土曜日, 9月 13, 2025
ホームつくば市税収入 毎年平均10億円ずつ増加【アングルつくば市長選’24】上

市税収入 毎年平均10億円ずつ増加【アングルつくば市長選’24】上

つくば市長選が20日告示され27日投開票が行われる。市政の課題について3回にわたって連載する。1回目は市の財政を考える。

人口規模1.35倍に

つくば市の人口は2022年6月に25万人を突破、現在25万9000人超と増え続けている。県やUR都市機構などが地元地権者らの協力を得て2000年度から開始したつくばエクスプレス(TX)沿線の区画整理事業が進み、近年は国の低金利政策や住宅取得支援政策などに支えられた。TXが開業した05年の同市の人口が約19万1000人だったのと比べると約6万8000人増え、1.35倍増の人口規模になった。人口の伸びは国立社会保障・人口問題研究所の推計を上回るほどだ。

市内のTX沿線開発地区で最も早い2018年度に区画整理事業が完了し宅地などの販売が進んだ葛城地区(研究学園駅周辺)の人口は現在約2万人。計画人口2万5000人対し80%が居住する。同じ18年度に完了した萱丸地区(みどりの駅周辺)も計画人口2万1000人に対し77%の約1万6000人が居住。21年度に事業が完了した中根・金田台地区は8000人の計画に対し47%の約3770人が居住する。島名・福田坪地区(万博記念公園駅周辺)と上河原崎・中西地区は今年度、工事が終わり換地が実施される予定だ。市は20年改定の市未来構想で、あと24年間人口は増え続け2048年に約29万人にするという目標を掲げている。

7年連続不交付団体に

人口増と開発に伴って市民税と固定資産税など市税収入は年々増え、市の財政は今、かつてなく潤沢だ。2018年度から7年連続で、自分の税収だけで財政をまかなっていけるとされる不交付団体となっている。

2023年度決算によると市税収入は、市民税収入が約242億円、固定資産税収入が約226億円など計約511億9000万円。TX開業時の05年度の市税収入が計約338億2000万円だったのと比べると18年間で年間の約173億6700万円増と1.5倍に増えた。TX開業以降、毎年平均で約10億円ずつ、市の税収が増え続けてきた計算になる。

市税収入の増加に伴って市の財政規模も年々拡大、歳出決算額はTX開業時の05年度が587億だったのに対し、23年度は1125億9000万円と1.9倍に拡大した。23年度決算では、歳入から、歳出と翌年度への繰越を差し引いた剰余金である実質収支が40億8500万円あった。

市の2034年度までの中長期財政見通しによると、今後も2028年度まで毎年、市税収入が10億円ほど増え続け、その後も毎年数億円ずつの市税収増を見込んでいる。

補助費等2倍超に

では毎年10億円近く増え続けてきた市税収入をつくば市は近年、何に使ってきたのだろうか。「充当一般財源」という財政用語がある。使い道が特定されず自治体の裁量で使える市税収入などの一般財源を、自治体がどこに使ってきたのかを性質別に表した数値だ。

23年度決算で充当一般財源の性質別歳出を見ると、総額約642億円のうち最も多いのが市職員などの「人件費」で約183億円、次いで委託料や備品購入費などの「物件費」が約140億円、3番目は児童や高齢者、生活困窮者などの福祉や医療に必要な「扶助費」で76億円となる。

前市長時代の2015年度と23年度の決算を比べると、充当一般財源の歳出は全体で1.3倍に増加。性質別で金額の割合が最も増えたのは助成金や負担金、報償費などの「補助費等」(23年度は約63億円)で、2.07倍となった。補助費等の主な内訳は、県後期高齢者広域連合医療費負担金、つくバス運行負担金、保育士への処遇改善助成金など。今年度から新たに実施された高校生の通学定期代支援金・自転車通学支援金なども補助費となる。次いで増えているのが、道路や街路、教育施設、公園施設などの「維持補修費」(23年度は約8億6000万円)で2.03倍となっている。これに対し減っているのは特別会計や基金などへの「操出金」で0.68と3割超減少しているなどが特徴だ。

毎年増え続ける市民の税収を、どの政策に優先順位を付けては使うべきなのか。▽市長選に立候補している五十嵐立青氏は主な公約として①市役所のデジタル化など徹底した行政改革②全天候型のこどもの遊び場整備など安心の子育て・教育③高齢者の生活支援事業推進など頼れる福祉ーなどを掲げている。▽星田弘司氏は①地域産業支援とつくばブランドの発掘・確立・セールス②市民の命と生活、雇用を守り抜く③教育日本一の実現と徹底した子育て・女性支援ーなどを掲げている。(鈴木宏子)

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つくば駅前「となりのスタジオ」から発信 ラヂオつくば

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「障害があっても住みやすい地域を」根本希美子さん【鬼怒川水害から10年】㊦

電気が止まったとき、命を落としかねない子どもたちがいる―。 つくば市を拠点に、人工呼吸器の使用やたん吸引、経管栄養など「医療的ケア」を必要とする子どもや保護者を支える親の会「かけはしねっと」の代表理事 根本希美子さん(47)はそう訴える。根本さんの長男・侑弥さん(19)も、専用機器を用いたたんの吸引や人工呼吸器の使用などが命をつなぐために欠かせない。活動のきっかけは、2015年9月10日、隣接の常総市を襲った鬼怒川水害で抱いた危機感だった。来年、団体は発足10年を迎える。「障害があってもなくても住みやすい地域をつくりたい」との思いを胸に、仲間たちと社会へ声を届け続けている。 当事者として伝えなければ その日、つくば市の自宅にいた根本さんは、テレビから流れる「常総市付近で鬼怒川が氾濫するかもしれない」というニュースにくぎ付けになっていた。台風が秋雨前線を刺激し、鬼怒川流域で記録的な豪雨が降っていた。 常総市には、医療的ケアを必要とする子を持つ知人が住んでいた。長男より2、3歳年下で、幼い頃から誕生日などの節目の時に近況を聞き合う間柄だった。気になり連絡を取ると「避難先の確保が難しい」という。知人は、かかりつけの病院に問い合わせるも、災害の最中で治療の対応はできるが、避難の対応はできないと言われたという。避難所では機器を使うための必要な電源が十分に確保できない場合がある。「それじゃ、水害の心配のないうちに来ない?」根本さんが呼び掛け、つくばの自宅に避難してもらうことにした。知人はその日のうちに、自家用車に呼吸器、吸引機、それに付随する電源などたくさんの機器を積み込み到着した。 「鬼怒川が決壊した」というニュースが流れたのは、翌日10日の午後1時前。瞬く間に被害は拡大した。次々に家屋が水に飲み込まれ、取り残された人々の様子も映し出される。根本さん宅では子供のケアをしながら、テレビにかじりつくようにの推移を見守っていた。常総市内の約3分の1が浸水。5000棟以上の家屋が全半壊し、取り残された4000人以上がヘリコプターやボートで救助されることになる。 ただ幸いなことに、知人の自宅は水害のあった地域の対岸にあり被害を免れていた。10日のうちに帰宅する知人一家を見送りながら、紙一重だった状況に根本さんは「個人でできることには限界がある。大変な時こそ、日常的につながる人との関係が大切になる」と痛感した。 長男・侑弥さん(19)も、命をつなぐために電気が欠かせない。「当時はまだ、『医療的ケア児』という言葉すら知られておらず、問題も社会に認知されていなかった。自分たちが何に困り、何を必要としているのか、当事者として伝えていかなければと思った」と振り返る。 思いを共にする医療的ケア児の母親らと「かけはしねっと」を立ち上げたのは、翌年の2016年だった。 2018年には、台風による夜間の大規模停電を経験。復旧までの10時間、侑弥さんの命をつなぐ人工呼吸器と酸素濃縮器はバッテリーで稼働を続けた。暗い部屋に響く残量警告のアラーム音に不安が募った。後日、発電機を自費で購入したが、公的支援の必要を感じた。非常時の家庭用発電機購入の助成をつくば市に請願し、上限10万円の助成制度が19年に実現した。さらに21年には、医療的ケア児の家族の体験をまとめた冊子を仲間たちと制作した。当事者を支えるネットワークづくりと課題の理解を広げるために奔走している。 つながりを育む かけはしねっとでは、情報発信に加え、子どもや家族同士の交流イベントの開催、SNSなどを通じた相談支援に取り組んでいる。活動で大切にするのは、楽しく、気軽に参加できる雰囲気づくりだ。根本さんは「障害のある子どもの体調によっては毎回参加できないこともある。毎回参加しなくてもいいし、直前にキャンセルしてもいい。心理的なことも含めて、できるだけ家族の方たちの負担がないようにしたい」と話す。 その思いの背景には、根本さん自身の経験がある。 つくば市出身の根本さんは、2006年に長男の侑弥さんを出産。産後間もなく心肺停止に陥り、脳に酸素が送られず無酸素性脳損傷による障害を負った。明日の命もわからない状況で発熱を繰り返し、口にしたものをすぐ吐いてしまう。その後も入退院を繰り返した。 「『私がこの子の命を背負っている、完璧にやらなきゃ』と必死だった。人とのつながりもなく、いっぱいいっぱいの毎日だった」と振り返る。そんな時、子どもの様子を見るため訪れた保健師の言葉に救われた。 「話を聞いてくれる中で、『お母さんすごい』『頑張ってる』と言ってもらえたことで、自分を認めてもらえた気がした。『私は間違ってなかった。これでいいんだ』と思えた。それから少し息が抜ける感じがし、なんとかやってこられた気がします」 子どものケアを担う母親は、家族以外と関わる機会が限られ、孤独になりやすいという。だからこそ「思いを吐き出せる相手が必要」だと強調する。 「私の場合は保健師さんだったが、誰でもいい。ママ友でもいいし、福祉・医療の人でもいい。障害の有無にかかわらず、誰かとつながり思いを吐き出すことで違う方向に気持ちを変えていけるのでは」 かけはしねっとでは、公式のメッセージアプリに加え、メールやSNSなど複数の手段を活用し、異なる環境にあっても声を掛け合える体制を整えている。 「家族の中だけでは発散できない思いもある。どこかで吐き出せる存在が必要。支援を使いながら自分を大切にしてほしい。日常的な関わりやつながりが緊急時に生きてくる。災害のためだけに連絡ツールを作るのは大変だが、普段からやり取りを重ねていれば、いざという時に電話が使えなくても、メールやLINEで連絡を取れる。だから複数の手段を持つのは大切だと思っている」 「障害があってもなくても暮らしやすい地域になってほしいし、いつか社会の中に理解が広がり、わたしたちのような活動をしなくてもいい社会になれば、それが一番だと思っています」(柴田大輔) 終わり