阿見、土浦「軍都を生きる」著書、清水亮さん企画
戦後78年、戦争を知る人が少なくなる中、戦争とどう向き合い、戦争の記憶との断絶にどう抗うか。薄れゆく戦争の記憶を拾い集めようとする若手研究者11人の研究成果をまとめた『戦争のかけらを集めて ー遠ざかる兵士たちと私たちの歴史実践』(図書出版みぎわ発行、A5判、320ページ)がこのほど刊行された。
企画したのは慶應義塾大学専任講師で、海軍航空隊や予科練があった阿見町や土浦市の人々が基地や軍人たちとどう関わりながら生活したかを記した『「軍都」を生きるー霞ケ浦の生活史1919-1968』(岩波書店)=23年3月22日付=の著書、清水亮さん(32)。清水さんは東京大学の学部生だった2013年から阿見町や土浦市の地域史に関心を持って通いつめ、社会学の立場から研究を続けている。
『戦争のかけらを集めて』の編集者の一人でもある清水さんは「この本の狙いは、およそ1980年代から90年代生まれの研究者が、体験者の高齢化やコロナ禍の中で、あの手この手でどのように元兵士に向き合ってきたか、その経験の共有」だと語る。
清水さんは東大大学院博士課程を修了後、2020年から22年には筑波大学にポスドク研究員として在籍し予科練を研究。予科練出身者や遺族などが建てた、遺書や遺品などを収集し展示する雄翔館(阿見町青宿、陸上自衛隊土浦駐屯地内)の成り立ちを論じた『「予科練」戦友会の社会学―戦争の記憶のかたち』(新曜社)を2022年に出版した。
同じく『戦争のかけらを集めて』の編者の一人で、北海道教育大学准教授の白岩伸也さんは筑波大出身。筑波大での博士論文をもとに『海軍飛行予科練習生の研究』(風間書房、2022)を出版している。清水さんは『戦争のかけらを集めて』について、『「予科練」戦友会の社会学』や白岩さんの『海軍飛行予科練習生の研究』などの「研究蓄積の最新の成果」であると話す。
丁寧で謙虚な歴史との向き合い方
清水さんは『戦争のかけらを集めて』で現役の自衛隊事務官である行方滋子さん(20年8月15日付)を取り上げる。行方さんは雄翔館の案内に携わったことから予科練に関心を持ち、戦没者の慰霊顕彰と遺書、遺品などの管理を行う「海原会」の一般会員として活動している。行方さんの遺族訪問、聞き取り、関連資料の収集などの活動に触れ、丁寧で謙虚な歴史との向き合い方について論じている。
元予科練生の語り部で、昨年亡くなった阿見町の戸張礼記さん(23年6月6日付)についても言及する。清水さんは、戸張さんと学部生のころに出会い、卒業論文は戸張さんについて書いた。清水さんは何度も話を聞きに訪れ、戸張さんの語りを記録している。
今しか書けないことがある
同書の構想は、清水さんと、戦争をテーマにした本を多く編集していた編集者、岡田林太郎さんとの出会いがきっかけでもあった。「みずき書林」の創業者である岡田さんはがんを患い、昨年7月、享年45歳でこの世を去った。同書のあとがきには、清水さんが「(研究者として)未熟な今こんなに本を書いていいのか」と逡巡(しゅんじゅん)する中、岡田さんが「今しか書けないことがあると思いますよ」と声をかけたエピソードがつづられている。岡田さんの後輩である堀郁夫さんが創業した「図書出版みぎわ」から出版に至った。
戦争体験者から生の声を聞く機会が失われつつある中、戦後世代である若手研究者らの実践は続いている。清水さんは「実は、あえて後ろから読むのがお薦め。フォト・エッセイやあとがきから、戦後世代のどんな人々がこの本をつくったか、著者たちの横顔をのぞいてみてほしい」と話す。
どのように歴史を継承していくか。「戦後90年にもなれば、元兵士の語りを聴くバトンリレー的な継承はほぼ不可能になる。その未来を見越して、それぞれの非体験者が託されたり、拾い集めたりした資料や聞き取り記録や思い出を持ち寄って、車座になって学び議論し合う可能性を探っている」という。(田中めぐみ)