【コラム・森本信生】私たち「宍塚の自然と歴史の会」では、宍塚の里山を舞台にして、さまざまな観察会を開催しています。毎月第1日曜日(原則)には、専門家を招いた「テーマ別観察会」が開かれます。植物、野鳥、昆虫に加え、粘菌、プランクトン、種と実、きのこ、モグラ、遺跡など、多岐にわたるテーマで自然の魅力を探ります。
また、季節の移り変わりを体感できる「土曜観察会」は、毎週土曜日の午前中に実施。子どもたちには、遊びや体験も取り入れた「子ども探偵団」も用意しています。
ユニークなのが「夜の観察会」です。夜になると、昼間はひっそりと静かにしていた生き物たちが闇の中でうごめき、まるで別世界のような光景が広がります。春はカエル、夏は昆虫、秋は鳴く虫をテーマに、昼間とは全く異なる夜の里山に分け入ります。
ニイニイゼミの羽化
7月21日に行われた夜の観察会では、セミの羽化が圧巻でした。夕方、長い年月を土の中で過ごした幼虫たちが一斉に地上へ這い出してきます。今の時期に多いのはニイニイゼミ。成虫の大きさは20~24ミリ程度と小さく目立ちませんが、その鳴き声は特徴的で、梅雨明けと夏の訪れを感じさせてくれます。
ニイニイゼミの幼虫は、殻のまわりが泥で覆われているため、見分けやすいのが特徴です。水分の多い土を好むことや、体の表面に泥がつきやすい性質があるのかもしれません。幼虫はゆっくりと木を登り、背中が割れ、殻から抜け出し、今にも落ちそうなほどに背中を反らせ成虫が姿を現します。そして、徐々に羽の模様が現れます。
羽化の瞬間は、まさに生命の神秘を感じさせますが、同時に外敵に狙われやすい、最も危険な時でもあります。4年もの歳月を経てようやく地上に出てきた幼虫が、バッタの仲間であるウマオイにガチガチと食べられてしまう無残な場面にも遭遇しました。自然の美しさと同時に、その厳しさも痛感させられます。
ホタルといえば、水辺で成虫が飛び交うゲンジボタルやヘイケボタルを思い浮かべる方が多いと思いますが、陸生で幼虫の時に光るホタルも存在します。懐中電灯を消して雑木林の闇に身を置くと、木々の間に神秘的な青い光が点滅しているのが見られ、幻想的な気分に包まれます。
観察会では、宍塚大池の堤防に明かりを灯し、光に集まってくる虫たちの観察も行いました。夜の空気に溶け込むように虫たちの息づかいを感じることができます。
カラスウリの花びら

秋になると赤く熟すカラスウリの実。その花は、夏の夜にレースのような白い花びらを開き、翌朝にはしぼんでしまいます。闇夜に白く浮かび上がるその姿は、一夜限りの、まさに“夏の饗宴”と呼ぶにふさわしい光景です。
日中の暑さが厳しいこの時期、昼間の外出はためらわれるかもしれませんが、夏の夜には、静けさと神秘に満ちた別世界が里山に広がっています。夕涼みがてら、宍塚の里山に足を運んでみてはいかがでしょうか。(宍塚の自然と歴史の会 理事)