「科学カフェ」オープンし1年
つくば市内の通信制高校で学ぶ島本美帆さん(18)が、市内に交流スペースとなる科学カフェ「フェルミカフェ」を開き、不登校の子どもや家族の居場所づくりに取り組んで1年になる(24年4月19日付)。不登校を経験した中学時代から現在に至るまで、気持ちはどう移り変わったのか。美帆さんは「フェルミカフェを始めると、活動を応援してくれる人や自分を必要としてくれる人と出会った。以前は感じることがなかった世界の広がりを感じている」と話し、今後はさらにカウンセリングにも力を注ぎたいと思いを語る。
模索したどり着いたのが今
つくば駅から徒歩15分。同市二の宮の住宅地にあるアパート2階の1室に、フェルミカフェがある。昨年5月、美帆さんが得意とする科学を中心に、さまざまな人が交流しながら共に学べるカフェとして始めた取り組みだ。現在の場所には12月に移転した。オープンから1年が過ぎ、口コミで訪れる人が増えつつある。営業するのは木曜から日曜の週4日。用意してある簡単な器具で科学の実験や工作をしたり、読書や宿題、資格の勉強をしたり、それぞれが目的に沿った時間を過ごすことができる。最近は、より作業に集中できるよう、「もくもくタイム」という時間を週に1日2時間設けた。利用するのは小学生から大学生、社会人や高齢者などさまざまだ。

美帆さんは現在、通信制の学校で学ぶ高校3年生。大学受験を控え、受験勉強と日頃の学業、カフェの運営と多忙な日々を送っている。カフェが休みの月・火・水の3日間と、開店前後やお客さんがいない時間帯に学校の課題に集中して取り組む。毎日通学する必要がない通信制だから、卒業に必要な課題は自分のペースで進められる。7月中には1年分の課題を終えられそうだという。「仕事と勉強、自分にとって、いいサイクルができている」と話す表情に、充実感がにじみ出る。不登校を経験した中学時代を経て、自分に合った学び方を模索してたどり着いたのが、学業とカフェ運営を並行する今の暮らしだ。
持ち寄りランチ会
美帆さんが、母親の真帆子さんと昨年から続けているのが、不登校をテーマにした「持ち寄りランチ会」だ。月に一度、不登校の子どもや家族が集まり、お昼を食べつつ互いの話に耳を傾ける。時には、それぞれが抱く今後の目標の発表の場にもなるという。カフェを営む中で、不登校の子を持つ親から相談される機会が増えていた。「子どもが不登校になった。このままだと勉強もついていけなくなりそうで、将来が不安」「学校に行かずにゲームばかりしている。ゲームを取り上げた方がいいのか」「生きるのがつらそうな子どもの様子を見て、親としてどう接すればいいのだろう」など、親たちは、学校に行けなくなった子どもの気持ちをつかみきれず不安を抱えていた。そうした親の声に対して美帆さんは、自分の過去を振り返り、子どもの目線で答える。「他に行き場がないからゲームに向かっているだけで、それを取り上げるべきではないと思う。気が済むまでゲームをやらせるのも手じゃないでしょうか」「学校に行けない子どもは悩んでいるが、自分の気持ちを言語化するのは難しい。時間をかけて、思いを聞いてほしい」「家の中を居心地よくするのもいいこと」。

学校に行けない子どもの中には、「何かを燃やしたい」という衝動を抱えたと話す子もいた。その子には、母親の真帆子さんが「燃やすと重くなるものと軽くなるものがあるんだよ」と語りかけ、計りとアルコールランプを出して、スチールウールに火をつける実験をした。「燃やして実際に重くなっているのを知ると、興味が湧きますよね。不登校の子の中には学校行けないことで劣等感があると思う。その気持ちを否定せずに、実験の方に気持ちを向けてあげると、気持ちのはけ口になるんじゃないかと思ったんです」と真帆子さん。訪れる人たちの悩みに接する中で美帆さんは「もっと不登校のサポートを前面に出してもいいのかなと思った」のだと話す。
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