金曜日, 11月 7, 2025
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ナツツバキ、ドクダミ、アザミ、ネジリバナ 《続・平熱日記》88

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【コラム・斉藤裕之】4月の初め、家のプルーンの木に小さな白い花がいっぱい咲いていて驚いた。これまでも、ぽつりぽつりと咲いたことはあったのだが…。去年植え替えたブーゲンビリアも見事に咲いて、気が付けば、昨年手に入れたレモンの鉢植えもいくつか花が咲いている。

花は色彩にあふれ生き生きとして、描く者にとっても飾る側としても、最も好まれるモチーフだ。バラやユリ、シャクヤクやボタンなどは、文字通り「華のある」モチーフとしてよく描かれるが、私はそれほど引かれない。

ふと、モネの「睡蓮(スイレン)」を思い出した。フランスに留学していた時には美術館のフリーパスをもらっていたので、「睡蓮」のあるオランジェリー美術館(元はオレンジの倉庫だった)に何度も通った。また、パリ郊外のジベルニーにあるモネのアトリエを訪ね、睡蓮の池のある庭も歩いた。

日本では優しい色彩の印象派として知られるモネだが、その眼は驚くほど映像的で一眼レフカメラのようだ。それから、例えば積み藁(わら)の絵や崖を描いた作品を白黒にしてみると、デッサン力が卓抜していることもわかる。そして、一見情緒的に見える色彩は理論的に重ねられている。

しかし、なぜ睡蓮だったのだろう。当時モチーフに苦慮していたモネが、偶然ジベルニーを訪れて睡蓮に出会ったというが…。

歴史的に、花は卓上の静物あるいは風景の一部として描かれた。しかしモネにとっては、睡蓮という花そのものではなく、「睡蓮のある水面」が重要だったのだろう。つまり、ルーアンの大聖堂が建築物としての構造や奥行きを描くために選ばれたのではないように、何度も描かれた庭や池は、モネの求める絵画空間や色彩表現の実験台として格好のモチーフであったのだと思う。

例えばモネが土浦に住んでいたとして、霞ケ浦の広大な蓮田を描いたか? 否。(ゴッホなら蓮を描いたかも)

花はやはり軽くなくてはいけない

さて、今年もドクダミがきれいに咲く季節となった。それから、以前はほとんど見ることがなかったアザミが、ここ数年道端や野にあるのを見つけて、これまた描きたいと思う。そして、ご近所さんの庭先や公園で、白くてころりとしたナツツバキが、こちらは地面に落ちているのを描く。

花はやはり軽くなくてはいけない。どんなにきらびやかでも、華々しくとも、触れれば柔らかく薄く軽くある。だから、アジサイが何キロもあるような塊になってはいけない。それから、花こそ自然の摂理そのままの形をしていて、いい加減には描けない。そのあたりが面倒くさいから、花を避けているのかもしれない。

散歩の途中でネジリバナを見つけた。らせん状のピンクの花がかわいらしいが、こちらは描かずにめでる。「ネジリバナ ねじれて咲いて 素直かな」。どなたの句だったか忘れたが、毎年この花を見ると思い出す。そうだ、今年はクズの花を描こう。毎年描こうとしてうまくいかない花たち。(画家)

「コロナ禍をチャンスに」 地域の芸術家たちをサポート つくばのにれ工房

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にれ工房代表の山崎誠治さん=つくば市平塚

つくば市平塚の「にれ工房」で家屋のリフォームや家具制作業を営む代表の山崎誠治さん(66)が、コロナ禍で苦しむ地域の芸術家を支援している。

山崎さんはコロナ禍で多くの画家や工芸作家、音楽家らが活動の場を失い苦しむ様子を間近で見てきた。コンサートが中止になり、教えていた教室や、作品を販売していたマルシェが次々中止になった。そこで山崎さんが始めたのが、活動の場を失った芸術家へのサポートだ。

音楽家には自宅のスペースを提供し、つくば市による芸術家振興事業の「オンライン文化芸術奨励事業」に向けた動画制作や、来場者数を絞って感染防止対策をしながらの「プチライブ」を企画した。もの作りの場として作家に教室を提供もしている。

音楽イベント会場にもなる、山崎さん自作のウッドハウス

「若い芸術家にとって活動できなくなることが一番辛い。コロナが明けた時に必ずチャンスが来る。だから、前を向こうと励ましました」

音楽祭などを長年開催

山崎さんは、つくばエクスプレス開通前年の2004年に千葉県から転居し「にれ工房」を開業した。仕事の傍ら、芸術を通して人が集まり楽しめる場づくりとして、研究学園での屋外イベント「トワイライト音楽祭」や、小さな子を持つ母親のためのコンサート「ママコン」の開催などを長年続けてきた。

ママコンのポスター

つくばには、筑波大学芸術学群で学ぶ学生や、県内外で活躍する音楽家や作家など、芸術活動を生業とする市民が多数暮らしている。地元にも活動の場を作り、地域の人との橋渡しができればと考えてきた。しかし、コロナ禍で人が集まるイベント開催が難しくなった。「このままではダメ。新しいことを始めよう」と思った。

ケーブルテレビと計画

今後は地元ケーブルテレビとの企画で、にれ工房で収録した音楽家の演奏をテレビで放送する「つくば音楽祭」を計画している。毎回収録には少数だが観客も入れる予定だという。

また、市社会福祉協議会ボランティアセンターのメンバーとして始めた「ちいかつ(小さな地域の活動)」では、地域の先輩たちとの交流を通して、芸術・文化活動に悩みを持つ人がヒントを得てもらえるような場作りを始めた。「つくばは、芸術の街として大きな可能性がある」という。

「こんな時期だからこそ、ピンチをチャンスに変え力を発揮することで、若い芸術家たちが自信を持ち笑顔で活動し続けられるよう、伴走できたらと思っています」(柴田大輔)

つくばの街づくり 迷走する市の計画 《吾妻カガミ》109

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「ロピア」が入る「トナリエ クレオ」

【コラム・坂本栄】TXつくば駅前に新装オープンした「トナリエ クレオ」をのぞいてみました。撤退した西武百貨店では「デパ地下」だった1階には、食品スーパー「ロピア」のパワフルな食材が並び、以前とは大分違った雰囲気でした。茨城初の同店が核店舗として入り、つくばセンター地区は平成のころとは違ったまちに生まれ変わるような予感がします。

徒歩や自転車で行ける「クレオ」

トナリエ・クレオ開店の様子は、本サイトの記事「クレオ3年ぶりに再オープン」(5月19日掲載)をご覧ください。新しい家主「日本エスコン」の伊藤社長のあいさつが引用されていますが、「大型百貨店などのGMS(ゼネラル・マーチャンダイズ・ストア)を核とする構成から、地域住民に欠かせない食品スーパーを核とするNSC(ネイバーフッド・ショッピング・センター)に構成を変えていく」との考え方には、なるほどと思いました。

業界用語NSCとは、食品スーパーを中心にして、近隣住宅街などの小商圏をターゲットとする商業施設のことだそうです。大商圏を想定して高級品も扱う百貨店とは違ったコンセプトです。中部電力系の東証1部上場不動産会社・日本エスコンとしては、つくば駅周辺に林立するマンションに注目(自らもクレオ隣りに建設中)、勢いのある食品スーパーを誘致したようです。

この地区には、カスミ・フードスクエア学園店、ヨークベニマル・つくば竹園店、西友・つくば竹園店など、有力な食品スーパーがひしめいています。そこに新たなNSCをぶつけてきたことに、エスコンとロピアの気合いを感じます。クレオに徒歩あるいは自転車で来られるエリアに、これからもマンション、戸建住宅が増えると読んだからでしょう。

これらの店の大商戦によって、つくば駅周辺が活気ある「オフィス+マンション+飲食店+小売店」地域になればと思います。

市の無為は「まちづくり」にプラス

こういった絵を描いていたら、2年半前に、五十嵐市長が「つくば駅周辺にマンションを建てさせない」と言っていたのを思い出しました。この計画がまだ生きているとすれば、進出会社の読みに狂いが生じます。そこで市長にただしたところ、マンションを規制する方針は変わっていないということでした。どうやら、市は民主導の「まちづくり」が面白くないようです。

市主導の「まちづくり会社」による「クレオ再生計画」が失敗した後、コラム「クレオ問題 そして祭りは終わった?」(2018年11月5日掲載)の中で、「市は時間軸を曖昧にしたまま、つくば駅周辺にマンションを建てさせない用途制限措置を導入しようとしている。これでは、建設を誘導しているようなものです」と指摘しました。

その後の推移を見ると、市はマンション規制に動かず、市長発言によって逆に建設が促され、マンションの集積が進むことになりました。市長の言行不一致=無為が「まちづくり」にプラスになったわけです。

エスカレーター問題で迷走するセンター地区再生計画もそうですが、市は余計なことをしない方がよいようです。この際、お荷物の「センタービル」の再生も、市主導の「まちづくり会社」ではなく、知恵と力がある民間会社に頼んだらどうでしょうか。この提案、コラム「センタービル再生の問題点」(2020年8月3日掲載)でも書きました。(経済ジャーナリスト)

正岡子規『水戸紀行』追歩(8) 《沃野一望》28

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暮色の筑波山=県庁から

【コラム・広田文世】

灯火(ともしび)のもとに夜な夜な来たれ鬼

我(わが)ひめ歌の限りきかせむ  とて。

明治22年、水戸在住の友人を訪ね、東京から水戸へ徒歩で向かった正岡子規は、いよいよ水戸へ近づいた。足腰からの悲鳴に辛苦の令和追歩組も、県庁手前のバス停で休憩後、どうにか腰をあげ、水戸駅までの最後の詰めに立ちあがる。「どっこいしょ」。歩きはじめが、さらに辛い。

県庁のビルに差し掛かる。ちょっと立派すぎはしないか。身体疲労が、思考を過敏にしているかもしれない。超広幅な歩道の整備も、ありがたいにはありがたいが、なんだか虚しさも覚える。

無機質ビルを後方にし、とぼとぼ歩けば右カーブの左手に、偕楽園、好文亭が見えてくる。これぞ水戸。水戸藩九代藩主斉昭の命で造園された日本三名園のひとつ。それでも、金沢の兼六園などと比べれば、随分地味だ。それが、偕楽園の味だろう。名物の梅も、もともとは戦時備蓄品目的と聞く。

子規は、偕楽園へ立ち寄り庭園の風雅を堪能している。「余は未だ此の如く婉麗幽遠なる公園を見たることあらず」とある。

子規が訪れたときは、幸運にも梅の季節だった。「がけには梅の樹斜めにわだかまりて花いまだ散り尽くさず」と感激している。現在、園内には、子規の有名な句碑が建立されている。

急崖に梅ことごとく斜めなり

子規は、偕楽園の広場で野球に興じる少年たちを見掛け、紀行に記録している。野球とは、子規の訳語(自身の本名=昇=のぼる=野ボール=野球)とか。無類の野球好きで知られている。

帰路特急 南崖の梅 手を振る子

令和版は、千波湖畔へ戻り、水戸駅南口を目指す。最後のがんばりだ。足の裏はいよいよ悲鳴をあげる。湖では、白鳥に餌を投げる人、ジョギンググループ、犬の散歩、ボールを蹴りながら走るサッカー少年。

ふと気が付くと、自分の影が長く伸びている。日暮れが早い。朝の6時から歩きはじめ16時すぎ、水戸駅南口着。どうにか子規先生に報告できるがんばりで歩ききった。

その子規先生、水戸の宿へ着くと、またも不機嫌。「客部屋にあらで三畳じき許りのほの暗き納戸ともいふべき程の処」へ通され、「腹だたしきこと一方ならず されど腹へっては立てられもせず 先ず牛飯を持て来よと命ずれば」、やっとの思いで食事にありついた。最後まで食い物の恨みが恐ろしい『水戸紀行』だった。

令和版は、水戸駅に着き、痛い足を引きずり蕎麦屋へはいり、見えない子規の背中と、ひそかな打ち上げの乾杯をあげる。地酒が喉へしみいる。

水戸からの帰路、子規は、水戸線―東北本線経由の列車で上野へ帰った(当時まだ常磐線の日暮里―友部間は開通していない)。『水戸紀行』の最後にあたり、子規は「正午となれば上野停車場へ帰りぬ、余りの早さにあるきしことのおかしく思われぬ めでたしめでたし」とまとめている。

さて令和版も子規にならい、「特急ひたち」で帰ることにする。水戸駅を発車した特急は、すぐに偕楽園下を疾走してゆく。長いようであっという間の追歩だった。ためしたことのない一句を許してもらおうか。

帰路特急南崖の梅手を振る子(作家)

マンガで小児糖尿病の理解を広めたい 筑波大医療系と芸術系が連携

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グルコースをモチーフにしたオリジナルキャラクター、グルッシー=筑波大学グルッシーコラボレイションズ提供(2020年、作品の一部)

筑波大学の医療系と芸術系の教授らが連携するプロジェクトチーム「筑波大学グルッシーコラボレイションズ」(鈴木康裕代表)が、糖尿病を子どもにもわかりやすく説明したマンガ冊子を作成した。今年中に県内の小中学校等に配布する予定。小児糖尿病の患者が受ける誤解をなくすために、糖尿病を知らない子どもたちが読んでも理解できる内容になっている。

オリジナルキャラクターと一緒に学ぶ

マンガに登場するグルッシーは、体にとって重要なエネルギー源であるグルコースをモチーフにしたオリジナルキャラクター。2016年に筑波大付属病院の理学療法士である鈴木康裕さんが芸術系の村上史明助教に、糖尿病予防キャンペーンのキャラクター製作を依頼したことで誕生した。

その後、グルッシーを使ったすごろくやカードゲームを展開し、小学校の保健の授業教材としても使用された。昨年には、グルッシーを主人公に、生活習慣と2型糖尿病をテーマにしたマンガを、鈴木さんの医学的な監修のもと作成し、つくば市内の小中学校や小児科に配布した。イラストは筑波大卒の芸術家である堀内菜穂さんが担当した。今回作成したマンガは、前回のマンガを発展させる形で、1型糖尿病にも焦点を当て、糖尿病の子どもの学校生活についても描かれる。付属病院の医師も監修に加わった。

制作中のの原画の一部

子どもたちの誤解解消に

プロジェクトチームのメンバーで、今回のマンガを監修した筑波大小児内科の岩淵敦医師によると、現在、小児糖尿病の患者は、およそ小学校10校に1人いる。今まで糖尿病の症状や原因等を説明した大人向け教材を子ども向けに改編したものはあったが、文章の脇にイラストを加えただけのものが多かったという。

糖尿病の子どもは学校でも血糖値を測ったり、インシュリンを打ったりする必要があるが、周りにクラスメートがいる中で医療行為をおこなうことに悩む子どもも多い。岩淵医師によれば、周りの友達との関係性について学会の話題にはのぼっていたが、今までの教材は学校生活についてはほとんど言及されていなかったという。

岩淵医師は、「糖尿病の子どもたちは誤解を受けてしまうことがある」と話す。糖尿病は、お菓子の食べ過ぎなど子ども自身の不摂生や、親の育て方が原因だというイメージが強い。しかし、1型糖尿病は生活習慣とは無関係で、インシュリンというホルモンがなくなってしまうことが原因であり、2型糖尿病はカロリーの過剰摂取が原因だが、生まれつきインシュリンが出にくい体質が大きく影響しているそうだ。

「このような誤解を解消するため、医療者が正確でわかりやすい教材を作成し、糖尿病を患う子どもだけでなく、彼らの周りにいる多くの子どもたちに読んでもらう必要性を感じた」と岩淵医師。

全国の小中学校へ配布を目指す

作成したマンガ冊子は、県内の小中学校のほか、茨城県糖尿病協会が毎年開催し、糖尿病の子どもたちが自分の病気について学ぶサマーキャンプで無料配布する予定。「マンガを読むことで、子どもたちにどのような変化があるかまで検証したい」と鈴木さんは話す。

マンガを配布する資金集めのためにクラウドファンディングを5月中旬から行っていたが、当初の予定より早く目標金額50万円を達成した。現在は目標金額を80万円に上げ、全国の小中学校等にマンガを配布することを目指している。7月15日まで資金を募る。(川端舞)

ダイエット中のご褒美がケーキ 《続・気軽にSOS》87

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【コラム・浅井和幸】さぁ、仕事も頑張った、嫌なことにも耐えた、ダイエット中だけど、今日は自分にご褒美として大き目のケーキを食べちゃおう。この文章は、「当たり前」「普通」でしょうか? それとも「変」でしょうか?

では、今週はダイエットがうまくいっているから、ご褒美にカロリーの高いものを食べるのはいかがですか? 山登りをしていて、この1時間は頑張ったから、ご褒美に100メートルだけ下っちゃおうは?

分かっちゃいるけど、やめられねぇ。そんな言葉が、半世紀以上前にはやりました。まさに、人間の本質をとらえた素晴らしい言葉ですね。

目標や希望に向かって歩き続けることは、難しくつらいことが多い。目標や希望の反対方向に、うれしいことがある。そう感じている人は多いし、そのように教育されますよね。我慢して勉強するのが素晴らしい、嫌なことがあっても続けることがよい、苦しいことをするから尊敬される―と。

一般的にそう教えられたりすることも多いですが、山を登って朝日を楽しむ人、ダイエットに成功して健康的になる人、コツコツと仕事や活動を続ける人も確実にいます。

これらの人たちは、本当に苦しむことに耐えているだけなのでしょうか? もちろんそうでなく、ここまで達成できたといううれしい思い、健康になったり、褒められたり、貯金が出来たりという喜びを感じているはずです。

それも、山を登りきる前にも、何度も喜びを感じることもあるでしょう。空気がおいしいなとか、きれいな花が咲いているなとか。

ささいなことを積み重ねましょう

自身の目標に反する状態で苦しんでいる人たちが、目標を達成する方向に言動や生活を変えていくお手伝いをすることが、私の仕事や活動と言えます。余裕がなく無意識に悪循環の選択をし、分かっちゃいるけどやめられねぇ状態から、抜けるための小さな喜びを感じられることは好循環を生みます。

ささいなことを馬鹿にせずに、積み重ねましょう。積み重ねに苦手意識がある人は、小さな喜びを見つけることに意識を向けましょう。好循環はその先にあります。

だからと言って、やっぱり程度は大切。体重が減ることが喜び、増えることが恐怖となって、健康を保てないほどの過度のダイエットをしてしまう心の病もありますから、ご注意を(できたら健康を喜びにしてほしいところですが…)。

半端はダメだと追い詰めるのも、過ぎたるはなお及ばざるがごとしと考えるのも、また、あなたの人生です。自分自身で選択していけるとよいですね。(精神保健福祉士)

「霧筑波」若き蔵元 南部杜氏清酒鑑評会で首席獲得 市長に報告

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五十嵐つくば市長(右)に霧筑波の説明をする浦里知可良さん=つくば市役所

清酒「霧筑波」醸造元の浦里酒造店(つくば市吉沼、浦里浩司代表)で酒造りの杜氏(とうじ)を務める浦里知可良さん(29)らが18日、つくば市役所に五十嵐立青市長を表敬訪問、第102回南部杜氏自醸清酒鑑評会「吟醸酒の部」で、第1位となる首席を獲得した受賞の報告を行った。

訪問したのは、酒造店の6代目蔵元で杜氏を務める浦里さんはじめ、頭(かしら)で副杜氏の早坂義裕さん(52)、酛屋(もとや)で酒母担当の高野昌史さん(45)、釜屋(かまや)で蒸米担当の小田島徹弥さん(37)の4人。

五十嵐つくば市長(中央)に受賞を報告する(左から)小田島徹弥さん、早坂義裕さん、浦里知可良さん、高野昌史さん=同

4月に岩手・花巻市で行われた鑑評会の吟醸酒部門で、全国114工場から出品の256点の頂点に立った。南部杜氏は、越後杜氏、丹波杜氏と並ぶ日本三大杜氏のひとつ。杜氏の数は全国最多で会員数は606人(5月31日現在)を数える。南部杜氏自醸清酒鑑評会は、酒造技術の研鑽、資質の向上を目的に1911(明治44)年から開催。吟醸酒と純米酒の部で審査が行われる。

浦里知可良さんは蔵元に就いて3年目。20代での首席受賞は前例がないという。高校2年生のときに家業を継ぐことを決め、東京農業大学醸造科学科を卒業後、山形県や栃木県の酒造店などで修業。2018年10月、つくばに戻って6代目蔵元に就いた。

早坂さんによれば、「6代目は静かに闘志を燃やすタイプ。表には出さないが気合が伝わってくる」そう。「(霧筑波の出来は)出来過ぎではないかと思ったほど良かった」と振り返った。 

知可良さんは「華やかな味に仕上がった。米の甘味を最大限引き出し、後味はすっきりしている。甘みとキレが両立できたことが評価されたと思う」と語る。受賞の霧筑波は、熟成が進んだ7~8月ごろに売り出す予定だという。「個人的には、中華料理などにも合うお酒だと思う。自由に楽しんで飲んでいただけたら」と話す。

五十嵐市長は「すばらしい活躍。売り出されたら、ぜひ並んで購入したい」と受賞を称え、酒談義に花を咲かせた。

浦里酒造店は1877(明治10)年につくば市吉沼に創業。酒造りに使用する「小川酵母」にこだわり、酸が少なく、低温でよく発酵し、きめ細やかな香気を発するのが特徴という。これまで「全国新酒鑑評会」金賞、「茨城県清酒鑑評会、純米吟醸の部」で首席の茨城県知事賞などを受賞している。(伊藤悦子)

エスカレーターは必要か 27日に緊急討論会 つくばセンタービル改修で市民団体

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記者会見するつくばセンター研究会共同代表の三浦一憲さん(左)と冠木新市さん=18日、つくば研究交流センター内記者クラブ

つくば市が進める、つくばセンタービル(同市吾妻)のリニューアル計画に対し、文化財としての価値を知った上で改修の是非を改めて考えてほしいと、市民団体「つくばセンター研究会」(共同代表・冠木新市さんなど)が27日、同センタービル内で「緊急討論 つくばセンター広場にエスカレーターは必要か」と題した講演とシンポジウムを開く。

筑波大学の鵜沢隆名誉教授が、プリツカー賞を受賞した磯崎新さん設計のつくばセンタービルの価値について、なぜポストモダンの代表作だと世界的に評価されているのかなどを建築の観点から講演する。さらに活性化についても提案する。

続いて筑波大芸術系の加藤研助教、神奈川大学建築学科の六角美瑠教授らが加わってシンポジウムを開き、参加者と意見交換しながら、エスカレーター設置など市のリニューアル計画について討論する。

研究会は今月1日「市が進めようとしているつくばセンタービルのリニューアル計画は、文化財としての価値を失わせることになる」などとして、五十嵐立青市長と小久保貴史市議会議長宛てにそれぞれ、センター広場へのエスカレーター2基の設置計画を見直すよう求める要望書を出した(6月1日付)。

27日の緊急討論会は要望書提出に続く取り組みとなる。

共同代表の冠木さん(69)は「つくば市は中心市街地を活性化するためにつくばセンタービルをリニューアルすると言っているが、活性化してないのは、センタービルの建物や設備のせいではなく、ソフトの問題だ。市のリニューアル計画に反対の人も、賛成の人も、センタービルの文化財としての価値を知ってほしい。それでもエスカレーターを付けるのか、市やまちづくり会社の関係者にも討論に参加していただきたい」と話す。

同じく共同代表の三浦一憲さん(68)は「つくばセンタービルで音楽活動をやってきた。最初は屋根を掛けることや改造に賛成だったが、文化財としての価値を知って、これだけの建築物をそんなに簡単にいじってはいけない、文化財として大切にしていかなくてはいけないと立ち位置が変わった。立ち止まることも大切。いろいろな人に講演を聞いてほしい」と参加を呼び掛ける。

つくばセンター広場にエスカレーターを設置したり、1階を改修して市民活動拠点をつくるなどのリニューアル計画について、市は7月にも実施設計を発注する予定だ。一方、1階アイアイモールを貸しオフィスに改修する計画は、市が出資する第3セクターのまちづくり会社「つくばまちなかデザイン」などが、9月にも改修工事に着手する計画だ。

◆講演&シンポジウム「緊急討論 つくばセンター広場にエスカレーターは必要か」は27日午後1時30分から、つくばセンタービル内のつくばイノベーションプラザ大会議室で開催される。入場無料。コロナ禍のため定員50人。参加希望者は事前申し込みが必要。メール(tsukuba.center.studygroup@gmail.com)または電話(090-5579-5726=冠木さん)で申し込む。詳しくは同会ホームページ

石岡市ふるさと歴史館の村田宗右衛門展 《くずかごの唄》88

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「村田宗右衛門の本棚」パンフレットから

【コラム・奥井登美子】石岡市の「ふるさと歴史館」でボランティアをしている斎藤護さんに誘われて、「村田宗右衛門の本棚」という企画展を見に行った。3代目の村田宗右衛門の次男の村田英次郎が、結婚し、我が家に婿に来て、姓と名までが変えられて奥井有一郎。私の亭主の父親である。

舅(しゅうと)は何かことがあると、石岡が恋しくて、私は父のお供でよく石岡に行かされた。石岡市街に入る前、必ず山王川の畔で停車して風景を鑑賞する。ここから見る筑波山は先端が鋭角で、その日の気候で色が様々に違って見える。不可思議で見事な山の眺めだ。

「ここから見た筑波山の形は、よそでは見られない形と色だよ。いいだろう」

そのころの石岡の町には古い構えの商店がまだたくさん残っていて、歩いても楽しかった。無責任な私の観察であるが、まるでそのまま歌舞伎役者になれるような、面長の村田家独特の顔の系譜もある。我が家では次兄の奥井勝二が、若い時は村田流の顔であった。娘の不二子がそれを引き継いでいる。

宗右衛門は石岡の渋沢栄一

千葉県野田のキッコーマンの社長の茂木家にもよく行かされた。舅の仲良しの従妹(いとこ)が2人、村田家から茂木家に嫁いでいて、格式のある立派な家だった。特に畳敷きのトイレがすごい。十二単衣みたいな和服の服装で入っても、排泄してその後トイレの中で着替えもできるという広い個室。私は最初、見ただけでびっくりして、緊張し、オシッコが出なくなってしまった。

佐原にも行かされた。舅の母親のおとくさんの実家が佐原市の伊能忠敬家の隣家の箕輪商店だった。お嫁にくる時は船で来たそうだ。村田家のルーツは近江商人で、近江屋宗右衛門といっていた。酒と醤油の製造を手掛け、莫大な財を築いて、明治の初めころは家に蔵が何棟もあったという。

企画展の一番目立つ所に、村田家の醸造品の宣伝用の看板が置いてあった。英字と日本字の混ざった今風の看板で、江戸時代の発想から考えると飛びぬけて現代的である。徳川から明治へ、日本中が大革命で、渋沢栄一流の日本の文化の枠を乗り越えた商人が台頭した時代だったのだろう。村田宗右衛門は、石岡の渋沢栄一だったのだ。(随筆家、薬剤師)

初期診断用X線診療車は非接触型 筑波メディカルセンター、産総研と開発

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患者役のスタッフが車両に乗り込み診断を受けるデモンストレーションも行われた=産総研つくばセンター

筑波メディカルセンター病院(つくば市天久保)に、新型コロナウイルス感染症患者を病院外で初期診断するエックス線診療車(ICXCU)が導入される。PCR検査で陽性判定された患者と非接触で放射線技師が胸部エックス線撮影を行い、遠隔診療の医師が診断を下す設備を整えている。17日、車両の技術開発に当たった産業技術総合研究所(産総研、つくば市)の研究グループが会見し、車両のお披露目をした。

エックス線診療車は、胸部エックス線撮影装置を搭載した車両に、感染防護のための換気機能、オンライン診療できる医療情報伝送システム、初期診療に必要な医療機器を搭載している。産総研健康医工学研究部門などがシステムを組み上げた。

車内にはオンライン診療を監視するオペレーターと、エックス線撮影を行う診療放射線技師が待機する。患者は体温測定後、後部入り口から搭乗し、血圧測定後、中央部のエックス線撮影室で胸部エックス線撮影を行い、車両後部の診察エリアで診断結果を聞く。

インターネットに接続された医療情報伝送用のオンライン診療システムは、医療関係者間コミュニケーションアプリを介して、病院内の診察室にいる専門医に胸部エックス線画像を転送する。医師はモニターを介し患者に問診し、画像から肺炎の程度を判定するなどして、保健所に伝える仕組み。

患者が車両に乗っている時間は10分程度。この間非接触を保つため、十分な換気を行い、ゾーニングにも工夫した。車内を区画分離し、前方から外気を取り込み、診察エリアへの一方向の気流を発生させ、後部診察室の天井から排気する換気システムを構築した。低濃度オゾン発生器やUV照射による空気の清浄化など、二次感染を防止する仕組みとしている。

車内の胸部エックス線撮影装置の区画。患者と放射線技師は接触しない=同

PCR検査で陽性が確定した患者の療養先(自宅か宿泊か入院か)は、保健所が決めている。この判定のために必要なのが初期診断(メディカルチェック)。茨城県では胸部エックス線一般撮影(レントゲン撮影)、血圧、酸素飽和度、体温測定の4項目が推奨されている。これまでは患者が乗ってきたマイカーの窓越しに看護師が近づき体温などを測定した上で、エックス線撮影は病院の外に装置を持ち出して減圧テントの中などで行ってきた。

クラスターや二次感染の発生を避けるための措置だが、テント設置は、外気温や天候の影響を受けやすく、悪天候や照明が不十分な夜間時には診察できないなどの問題があった。初期診断の効率化は、医療従事者の二次感染防止と保健所負担軽減につながる取り組みとなった。

診療車は乗り合いバスのサイズで、従来も検診用に使われてきた車両を約7000万円かけて改造した。今後、オンライン診療システムの通信テストなどを行い、早ければ7月初めには筑波メディカルセンターに“納車”される予定。同センターでは減圧テントでのエックス線撮影と併用する構えだが、患者が宿泊するホテルなどへ“出張”しての利用も想定している。

車両を使った実証実験は、2021年度の茨城県DX(デジタルトランスフォーメーション)イノベーション推進プロジェクト事業に採択されている。地震や水害などで、医療機関が被害を受けた場合の一時的な救護施設支援としての機能検証なども県域対象に予定している。(相澤冬樹)

「箸とスプーン」で喜べる? 敬老大会に代わる記念品に異論 つくば市議会

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箸とスプーンについて意見が出されたつくば市議会文教福祉委員会=16日、つくば市役所

コロナ禍で敬老福祉大会を中止する代わりに、つくば市が70歳以上の高齢者約3万7200人に贈る予定の記念品「箸とスプーンセット」をめぐって、16日、市議会から異論が相次いだ。

同市では財政負担の増加が見込まれるとして、今年3月、75歳以上に3000円を給付する一般敬老祝金を廃止したばかり。祝金がもらえなくなる高齢者が大半となる中、片や高齢者のほとんどの家庭にすでにある箸とスプーンを贈って喜ばれるのか、という意見だ。

さらに物品調達を、障害者就労施設1カ所に発注する予定であることが分かり、発注の仕方をめぐっても、障害者施設の受注機会を増やすことを目的とする障害者優先調達推進法の主旨に添わないという疑問も出された。

敬老福祉大会は昨年に続き2年連続、中止となる。昨年は中止に代わって、コロナ禍の市民生活応援商品券5000円分が70歳以上の高齢者や18歳以下の子供などに配られた。

一方、敬老祝金は2020年度まで、一般敬老祝金として75歳以上に3000円の商品券が給付され、特別敬老祝金として88歳に1万円の商品券、100歳に3万円の現金、101歳以上に2万円の商品券が給付されていた。給付額は20年度の場合、総額で約7500万円だった。21度からは3000円の一般祝金を廃止して支給対象者を限定する。77歳に3000円、88歳に1万円、100歳に3万円、101歳以上に2万円の現金が給付される。

「市民の反応が怖い」

今年9月の敬老福祉大会中止に代わって送る記念品については、今月3日開会の6月議会に提案された一般会計補正予算案の中で、敬老祝品贈呈委託料(記念品と包装代など)約6300万円と、郵送代約1300万円の計約7600万円が計上され、記念品の中味が、箸とスプーンセットであることが明らかにされた。

箸はポリエステル塗装を施した木製、スプーンはアクリル樹脂製の定価1000円のセットで、男性に黒、女性に赤を贈る。

物品調達は、入札を実施せず、障害者就労施設に委託する。結城市内に本部がある、つくば市内の施設1カ所に発注する予定だという。

これに対し16日開かれた市議会文教福祉委員会(木村清隆委員長)で異論が相次いだ。

「そもそもなぜ、箸とスプーンなのか。喜んでいただけるのか疑問をぬぐえない。去年はコロナ禍の生活応援として5000円の商品券を配布した。今年はお箸とスプーンがきた、となったら市民の反応が怖い」(小森谷さやか市議)。

「物品調達はかなり課題が大きい。せっかく大きな仕事ができた。(多くの施設が仕事を受託できるよう)物を市が買って、作業を委託していく方法もある」(山本美和市議)。

「なぜ箸とスプーンなのか。調達の仕方にも問題がある」(橋本佳子市議)などだ。

これに対し市高齢福祉課は、祝い品として何がふさわしいか、市内部で5種類くらい検討し、長く、毎日使えるものとして、はしとスプーンセットに決めたと説明する。「マスクや消毒液、(市認定物産品の)つくばコレクションの銘菓なども検討対象になったが、マスクは祝い品としてふさわしいか、菓子は保存期間や発送が難しいなどの意見が出た」という。

箸とスプーンの色については、高齢者と同居している市職員37人にアンケートをとり、7種類の中から黒と赤を選定した。

商品の調達と発送方法については、障害者就労施設が、市指定の箸とスプーン3万7200セットをあらかじめ自前の資金で購入し、のしを貼って封筒に入れるなどの作業をする。同課は「市内の3カ所ぐらいを当たったが、2カ所から、調達する資金がない、置く場所がないなどの理由で断られた」と説明する。

一方、16日の市議会文教福祉委で意見が出たことから「(包装などの)作業だけ委託先が分けられないか検討したい」とし、委託先を増やすことを検討するという。記念品を市が購入して、包装作業を数多くの施設に委託する方法については「市が物品を購入する場合、入札を実施しなければならず、9月の敬老の日前後に発送するには間に合わない」としている。

この問題は、22日の予算決算委員会で再度、審議される。(鈴木宏子)

日本の学校では当たり前の一斉授業 《電動車いすから見た景色》19

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【コラム・川端舞】前回のコラムで、障害児が普通学校に通うのは権利だと書いたが、今の日本の普通学校が何も変わらないまま、全ての障害児が通えるとは全く思っていない。

私は子どものころ、学校の授業についていけなくなったら、学校に通えなくなると思っていた。それは私に障害があったからでもあるが、障害のない子どもでも同じようなことを感じるときはないだろうか。学校に通えなくなるまでは思わなくても、授業についていけなくて面白くないと感じたことがある人は多いだろう。

学校の授業をつまらないと多くの人が感じる理由は、日本の学校が一斉授業を基本にしていることが大きいだろう。1クラス30人以上の生徒がいて、ひとりひとり、得意科目も苦手科目も違う中で、全員が同じ教材を同じスピードで理解しようとする。

障害の有無に関わらず、その科目が苦手な子どもは、授業の内容が分からず、面白くないかもしれないし、反対にその科目がとても得意で、どんどん先に進みたい子どもにとっては、授業の内容が簡単すぎて、退屈かもしれない。一斉授業の場合、平均的な学力の子どもにしか面白くない授業になってしまう可能性がある。

子どものひとりひとりに合った教材

障害のある子どものほとんどが普通学校に通うカナダでは、授業でプリント学習をする際、教員が4種類ほど内容の異なるプリントを用意し、子どもたちが自分のやりたいプリントを選んで学習するのだと、ある新聞記事に書いてあった。多民族国家であるカナダでは、英語が苦手な子どもがいることに配慮し、英文の難易度が異なる教科書を3種類準備。表紙は同じで、どの教科書を使っても同じ内容を学べるという。

ひとりひとり、自分の学力に合った教科書やプリントで学習し、分からないところは教員に個別に質問する。そうすれば、十人十色の子どもたち全員が、自分の学力に合った学習ができるのではないだろうか。

ただ、この方法を取るには、1クラス30人の子どもを1人の教員が教えるのは大変である。日本は少子化なのだから、1クラス10人にしたらどうだろうか。自分のペースで学べる学校は、障害児だけでなく、障害のない子どもにとっても過ごしやすい学校になるだろう。(つくば自立生活センターほにゃらメンバー)

21日から7月上旬に接種券発送 65歳未満の約15万人に つくば市

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ファイザー社製の新型コロナウイルスワクチン

65歳未満の新型コロナウイルスワクチンの接種について、つくば市は16日、今月21日から7月上旬までに順次、接種券を発送すると発表した。16歳以上の約15万2000人が対象となる。

年代別のスケジュールは次のとおり。
▽60~64歳(約1万人) 21日に接種券を発送 24日から接種の予約を受け付け
▽50~59歳(約3万人) 24日に接種券を発送 28日から予約を受け付け
▽40~49歳(約3万9000人) 29日に接種券を発送 7月2日から予約を受け付け
▽16~39歳(約7万3000人) 7月上旬に接種券を発送 7月中旬から予約を受け付け

接種と予約方法は65歳以上の高齢者と同じで、市内約100カ所の診療所のいずれかで接種する。予約はインターネットのつくば市新型コロナウイルスワクチン接種予約サイトまたは市のコロナワクチン接種対策コールセンター(電話029-883-1391)または診療所に申し込む。ほかに市が集団接種会場の設置を検討している。

5月24日から始まった65歳以上の高齢者の接種が進み、各診療所の予約に空きが出てきたことから、65歳未満の接種をスタートさせる。同市の高齢者の接種率(1回目のみ)は16日時点で38%という。

基礎疾患ある人、教員や保育士など優先

ほかに、65歳未満で基礎疾患のある人=メモ=と、福祉・介護従事者、教員、保育士などを対象に優先接種を実施する。

基礎疾患のある人は、16日からインターネットで申請または申請書を市に提出すれば、優先して随時、接種券を発送する。

福祉・介護従事者と教員、保育士などは、勤務先の事業所や学校、保育園などからの申請に基づいて、市が接種券を随時、優先発行する。つくば市内に勤務する市外在住者も接種できる。対象は約8100人で、接種や予約方法は、一般と同じ、市内約100カ所の診療所のいずれかで接種し、インターネットやコールセンター、診療所などに予約を申し込む。市が近く設置予定の集団接種会場でも接種できる。

一方、国が東京都千代田区大手町の合同庁舎に設置している防衛省・自衛隊の大規模接種センターで接種を希望する人は、16日からインターネットのつくば市ホームページなどで申請を受け付け、随時、接種券を発送する。

ほかに、茨城県が7月上旬以降、産業技術総合研究所(つくば市)に1日最大1000人規模の接種会場の設置を検討している。県内に5カ所設置される県の大規模接種会場の一つとなる。

接種費用は国が負担するため無料。ワクチンの種類は、つくば市の接種はファイザー社製、防衛省及び県の会場はモデルナ社製。ファイザー社のワクチンは通常、1回目の接種から3週間後の同じ曜日に2回目を接種する。モデルナ社のワクチンは通常、1回目の接種から4週間後の同じ曜日に2回目を接種する。

副反応として、すでに接種が進んでいるファイザー社のワクチンは、注射した部分の痛み、疲労、頭痛、筋肉や関節の痛み、寒気、下痢、発熱等が報告されている。大部分は接種後数日以内に回復する。発熱、頭痛、倦怠感などの全身反応が出るのは、2回目の接種後の方が高く、年齢が下がるほど高くなる傾向や、女性の方がやや高い傾向が見られるという。厚労省の新型コロナワクチンの副反応疑い報告はこちら

メモ】優先接種の対象となる基礎疾患がある人とは、▽慢性の呼吸器の病気▽慢性の心臓病(高血圧を含む)▽慢性の腎臓病▽慢性の肝臓病(肝硬変等)▽インスリンや飲み薬で治療中の糖尿病又は他の病気を併発している糖尿病▽血液の病気(ただし鉄欠乏性貧血を除く)▽免疫の機能が低下する病気(治療や緩和ケアを受けている悪性腫瘍を含む)▽ステロイドなど、免疫の機能を低下させる治療を受けている▽免疫の異常に伴う神経疾患や神経筋疾患▽神経疾患や神経筋疾患が原因で身体の機能が衰えた状態(呼吸障害等)▽染色体異常▽重症心身障害(重度の肢体不自由と重度の知的障害とが重複した状態)▽睡眠時無呼吸症候群▽重い精神疾患(精神疾患の治療のため入院している、精神障害者保健福祉手帳を所持している、または自立支援医療(精神通院医療)で「重度かつ継続」に該当する場合)や知的障害(療育手帳を所持している場合)▽BMI30以上の肥満ーの人をいう。

乗車人員3割減 2020年度のTX 開業以来最大の赤字に

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TX研究学園駅付近

つくばエクスプレスを運行する首都圏新都市鉄道(東京都千代田区、柚木浩一社長)はこのほど2020年度営業実績を発表した。1日当たりの平均乗車人員はコロナ禍の影響で、19年度に比べ29.8%減(約11万8000人減)の約27万8000人と厳しい状況となった。

乗車人員の減少に伴い、営業収益は同比33.1%減の313億1600万円と大幅減となった。一方、営業費は動力・水道光熱費や税金が減少したが、前期に取得した工程試算の減価償却費が通年化したことなどから微増(0.0%増)となり、371億6700万円となった。

この結果、営業損失は58億5100万円(19年度は96億5300万円の利益)、経常損失は79億100万円(同76億6800万円の利益)となり、当期純損失は79億6400万円(同60億600万円の利益)となった。

営業損失は07年度以来13年ぶり。経常損失、当期純損失は08年度以来12年ぶりとなり、いずれも開業以来、最大の損失となった。

同社は、21年度は感染状況の先行きが不透明で、働き方や生活スタイルに変化が生じており、今後の事業環境を見通すことができない中、安全運転を徹底し、輸送動向の変化に対応したサービスの検討や経営基盤の強化に取り組んでいくとしている。

車両を大規模更新へ 3カ年の中期経営計画

合わせて21年度から23年度まで3カ年の中期経営計画を発表した。コロナ禍により大変厳しい状況にあるが、手を緩めず保守や投資を実施していくとし、車両の大規模更新に着手するほか、水害対策など防災対策を強化、駅ナカ・高架下の利活用促進など、3年間で170億円の設備投資を実施するとした。

今後3カ年の事業環境として、テレワークの定着など働き方の変化し出勤回数が減少する、沿線開発は徐々に成熟期を迎え人口の伸びが鈍化するとし、23年度の1日平均乗車人員は33~37万人と、コロナ前の19年度と比べ6~16%減少すると予測した。乗車人員減に伴い、23年度の経常損益は0~40億円の黒字を見込み、20年度の79億円の赤字から回復するものの、19年度の77億円の黒字には及ばないとしている。

3カ年の具体的な取り組みとしては、開業15年が経過し施設の劣化が進行しているため、車両の大規模更新のほか、電力管理システムの更新、列車無線、ITVシステムなど通信設備の更新、保守用車両進入路の新設・活用など進める。

防災対策としては、早期地震警報システムの更新、水害対策としてTX版タイムラインの整備、落雷被害対策の実施、光警報装置の追加など駅の災害設備の更新、運輸防災マネジメント指針への対応などを推進する。

バリアフリー対策としては、ホームのすき間対策、サービス介助士の養成などを推進する。

さらに8両編成化を推進するため、ホーム延伸工事の継続的に実施し、駅周辺環境の変化に対応した施工方法などの再検討や、長期的な混雑率の見通しを見極めた対応を推進する。

ほかに、駅に個室型ワークブース設置拡大やシェアオフィス設置の検討、TXアベニュー守谷の全面リニューアル(23年度予定)などを進めるとしている。(鈴木宏子)

老舗「サイトウコーヒー」《ご飯は世界を救う》36

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【コラム・川浪せつ子】今回は牛久市の老舗「サイトウコーヒー」さん。画家の斉藤裕之氏のコラム「コーヒーのこと」(5月9日掲載)を拝読し、居ても立ってもいられず、訪問しました。オシャレなお店! リスペクトしている斉藤氏のお墨付き!おまけに20周年!

期待を裏切らない、ステキな空間でした。ランチはテーブル席で。ふと横を見ると、グレーヘアーを軽く束ね、黒い服、げた履きの女性が、1人で本を読んでいらっしゃいました。たまらんなぁ~。このオシャレ空間に、絵のようにマッチしていて。ハートにドキュン!

食事に行くときは、ネットで下調べをします。こちらでは、ランチタイムのあとの午後3時から、「カッパフェ」という、カッパをデザインしたパフェがあるそうで。では、1回目はランチ、2回目はパフェに挑戦だわ。まずは、ランチのスパゲティーを現場スケッチ。次は、開花時期の「あやめ園」で、スケッチや写真を撮ってから。

もうワクワク感が満杯。1回目も2回目も、ちゃんと予約を入れて。2回目、3時におうかがいすると、満席でした。6月に行ったのは、「カッパフェ」は隔月で、いつものカッパの緑色だけではなく、別バージョンもあるからです。今回は、マンゴーでオレンジ色。2つ並んだら、こんな感じ。写メして、最近会うことのできない家族や友人に、送りまくりました。

牛久でおいしいものと文化を体験

牛久市の中央生涯学習センター・文化ホールでの展覧会も、見てきました。そういえば、「ビエンナーレうしく」っていうのがあったなぁ。残念ながら、終了してしまったようです。最近、牛久周辺を訪問していませんでしたが、カフェに置いてあったパンフレットを見て、牛久の皆さんの頑張りが伝わってきました。

7月11日、このホールで「NHKのど自慢」が。出場者と観覧者を往復はがきで募集中。申込期限が迫っていて、あわてていたら、「歌うんだ~?」と連れ合い。まさかまさか。観覧希望です。また牛久に行って、おいしいものと文化を体験するのです。(イラストレーター)

学校給食に異物混入 つくば市の中学校

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海藻サラダに混入いていた異物(つくば市提供)

つくば市は15日、市内の中学校に同日昼、提供された学校給食の海藻サラダに、直径3センチのプラスチック製の黒い異物が混入していたと発表した。

市教育局健康教育課によると、担任の教員がサラダを生徒の皿に盛り付けようとしたところ、異物を発見した。生徒の口には入っていない。

異物は、サラダのニンジンやキュウリなどを切る際に使用した調理器具フードスライサーのねじ止めで、同校に給食を提供している茎崎給食センターが異物を回収し確認したところ、該当するフードスライサーのねじ止めが無くなっていた。

給食センターでは、1クラス全員分の新しい海藻サラダを管理栄養士が同校に届け、異物が混入していたサラダを回収した。さらにセンター所長が同校に謝罪した。

給食センターは市直営で、市内の幼稚園と小中学校計9カ所に給食を届けている。他校からは異物混入の報告はないという。

給食センターでは毎日、調理前と調理後に調理器具を点検している。15日も点検したが、フードスライサーのねじ止めが無くなっていることに気付かなかったという。

森田充市教育長は「食の安全・安心に関わる、信頼を損なう事態を招いてしまったことに対し心からお詫びします。今後は、調理開始前の器具の点検及び下処理、ボイル和え、配食の各工程などでの目視確認を複数名で実施し、異物混入の再発防止を徹底します」とするコメントを発表した。

小中学校女子トイレに生理用品配置 つくば市

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女子トイレの個室に設置された生理用品(手すりの下)=つくば市の市立中学校

コロナ禍で「生理の貧困」がいわれる中、つくば市立小中学校と義務教育学校全45校の女子トイレに6月から順次、生理用品が配置されている。

小学4~6年と中学校の女子トイレの個室に、養護教員らが手作りの封筒や箱などを設置し配置が始まった。今月7日時点で23校が配置を済ませ、6月末までに全校に配置される見通しだ。

封筒や箱には「経済的困窮以外の理由でも必要な児童・生徒は自由に使用できます」「困ったことがあれば、いつでも保健室に相談に来てください」などのメッセージが書かれている。

5月14日、公明党市議団から要望が出されたことがきっかけ。生理用品は、学校の防災倉庫にもともと備蓄してあるものを活用する。配置するのは児童・生徒数に応じ1校当たり200~800枚で、減った分は保健室に備えてある生理用品などで補充するという。

手作りのボックスには「必要な人は使ってください」「何か困ったことがあれば、いつでも保健室に相談に来てください」というメッセージが書かれている

市立中学校の養護教諭は「配置して1週間だが、使用している生徒がいるので生徒の助けになっており、設置した意味はあると思う」と話している。

市教育局健康教育課の柳町優子課長は「小中学生なので、生理用品が必要なことを恥ずかしくて言えない子もいると思う。必要な人ならだれでも、必要な時に使える環境をつくることが大事。メッセージも付いているので、保健室に相談に行くきっかけになれば」と話している。

経済的な理由で生理用品を購入することが難しい「生理の貧困」に対しては、内閣府が5月に全国の市町村の支援の取り組み状況を調査した。近隣ではつくばみらい、牛久市などが学校の女子トイレに生理用品を置くなど、市町村でも支援の取り組みが始まっている。(鈴木宏子)

目の前で味わう本物の響き つくば・夢工房でピアノコンサート

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コンサートの様子、2人による連弾=つくば市豊里の杜の夢工房

コロナ禍で生演奏を聴く機会が減る中、つくば市豊里の杜、ギャラリー夢工房で13日、若手ピアニスト2人によるジョイントコンサートが開かれた。午前と午後の2部制で、周辺地域から音楽愛好家やピアノを学ぶ子どもたちなど合計50人ほどが集まり、本格的なクラシックピアノの演奏を間近で味わった。

コンサートを開いたのはつくば市豊里出身の菊池愛奈さんと笠間市出身の森田凪さん。2人とも音大生で、各年代の全国コンクールなどで受賞歴がある。水戸芸術館が開催している演奏会「茨城の名手たち」にも出場している。

演奏は全6曲。2人の連弾によるシューベルトの軍隊行進曲、ブラームスのハンガリー舞曲のほか、ソロでそれぞれショパンのバラードや、ラフマニノフのエチュードなどを披露した。「ショパンは小さいころから慣れ親しんできた一番好きな作曲家。今回は大学でより深く学んだ晩年の作品を選んだ。人の心に届く演奏を目指し、今後も精進していきたい」と菊池さん。「ラフマニノフは寂しげな和声や響きの中で、芯の部分に強く深いメロディが鳴っており、ロシアの大地を感じさせる。今日はお客さんとの距離が近く、アットホームな環境で楽しんでいただけた」と森田さんは話す。

熱心な観客が演奏を見守った

客席の最前列で、奏者の指遣いを食い入るように見ていた田端彩咲さん(沼崎小3年)と茉奏さん(同1年)の姉妹は「腕や指の動きがすごかった。同じピアノでも上手な人が弾くと、全然違う音に聞こえる」などと印象を語った。

午後の部ではサプライズゲストとして、内モンゴル出身の馬頭琴奏者、セーンジャーさんが登場。2人にも馬頭琴を指導する間柄で、7月3日のノバホールでのコンサートでは森田さんがセーンジャーさんの伴奏を務める予定。「今日の演奏は、2人それぞれの性格がよく出ていた」との感想を述べた。

ゲストのセーンジャーさんによる馬頭琴の演奏

主催者の一人、竹内立子さんは「コロナ禍で大学の授業はオンラインになり、コンサートもなかなかできず、演奏家には不自由な時期。身近な場所で生演奏の機会をつくることができ、多くの方々に来ていただけたことは大きな刺激になった」と、観客に感謝の言葉を述べた。

会場の夢工房は、以前は写真展や陶芸展などギャラリーとしての活動が中心だったが、近隣の人たちとのつながりが広がるにつれ、今ではミニコンサートや勉強会など、コミュニティースペース的な利用が増えているという。セーンジャーさんの馬頭琴教室や、四本恵風さんの書道教室などが定期的に開かれ、竹内さんもピアノ教室の場として活用。「自宅や防音室でのレッスンとは違い、広い空間で、グランドピアノの響きを楽しみながら思いきり弾けるのは最高のぜいたく」と話す。(池田充雄)

問い合わせは電話090・4676・9623(夢工房・塚田さん)。

地域で実践「コミュニティーナース」 筑波大の看護学生が奮闘中

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山陽地方に「行脚」し「コミュニティナース」の本を手渡しした際に撮影した写真。書籍を持っている女性が總山さん=總山さん提供

筑波大学の看護学生が、地域の中で看護実践をする「コミュニティーナース」を広めようと奮闘している。看護学類4年の總山萌(ふさやまもえ)さんだ。活動の背景にあるのは「看護学生は多くの場合、卒後そのまま病院に就職する。そうしたキャリアとは違った多様な看護のあり方があることを広めたい」という想いだ。

總山さんによれば、地域の中で看護活動を展開する人材を「コミュニティーナース」と呼ぶ。通常、看護といえば病院で行われる医療行為をイメージしがちだが、地域の日常の中で相手を思いやる人と活動を指す。「喉が枯れとるとあかんね、飴ちゃんどう?」などとおせっかいを焼く人のイメージ。「看護資格の有無は問わず、多くの人がコミュニティーナースであり得る」という。

總山さん自身が看護学生として「自分がやりたいケア」とは何かを考えていく中で、コミュニティーナースという考え方に惹かれるものがあった。そうした実践のありかたを知ることで「自分がやりたいケア」を見出したいと考えた總山さんは昨年、1年間の休学をした。休学中、コミュニティーナースの育成・普及に取り組む会社、Community Nurse Company(コミュニティナースカンパニー、島根県雲南市、矢田明子代表)で1年間のインターンを行った。

「暮らしのそばにおけるケアの実践を面白いと感じたし、自らのキャリアを一度立ち止まって考え直すために良いと考えた」と振り返る。インターン時には同社が行う「地域おせっかい会議」事業に携わった。雲南市で、既にコミュニティーナースのような活動をしている「まちの人」を巻き込み、チームとして一緒に成果を出そうとする事業だ。メンバーで定期的に集まり「『わたしこんなことやりたい!』、『こんな得意があるからこんなおせっかいができるよ』というアイデアをブレインストーミングしていき、それをみんなで形にしていく活動」と總山さん。

看護師の多様なキャリアを広めたい

全国の看護学校に寄贈をする予定の書籍「コミュニティナース-まちを元気にする“おせっかい”焼きの看護師」

将来、「まちの中にいる養護教諭」を目指している。大学では看護師になるため授業を受けつつ、並行して養護教諭の単位も揃え、教育実習にも行った。学外でも教育に関する知識を得るため、デンマークと韓国の教育施設へ視察しにいった。さまざまな角度から学校教育を見つめ、養護教諭は本来であれば学校の中に居る存在だが「そうではなくて、まちの中にいて困った時にすぐに頼ることが出来るような人になりたい」という。

卒業後は1年間インターンをしていたCommunity Nurse Companyの事業への参画を予定している。「看護学生は多くの場合、看護学校を卒業後にそのまま病院に就職する。コミュニティーナースに関わるのは、まちの中で活動するというキャリアの多様性に惹かれたから」だと總山さん。

現在、全国の看護学校に「コミュニティーナース」に関連する書籍を届けるプロジェクトを実施中だ。「活動を通じて全国の看護学生と関わっていく中で、卒後すぐに病院に就職してという進路ではない、色々なキャリアを一緒に考える機会が出来たらうれしい」と話す。(山口和紀)

クラウドファンディングを企画している3人のミーティングの様子。上段左が總山さん=總山さん提供

◇總山さんは現在、矢田明子著「コミュニティナース|まちを元気にする“おせっかい”焼きの看護師」(木楽舎、2019年初版)を全国の看護学校に届けるクラウドファンディングを実施している。

かや屋根で懐かしい未来を創る 《邑から日本を見る》89

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石岡市小見のかや屋根の家(旧柘植屋敷)

【コラム・先﨑千尋】田植えが終わったばかりの5月、〝産直と有機農業の里〞と言われている旧八郷町(石岡市)を1日歩いた。八郷は知り合いがたくさんいるので、これまでにもたびたび行っている所だ。今回歩いてみて、ここは〝常陸国のまほろば〞だと感じた。「まほろば」とは古語で「すばらしい場所、住みやすい場所」という意味だ。古事記には「大和は国のまほろば」という歌がある。

産直と有機農業が柱の「やさと農協」

八郷地区は筑波山、加波山、足尾山などに3方を囲まれ、山根(やまね)盆地と言われてきた。農業面では、河川沿いの水田、丘陵地の畑や樹園地と制約された条件での経営が営まれているため、大規模な産地にはなっていなかった。逆に、変化に富んだ地形や豊かな自然を生かし、水稲、葉タバコ、花卉(かき)、果樹、酪農、養豚、養鶏、野菜、シイタケなど、古くから少量多品目の複合経営が行われてきた。

暖地でしかできないミカンや富有(ふゆう)柿も栽培され、最近ではイチゴやブルーベリーなどもあり、観光果樹園、イチゴ狩りもにぎわっている。

同地区にある「やさと農協」は、産直と有機農業が運営の柱。その歴史は古く、産直のスタートは1976年。東京の東都生協に鶏卵生産者が卵を届けたことから始まった。東都生協は、卵、肉、米、野菜といった単品の取引は地域農業を破壊すると考え、「地域総合産直」を提案し、現在では鶏卵、野菜、果物、米、納豆と総合的な産直に発展している。

有機農業も産直の実践の中から生まれた。生協との交流が深まり、農協内部に野菜果物産直協議会が誕生し、1997年には有機栽培部会がスタートした。1999年には、新規で有機農業をやりたい人を対象に「ゆめファーム」新規就農制度を立ち上げ、現在まで続いている。

農協が有機農業に取り組む前の1974年に、東京の消費者グループ「たまごの会」が同地域に自給農場をつくり、魚住道郎さん、合田寅彦さん、筧次郎さん、中島紀一さんらが次々に移住してきた。中島さんは茨城大学農学部長も務め、有機農業研究の第一人者。地域の人たちとの交流を大事にし、多くの人を育ててきた。

山田晃太郎・麻衣子さん夫妻

その中に山田晃太郎・麻衣子さん夫妻がいる。2人は、落ち葉(がしゃっぱ)、雑草、敷き藁など植物の力を活用し、自然に寄り添ったたくさんの生き物と共に生きる農業を目指し、「旬の野菜セット」を保育園の仲間など70世帯に届けている。さらに、八郷地区の北部・小見(おみ)にある築100年のかや屋根の家(旧柘植屋敷)を譲り受け、家の保存と、その家を地域の人たちの交流の場(みんなの広場)にしようと活動を始め、NPO法人設立の準備を進めている。

広場では子供たちが裸足で駆け回り、地域のばあちゃんたちが集まり、おしゃべりをしたり、柏餅など季節の食べものを作ったりしている。山田さんの農作業、野菜の出荷には近所の人が手伝いに来る。今冬にはかや屋根の葺(ふ)き替えをするという。2人は「共同作業を通じて、自然とつながった豊かな農ある暮らしを再発見し、〝懐かしい未来〞を創る第一歩にしたい」と夢を語る。

かつて、有機農業は「勇気農業」と言われたことがあった。有機農業をやるには勇気が要るという意味だ。しかし山田さんたちはごく自然に村の人の中に入り、村の人たちもそれを歓迎し、力を貸している。2人と話していて「まほろば」という言葉を思い出したのだ。(元瓜連町長)