日曜日, 9月 29, 2024
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きみは影《短いおはなし》28

【ノベル・伊東葎花】

学校の帰り道、友達が僕の足元を指さした。

「タケシくん、影がないよ」

見ると、こんなに陽が照っているのに、僕の影だけがなかった。

「こわい! タケシくん、妖怪なの?」

「タケシくん、妖怪だ、逃げろ、逃げろ」

僕は泣きながら家に帰った。
洗濯物を取り込んでいたお母さんが「どうしたの?」と言った。

「お母さん、僕の影がないんだ。僕、人間じゃないんだ」

お母さんは笑いながら、僕のあたまを優しくなでた。

「バカねえ。タケシは人間だよ」

「だって影が…」

「あのね、タケシ。影はね、ときどきいなくなるんだよ。ときどきどこかに遊びに行くんだ」

「そうなの?」

「そうよ。ほら、もう戻ってきたよ。足元を見てごらん」

下を見ると、僕の影はちゃんとあった。
お母さんの影と並んで、長く伸びていた。

それから僕は、歩く人の影を見るようになった。
お母さんが言う通りだ。ときどき、影のない人がいる。
影も遊びに行くんだ。影もたまには遊びたいんだ。
僕たちと同じだ。

夏休みになった。
僕は部屋で、ダラダラと宿題をやっていた。

『出かけないのかい?』

足もとから、声がした。

「だれ?」

『きみの影だよ。今日はちょっと遊びに行こうと思っているんだけど、きみが外へ出てくれないとボクも遊びに行けないんだ』

影の声だ。影が僕に話しかけている。ワクワクした。

「どこに遊びに行くの?」

『いろんな所さ』

「何をして遊ぶの?」

『木に登ったり、ジャングルジムの天辺に登ったりするんだ。何しろいつも地べたを這っているからね。高いところで遊ぶんだ』

「ふうん。楽しそうだね」

『代わるかい? ボクが宿題をやってあげるから、きみが遊びに行ってきなよ』

「いいの? でも、そんなことできるの?」

『うん、できるよ。簡単だよ。きみはちょっと遊んで、すぐに戻ってくればいいのさ』

「わかった」

外に出ると、影は僕の姿になった。そして僕は、まっ黒な影になった。
さあ遊びに行こうと思ったけれど、僕は動けなかった。
僕は、僕になった影の足元で、地べたを這っていた。
ニセモノの僕の動きに合わせて、ずるずると引きずられる影になった。
「話がちがうよ」と叫んでも、ニセモノの僕は知らんぷりで歩いている。
戻りたいと願っても、どうすることもできない。

「タケシ」

お母さんが、外に出て来た。

「一緒に買い物に行こうか」

「うん。行く行く」

僕になった影が、お母さんと並んで歩き出した。

僕は必死で訴えた。

『お母さん、そいつは影だよ。僕はこっちだよ』

お母さんではなく、お母さんの影が答えた。

『タケシ、あんたもだまされたんだね』

お母さんは地べたを這いながら、諦めたように言った。

『大丈夫。そのうち慣れるから』

影になったまま、夏休みが終わった。
学校の帰り道、僕になった影が、友達の足元を指さした。

「ゆかりちゃん、影がないよ」

ああ、ゆかりちゃん、きみももうすぐ影になるんだね。
大丈夫。そのうち慣れるよ。
(作家)

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