【コラム・山口絹記】金曜夜の仕事の帰り道。娘からメールが届いた。今週は忙しかったし、「お疲れ様」的な内容を予想しながら開いてみると、目に入ったのは「明日山登りに行ける?」という文面。ここしばらくの週末は、とんでもなく暑いか天気が悪いかのどちらかだったので、比較的涼しく天気もよさそうな明日はチャンスかもしれない。う~ん、重い体にムチを打ちつつ、「いいよー」と返信する。
翌朝、当然のようにたたき起こされ、寝ぼけまなこで登山用の服に着替えてパッキングを済ませる。今回は上の娘と下の息子を連れて、3人での初登山となった。息子は登山自体が初めてだったが、絶対行くと言って譲らなかった。最悪、途中から背負うことも考えなければならないが、できれば避けたい。ということで、登りはケーブルカー、下山のみのコースにした。
下山が目的であれば、途中で何かあったとき、こどもたちに登頂を諦めさせる必要がなくなるからだ。ある程度経験を積んでも、途中下山の判断をするのは難しいものだ。
先頭をずんずん進んでいく娘と、それに負けじと追いすがる息子。私は最後尾でふたりの様子を見る。すぐに音を上げると思っていた息子は姉への対抗心か、転んでも泣かずに立ち上がっては黙々と歩を進める。
明日は寝坊させてもらう
30分にも満たない外出でも疲れるとすぐに抱っこをせがむ息子が、自分で足場を探りながら山道を歩いている姿は親としてはなかなか感慨深いものがある。上の娘が初めて山登りをしたときは、自分の体に合ったルート取りをするということをしっかり教えなければならなかったのだが、息子は自然とそれができるようだ。
やはりきょうだいと言えど、違う人間なのだと実感する。普段と違う環境で子どもと過ごす価値というのは、こういうところにあるのだろうと思う。
3時間以上かかったが、無事に下山することができた。車のエンジンをかけてバックミラーで後部座席を見やると、お土産を胸に抱いて子どもたちはすでに爆睡している。いつでもどこでも体力がゼロになるまで動き続けられるのはこどもの特権だ。父の体力も限りなくゼロに近いのだが。明日こそ寝坊させてもらおう。それくらいの権利を主張したって許されるとうれしいんだけどな…と父は思うのだ(言語研究者)