【コラム・冠木新市】50年前の1975年7月5日、東映の『新幹線大爆破』が公開された。当時、パニック洋画がはやっており、それをまねて大作映画として企画される。脚本は、小野竜之助と監督の佐藤純彌である。それまで鉄道映画を何本も製作してきた東映だが、あまりにも衝撃的な内容のため、国鉄は製作協力を拒否し、独力で製作せざるを得なかった。
当然、新幹線のシ一ンは特撮やセットで作るわけだが、そのころ東映企画調査部でアルバイトをしていた私は、上手くいくかなと半信半疑で眺めていた。
東映スターの高倉健は脚本にほれ込み、出演料を下げてまでの参加だった。豪華なキャストをそろえ大宣伝をくり広げ、青春映画『ずうとるび 前進!前進!大前進!!』と2本立て公開となる。作品の出来は素晴らしかった。ひかり109号に爆弾が仕掛けられ、時速80キロ以下になると爆発する。東京-博多間をノンストップで走り続けなければならない。
倒産した町工場の社長・沖田(高倉健)らの爆弾犯。犯人とやりとりする国鉄の運転指令官・倉持(宇津井健)。倉持の指示を受けながら必死に運転する新幹線運転士・青木(千葉真一)。この3者を軸に、乗務員と乗客、犯人を追う刑事の行動がテンポよく描かれ、2時間32分、一瞬も飽きさせることなく作られていた。新幹線の特撮もよく出来ていた。
この年のキネマ旬報ベストテンで第7位、読者選出ベストテンでは第1位を獲得する。評価は高かったのだが、しかし興行的にはヒットせずにコケてしまう。その後、高倉健は東映を離れることになる(コラム57参考)。
翌1976年は、日本映画界にとって画期的な年となる。角川書店が映画製作に乗り出し、『犬神家の一族』を大ヒットさせ、1本立て公開が主流となっていくからだ。年末には、海外向け短縮版『新幹線大爆破』1時間40分バ一ジョンが公開された。これはフランスなど各国で大ヒットしての凱旋興行だった。
オリジナル版との違いは、犯人側の動機を描く場面をばっさりカット、アクションとサスペンスで押し切る構成で、東映の岡田茂社長がオリジナル版よりよいと大絶賛したといわれる。
私もさらにスピードアップされ面白いと思ったが、どちらに軍配を上げるか迷った。観客の好みも分かれていたと思う。しかし私はオリジナル版の犯人の心情を描いた方がしっくりきた。今思えば、このころから日本映画の流れも好みも変化し始めたのではなかろうか。そうそう、海外短縮版の凱旋興行もヒットしなかったが、『新幹線大爆破』の評価は年々高まっていく。
リメイク版『新幹線大爆破』
2025年。樋口真嗣監督によるリメイク版『新幹線大爆破』がNetflixで配信された。私はまだ見ていないが、1975年版の続きの設定だそうだ。50年前とは異なり、JR東日本も製作協力したという。時代の変化を感じさせる。
2025年7月5日、公開50周年を記念して、オリジナル版『新幹線大爆破』が丸の内TOEIで特別上映されることになった。また、7月5日に大災害が起こるとの情報が(科学者がデマだと否定しているにもかかわらず)現在ネットで盛んに流れている。あれから50年。パニックが噂されている現実の中でパニック映画を見るわけだ。
我々は『新幹線大爆破』の世界に生きている。いずれにしても、時代の替わり目を迎えているのは確かである。サイコドン ハ トコヤンサノセ。(脚本家)