月曜日, 12月 29, 2025
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著名人の生き様垣間見える180枚 つくばの古書店で「年賀状展」

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日本で初めて長編SF小説を書いた今日泊 亜蘭さんの年賀状と、署名な文化人らの年賀状が展示されている店内ショーケース=つくば市吾妻、ブックセンター・キャンパス

新年を前に、つくば市吾妻の古書店ブックセンター・キャンパス(岡田富朗店主)店内のショーケースで「年賀状展」が開催され、主に明治、大正、昭和に活躍した著名な詩人、作家、画家、政治家などの年賀状180枚が展示されている。

「赤堂鈴之助」で知られる漫画家、武内つなよし(1922-1987)は、愛嬌(あいきょう)のあるイラストを添えてある。牛久沼のほとりに居住し「橋のない川」で知られる小説家、住井すゑ(1902-1997)は、年賀状の名前が住井すゑ子となっている。日本で初めて長編SF小説を書いた今日泊亜蘭(きょうどまり・あらん、1910-2008)は干支のネズミの絵と独特の文体で書いている。

年賀状が展示されている店内ショーケース

ほかに小説家の志賀直哉や田辺聖子、詩人の石垣りん、芸術家岡本太郎の父親で漫画家の岡本一平、落語家の3代目桂米朝、政治家の福田赳夫などの年賀状が展示されている。

店主の岡田さん(87)が古書の市場などで収集したもので、「筆体、文体などから、その人の生き様が垣間見える」という。

同店では店内での企画展を2019年に開始、今回で18回目の開催となる。前回17回目の「蔵書票展」には県内のほか神奈川県などからも愛好家が訪れている。

店主の岡田富朗さん

岡田さんは18歳の1954年に東京都北区赤羽で古書店を開業、つくば科学万博開催1年前の1984年につくば市天久保の天久保ショッピングセンターに移った。その後同ショッピングセンターには計5店が軒を並べ、古書店街としてにぎわった。しかし30年以上続いた岡田さんの店が閉店、2018年に最後の1店が閉店して古書店街はつくばから姿を消した。岡田さんをよく知る古書店ファンの要望もあり、2003年に同吾妻に移転し再開。現在は娘と2人で営業し、広さ約160平方メートルの店内に江戸時代や明治、大正、昭和の郷土史や軍事本など数万冊の古書を販売している。

岡田さんは70年近く古書店業界に関わってきたが「今は本が一番売れない時代。良い本を100円にしても売れ残る。つくばは学者肌の人が多いので専門書も扱うが、改訂版が出ると元の本の価値が激減し経営はなかなか難しい」とも言う。

次の企画展については「新聞の創刊号のコピーを多数持っているので(日本新聞協会が制定した)『新聞を読む日』にあたる4月6日に開催できれば良いかなと考えている」と話す。(榎田智司)

◆同店はつくば市吾妻3-10-2、「年賀状展」は2024年1月31日まで開催、入場無料。年内の30日(土)と31日(日)は午前9時~午後5時まで営業。同店は不定休だが急に変更になることもあるので、ご来店の際は電話029-851-8100に連絡を。同店のホームページはこちら

➡ブックセンター・キャンパスの過去記事はこちら

子宮体がん 閉経後出血を放置していませんか?《メディカル知恵袋》2

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筑波メディカルセンター病院提供

【コラム・野末彰子】

閉経とは?

卵巣からの女性ホルモン(エストロゲン)の分泌がなくなり、月経が永久的に止まった状態のことを閉経と言います。日本人では、平均すると50~51歳くらいで閉経すると言われています。実際には、月経が止まった時点で、閉経かどうか判断するのは難しく、医学的には「1年間以上、月経が来ない状態」と定義されています。

閉経後出血

閉経したはずなのに、また月経が再開することはあるのでしょうか?

完全に閉経するまでの数年間は、月経はかなり不規則になります。そのため、この時期は不正出血(異状な出血)と、不規則にきた月経とを区別することはとても難しくなります。しかし、1年以上無月経だったのに、再び性器出血が始まる場合(閉経後出血)は、何らかの病気が隠れていることが多く、注意が必要です。

子宮体がん

子宮がんには、子宮頸(けい)がんと子宮体がんの2つがあることをご存じでしょうか?

子宮には頸部という膣に近い部分と、体部という妊娠すると膨らむ部分の2つの部位があり、それらの2つの部位にできるがんは、別の種類であり、その性質は全く異なります。子宮頸がんは30~40代に好発しますが、子宮体がんの好発年齢は50歳代で、約70%は閉経後女性に発症します。

子宮頸がんはそのほとんどがヒトパピローマウイルスの感染によって発症しますが、子宮体がんとウイルスは無関係です。また子宮体がんになりやすい人の特徴は、未婚、不妊、若い頃からの月経不順、糖尿病、高血圧、肥満などがあげられます。主な症状は不正出血で、約9割で性器出血を認めます。

近年、子宮体がんはとても増えてきており、ここ20年で3~4倍になっていると言われています。この原因は食事の欧米化、少子高齢化などいろいろなことが言われています。

国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」(全国がん罹患モニタリング集計)

その診断方法

子宮がん健診は、市町村での集団健診やドックのような個人健診など、いろいろな実施の機会があります。しかし、集団検診などの一般的な健診で実施されているのは、子宮頸がんの検査のみであることを皆さんはご存じでしょうか?

不正出血がある、月経が不規則であるなどの一定の条件を満たした場合や、本人が希望した場合などを除き、子宮体がんの検査までは実施されていません。そして、子宮頸がん健診では、子宮体がんを見つけることはできないのです。

子宮体がんの診断は、子宮体部から細胞を採取してくることが必要です。頸部の検査より、子宮の奥から細胞をとるので、場合によっては痛みや出血を伴います。ですから集団検診では実施できず、人間ドック施設や医療機関で行われます。

その治療方法

子宮体がんは不正出血が主な症状であり、これを見逃さなければ、早期がんで見つかることが多い疾患です。早期であれば、手術だけできちんと治すことができます。手術では子宮や卵巣、卵管などを摘出します。卵巣・卵管は子宮体がんが転移しやすい場所です。また子宮に近いリンパ節も摘出して、転移がないかどうかを確認していきます。

早期がんであれば、今は腹腔(ふくくう)鏡下手術も可能で、小さいキズで身体への負担も少なく治療することができます。しかし、進行してしまうと、手術だけで治すことができず、抗がん薬治療や放射線治療などが必要になります。症状を見逃さず、早期に受診して診断を受けることが大切です。

ドクターから一言

子宮体がんは早期に見つけることができる疾患です。早期であれば、例えがんになっても完治が可能です。健診を受けることはもちろん大切ですが、閉経後不正出血など、些細(ささい)と思われる症状を見逃さず、心当たりの症状があった場合は医療機関に相談しましょう。(筑波メディカルセンター病院 婦人科診療科長)

電動自転車に補助金 免許返納後の「足」になるのか【公共交通を考える】5

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つくば市の購入費補助を活用して電動アシスト自転車を購入した森の里自治会長の倉本茂樹さん(81)。「団地内の自警団パトロールが楽になった」という

つくば市は今年度、70才以上の市民を対象に、電動アシスト自転車購入費用の4分の3を補助する事業を行った。自家用車に代わる移動手段の確保と社会参加の促進、健康増進が目的で、高齢者500人の申し込みを見込んで3675万円の予算が割り当てられた。12月6日現在で補助金申請は約300人、概算で約1630万円分になった。

運転免許を返納した後の新たな交通手段として、電気がアシスト(手助け)してくれる電動自転車を購入する人がいる。こぐのに疲れると電動アシスト自転車を購入したり、「これは楽だよ」と勧められて乗り始める。だが自転車は体をガードしてくれるものはなく、高齢者が自転車事故に巻きこまれる心配もある。

交通安全講習受講が条件

補助を始めた市高齢福祉課によると、市が実施する交通安全講習を受講することを条件に、2輪車購入の場合、上限5万円、3輪車には上限12万円を補助している。2022~23年度に運転免許証を自主返納した人が2輪車を購入するとさらに1万5000円、3輪車購入の場合は3万円を上乗せする。加えて自転車用ヘルメットを同時に購入すると上限2000円が補助される。

市庁舎で行われた交通安全講習会は560人の参加を見込み、5月から11月までの14日間で合計28回(午前と午後の開講で1回20人まで)開催された。自転車メーカーによる座学と、市役所敷地内で電動アシスト自転車5台を使った試乗と実技講習が実施された。講習会を受講したのはこれまで計364人で平均年齢75.7歳、最高年齢は94歳の男性だった。

講習会を受けた364人中、実際に電動アシスト自転車を購入したのは今月6日現在、8割を超える約300人(2輪車250台、3輪車50台)。このうち約40人が運転免許証返納の補助申請を行った。ヘルメット購入の補助を併せて計約1630万円の支出になるという。

市防災交通安全課の非常勤職員で交通安全教育指導員3人が実技講習を担当した。指導員の廣瀬明子さんは「電動アシスト自転車は一般の自転車と比べて重く、バランスを崩すと車体を戻しにくい。両足がきちんと地面に着くのか試乗してもらったり、ペダルの踏み加減など安全な乗り方を体験してもらった。また、70歳以上の人が乗る自転車は歩道を走っても良いが、歩道は基本的に歩行者のもので自転車は車道寄りを走ること、道路の斜め横断は違反になること、交差点を右折する場合は原則、交差点をいったん直進して止まり右側に向きを変えて進む『2段階右折』とするなどの交通ルールを説明した」と話した。

市高齢福祉課によると、参加者からは「受講して自分に合う自転車のサイズが分かった」、「自転車の運転を見直す機会になった」とする高齢者がいた一方、「(身体が思うように動かず自転車の)運転は無理」と諦めた人もいたという。同課の日下永一課長は「試乗体験は大事で、安全を確認した上で申請してもらうために講習会を実施している」とした。購入費補助事業は来年度も実施する方針だ。

小さい乗り物にシフト

同市あしび野在住の稲川誠一さん(79)は、小学生の登校を見守る立哨(りっしょう)活動や自主防犯ボランティアとして活躍している。6月の講習会を受講した後に体調を崩して電動アシスト自転車の購入はかなわなかった。運転免許証は返納していない。

稲川さんは「交通安全教室が保育園や小学校などでしか開催されてない現状では、自転車が軽車両であり、道路交通法でルールが決められていることがあまり知られていない。それだけに講習会は有意義だと思う」とした上で「以前は、高齢者が乗る自転車はフラフラして危ないし、どんな動きをするか、最悪を考えて自家用車を運転していた。今は高齢になると行動範囲が狭くなって小さい乗り物にシフトしていくものだと分かった。自転車と自動車がお互いに譲り合うことが大切だと思う」と話した。

サドルの下にバッテリーがついた電動アシスト自転車=つくば市松代の自転車店

転倒の心配ない三輪自転車に補助

土浦市では高齢者に限らず、市民や子育て家庭の日常の移動手段を確保するため、転倒の心配が少ない三輪自転車と、幼児2人同乗用自転車購入費用の一部を補助している。いずれも自転車購入金額の半分を補助するもので、三輪自転車は2万5千円が上限。幼児2人同乗用自転車は3万円が上限だ。

三輪自転車の購入費補助は今年度から始まった。電動自転車だけではない三輪自転車も補助の対象となっている。土浦市都市計画課によると、今年度の予算額は25万円。11月末の時点で8人の申し込みがあり、今月12月の時点で残り約2台分の予算が残っている。募集開始直後は多くの問い合わせがあり、現在も数件の問い合わせを受けている。来年度の三輪自転車の補助は未定。安全走行のための講習会は実施していないが、購入前に必ず試乗することを呼び掛けている。(橋立多美、田中めぐみ)

終わり

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新しいまちでテーマ型コミュニティーをつなぐ《けんがくひろば》1

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「けんがくハロウィン」表彰式(筆者提供)
島田由美子さん

【コラム・島田由美子】10月最終日曜日の夕暮れ時、子供たちが作ったパンプキンランタンがほのかに輝く下、仮装コンテストのグランプリが発表された。ピザに扮(ふん)した少女がディズニーペアチケットを満面の笑みで受け取り、TX研究学園駅周辺地区(私たちは「けんがく地区」と言っている)の活動団体が連携して実施した「けんがくハロウィン2023」が終了した。

地縁的コミュニティーの代わりの存在

けんがく地区はTX開通後18年で人口が2万人以上となった。その間、つくば市新庁舎の開庁、義務教育学校・小中学校の開校、多くの商業施設の開業などを経て、まちとして順調に成長している。しかし急激なまちの発展には課題も多い。

市内TX沿線では、居住年数5年未満の住民が全体の3分の1以上を占め、働き盛り世代が多いこともあって、地縁型コミュニティーである区会の加入率は38%と低く、人口20万~30万人都市の平均65%(2021年総務省調査)の半分程度である。

地縁的コミュニティーの代わりとなる存在として、テーマ型コミュニティーがあり、けんがく地区では駅前花壇づくり、シニアサロン、子供の遊び場づくり、ごみ拾い、ウォーキング、桜の植樹・維持を行う団体などが誕生し、活動を行っている。地縁的なつながりが希薄なけんがく地区で、地域の課題を解決していくには、これらテーマ型団体やそのメンバーが連携し、地域の当事者となって地域全体を考えた活動をすることが求められている。

2回目の「けんがくハロウィン」

けんがく地区で活動する団体の多くは歴史が浅い上、団体同士のつながりがほとんど見られず、多様で多世代に及ぶ交流が少なかったが、この数年、団体間の連携・交流を育む動きが活発になってきている。ワークショップや交流会などを経て、連携づくりのツールとしての「けんがくさくらまつり」「けんがくハロウィン」が開催され、その試みは第1回つくばSDGs大賞を受賞した。

第2回となった今年のハロウィンでは5つの企画が実施された。子供たちや親子連れに商店を訪れてもらい地域にどのような店があるかを知ってもらうトリックオアトリート、交通安全クイズラリーやパンプキン色のゴミ袋を使ったごみ拾いやクラフト、そして商店や企業から賞品を提供してもらった仮装コンテストである。

その運営の特徴は、活動団体や商店、企業、公的機関など多様な主体の連携と、活動団体の負担の極小化である。団体のリソース(人材、知識、情報、ノウハウ、人的つながり、物品など)を共有・活用して、負担を軽くした。例えば、ごみ拾い団体がごみ拾いやごみ袋クラフトを担当したり、交通安全母の会が警備を行ったりするなど、各団体が普段行っていること、得意としていることを生かすようにした。

多様な団体が強みを生かし連携

当日は天候にも恵まれ、1000人を超す来場者があり、参加者も実施者も協力店舗も楽しめるイベントとなった。「けんがくハロウィン」の実施を通じて、各団体の実態や得意不得意を互いに認識し、顔なじみの関係を構築して、緩い組織化を達成することができた。

新しくできたまちでは地縁型コミュニティーが醸成されるまで時間が必要とされるが、それまでのつなぎとしてテーマ型コミュニティーが連携することで代替できるのではないかと考えられる。多様な団体が連携し、それぞれの強み・得意を生かすことで各々が成長し、それがまちの成長につながっていくと確信している。

この欄「けんがくひろば」では、けんがく地区で活動する団体や連携して開催するイベントを紹介していく。(けんがくまちづくり実行委員会代表)

【しまだ・ゆみこ】けんがくまちづくり実行委員会代表、研究学園グリーンネックレス タウンの会代表。本業は海外映画・ドラマの字幕翻訳。TX研究学園駅地区に移り住んだことをきっかけに、まちづくりに興味を持つ。まちづくり活動を行いながら、現在、筑波大学大学院システム情報系非常勤研究員として、都市計画の研究に携わっている。

子どもたちに科学の楽しさを 筑波大でサイエンスキャンプ

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日下博幸教授による気象学の講義を受ける小中学生=筑波大

筑波大学(つくば市天王台)で27日、科学に興味を持つ38人の小中学生を対象に「冬のサイエンスキャンプ」が開催された。今年8月の夏のサイエンスキャンプに続き2度目となる。今回は、同大教員らによる気象学と化学の授業が催され、受講生は実験を通して科学を身近に体感しながら理解を深めた。

サイエンスキャンプは、未来の理系人材を育成するためのプログラム「つくばSKIP(スキップ)アカデミー」の一環として、同大社会連携課SKIP(スキップ)事務局が中心となり開催された。同大を含め全国の約20機関で同様のプログラムが開催されており、理科離れを引き止める狙いがある。

同アカデミーは2017年から始まり、今年で7年目。コロナ禍を乗り越え、昨年度から対面での実施が再開された。今年6月の筆記試験を経て、小学5、6年生と中学生の男女40人が受講生として選抜され、理科が好きな生徒や、将来科学技術の分野で活躍したい生徒などが集まった。半数以上が県内から参加し、県外の関東圏からの参加者も目立った。

受講生は9カ月の間、社会問題と関連した科学に関する幅広い分野を学習する。これまで、同大構内の生態系調査、プログラミング、化石発掘実習、画像制作などを体験し、今年9月の「個人研究発表会」では、受講生各自が興味を持った内容をもとにテーマを設定し、研究成果を発表した。

スーパーコンピューターを見学する小中学生=同大計算科学研究センター

27日の気象学の授業では、日下博幸同大教授による講義と実験が行われた。受講生は、スーパーコンピューターの計算により、日々の気象予測がなされることを学習し、同大計算科学研究センターに設置されているスーパーコンピューター「シグナス」を見学したほか、水と入浴剤、スマートフォンのライトを使い、夕陽のメカニズムを研究する実験や、真空容器に入ったマシュマロが空気圧により膨らむ様子を実験した。

屋外では、受講生は同大院生らと協力し、風速計を使って風の大きさを数値化し、サーモグラフィーカメラで光と陰、アスファルトと芝生というように条件によって変化する温度分布を観察した。また風の流れに乗って風船が動く様子を望遠鏡で観察し、風の向きや風速など目には見えない大気の様子を観察した。

大学院生と協力し屋外で温度分布や風の動きなどを観察する受講生

神奈川県から参加した中学2年の女子生徒は、日下教授によるマシュマロと気圧の実験について「空気圧によって、マシュマロが膨らむ様子が面白かった」と話した。東京から参加した小学5年の男子児童は、夕陽のメカニズムを研究する実験が成功した様子を振り返り「夕陽をきれいに再現できたのがよかった」とし、将来については「科学が好きなので参加した。学びの中で興味を持った海洋生物学者を目指したい」と話した。

プログラムは修了式が行われる3月まで実施される。(上田侑子)

高齢者がスマホ予約に挑戦 AIで乗合タクシーを便利に【公共交通を考える】4

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スマホ操作を学ぶ説明会に参加した高齢者と、操作方法を教える市職員ら=つくば市小茎の茎崎交流センター

高齢化が進むつくば市茎崎地区を対象に12月1日から、同市が運行する乗合タクシー「つくタク」のスマホ予約実証実験が行われている。スマートフォンで専用アプリを開き、乗車時間と場所、目的地を入力して予約すると、AIが自動生成したルートで複数の客を乗せながら効率良く目的地まで運行するという実験で、AIオンデマンドシステムと呼ばれる。来年2月29日まで3カ月間実施される。

「分からない」手を挙げる人続出

実証実験に先立ち11月21日、茎崎交流センターで、自分のスマートフォンからネット予約するための説明会が開かれ、60代から80代の高齢者56人が市職員らのサボートを受けながらネット予約に挑戦した。

つくタク利用者の8割を高齢者が占める。アプリを用いた予約に慣れてない高齢者が説明会に集まった。説明会は、高齢者が自分のスマートフォンに、QRコードからアプリをダウンロードすることから始まった。会場から「分からない」と手を上げる人が続出し、サボートにあたった市職員ら8人が1人ひとりに向き合って操作を支援した。

参加した同市自由ケ丘の民生委員で70代の男性は「みんなに教えないといけないから」と、前かがみになりながらスマートフォンの画面に目を凝らした。森の里の谷中絹代さん(80)は「外出にはつくタクを利用している。予約は当日利用が朝8時半から、当日以外は正午からと決められていて時計を見ながら予約している。操作ができると予約が便利になると聞いて来たが、インストールとかタップとか用語が分からないし難しい」と話した。

実証実験を推進する市科学技術戦略課は来年1月10日まで、同センターのほか茎崎地区の各所でスマホ相談会を開いて普及に努めている。森の里の自治会長、倉本茂樹さん(81)は「つくタクを利用するのは75歳以上の後期高齢者が多くを占めると思う。スマホ操作に不慣れな状況を踏まえて、高齢者でも使いやすいシステムにしてほしい」と、操作に不安な高齢者をおもんばかった。

25年度にネット予約導入

茎崎地区を運行する8人乗りのつくタク車両

国交省の「スマートシティモデル事業」に選定された同市は、筑波大学、KDDIをはじめとする47機関で構成する「つくばスマートシティ協議会」(会長・大井川和彦知事、五十嵐立青市長)を設立。先端技術を取り入れて都市が抱える問題を解決する事業に取り組んでいる。つくタクの実証実験は、市と同協議会、AIを活用した効率的な配車システムのノウハウを持つ民間企業との連携事業で実施されており、同地区で使用されている8人乗りジャンボタクシー3台のうち1台が実証実験に使われている。

つくタクは現在、市内5つの地区(筑波、大穂・豊里、桜、谷田部、茎崎)ごとにオペレーターが電話予約を受け、2011年の運行開始以来、人手作業による配車を実施している。運行は1時間に1便で平日の午前9時台から午後5時台まで。年約4万4000人が利用し、そのうちの8割が高齢者で買い物や通院目的での利用が主体となっている。

同課がまとめた今年4~8月のつくタク利用実績によると、利用者数は5カ月間で2万590人で、前年度同期と比較して158人(0.7%)増えている。月別利用者数や地区別の1時間毎の利用者数などは地区によって増減が見られる。乗合率は全地区平均で52%(昨年は51%)と、ほぼ半数が1人での利用となっている。

一方、全ての地区で予約のお断り数が増加してキャンセル待ちが生じており、利用者からは「予約をとるのが面倒」「予約センターが混み合い、予約できない」など改善を求める声が挙がっている。

茎崎地区では3カ月間にわたる実証実験の後、利用者数や運行距離などのデータ、利用者とつくタクを受託している事業者の感想や要望などを元に検証が行われる。つくタクの運行を担当する市総合交通政策課は、現状の人手による電話予約に加えて2025年度から、24時間いつでもネットで予約受け付け可能なAIオンデマンドシステムを導入することを検討している。(橋立多美)

続く

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ヤキモチ焼の女房《短いおはなし》22

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イラストは筆者

【ノベル・伊東葎花】

むかしむかし、たいそうヤキモチ焼きの女房がいた。

亭主は団子屋を営んでいたが、女の客が来るたびに女房が目を光らせるものだから、やりにくくて仕方ない。

「多少のヤキモチならかわいいけど、うちの女房は度を越している。何とかならないでしょうか」

亭主は、村の長老に相談をした。

「若い女に道を聞かれただけで、すごい剣幕で怒るんです。商売にも差し支えるし、何かヤキモチを抑える薬はありませんか?」

長老は、「そういえば」と棚の奥から何やら茶色の瓶を出してきた。

「これは、都の商人から買ったものだ。確か、ヤキモチ焼きが治る薬だ」

「ほう。そんな薬が本当にあるんですか」

「試したことはないが、おまえさん、ひとつ使ってみなさい」

亭主は、長老から二回分の薬を分けてもらった。

さっそくその夜、女房と差し向って酒を酌み交わした。

もちろん女房の酒には、長老からもらった薬が入っている。

「一緒に飲もうだなんて珍しい。やましいことでもあるんですか?」

「いいから早く飲め。なかなかうまい酒だぞ」

女房は「ふん」と鼻を鳴らして酒を飲み干した。あとは効き目を待つだけだ。

翌朝、店の準備をしていると、通りかかった若い女が石につまずいて転びそうになった。

亭主はさっと手を差し伸べて女をかばい、一瞬だが抱き合うような格好になった。

「まずい。女房に怒られる」

振り返ったが、女房は店の奥で何事もないように団子を並べている。

亭主は店に戻り、「おい、今の見てなかったのかい?」と聞いた。

「見てましたけど、それが何か?」

あんな美人に女房がヤキモチを焼かないわけがない。

なるほど、薬が効いたんだな。亭主は、心の中で万歳と叫んだ。

そのあとも、女房はさっぱりヤキモチを焼かない。

団子を買いに来た女と手が触れても、近所の若奥さんと話し込んでも、見ているだけ。

あんまりヤキモチを焼かれないのも、何だか物足りない。

亭主は昔なじみの芸者を家に呼んだ。

女房の目の前でいちゃつきながら酒を飲んだが、女房はさっぱりヤキモチを焼かない。

あきれたような顔で見ているだけだ。

そっけなくされると、今度はやけに女房のことが気になるものだ。

亭主は、女房が若い男と話したり、男の客に笑いかけるのが何とも許せなくなった。

「いかん、いかん。俺がヤキモチ焼きになっちまう。そうだ。あの薬が一回分残ってたぞ」

その夜、女房と酒を飲んだ亭主は、自分の酒にあの薬を一滴たらした。

「しかしおまえは、ヤキモチを焼かなくなったね」

「そうですか?」

「そうさ。この前も、女を家に連れてきても何にも言わなかったじゃないか」

「女って…いくら私でも、メス猫にヤキモチは焼きませんよ」

「メス猫?」

「ええ、まったくあなたの動物好きにはあきれますよ」

その時、長老が訪ねて来た。

「おい、この前、渡した薬、間違えた。あれは女が人間以外の動物に見えちまう薬だった」

「何だって?」

亭主が振り向くと、そこには酒をうまそうに飲むメスのタヌキがいた。(作家)

学級増「志願状況みて個別対応」 つくばの県立高校不足問題 

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県教育庁に要望書を提出し、担当職員(左側)につくばの高校進学の実情を訴える「つくば市の小中学生の高校進学を考える会」の片岡英明代表(右から3人目)ら=県庁

市民団体要望に県教育庁 9校でシミュレーションも

人口増が続くつくば市に県立高校が少ない問題で、県教育庁高校教育改革推進室の増子靖啓室長は27日、2025年度以降のつくばエリア(つくば、つくばみらい、守谷、常総、牛久市の一部)の県立高校の学級数をどうするかについては、現在県が策定を進めている県立高校改革プラン実施プランⅡ期(24~26年度までの3年間)に反映させ位置付けるのではなく、「直近の志願状況などを見極めた上で(学級増を検討するなど)個別に対応したい」と述べるにとどまった。

一方、県は今年度、つくばエリアにある全日制県立高校9校(牛久栄進、筑波、竹園、つくばサイエンス、石下紫峰、水海道一、水海道二、守谷、伊奈高校)を対象に、①学級増をするとしたら現状で教室が足りるのか②教室がない場合、敷地内に増築するスペースはあるのか➂増築するとしたら概算でいくらかかるのかなどのシミュレーションを実施したことを明らかにした。結果については内部調査であることから公表する予定はないとしている。

つくばエリアや周辺では2023年度につくばサイエンス高の定員が2学級(80人)増、24年度は牛久栄進高が1学級(40人)増、筑波高に進学対応コースが新設されるなど、対応が始まっている。一方で土浦一高や水海道一高に中高一貫クラスが導入されたことから、つくば市の市立中学卒業者の県立高校受験は事実上、より厳しくなっている。

エリア間の入試格差解消を

市民団体「つくば市の小中学校の高校進学を考える会」(片岡英明代表)が同日、森作宜民県教育長宛てに要望書を提出したのに対し、増子室長が回答した。要望書は、11月に同会が開いた教育フォーラム(11月12日付)で協議された意見などをもとに提出された。

要望書は、現在県が策定を進めている県立高校改革プラン実施プランⅡ期につくばエリアの実情を反映させ、つくばエリアの募集枠に対する全日制県立高校の定員(現在は47.5%)を県平均レベル(69.3%)まで引き上げることなど、県内エリア間の高校入試の募集枠の格差解消を求めた。具体的には県平均と同レベルにするには現状で15学級、7年後の2030年にはさらに10学級増が必要だと指摘し、竹園高校を2学級増やす、牛久栄進、土浦一、土浦二高の10学級化を目指す、つくばサイエンスに普通科を設置する、土浦一や水海道一など伝統校の県立中学の設置に伴う高校定員削減を止めることなどを要望した。

ほかに、学科を新設する場合は生徒や保護者にアンケートをとること、遠距離通学者への補助やスクールバス費用の軽減などを要望した。

要望書を受け取った県教育庁の増子室長は、県立高校改革プラン実施プランⅡ期について「つくば地域以外は中学校卒業者の数がどんどん減っており、実施プランⅡ期のメーンは(県北地域などの)小規模校への対応の検討になる」などと答えた。

同考える会の県要望は5回目、今年度は3回目の要望活動になる。(鈴木宏子)

バス廃線後利用者3倍 住民主体で送迎サービス【公共交通を考える】3

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イオンモール土浦に向かう「買い物乗合」に乗車する利用者(左)と運転者=つくば市下広岡の桜ニュータウン内、広岡交流センター駐車場

水曜日の午前10時50分、つくば市下広岡の住宅団地、桜ニュータウンのほぼ中心にある市広岡交流センターの駐車場に、買い物バッグを手にした高齢の女性たちが集まってくる。ショッピングカートを押してくる人もいる。

桜ニュータウン高齢者等送迎システム「さくら」(中澤哲夫代表)が運行している「土浦イオン買い物乗合」で、毎週水曜日にワゴン車や乗用車に同乗して4キロ離れた大型商業施設、イオンモール土浦に向かう。利用者は思い思いに買い物やランチを楽しんで車に戻り、午後1時に桜ニュータウンに帰る。運転者は重い荷物と一緒に利用者を自宅まで送り届けている。

時々利用しているという87歳の女性は「山口県から娘の家に引っ越してきたので知った人がいなくて寂しかったが、買い物乗合を使うようになって顔なじみの人ができた。車内でのおしゃべりが楽しくて‥」。「夫と買い物に行くと急かされて落ち着かない。買い物乗合はゆっくり買い物できてストレス解消にもなる」という人も。

予約の必要はなく、料金は1回100円。乗車する時に運転者に支払う。毎週3~5人が利用し、そのうちの9割が女性だという。

キロ20円、土日祝日問わず朝8時から夕6時

高齢者等送迎システム「さくら」は、バス廃線問題に立ち上がった自治会の下部組織「桜ニュータウンのこれからを考える会」が、廃線問題が持ち上がる前の2020年に、高齢化が著しい桜ニュータウンには共助によるサボート体制が必要とスタートさせた。

65歳以上の高齢者と障害者、運転免許を返納した人が対象で、自家用車で利用者の自宅と目的地の間を往復する。第2種免許がなくても送迎できる国の制度を活用している。会員制の組織で、桜ニュータウンに住んでいる利用会員と協力会員(運転者)、賛助会員で構成されている。運行を開始した20年4月は新型コロナの流行が拡大した時期だったが、20人が利用会員となり、コロナ禍でも送迎は休みなく続けられてきた。

同団地とつくば駅を結ぶ路線バス「桜ニュータウン線」が廃止されると、外出が不便になった住民が送迎システムに関心を寄せ、利用会員は3倍の63人に増えた。運行開始から今年11月29日までの利用者は延べ507人を数える。行き先で多いのが病院または診療所だという。運転者は10人。すべて住民が担当している。

運転者のスケジュール表

土日祝日を問わず午前8時から午後6時まで運行し、片道15キロの範囲で利用できる。予約方法は、利用会員が、自宅に届いた1カ月間の運転者10人のスケジュール表を見て、希望する時間帯が空いている運転者に電話する。利用者が増えたことで申し込みが重なり、予約が取れないなどのトラブルは今のところない。

料金はガソリン代としてキロ20円に設定され、例えば片道7キロの場合は往復で280円という低料金で運行されている。月初めに前月分を事務局が集金し、送迎実績に応じて運転者に支払う仕組み。予約不要で乗り合いの「土浦イオン買い物乗合」は、利用するたびに運転者に支払う。賛助会員からの会費や寄付金を活用し、送迎中の事故を補償する保険に加入している。

バスが消えるなんて想像してなかった

利用会員の男性(80)は「桜ニュータウンの欠点は交通の不便さで、高齢者にとってますます増える病院通いは、診療費よりも交通費の方が高くなることがしばしば。これを救ってくれたのが『送迎システムさくら』で助かっている」という。

代表の金子和雄さんは「長年この地域に住んできて路線バスが消えるなんて想像もしていなかった。公共交通の利用者は減少傾向で、いまはバスがある地域の人も『自分の身に降り掛かるかもしれない』と考えてほしい。だれもが他人任せにせず、地域の交通について考えるとき」だと話した。(橋立多美)

続く

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「かかし送り」火と子どもたち《宍塚の里山》108

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写真は筆者提供

【コラム・阿部きよ子&江原栄治】私たちの「田んぼの学校」では、夏に田んぼの周りに立てたかかしを燃やす行事を「かかし送り」と名づけて、毎年実施してきました。12月9日、担当係の子どもたちが「かかしさんありがとう」「かかしさんさようなら」の垂れ幕を作って、エノキの大木に登って下げました。

昼過ぎ、集まってきた親子は、自分が作ったかかしを田んぼから運んで解体し、可燃物と不燃物を分けました。第1部:垂れ幕の前の広場で「かかし」の歌、踊り、言葉。第2部:子どもたちは学生さんたちと鬼ごっこなどで遊び、大人はたき火と食材の管理。第3部:食べる時間です。

焼きリンゴは「アップルパイみたい」。「えっ、ミカン焼くの?」の声もあった焼きミカンも好評。焼きサトイモ、焼き大根には会特製のみそをつけ、畑で育てたサツマイモの焼き芋は甘くねっとり。途中で子どもたちは、栗のイガを集めてきて、線香花火のような美しい火も楽しみました。

火に近づけるようになってから、各自が笹の串にさしたソーセージ、最後にマシュマロをあぶって食べました。

幼児から中学生までが協力する姿、力いっぱい遊ぶ姿、おいしい食べ物にニッコニコの子どもたちに出会える喜びは、私たちスタッフのエネルギー源です。ただ、燃えている炭を踏みそうになったり、煙の方向を読めないなど、子どもたちが火、炎、煙に未経験なことが気になります。

「良い火」ってどんな火だろう?

以下、たき火担当の江原さんから届いた文の一部です。

冬の寒い朝、田んぼの学校の広場で1人たき火をしながら待っている。予定の時間より早くやって来る幼いお客さんたちの体を、静かにこう温めてやりたいのだ。「ワーイ、火が燃えている」と走り寄ってくる。

パチパチと音を立てながら美しく燃える火を、しばらく一緒に見詰める。その幸せを破って「君たち、火に悪い火と良い火があるのを知っているかい? オレ様は燃えてるぜ!と周囲の迷惑に気づかずに得意になって燃えているヤンチャな火を何と呼ぶか?」「それは火事だ」と子どもたち。

「良い火」ってどんな火だろう? おいしい料理を作るとき助けてくれる火、お風呂を温めてくれる火、エンジンや溶鉱炉の中で燃えている火や、寒い日、私たちを温めてくれる大空の日(太陽の火)。火に感謝しよう。

着火し、火を育て、火の世話をする、そんな体験をしてほしいと、孫にマッチを渡したら、地面にベタにまきを置き、その上にこっぱや杉の落ち葉、一番上に新聞紙を置いて上から火をつけようとした。

「ああ、お前もか!」。若い親ごさんたち、気を付けてください。便利になればなるほど、基礎能力が低下・劣化してきている面があることを。アブナイね、アブナイです。火に親しみ、敬意を払い、感謝し、コントロールする技術を子供のころから身につけてほしい。(宍塚の自然と歴史の会 会員)

<注意> 野焼きは原則禁止です。会では消防署に事前に届けを出して「かかし送り」を実施しています。

バス路線が突然廃止 その時住民は【公共交通を考える】2

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バス路線廃止問題に取り組む「桜ニュータウンのこれからを考える会」の(左から)阿部眞庭さん、金子和雄さん、伹野恭一さん=つくば市下広岡、桜ニュータウンバス停

つくば市下広岡の住宅団地、桜ニュータウンで今年1月31日、同団地とつくばセンター(つくば駅前)を結ぶ「桜ニュータウン線」が廃止となった。関東鉄道が運行する路線バスで、売り上げの減少が廃止の理由だ。

廃止の方針を聞き、2017年から同団地自治会の下部組織として活動しているまちづくり団体「桜ニュータウンのこれからを考える会」(金子和雄、阿部眞庭共同代表)が立ち上がった。

コロナ禍で利用減、年561万円の赤字

同団地は土浦市に隣接し、今年4月現在1244人が暮らしている。1979年に分譲が開始され、働き盛りの世帯がこぞって入居した。入居から約40年を経て団地全体が同時に老いることになり、高齢化率は市平均の19.2%を大きく超え51.7%に上る(5月1日現在)。

団地のほぼ中央にバスの回転場を備えた起終点の停留所があり、第1期の入居者が住み始めた時から現在に至るまで、土浦駅までの路線バスの起点及び終点となっている。入居当時、都心への通勤手段は常磐線で生活全般が土浦に向いていた。05年8月24日、つくばエクスプレス(TX)が開業すると生活圏がつくばに向かい、つくば駅と接続するバスターミナル、つくばセンターへのバス路線を望む声が上がるようになった。

06年4月につくば市のコミュニティーバス「つくバス」の運行がスタートしたが、地域循環ルートでつくばセンターまで時間がかかる上に便数も少なかった。5年後にルートを見直し、関東鉄道が運行する路線バス、桜ニュータウン線になった。廃止直前は平日9本、土日祝日は2本が運行していた。

桜ニュータウン線の廃止は、21年11月に市総合交通政策課と市議でもある同会代表の金子さんが、当時の関東鉄道自動車部長の訪問を受けたことから始まった。同年12月20日、関東鉄道は県バス対策地域協議会に22年6月30日をもって廃止を申請。新型コロナの影響で利用客が大幅に落ち込み、22年度以降に運行する場合の経常収支は年間561万円の赤字になるとし、路線の維持は厳しいというのが理由だった。年が変わって22年2月1日の同協議会で廃止申請案が審議され、路線沿線住民の意見を確認できていないことを理由に廃止決定はいったん保留となった。

桜ニュータウンのバス通り。現在は土浦駅行きの路線バスのみが運行する

2060戸にアンケート、廃止なら交通難民

同会は、沿線住民の利用実態と意見を聞き取るアンケートに乗り出した。104の区会を束ねる桜地区区会連合会にバス路線廃止の動きを説明し、アンケートへの協力を依頼。桜ニュータウンの3区会を含む路線沿線の21区会2060戸を対象に4月3日から5月8日までの期間でアンケートを実施した。回収枚数は724枚で回収率35.1%だった。

集計した結果、外出時の移動手段に桜ニュータウン線のバスを利用していたのは146人で、このうちの半数を桜ニュータウンが占めていた。また、廃線後の移動手段を聞いた項目では「廃線されると目的地まで移動できない」を選択した人は11人いて、7人が桜ニュータウンの住民だった。同団地の住民にとって、つくばセンターに向かうバスは重要な公共交通で、廃止されると「交通難民」になりかねない状況が浮かび上がった。

自由記載欄には▽今は運転しているが、この先が心配で免許返納に踏み切れない▽通院できないので困る▽老人は家に閉じこもるか、便利な地域に引っ越すしかない▽減便になってもいいのでなくならないでほしい▽通勤通学の時間だけでも運行してほしいーなど、廃止への困惑と不安、存続の訴えが書き込まれていた。アンケートの報告書はつくば市を通して同協議会に提出された。

22年8月26日に開かれた協議会で、保留となっていた桜ニュータウン線の廃止申請案が審議された。アンケート報告書によって沿線住民が存続を切望していることが認知されたが、廃止が決まり、翌23年の1月31日で運行を終えることになった。

代替交通を提案「市に希望託すしか」

同会のメンバー伹野恭一さんは「ここだけの話ではなく、売り上げの減少や乗務員の人手不足を理由にした廃線や減便が全国で問題になっている。関東鉄道の採算を考えると受け入れるしかないと思った」と当時を振り返る。

通勤や通学に桜ニュータウン線を利用していた人は、廃止になる前は、つくばセンターまで1本のバスで行くことができた。今は最寄りのバス停まで1キロの距離を歩いて2本のバスを乗り継ぐか、土浦駅行きのバスに乗車して乗り換えるルートを使うしかない。いずれも大幅にう回するルートで、25分だった所要時間が倍以上になって運賃も高くなった。

廃止が決まるまで、同会は市や桜地区区会連合会と何度も話し合うなど、粘り強く桜ニュータウン住民の意識を伝える努力をしてきた。廃止を受け入れた後も、活動の手を緩めずに代替交通の確保に取り組んでいる。

会が提案する代替案は、通勤通学客を輸送する朝晩の定時マイクロバスの運行と、商業施設を経由してつくばセンターに至る新たなバス路線だ。市と協議を進めており、代表の阿部眞庭さんは「市に希望を託すしかない」と話す。(橋立多美)

(続く)

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私の定番、あれこれ《続・平熱日記》148

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絵は筆者

【コラム・斉藤裕之】セーターというものを着なくなった。代わりに着るようになったのはフリース。今や冬の定番。私にとっては動物の冬毛のようなもので、春までずっと着っぱなし。しかも何年も同じものを着ているので、肘の辺りがすり減ってみすぼらしい。というわけで近くのリサイクル店に探しに行ったら、運よく同じようなものを見つけた。

若いころ古着屋でバイトをしていたこともあって、セカンドハンドには何の抵抗もないのだが、持って帰って着てみたら結構いい香りがする。色や形、着心地は申し分ないのに…。古着を買うときの基本中の基本、なぜ匂いをチェックしなかったか。体臭というよりも何だろう? 満員電車で嗅いだことのある…、整髪料? 香水?

とにかく激しいおじさんの香り。おじさんが着るのだからいいようなものだが、生理的に無理な匂いだ。まずは重曹に漬けてみたが、頑固なおじさんの匂いは全く取れない。

定番といえば、いつも買っていた靴下がホームセンターから消えた。ネットで検索しても出てこないところをみると、製造中止になったのだろう。綿と化繊の割合とか厚さとかが絶妙で、履き心地が良くて好きだったのに。

それからTシャツも。老舗メーカーの3枚組のものだが、最近見かけなくなった。肌着だからこそのこだわりがあって、例えばちょっとした丈の長さとか。しかし、こちらの定番はネットで見つけてポチっと注文できた。

おじさん臭は残るが許容範囲

冷凍庫の定番だったお気に入りのアイスクリーム。いつものスーパーにない。フルーツと小豆のツブツブ入りで一箱6本入り。系列の別の店舗にも売っていない。店員さんに聞いてみようかと思ったのだけれども、それが聞けないのがおじさん。

さらにここにきて、いつも使っていた一番安価な定番の子供用の紙粘土が見当たらない。フワフワしたソフトなものに代わっている。手は汚れないが、マシュマロみたいで腑(ふ)抜けた形になってしまう。あの素朴なずっしり重い紙粘土が好きだったのに。

さて、件(くだん)のフリースはどうなったかな。少し長めに酸素系の漂白剤に漬けて、洗濯して干しておいたんだけど…。恐る恐る鼻を近づけてみた…かすかにおじさん臭は残るが、許容範囲。

ちなみに気になってフリースの語源を調べてみたら、「羊一頭から刈り取られた、ひとつながりの羊毛」だそうだ。頭の中には、毛を刈り取られて丸裸になった羊とそれを羽織る私。スマホで語源や由来を調べて、「フーン」というのが昨今の私の定番。

私の定番はさておき、どうやら世の中で定番と言われていた物事もそうではなくなってきている? 万博やオリンピック、紅白に正月、さんま、制服、学校、働き方…ちなみに、最近よく聞く「てっぱん」という言い方は私の中では定番になっていない。(画家)

関東リーグ優勝メンバーから4人がプロ入り 筑波大蹴球部

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左から林田、瀬良選手、小井土監督、高山、山内選手

筑波大学蹴球部からプロ入りする4選手の合同記者会見が25日、つくば市天王台の同大大学会館特別会議室で開かれ、各人が抱負を語った。今季、関東大学サッカーリーグ1部で6年ぶり16回目の優勝、全日本大学サッカー選手権大会(インカレ)では7年ぶりのベスト4と輝かしい成績を残した選手たちの次のステージでの活躍が期待される。

J1のヴィッセル神戸に内定した山内翔選手は、ゲームコントロールに長けたボランチで「戦術やゲームを認知する能力が高い。一人だけ見えている世界が違う」と小井土正亮監督の評。

プロへの抱負としては「中高の6年間を過ごしたチームに戻れてうれしい。筑波大での4年間がなければ成長できなかった。大学で学んだことを生かし自分が活躍することで、いろんな方々への恩返しになるよう、また大学サッカーの発展につながるよう頑張りたい」と話した。

山内翔選手(筑波大学蹴球部提供)

同じく神戸に内定した高山汐生選手は、身長190センチの恵まれた体格を生かしたダイナミックなプレーが持ち味のゴールキーパー。シュートストップのみならずハイボール処理やコーチングでも小井土監督の評価は高い。

「J1のチャンピオンチームに加入できることをうれしく思う。セットプレーでは自分が前に出て相手に触らせず、コーチングでは声でチームを動かしたり鼓舞し、後ろに自分がいることでチームを安心させられる選手になりたい」

高山汐生選手(同)

J3カターレ富山に内定した瀬良俊太選手は、テクニックとポジショニングに優れたファンタジスタタイプのサイドハーフ。「意外性やアイデアあふれるプレーで見る人のツボを突く。自分も好きなタイプ」と小井土監督。

「以前は自分のプレーを出したい、見てほしいという意識が強かったが、大学でいろんな人に出会い、チームが勝つために自分に何ができるかを考えられるようになった。今季は相手のプレッシャーを外して展開するだけでなく、自ら前へ出て得点することも意識した。この部分をもっと伸ばしていきたい」

瀬良俊太選手(同)

J3のFC大阪に内定した林田魁斗選手は高さ、強さ、速さを兼ね備え、ゴール前でのシュートブロックに優れたセンターバック。「気持ちで戦える男。けがで試合に出場できないときも立ち振る舞いで他のお手本となった真面目な選手」と小井土監督。

「生まれ育った関西でプロのキャリアをスタートできることがうれしい。自分もサッカーからたくさんの夢や感動をもらったので、多くの人に夢や感動を与えられるようになりたい。FC大阪に欠かせない選手になり、J3優勝とJ2昇格に貢献したい」

林田魁斗選手(同)

大学での思い出として最も心に残っているのは、11月4日の関東リーグ東京国際大学戦だったと各選手は語る。同リーグは今季、初めてホーム&アウェー方式で開催され、筑波大はホーム最終戦で2000人超の観客を前に、見事に優勝を飾った。「1グラ(筑波大学第一サッカー場)に多くの人が応援に来てくれて、支えてもらっていると感じた。プロへ行ってもファンやサポーターへの思いを大切にしながらやっていきたい」と高山選手。

一方、最も悔しい思いをしたのは12月21日、流通経済大学龍ケ崎フィールドで行われたインカレ準決勝、明治大に0-1で敗れた試合。「紙一重の差だった。あれほど勝ちたい、負けて悔しい試合はない。この悔しさをプロで晴らしたい」と瀬良選手。

プロの世界では、これまで以上に結果が求められる。山内選手は「プロは大学と違って結果が全て。勝つことでチームはもちろん自分自身の価値も高めていきたい」、林田選手は「選手の価値は結果でしか示せない。常に結果を目指して、必要なことを考えながら成長していきたい」と、来季を見据える。(池田充雄)

つくばの児童養護施設にサンタがプレゼント 商工会青年部

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プレゼントを受け取る子供たち(手前)

クリスマスの25日、サンタクロースやトナカイ姿の商工会青年部メンバー21人がつくば市前野の児童養護施設「筑波愛児園」(小林弘典施設長)を訪れ、クリスマスケーキやチキン、お菓子、おもちゃなどのプレゼントを子供たちに届けた。

同園には、様々な事情で家族と暮らせなくなってしまった幼児6人、小学生15人、中学生14人、高校生11人の3~18歳の計46人が生活している。子供たちは毎年、訪問を待ちわびている。

新筑ブロック商工会青年部連絡協議会(会長・佐藤武志)が実施した。同連絡協は、つくば市や土浦市など旧新治・筑波両郡の45歳以下で構成される5つの商工会青年部でつくる。同園への訪問は2008年に始まり、プレゼントは今年で16回目。各青年部の負担金と企業などからの寄付でまかなっている。

サンタやトナカイ姿のメンバーは、子供たちが生活している各部屋に出向き、全員にチキン、各部屋ごとに8つのクリスマスケーキと、1500個を超えるお菓子などのプレゼントを子供たちに手渡し、大喜びのクリスマスとなった。

子供たちに届けられたたくさんのプレゼントと、新筑ブロック商工会青年部連絡協議会のメンバーら

同連絡協ブロック長の佐藤さんは「子供たちの笑顔を見ると本当にやって良かったと思う。これからもずっと継承していきたい」と話した。

同園の小林施設長は長きにわたる支援に感謝し、今後も続けてくれればありがたいとあいさつした。(榎田智司)

バス減便 運転手不足深刻【公共交通を考える】1

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バス停に掲示されているダイヤ改正に合わせた減便のお知らせ=TXみどりの駅前

深刻なバス運転手不足により関東鉄道(本社・土浦市)は今月20日のダイヤ改正に合わせて、つくば、土浦などでバスの減便を実施した(11月24日付)。「2024年問題」といわれるバス運転手などの時間外労働の規制によりつくば市では来年4月からコミュニティーバス「つくバス」の減便が予定されている(11月8日付)。現場で何が起こっているのか、公共交通はどうなるのか。バス事業者、利用者、行政の現場を5回にわたって取材した。

5年半で68人減「苦渋の選択」

県南地域などで路線バスを運行し、市町村からコミュニティーバスの運行を受託している関東鉄道 自動車部の白鳥賢部長(49)は今月20日から実施した減便について「(減便前のダイヤで)運行するにはバス運転手が600人必要だがすでに60人不足し、休日出勤や時間延長でまかなっている。来年4月からの基準を守ると、さらに20人足りなくなる。このままでは立ち行かない。秋以降、観光需要が増えることもあり、前倒しで12月に減便することにした。苦渋の選択だった」と理解を求める。

ここ10年間の同社のバス運転手は、2015年から18年まで600人前後で推移。18年3月時点の601人を境に減少に転じ、20年3月は567人、22年3月は551人、今年10月末時点で533人と減少が続いている。

白鳥部長は「入社して25年経つが、業界として人が足りたことはない。ここ数年は深刻化している。入社する人が減っているのに、退職する人は変わらず一定の人数いる」と説明する。当社のバス運転手の平均年齢は現在52歳。バス業界では平均年齢が50歳を超えると高齢化が進んでいるという指標になっており、「若い世代の入社が減り、運転手が高齢化している」という。

新型コロナの影響もある。同社は路線バスやコミュニティーバスなどのほか、高速バスを運行している。路線バスの赤字は自治体などからの補助金のほか、高速バスの収益で補てんし維持していた。会社全体の営業収益の6、7割を占めるのがバス事業で、そのうちの4割を高速バスが占める。

20年4月に新型コロナの緊急事態宣言が出された。高速バスの乗客はコロナ禍前の6、7割まで落ち込み、運行本数を通常の5割まで減便した。コロナ前の19年度、約71億円を計上したバス部門の営業収益は、20年度は約45億円までダウンした。「コロナ禍で収益の柱を失った。コロナ禍の間に退職した運転手もいる」と白鳥部長。コロナ禍により20年は収益が底を打ったが、今年はコロナ前の19年と比較して8割ほど回復している。「お客さんも戻ってきた」と語る。

(左から)関東鉄道自動車部の白鳥賢さんと総務部の森田玲泉さん

積極採用、次世代の実験も

深刻な運転手不足に対し、同社は数年前から運転手の採用活動に力を入れる。バス運転手になるために必要な大型2種免許の取得費用を会社が負担するなどしてPRする。白鳥部長は「ここ数カ月、募集広告の宣伝効果が出て前年度に比べて採用ができている」というが、ほとんどが40代か50代で、長年バス運転手をやりたいと思っていた人が入社していて、20、30代の入社は年に数人。高卒者も年に1人か多い年で2人という状況だと明かす。

次世代の公共交通として期待される「MaaS(マース)」と呼ばれる新たな移動サービスにも挑戦。情報通信技術を使って複数の移動手段を最適に組み合わせる実証実験を2021年から地元土浦市と連携して実施しており、スマホなどで予約を受け付けAI(人工知能)を活用して効率的に運行するAIバスや、住宅地で時速20キロ未満の電気自動車を走らせ路線バスや鉄道など複数の公共交通と最適につなぐ取り組みなども積極的に行っている。ただし、AIバスや自動運転バスなどの「実用化はまだ先」だとし、現時点では、解決策にはなっていない。

すみわけ、再編し「最適化したい」

では今後どうすればよいのか。白鳥部長は「運転手がいない、お客さんがいないからと(便数を)どんどん減らすと、減らした直後は収支に効果が出るが、全体としてお客さんが減少し会社の将来はない。地域の足を確保することもままならなくなって負のスパイラルに陥る。これは意味がない」と認識する。

その上で、運転手不足に対する今後の対策としては「交通の最適化が求められる」とし、「例えば、現在つくバスの北部シャトルと当社の路線バスが競合している。限られた人数しかいない運転手を2人使うのはもったいない。民間の路線バス、自治体のコミュニティーバス、デマンドタクシー、企業の貸し切りバスなどが連携し、各地域で一回、公共交通を整理してすみ分けし、運転手を無駄なく使うなどの再編をしないと維持できない。1社ではできないので関係者に声掛けして検討していきたい」と話す。

「今回の減便は運転手不足に起因する減便なので、運転手が確保できれば便を復活することを視野に入れている。そういう努力はしていきたい」という。

続く

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「有機農業運動の希望の星」星寛治さん逝く《邑から日本を見る》150

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那珂市静の「しどり農園」のシクラメン

【コラム・先﨑千尋】今月9日の『日本農業新聞』で、山形県高畠町の農民詩人・星寛治さんの訃報を見た。享年88歳。星さんの仲間である佐賀県唐津市の山下惣一さんが昨年亡くなり(本コラム126回)、農業の現場から、小説やルポ、詩、講演などで農村の実情を世間に訴え続けてきた南北の巨頭を失った感じだ。

星さんは、1973年に町内の若手の農民たちと「高畠町有機農業研究会」を立ち上げ、耕し、収穫し、おいしいコメやリンゴ、ブドウなどを消費者に直接届け、食べものを分かち合う喜びを、詩に刻んできた。また、わが国の農業と農法をどうするかを農民や消費者、研究者たちと議論し続けてきた。

小説『複合汚染』を書いた有吉佐和子さんも、74年に高畠を訪れ、小説にもそのことを書いている。日本有機農業研究会を立ち上げた一楽照雄さんとも親しかった。

私が星さんと最初に出会ったのは77年夏。石岡市で開かれた「生消提携」の集会を『日本農業新聞』の通信員として取材し、講演後の星さんに高畠のリンゴとブドウを購入したいと申し出たことがきっかけだった。それから、私どものささやかな消費者の会「水戸たべものの会」と交流が始まり、高畠まで車を走らせ、2月の生産者と消費者グループとの「作付け会議」にも参加するようになった。

熊本県水俣市の水俣病患者の生産する甘夏を購入するようになったのも、この頃だった。星さんからは、著書を発行の都度送っていただき、自宅に伺い、リンゴ園も何度か見ている。今年の賀状には「はてしない野道をゆっくり、ゆっくり歩こうよ。足跡など消えてもいいよ」という詩が添えられていた。

実践するだけでなく表現する農民

星さんの師匠は、詩人で同人誌『地下水』を主宰していた真壁仁。佐藤藤三郎さんや齋藤たきちさん、木村廸夫さんらと共に、直系の弟子だった。星さんは真壁から「実践するだけでなく、表現する農民として生きていく」ことを学んだ。

星さんは高校を卒業してすぐに就農した。最初に取り組んだ化学肥料や農薬漬けの農法で身体を壊し、田畑から生き物が消えていくのを見て、「命や健康、環境を守ることが農の本分」と思い定めた。土にはいつくばって虫や草を取り、農薬などを使わない農業を実践。3年目の田んぼに黄金色のコメが実り、トンボやホタルも戻ってきた。

星さんは町の教育委員も長く務めた。在任中は食農や食育教育を重視し、学校給食で地域の食材を使った「地産地消」に取り組んだ。「農業と教育は、育てるという意味で地下茎のようにつながっている」と書いている。星さんにとって有機農業は生き方そのもの。「文化」は英語では「カルチャー」。文化とは耕すことだというのが口癖だった。そして「農民は、日本に暮らす勤労市民の命と健康を支える使命がある」とも。

「農村には千年続く伝統と文化がある。日本の原風景に誇りを持とう。そして田園に暮らす幸せを体感しよう」という星さんの呼びかけに、私も共感する。星さんのあとは山形大学農学部を出た孫の航希さんが継いでいる。星さんの足跡が消えることはない。(元瓜連町長)

裏金化問題、政治責任はどう問うべきか《文京町便り》23

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土浦藩校・郁文館の門=同市文京町

【コラム・原田博夫】昨今メディアをにぎわしているのが、自民党安倍派のパーティー券収入の裏金化問題である。岸田首相は、自派には影響ナシと見てか、当初はいつも通り慎重な対応だったが、なぜか自身の支持率も低下するに至り、とりあえずは安倍派の閣僚・党役員・副大臣・政務官などを差し替える弥縫(びぼう)策で、乗り切ろうとしている。

こうした金銭授受を巡る問題は、政治活動の少なからざる局面で多くの国民も昔からうさん臭さを感じながらも、漠然とやり過ごしてきた感がある。とはいえ、使途不明金の存在は、個人の活動であっても公的なものであれば税制上は認められるわけもなく、ましてや公人としての政治家の活動では透明性・公開性が求められる。

こうした問題を引き起こした政治家は、しかるべく、検察の捜査・立件・公判などの法の下での裁きを受けなくてはならない。

しかし、それが確定するまでには相当の日時がかかる。さらには、このような事案が他派閥でも生じているなど構造的なものであれば、選挙制度(衆議院の定数465人中、小選挙区289人・比例代表176人。参議院の定数248人中、比例代表100人・選挙区148人)の大改革や政治資金規正法改正を視野に入れるべきだとする論調も出ている。

刑が確定した政治家は公民権停止に

しかし、こうした制度改革には、現在の民主主義制度下では、国会議員の発議・立法化が必要である。仮にメディアなどでどれだけ機運が盛り上がっても、肝心の国会内での与党・政権党がその気にならなければ、結局は球場外の声に終わってしまう。では、この手詰まり感をどう突破すべきか。

まずはこの問題で、現行制度の下で刑が確定した政治家は、その後一定期間国政選挙には立候補できないというルール(すなわち公民権停止)を、国会の場(できるだけ全会一致)で取り決めることである。この公民権停止期間は、(現憲法下での二院制を前提にする限り)衆議院の場合は4年間、参議院の場合は3年間、とする。

政治資金パーティーを巡る裏金疑惑の深刻さ・波及範囲が見えない現時点では、ここまでの措置はフライイングだと躊躇(ちゅうちょ)する向きもあるかもしれない。さらには、そこまで罪の償いを求めては、せっかくの(国政に選出されていた)有為な人材も一網打尽に退場を求めるようなものだとの反論もあるだろう。

しかし歴史に範を求めれば、少なくともわが国の近代史に限っても、明治維新時、昭和20年代いずれも、それ以前の体制派の大方はどんなに人格・識見が高潔であっても、次代の公職からは排除された。軍事的な内乱は極力抑えられたが、次代の統治機構は、旧体制の打倒に貢献した勢力および全国から新たにリクルートされた人材から構成され、新機軸を試行錯誤で模索したのである。

仮に現行の国会議員の半数が公民権停止になったところで、全国に目を向ければ、有為な人材は澎湃(ほうはい)として存在している、というのが私の見立てである。わが国の進路を真剣に論じ確立するには、先例を安易に踏襲する形骸化した政治ゲームに安住している国会議員に活を入れるべきだと思う。(専修大学名誉教授)

拝殿に大しめ縄飾り付け 筑波山神社が新年準備

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新年を前に拝殿に飾り付けられた大しめ縄=つくば市筑波、筑波山神社

筑波山神社(つくば市筑波、上野貞茂宮司)が新年を迎える準備に忙しい。22日は朝から神職らが、拝殿に飾るしめ縄作りの作業に追われた。わらで編んだ縄をさらに編み上げて長さ18メートルの大きなしめ縄に仕上げ、午後には拝殿に飾り付けた。

来年は新型コロナが5類に移行して初めての正月を迎える。同神社は今年の正月からすでに人出が戻っており、新年は参拝客が昨年よりやや増え例年並みの21万人から22万人が訪れるのではないかと予想している。神社では、境内で販売する破魔矢、熊手、鏑矢(かぶらや)など、例年通りの準備を進めている。

拝殿に飾る大しめ縄を作る神職ら=22日午前

神社本殿のある筑波山山頂には毎年、ご来光を拝む人で早朝からにぎわう。ケーブルカーやロープウエーを運行する筑波山観光鉄道によると、山頂では、関東では一番早い午前6時44分に鹿島灘方面から昇る初日の出が見られ、初日の出の時間に合わせて午前4時30分からケーブルカーとロープウエーを早朝運行する。

甘酒サービスが復活

同神社では新年は新型コロナの感染防止対策を緩和しほぼ例年通りとし、甘酒のサービスも復活する。ただし手水舎(ちょうずや)では今年もひしゃくを置かないという。

同神社権禰宜(ごんねぎ)の八木下健司さん(60)は「コロナ対策も特になくなり、甘酒サービスも再開するなど従来の新年が迎えられそう。天気予報も良さそうなので、良い初詣になるのではないか」と話す。

神社総代の菊地武司さん(69)は「もっと大勢の人に来てもらいたいが、道路が一つしかないので、どうしても渋滞が起きてしまう。駐車場もなかなか停められないので、頭の痛いところだ」と語る。(榎田智司)

クリスマスの唄 ♫ 清し、この野郎 ♪《くずかごの唄》134

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イラストは筆者

【コラム・奥井登美子】私が土浦に嫁に来て初めてのクリスマスの日。夫には2人の兄がいて、クリスマスの日は全員集合だった。教会へ行く前、家で男3兄弟、私に歌ってくれたのが「♪ 清、♪ この野郎、星は光 ♬」。夫の名は清。彼は「清、この野郎」などと言われているのに、実にうれしそうな顔をして、一緒に歌っているではないか。

私は大笑いしながらも、2人の兄が彼らなりに、一生懸命、弟を育ててくれたのだという事実を、痛いほど知ってしまったのだった。清は幼年期に重い肺炎になり、小学校の入学を2年も遅らせたひ弱な子供だったらしい。

長男の誠一兄は、私が学生時代、青酸カリや砒素など毒物の「裁判化学」という教科の先生。「弟と結婚してやってくれ」と、私を口説いたのは本人でなく兄だった。

私の学生時代。東京薬科大学女子部は上野にあったので、東大の先生が何人も講師に来てくれていた。兄もその1人だった。兄は東大卒業のとき、天皇陛下から恩賜(おんし)の刀を頂いたくらいだから、成績もよかったのだろう。その後、東北大学に薬学部を創設し、45歳であっけなく亡くなってしまった。次男の勝二兄は千葉大学病院の外科医で、がんの手術が得意だったらしい。

医師会ならこちらもイシ会です

日本の外科の歴史を考えると、フランス人のアンブロワーズ・パレの著書が、オランダから入ってきたのが始まりだった。パレの生誕400年祭の際、パレ生地の公園に、日本医師会から「日本の伝統工芸品の石灯籠を贈りたい」という東大の盛岡恭彦先生。先生にはパレに関する著書も多い。

「医師会ならこちらもイシ(石)会です。イシ会として協力させていただきます」。真壁町の加藤征一さんが伝統工芸品の春日燈籠を作成、1991年1月、真壁の五所駒ヶ瀧(ごしょこまがたき)神社での荘厳な贈答式が行われた。

勝二兄は、この石燈籠が気にいって、同じものを自分の家の庭にも設置してもらい、日本の外科学の歴史を偲(しの)びながら仕事に励んでいたが、3年前、宇宙に飛び立ってしまった。生前、この燈籠は「僕が生まれて育った家に移してほしい」と言っていたとか、加藤さんが伝統工芸師の息子さんと2人で、千葉から土浦に移築してくださった。

この間、兄の命日に、「石燈籠を見ながら、奥井勝二さんを偲ぶ会」を我が家の庭で行った。パレの資料など読みながら、兄の96歳の天寿を祝して、楽しい語らいの場であった。(随筆家、薬剤師)

                                

建設工事費1.5倍の41億円 つくば市が陸上競技場基本計画案を策定

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つくば市陸上競技場完成予想図(同市提供)

つくば市は22日、同市上郷、旧上郷高校跡地(約7ヘクタール)に計画している陸上競技場整備事業の基本計画を発表した。概算の建設工事費は校舎解体費も含め計約41億4100万円で、2021年4月策定の基本構想の工事費27億3600万円と比べ1.5倍にふくらむ。年間維持管理費は基本構想が8000万円だったのに対し1.1倍の8850万円。市議会12月定例会閉会後に開かれた全員協議会で報告した。

わずか2年半で工事費が1.5倍になる理由について市スポーツ施設課は、資材費の高騰のほか、バックスタンドに屋根を付けるためなどとしている。基本構想については、市大規模事業評価委員会が事業費も含めて検証し、22年3月に「概ね妥当」との答申を出している。

今後のスケジュールは、パブリックコメントと説明会を実施して23年度末までに基本計画を策定し、24年度に基本設計と実施設計に着手、25年度に現在の校舎や体育館などをすべて解体し、26、27年度に建設工事を実施、27年度末に完成予定という。

メーンスタンドを縮小

21年策定の基本構想と比べ基本計画は、メーンスタンドの規模を縮小し観客席を1500席から600席にする。一方、バックスタンドに300席の屋根付き観客席を新たに設置する。芝生スタンドなどを含めた施設全体の観客席は、基本構想は4000席だったが、基本計画は2900席に減らす。市は、利用を想定している小中学校などから意見を聞き、経費を抑えたと説明する。

ほかに基本構想では付帯施設として、会議室や研修室などがあるセミナーハウスを建設し、地域交流や物販、避難所や備蓄倉庫などとして利用する計画だったが、セミナーハウスは建設せず、代わりにメーンスタンド脇に分棟として地域の交流拠点や多目的集会所を新設する。さらに付帯の多目的広場には屋根付きの80メートル雨天走路を5レーン設置する。

上郷高校の新体育館は、基本構想では解体せず残して活用する計画だったが、高校の施設はすべて解体し、併設の体育館はなくなる。

一方、競技場内は基本構想と同じで、トラックは400メートル8レーン、サッカーなどの利用を想定している内側のインフィールドは天然芝で、日本陸上競技連盟の施設基準で第3種公認相当規模の整備をし、4種公認とする。

年間利用者数は4万5000人程度とした。想定される利用者を積み上げて算出したものではなく、3種公認の龍ケ崎市陸上競技場と同程度と想定したという。

議会からは「小中学校の陸上競技大会は各学校にゆだねられており、先生方の働き方改革で縮小されている、現在、各学校で行われている大会を陸上競技場で行うことが決まっているところはあるのか」などの質問があり、市は「具体的に(利用が)決まっている学校はないが広めていきたい。小中学生が利用すれば年間利用者は4万人より多い」などと答えた。(鈴木宏子)

◆同基本計画案の説明会は①24日(日)午後1時~茎崎交流センター②同午後4時~豊里交流センター➂26日(火)午後2時~大穂交流センター④同午後5時~つくば市役所で開催される。パブリックコメントは18日から来年1月19日まで実施中。

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