムが鳴ると、Kさんはぴたりと手を止めます。そして、まだ山のように残る本には目もくれず、「お先に失礼いたします」と一礼し、いつも通りの定時に帰って行ったのです。 輝いた「異質な人間の存在」 一見、奇妙に見える彼の行動。しかし、この一連の出来事は、私たちが当たり前だと思う「普通」や「協調性」という物差しを、根底から揺さぶるものでした。彼の行動の裏には、一体何があったのでしょうか。 この話の中にダイバーシティの概念があります。人間の集団の中には、気質や行動パターンに多様性が存在します。町の図書館の中にも異質な人間が存在したのです。同じタイプの人間ばかりでは、同じストレスがかけられた場合、その集団が全滅する可能性があります。Kさんの性格・特性は「いつも通り」でない世界で輝いたのです。(訪問診療医師)