金曜日, 7月 10, 2026
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「置き薬」と「置き絵」《続・平熱日記》186

【コラム・斉藤裕之】9月の終わり、長野県千曲のギャラリー「art cocoon みらい」を訪ねた。紅葉にはまだ早いどころか、まだ夏の名残のある今年の信州。

目的の一つはギャラリーに置いてあった作品を引き取り、新たに作品を置かせてもらうこと。季節柄、クリスマスに向けての作品も所望されたが、特にクリスマスに向けた絵を好んで描いているわけでもないので、冬っぽいのを見繕って持って行った。

「なんだか富山の『置き薬』ならぬ『置き絵画』みたいですねえ。置き薬のように使った分だけ補充方式。昔は『風呂敷画商』なんていうのもありましたねえ」。ギャラリーのかおりさんとの会話がはずむ。いいのを選んでもらおうかと思っていたが、とりあえず全部置いていくことにした。まあ、物が小さいから邪魔にもならないだろうから。

ギャラリーでは、若い女性の作家がヨーロッパを旅してしたためたスケッチを展示していた。というと優雅な旅を想像することもできるが、彼女は例えば冬のスペイン北部、サンチアゴ・デ・コンポステーラを目指して巡礼の旅をしてきたという。日本でいえば、四国のお遍路さんみたいなものかもしれないが、うら若き日本人の女性がそう簡単に歩けるものではないはずだ。

ギャラリーには、足取りを記した地図や水彩絵具、巡礼者のあかしとして実際に身に着けて歩いたホタテ貝(聖ヤコブのシンボルだとか。そういえば仏語でホタテ貝のことを「サン・ジャック」というなあ)も展示されていた。それから、南仏、イギリス、スウェーデン、フィンランドと彼女の旅は続く。

私はその旅の軌跡にちょっとした偶然を感じていた。実はおよそ30年前、ほぼ同じような場所を訪ねていたからだ。次女がお腹にいたころ、ベビーカーを押して妻と長女と訪ねたのはスペインと南仏。それから、スウェーデンの画家の友人を訪ねて旅をしたストックホルム、ヘルシンキ。私の場合は彼女と違って呑気(のんき)な旅だったが…。

ただ、これも偶然といえばそれまでだけど、私は少し前から何となく気になっていたロマネスクの教会を紙粘土で作って描くようになっていた。それから以前から教会の窓やステンドグラスの絵も好んで描いていたので、彼女のスケッチに登場する風景やモチーフをごく自然に受け入れることができた。若いのに、ちゃんと絵に向き合っていてえらいな…。

「こんにちは! 置き絵で~す」

幼いころ、我が家にも置き薬はあった。お腹が痛いとき、風邪を引いたときに飲まされた薬は、テレビのコマーシャルで聞く名前とは微妙に違っていて、効能に半信半疑だった(もちろん効いたと思う)。しかし、置き薬方式に絵を置いてもらうのも悪くないと思えてきた。それ、ネットでいいんじゃない? いや、年に一度、「こんにちは! 置き絵画で~す」と訪れるのがいいじゃないか。

次に千曲を訪れるのは杏の花が散った後か。ギャラリーの目の前にある神社には真っ赤な彼岸花が咲いていた。(画家)

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