【コラム・小泉裕司】花火師が最も大切にしていること、それは一に安全、二に安全。花火師は、火薬という危険物を扱うため、製造段階から打ち上げ、そして片付けに至るまで、あらゆる工程で事故が起きないよう細心の注意を払う。もちろん、火薬取締法をはじめ法令や都道府県条例によって、火薬の取り扱いや花火打ち上げには厳しい規制が課されており、従事者には国家資格の取得が定められている。
それでも、今年の春先から夏の佳境に入っても事故が続いている。残念でならないが、花火は打ち上げてみなければ分からないという宿命も背負っている。
打ち上げ時の事故
経済産業省所管の火薬取締法では、花火打ち上げ事故を「火薬類の消費中に発生した危険な事象」と定義。具体的には、筒ばね、過早発、低空開発、地上開発、黒玉、部品落下など、およびこれらに起因する火災などを「危険な事象」としている。ここで「火薬類の消費中」とは、花火打ち上げにかかる一連の作業を言う。
▽筒ばね:花火玉が上空に上がらず、筒の中で爆発すること。花火玉の不具合や筒の変形により、打ち上げ火薬の火が引火して発生することがある。
▽過早発:煙火玉が筒から発射直後に開発する。花火玉の導火線の異常により発生する(上の写真参照)
▽低空開発:煙火玉が性能上危険な低い高度で開発する。風の影響や花火玉の不具合など複合的な要因により発生する。
▽地上開発:煙火玉が上空で開発せず地上に落下し開発する。花火玉の不良、風の影響、打ち上げ場所の不適スなど、複合的な要因による。
▽黒玉:いわゆる不発玉。上空で爆発せず、そのまま地上に落下してしまうこと。導火線の着火不良や、花火を破裂させる割薬への着火がうまくいかなかったことが要因。
▽部品落下:煙火の構成部品(燃え殻・破片・星など)が危険な状態で落下する。
打ち上げ事故の推移
危険な事象によって生じた死傷者の人数や物的損害額など被害の程度によって、A級からC2級まで5段階に分かれる。
2009年に遠隔点火(上の写真参照)が義務付けされたことで、打ち上げ事故のリスクは軽減されたというが、国の統計で過去30年の事故の推移を見ると、死傷者数の減少が顕著に読み取れる。一方、23年、24年は、コロナ禍前の3年間と比較すると、事故に至らない危険な事象(C2級)が激増している。
要因は、コロナ禍をきっかけに多くの職人が現場を離れたためと言われる。しかし、後継者の育成には時間がかかるため、海外の安価な花火玉の使用も一因ではないかとの見方もある。土浦の花火の出品規程は、全競技玉を自社製造玉に限定している。
事故に対するペナルティ
こうした花火事故を起こした煙火業者に与えられるペナルティは、事故の種類や内容によって業務停止命令や許可の取り消しなどの行政処分、法律違反や過失の場合には刑事罰が科せられる。民事上の責任として、損害賠償を請求される可能性もある。
さらに、花火競技大会への出品も、主催者や日本煙火協会などの判断によって制限が行われる場合や自主的な参加自粛が行われる場合もある。
花火師は見る人を楽しませるための「美しさ」や「迫力」も大切にするが、それらは安全が確保されてこそ初めて実現できるもの。土浦の花火競技大会で、作品の打ち上げを終えたすべての花火師が、作品の出来栄えよりも異口同音に発する言葉は「無事で何より」。
本日は、これにて打ち留めー。(花火鑑賞士、元土浦市副市長)
参考:経済産業省ホームページ