【コラム・小泉裕司】今回は、「土浦の花火」史上、特筆すべきイベントに立ち会うことができたので、その概要を報告したい。

10月7日(土)、秋田県大曲の秋の夜空で、「土浦の花火」と「大曲の花火」の競演が実現した。そもそも、新型コロナウイルスの影響で第90回土浦全国花火競技大会が中止となったことを受け、昨年1月から2月にかけて、実行委員会が「土浦の花火~後世に伝える匠(たくみ)の技」(2022年4月17日掲載)を霞ケ浦湖畔で開催。最終日、大曲の4社と土浦の6社合同による「二大花火競技大会『土浦』『大曲』夢の競演!!」として打ち上げたのがきっかけ。

大曲の花火 秋の章」の第2幕、「土浦の花火物語」と題し、日本煙火協会茨城地区会が共同して、土浦全国花火競技大会の打上規定にそった作品、10号玉6発、創造花火2組、スターマイン2台をPART1と2に分けて打ち上げたもの。

芯入り割物を中心とした「10号玉の部」は、6社が1発ずつ出品。芯の数が多ければいいというものでもないが、競技大会で常に上位を占める山﨑煙火や野村花火が5重芯ではなく4重芯だったのは、地元として少し寂しいけれども、完璧な正円を披露したのはさすが。

「創造花火の部」には、茨城勢は大会に出品しておらず、今回に限り、山﨑煙火が担当した。これまで10号玉とスターマインに出品、創造花火は未経験の世界だった。独創性やタイトルと花火の整合性など、見る側の想像力をかき立てる、他に例のないユニークな競技部門となっているが、その楽しみを今一つ伝え切れなかったのは残念。

「スターマインの部」は、大曲での経験豊富な堀米煙火店が土浦の規定(4号玉から2.5号玉まで400発以内)に準じた作品を披露し、野村花火は、昨年の土浦で優勝した「水無月のころ」をリメイクし、5号玉を加えた大曲バージョンを披露した。

野村ブルーをふんだんに盛り込んだ八方咲きや1玉1玉の見せ方など、目の肥えた大曲市民を満足させるに十分な作品に仕上げ、会場の拍手喝采を浴びた。

地元の風土・歴史で育まれる花火

大曲の広大な夜空に上がる堀米煙火店のスターマインは、見事な色彩や打上構成を披露したが、上空のすかすか感が多少気になった。それも当たり前。開花時の最大高度200メートルの4号玉と250メートルの5号玉では、そもそも上空の暗闇部分を埋め尽くす広がりが違う。

逆を言えば、土浦の狭あいな空間では、4号玉以下で十分迫力ある構成に仕立て上げることができることを再確認できたことは、意外な収穫となった。改めて、両競技大会は、地元それぞれの歴史や風土に育まれてきたのである。

「土浦の花火」が姫神山をバックに雄物川の対岸から打ち上がるという、考えたこともない企画は無事終了し、来場者への土浦花火の認知度向上という所期の目的は十分に果たしたように思うし、今後もないだろう歴史的な瞬間に土浦市民の1人として立ち会えて、至福のひとときを味わうことができたのである。

実現に至るまでの土浦、大曲の花火関係者や煙火業者の皆さまに、心から敬意を表する次第。

ちなみに、当日の午後、花火伝統文化継承資料館「はなび・アム」(大仙市)で、「土浦の花火、大曲の花火」をテーマとした「花火特別セミナ-」(日本花火鑑賞士会主催)を開催したところ、入場しきれないほど多くの皆さまにご来場いただいた。

両花火競技大会が長年築き上げてきた「友情物語」について、来場者の皆さまが理解を深めていただく一助になったとすれば、5カ月をかけ準備を進めて来たスタッフ、そして講演者の1人として「がんばり」が報われたというもので、うれしい限り。本日は、この辺で「打ち留めー」。「ドン ドーン!」。(花火鑑賞士、元土浦市副市長)