【コラム・川端舞】時々、一本電話をかけるだけで疲弊することがある。それは、電話の相手が私の言葉を聞き取れなかった時ではなく、私の言葉を聞こうとしなかった時だ。
私が初めての場所に電話する時は、相手が言語障害の人とのコミュニケーションに慣れていない場合を考え、事前にできるだけ話したい内容を紙に書いておく。そして、もし相手が私の言葉を聞き取れなかったら、どのタイミングで通訳を入れてもらうかを、そばにいる介助者と打ち合わせてから電話をかける。
私が電話をかけると、たいてい相手は一瞬、沈黙する。困った表情を浮かべているのが、電話口からもよく分かる。その反応には慣れているので、私の言ったことを介助者に通訳してもらう。多くの場合は、介助者の通訳を入れることで、私と相手の会話が成立する。これが私なりの電話をかける方法だ。
しかし、時々、この方法が通用しない時がある。電話の相手が、私にではなく、介助者に話しかけてしまうのだ。そんな時は、電話のスピーカーで介助者も一緒に聞いているから、私に直接話してもらえばいいことを説明するのだが、ごくたまに、「では、ご本人ではなく、介助者に電話を代わってください」と言われてしまうことがある。
私が話したいことがあるから電話をかけているのに、介助者と話してどうするのだろう。私の言いたいことを介助者が全部把握している訳でもないのに。私を信頼してもらえていないようで、すごく悔しい。
障害者の生きた経験をなめるな
初めて私と話す人に、私の言葉を全て聞き取れとは言わない。ただ、私が「話したい」と言っているのだから、まずは私と話せ。あなたは言語障害のある人と初めて話すのかもしれないが、私は30年以上、言語障害と付き合っていて、どのタイミングで介助者の通訳を入れるのが効果的なのかも、あなたより熟知している。この社会の大半の人間は、言語障害のある者と話すのに慣れていないことも、私は嫌というほど知っている。
だから、介助者が隣にいる時に、あなたに電話をかけるのだ。言語障害のある者と話すことに慣れていて、聞き取れなかったら聞き返してくれると見込んだ相手に電話をかける時は、介助者と打ち合わせてから電話をかけるなどという、面倒なことはしない。
私は、自分に言語障害があることも、その時々でどのコミュニケーション方法が自分に一番合っているのかも、この社会で一番よく知っている。その上で、あなたに電話をかけているのだ。障害者をもっと信頼してほしい。(障害当事者)