月曜日, 5月 18, 2026
ホームつくば点字本で「宇宙と物質の起源」 高エネ機構、筑波技術大と共同制作

点字本で「宇宙と物質の起源」 高エネ機構、筑波技術大と共同制作

「私たちはなぜ存在できているのか」という根源的な問いに迫る研究の成果を、視覚障害のある人にも共有してもらおうと高エネルギー加速器研究機構(KEK、つくば市大穂)素粒子原子核研究所(素核研、齊藤直人所長)が点字本「宇宙と物質の起源 『見えない世界』を理解する」を制作した。点訳や図版を触ってたどる触図化などに筑波技術大学(技大、つくば市天久保)障害者高等教育研究支援センターのチームが共同で取り組んだ。

素核研は素粒子、原子核、宇宙という微細と広大の両極を対象に、理論と実験の両側面から研究を行っている。点字本プロジェクトは2022年春に始まった。人文科学系の図書は点訳が比較的容易だが、自然科学系の図書は内容に精通した点訳者が少なく点訳や触図作成が難しいため、あまり流通しておらず、視覚障害者が物理学など自然科学に触れるのは難しい状況だった。

点字本「宇宙と物質の起源」収録の触図(同)

研究が宇宙と物質の起源という「見えない世界」を扱うこともあって、宇宙や物質について「もっと知りたい、学びたい」という視覚障害者の思いにこたえるべく点字本を企画した。同書の原本になる同名タイトルの書籍は今年3月、講談社ブルーバックスシリーズから発刊になっている。研究者がこれまでの知見や、今後の研究で解明が期待されることなどをやさしく解説した入門書となっている。

点字本は、書籍の本文部分が掲載された点字版と、書籍の図の部分が掲載された触図版で構成されている。研究者10人が「宇宙は何でできているのか」「元素の起源」「質量の起源」「力の起源」などのテーマごとに分担して執筆した原稿を、技大のチームが点訳を行った。元素の遷移を元素・陽子・電子・ニュートリノなどの記号を用いて解説したり、物質に質量を与えるとされるヒッグス場のポテンシャルエネルギーを示す式を提示したり、丁寧に説明している。

技大では、在籍する視覚障害の学生たちのために普段から教科書などの点訳を行っているが、素粒子分野の点訳を執筆者と共同で行うことは初めて。一般的な点訳は、すでに出版されている書籍が対象のため、障害者にわかりづらい文章や図の表現が含まれている。そのような場合、点訳者が原本を解釈して点訳を行い、点字本を作成する。しかし今回は、執筆者が原稿を執筆した後、視覚障害当事者による試読を経て文章を校正し、障害者にわかりやすい表現に修正した。

点訳チームと触読校正者が点字、触図を確認している様子(同)

特に、書籍中のグラフや概念図のほとんどを省略することなく、文章と触図で表現した。点字の専門家である大学教職員と素粒子分野の専門家である執筆者が昨夏の1カ月間、議論を重ねたという。

点訳チームのメンバーの一人で、視覚障害当事者でもある技大の田中仁講師は「点字は創案以来、見えない人たちの新たなチャレンジとともに進化してきた。言葉、楽譜、数式、化学式、情報処理、図・表にわたる点字表現の豊かさはそのチャレンジの証です。点字表現の可能性を信じて点訳した」とコメントする。

素核研の齊藤所長は「今回とても印象的だったのは、視覚障害者が視覚以外の情報から対象を理解しようとするその集中力と情熱の深さ。もともと目には見えない素粒子や量子場を研究している我々は、いわば手探りで理解を積み上げていくという意味では、視覚障害者と同じ立場にある。力を合わせて一緒に探求できれば、新たな理解が生まれるのではないか」と期待を述べた。

触図版は個人や大学、研究機関などに貸し出しが可能。「宇宙と物質の起源 『見えない世界』を理解する」(新書判320ページ、定価1320円=税込み)で執筆者の受け取る印税は全額、寄付され、視覚障害者向け図書普及のために使われるそうだ。

◆素核研の点字本プロジェクトポータルページはこちら

➡NEWSつくばが取材活動を継続するためには皆様のご支援が必要です。NEWSつくばの賛助会員になって活動を支援してください。詳しくはこちら

スポンサー
一誠商事
tlc
sekisho




spot_img

最近のコメント

最新記事

地元県立高5校が魅力を紹介 24日「高校進学を考える集い」

つくばの市民団体が開催 つくば市と近隣の県立高校5校の校長が一堂に会し、学校の魅力を紹介する「第7回つくばの高校進学を考える市民の集い」が24日、つくば市役所コミュニティ棟で開催される。人口増加が続くつくば市で、県立高校が不足している問題を県などに訴えてきた市民団体「つくば市の小中学生の高校進学を考える会」(片岡英明代表)が主催する。 5校合同のいわゆる学校説明会で、昨年に続いて2回目の開催となる(25年5月15日付、同6月6日付)。昨年は市内の4校が登壇したが、今年は牛久栄進高校が新たに加わる。登壇するのは▽筑波高、永井信一校長▽つくばサイエンス高、石塚照美校長▽茎崎高、吉田真弘校長▽牛久栄進高、奈良由紀子校長▽竹園高、桜井良種校長。各校の説明後、質問も受け付ける。 昨年は約120人が参加した。一般市民や県議、市議、市職員などのほか、親子連れで熱心に聞き入る中学生や小学生などの姿が目立った。考える会によると、昨年は「説明を聞いて、勉強のスタートとなった」との感想を寄せられた母親もあったという。 集いは2部構成で、第1部は5校の校長がそれぞれの魅力を紹介する。第2部は、今年4月から私立高校生に月3万8100円の授業料が支援される私学の授業料無償化がスタートしたことや、県立高校志願者がさらに減少した問題など、今後の動きや課題を考える(26年3月8日付)。ほかに、元高校教員の片岡代表が、近年の県立高校入試の傾向を分析し、学習方法などを考える(同4月10日付)。 片岡代表は「つくばの生徒数が増加する中で県立高校の定員が不足しているという問題が構造的にある中で、私学の授業料無償化に伴って、地元の県立高校の魅力を十分に伝える必要性が高まっている。つくばエリアの県立高の定員不足問題だけではなく、中学・高校受験の問題を地域の問題として、また受験生への豊かな学びの応援として共に学び、語り合う機会になれば」と話し、参加を呼び掛けている。(鈴木宏子) ◆第7回つくばの高校進学を考える市民の集いは、24日(日)午前10時~午後0時30分、つくば市研究学園1-1-1、市役所コミュニティ棟1階会議室で開催。資料代300円、小中高校生は無料。詳しくは電話090-4591-8437(片岡代表)または電話029-852-4118(新日本婦人の会つくば支部)へ。

ロータリークラブ活動 水戸とつくばが競争《吾妻カガミ》219

【コラム・坂本栄】つくば学園ロータリークラブ(RC)のメンバーに加えてもらうことになりました。記事「創立40周年を祝う…」(3月2日掲載)を取材した際、その活発な社会奉仕活動を見聞きし、自分もそこからエネルギーをもらいたいと思ったからです。学園RCの会員数は水戸RCに次いで県内2番目ですが、早晩、歴史ある水戸RCを追い抜くような気がします。 対抗意識が両クラブを活生化 RCの年度は7月~翌年6月と、役所などとは違った期間になっています。今年度初(昨年7月)の会員は、水戸RC123人、学園RC105人でした。今年度末(6月)の目標として、水戸RCは133人、学園RCは110人(すでにこの目標を突破)を掲げています。この目標人数を見ると、両クラブのライバル意識の強さが分かります。ちなみに、県内55のRCのうち、会員数が100人を超えるのは水戸RCと学園RCだけです。 数字を並べましたが、両クラブの張り合いが面白いと思ったからです。ベテラン会員に「この調子だと水戸を抜くのは時間の問題ですね」と聞いたところ、「いや簡単ではない。こちらが頑張ると相手も頑張るから」とのことでした。よい意味で競争意識が両RCの活生化につながっているようです。 水戸にはRCが6つ(水戸RC以外は会員数約90~約20人)あるそうです。つくばの数は3つ(学園RC以外は同約60人と約20人)ですから、つくばは水戸にクラブ数では負けています。その背景は「会員数が増えると自分が目立たなくなるので自立心が高い人たちが別のクラブを立ち上げ独立する」(ベテラン会員)ことにあるそうです。こういった「分派活動」には水戸人のエネルギーを感じます。 予算と人口はもうすぐ逆転? なんとなく沼田誠さんのコラム「水戸っぽの眼」風になってきました。彼は水戸市の「みとの魅力発信課長(いわゆる広報広聴課長)」として活躍、現在は転職してつくば市に住み、東京圏で仕事をしています。独自の視点で両市を比較するストーリーは面白く、行政の地域性を知る上で勉強になります。 前回12「…今年度予算を比較」(4月29日掲載)では、古いまち・水戸市と新しいまち・つくば市の施策の違いを分析していました。添付された予算額推移表を見ると、つくば市が水戸市に急接近していることが分かります。今年度は1308億円対1227億円ですが、昨年度は1275億円対1273億円でした。ちょっとした新規事業の有無で来年度は逆転するかも知れません。 人口は間もなく逆転するでしょう。5月1日現在の常住人口は、水戸市が26万5243人、つくば市は26万4558人ですから、その差はわずか685人です。東京では住宅価格が高騰、首都通勤が可能なTX沿線への移住増を想定すると、つくばが水戸を上回るのは時間の問題です。数カ月前、記者会見で人口逆転について聞かれた五十嵐市長はコメントを避けていました。県都のプライドを刺激するのを避けたかったようです。 永田筑波大学長の共創体構想 歴史ある県庁所在地水戸。国と県が造った研究学園つくば。性格が違う両市の都市間競争は県全体の活性化につながります。「…学園都市を一つの研究教育共創体に…」(3月23日掲載記事)をぶち上げた永田恭介筑波大学長も学園RCの会員ですが、私がゲスト出席した4月末例会の卓話(ミニ講演)では、ロンドン-ケンブリッジと東京-つくばの関係性・距離感が似ていると指摘し、研究学園の機能強化の必要性を訴えました。(経済ジャーナリスト)

土浦の花火100年の紡ぎ(5)《見上げてごらん!》52

煙火の系譜は湖畔から山へ 【コラム・小泉裕司】火薬を取り扱う花火工場は、火薬類取締法など関連法が定める「保安距離」確保の観点から、住宅街や公衆が集まる施設を避けた山間部や平地のはずれに立地するのが一般的である。 土浦における「花火製造」の歴史は、1936(昭和11)年、霞ケ浦湖畔の川口町(現 川口2丁目)に「北島煙火店」が創業したことに始まる。戦後「土浦火工」(北島義一社長)へと社名を改め、土浦全国花火競技大会の発展を支える存在となった。 その後、市街化の進展に伴い、1963年に宍塚大池地区へと移転する。興味深いことに、移転先の宍塚山周辺では明治の中頃まで「竜星(りゅうせい)」と呼ばれるロケット花火が打ち上げられていたという。これは櫓(やぐら)に固定した筒に火薬を詰め、丸太を空高く打ち上げてその高さを競うものであった。 かつての「竜星」から土浦火工へと至る煙火の伝統は、時代を超えてつながっているように思えてならない。ちなみに現在も、つくば市百家(はっけ)の観音寺では、伝統花火を支える山﨑煙火製造所の支援を受け、9月第2日曜日に「竜水」という名のロケット花火が奉納されている。 1956年、土浦火工の子会社として、上高津町に設立された「昭和火工」は、元々、川崎市登戸で照明弾などを製造していた企業であった。義一氏が武藤輝彦氏(1921-2002)との共同経営に参画した当時は、玩具花火も幅広く取り扱い、土浦火工と昭和火工の両工場はわずか1.5キロほどの距離で、土浦の煙火産業の両輪を担っていた。 花火事故と安全への挑戦 「花火の歴史は事故の歴史」とも言われる。土浦におけるその歩みは、不断の安全への挑戦の記録でもあった。1991年の解散までの約半世紀の間に、同社関連の火災事故は18件発生し、7人が尊い命を落としている。 記録をひもとくと、事故の多くは移転前の川口町で発生したが、宍塚山や上高津、さらには湖上での水中花火事故も記録に刻まれている。当時の消防士たちは非番の日であっても現場に駆けつけたという。それは、火薬という危険物を扱う現場を有するまちの宿命だ。 特に1975年の爆発事故は悲劇的だ。日本煙火協会の設立に尽力し、業界全体の安全確保を生涯の使命としていた義一氏は、この事故で跡継ぎの長男克之氏を亡くしている。「安全なくして花火の発展なし」。この信念を掲げるリーダーにとって、身内を襲った悲劇がいかに断腸の思いであったかは、想像に難くない。この事故を最後に、土浦火工での火災事故は確認されていない。 現在、宍塚山の工場跡入り口には、折れ曲がった「土浦火工」の看板が往時をしのばせるのみである。一方で、昭和火工の跡地は、今も業界大手の玩具花火メーカーの倉庫として活用されている。形を変えながらも、そこは今なお子供たちに夢を発信する空間であり続けている。 「花火のまち」土浦。千紫万紅(せんしばんこう)のごとく秋の夜空を彩る閃光(せんこう)の裏側には、火薬と向き合い、時には命を賭して技術を磨き上げた先人たちの、苛烈な歴史が刻まれている。本日はこれにて打ち留めー!(花火鑑賞士、元土浦市副市長) <参考文献>「土浦消防三十年のあゆみ」(土浦市消防本部、1980年刊)「土浦町内ものがたり」(本道清、常陽新聞社、1989年刊)「日本煙火協会参拾年史」(日本煙火協会、1993年刊)「日本の花火のあゆみ」(武藤輝彦、あずさ書店、2000年刊)「花火と土浦」(土浦市、2018年)「花火師たちの記憶/DVD」((有)茨城ビデオパック、2025年完成)

免許失効したまま公用車など運転 市職員を減給処分 土浦市

土浦市は15日、同市都市整備課の男性職員(33)が昨年7月4日から8月13日までの間=当時は別部署に在籍=、運転免許が失効した状態で自家用車で通勤していたほか、同期間中の8日間、計9回にわたって公用車を運転するなど交通法規違反を行ったとして、同日付で男性職員を1カ月間減給10分の1の処分にしたと発表した。 市人事課によると、男性職員は有効期限が7月3日までの運転免許証の更新手続きを失念した。8月13日に本人が免許証を更新していないことに気付き、翌14日に更新手続きを実施した。 今年4月、本人から申し出があり発覚した。同市では毎年4月、職員に対し、運転免許証の有効期限などを含めた自動車運転報告書を提出させている。同報告書提出の際、本人が申し出たという。 処分内容については、市職員分限懲戒審査委員会を開き、同市の前例や他市の状況などから減給処分とすることを決めたとしている。併せて、管理監督責任があったとして、異動前の当時の課長を口頭注意とした。 安藤真理子市長は同日「運転免許の確認についてはこれまでも再三にわたり指導してきたが、このような交通法規違反により市民の信頼を損なってしまったことを心よりお詫びします。二度とこのようなことがないよう、法令遵守、服務規律の確保を徹底し市民の信頼回復に努めます」などとするコメントを発表した。今回の事態を受け、職員全員を対象に、各所属長が運転免許証の原本をチェックし有効期限を確認するとしている。