木曜日, 10月 29, 2020
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《続・平熱日記》59 コロナに「負けるな」でなく「会うな」

【コラム・斉藤裕之】今年の春は早く、桜とこぶしが同時に咲いている。その上、季節外れともいえる雪が降ったこともあって、いつもの年より桜の花は長く咲いていた。しかし令和2年、街に桜を愛でる人の姿はなかった…。こんなときに、あれこれと考えながら文章を書き始めても、途中で筆が止まってしまう。気の利いた表現や話題が不毛に思える。

自粛という文字を初めて紙に書いた。贅沢(ぜいたく)をしたことがないので贅沢という字を書けないのと一緒で、生きているうちに多分書くことのない文字のひとつに違いなかった。

「コロナに負けるな」なんて言うのは、そもそも日本語が間違っている。「歯を磨く」と一緒だ。歯は磨くものではなく掃除するものだ。コロナには勝負を挑んではいけない。とにかくやり過ごすのだ。つまり人に会わない。「コロナに会うな」が正解か。

しかし自粛といっても、じっと寝ているわけにはいかない。週末、カミさんはおもむろに冷蔵庫の掃除を始めた。日ごろから割と上品な冷蔵庫の中身ではあるが、カミさんに手渡されたのはジャムの瓶(びん)。フタを開けろということらしい。

中身が悪くなっているわけではなかったが、ずいぶん前から冷蔵庫の一画を占拠している。どなたが作ったのか、いついただいたのかさえ思い出せない。硬くて開かないフタはしばらくお湯で温めてからどうにか開封。小さなビンだが、10個もあっただろうか。もったいないけど中身をすべて処分。それから、賞味期限の切れた混ぜご飯の素だの、いずれも貰い物だが、すべて捨ててしまった。

コロナなんて「へのカッパ」

その間、私はというと、思い立って、これまた長い間使っていたダイニングのテレビ台を撤去。これは20年も前にリンゴの木箱を縦にして作ったもの。壊してストーブにくべようかと思ったが、思い直して、アトリエの一角にあった木箱2つをのけてそこに収めた。今度はその木箱の中身を片付ける。その中には、木のかけら、電線の束、缶のほか、小さな薄っぺらい木製の筆入れも。

筆入れの上の板をスライドさせて開けてみると、 もう何年も前から探していた万年筆発見! 軽くて書きやすい万年筆。実は今、しばらくぶりにインクを入れた、この万年筆で原稿を書いているところ。

さて、新鮮な空気を求めて、暖かいので土いじりなんかはいいのだろうが、それほどの庭もない。だから天気のいい日は、件(くだん)の山中にて薪割りの日々。待てよ、はたと思いついた。友人宅の庭にほったらかしてあったカッパ。

何年か前に、近所の中学校でいただいたケヤキを彫っていたもの。さっそく引き取ってきて、グラインダーで削り始めると、ケヤキの香りときれいな木肌が現れる。特にコロナとの関係はないし神頼みでもないが、これもなんかの縁。学校再開までに、何とか形になれば。「コロナなんて、へのカッパ」となる日が早く来るように。(画家)

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