【コラム・若田部哲】奈良時代に編さんされた常陸国風土記に「若松の浜(鹿島)のまがねを採りて剣を造りき」と記される、日本における製鉄のルーツである鹿嶋市。この地に、日本最大にして世界でも指折りの製鉄会社「日本製鉄株式会社」の東日本製鉄所が立地しています。
日本に3社しかない、原料を溶かして鉄を精錬するところから、薄板などの製品まで一貫して製造する高炉メーカーである同社では、真っ赤に熱された分厚い鉄の板(スラブ)を圧延して薄板にする「熱間圧延工程」を見ることができる工場見学を開催しています。今回は、年間約2万人もの見学者が訪れるこの工場見学について、同社広報の中野さんにご案内頂きました。
まずは、鉄がいかに人の営みに不可欠な物質か、さらに鉄の特性や製鉄プロセス、環境への取り組みなどをわかりやすくまとめた映像資料を拝見。その後、作業着とヘルメットを着用し、いざ工場見学スタートです!
車に乗って熱延工場まで移動するにあたり、改めて驚くのが敷地の広さ! 敷地内の道路は片側2車線、普通に信号も設置されています。大型の工場然とした車両から、乗用車まで様々な車がごく普通に走る様に「あれ、いつの間にか工場から出てしまった?」と軽く混乱しますが、依然ここは敷地内。広大な敷地の面積は、なんと東京ドーム約220個分におよぶのだそうです。
敷地を進むにつれ、次第に風景は非日常的なものに変化。何百メートルもある巨大な建屋が続いたかと思うと、今度は港に停泊するタンカー、鉄鉱石や石炭の山が現れます。道路に並行して伸びる何本ものパイプは所々で交差し、まるで巨人の体内に入り込んだよう。
鉄鉱石の赤茶色に染まり始まった道をしばらく走ると、製鉄所のシンボルである高炉の足元に到着します。内容積5370立方メートルで年間約350万トン(一般的な車350万台分)もの鉄を生産する巨大なプラントは、その高さ実に110メートル!
そこからさらに進むこと数分、ついに「鹿島熱延工場」に到着! 見学コースは700メートルにもなるこの工場、入るとまず場内の熱気に驚きます。階段を上るごとに高まる熱気を感じつつ、見学スペースに到着すると、眼下で大きな鉄の扉が開き、真っ赤に熱された25センチほどの厚さの鉄板「スラブ」が現れ、コンベアの上に載せられます。数十メートルは離れているにもかかわらず、スラブが出てきた途端、こちらまで届くほどの熱気が!
コンベア上を進むスラブは、何度もローラーで圧延され薄く伸ばされていきます。伸ばされる直前、スラブに勢いよく水がかけられるのですが、そこは何しろ赤く熱された鉄、水が一気に蒸発する大きな音があたりに響き渡ります。この工程は、表面の酸化鉄部分を除去するためのものだそうです。
これを何度も繰り返し、分厚かったスラブは最後にはとうとう1ミリほど(1.2~25ミリ)の薄板となり、最速で時速100キロもの速さで巻き取られます。薄板になるまで何度もかける、水のかけ方を細かく調節することにより、様々な特性の鋼板に作り分けているのだそうで、ダイナミックな製造工程と、出来上がる製品の繊細さのギャップにこれまた驚きです。
地球の重量の1/3を占め、人の営みに重要な役割を担ってきた鉄。今後も必要不可欠な存在であり続けるこの物質の、迫力満点な製造現場を目の当たりにできるこの工場見学、茨城県民ならずとも必見です!(土浦市職員)
<注> 本コラムは「周長」日本一の湖、霞ケ浦と筑波山周辺の様々な魅力を伝えるものです。
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