土曜日, 7月 5, 2025
ホームつくばみんなで学び合うカフェ 高校生がつくばにオープン 不登校乗り越え

みんなで学び合うカフェ 高校生がつくばにオープン 不登校乗り越え

つくば市内の通信制高校で学ぶ高校2年の島本美帆さん(17)が5月2日、同市上広岡にカフェ「フェルミ・カフェ」をオープンする。お菓子を食べたりお茶を飲みながら科学を中心にみんなで学び合うカフェだ。

同じ建物に入るボードゲームショップ・フライヤーのプロジェクトの一環として6月末までの試験的なスタートとなり、利用状況次第でその後も延長する予定だ。島本さんは「勉強は楽しいと知ってほしい。楽しく好奇心を持って、みんなで知識をつけていれば」と年齢を問わない幅広い来店を呼び掛ける。

フェルミ・カフェは、ボードゲームショップ・フライヤーが入る建物の一階を利用する

一緒に勉強

中学時代、不登校を経験した島本さんは「学校に馴染めない子どもにも来てほしい」とカフェへの想いを語る。

「学校に行けていない子は自宅で理科の実験はできない。科学や理科、他の分野も含めて勉強する意欲はあるけど学校に行けず、学び方もよくわからなくなっている人もいるはず。足踏みをしてしまい前に進めない人のために、カフェでは簡単な実験道具や本をそろえる。高校レベルまでなら私も教えられるので、他の教科も含めて一緒に勉強しましょう。学校の代わりにここで一緒に知識をつけられたら」と語る。

娘の活動をサポートし、カフェにも一緒に立つ予定の母親の真帆子さんは「通信制なので時間に融通を効かせることができる。学校に行きづらくて、これからどうしようかと悩んでいる子どもや親がこの活動を知ってくれたら参考になるのではと思っている」と話す。

折り紙で作った正12面体

広々とした64平方メートルの室内に並ぶ真新しい本棚は、島本さんが自分で組み立てた。オープンまであと1カ月。自分で収支計画を立てサービス内容なども考える。多くの人が参加しやすいよう、時間制で料金を決め、その間は島本さんが用意する教材を自由に使うことができ、紅茶とお菓子を自由に飲食することができる。経費を捻出するために月35人以上の利用者を確保したいという。準備に忙しくしながら「どんなお客さんが来てくれるのか楽しみ」だと笑顔を浮かべる。

島本さんの母・真帆子さんは、歴史上の科学者を絵本で紹介する作家でもある。カフェには真帆子さんによる20冊の絵本も並ぶ

「これは私の自信作です」と本棚から島本さんが手にするのは、一枚の折り紙で作った正12面体。中学時代に作ったものだ。オリガミクスの提唱者として知られる元筑波大教授の故・芳賀和夫さんの本をもとにした。芳賀さんが主催した「サイエンスキッズ」に小学1年のとき参加したことも科学にハマるきっかけになった。

現代の「適塾」目指す

カフェの営業は木曜から日曜までの週4日。休業日の月・火・水の3日間で学校から出される1週間分の課題を済ます。自分のペースで学べる通信制だからこそ可能になる活動だ。島本さんにとってカフェは「大きな実験場」だ。「自分で何かを考えるのは楽しい」。得意な科学を通じて「自分で考えることの大切さ、面白さを伝えたい」と意気込む。

目指すのは、幕末の医師で蘭学者の緒方洪庵が開いた「適塾」だ。「来る人がやりたいものを持ち寄って、自由に学べる場」を作りたい。

適塾は、1838年に洪庵が大阪で始めた私塾で、全国から集まった1000人以上の若者が、医学を中心に世界情勢や語学と幅広い分野を学び合った。福沢諭吉や橋本左内、大鳥圭介など、幕末から明治の世で活躍した多くの人物を排出したことで知られている。

フェルミ・カフェでは簡単な科学の実験や工作なども準備している

昨年6月に島本さんは、カフェの前身となる出張科学教室「叶えの科学教室」をつくば市でスタートさせた。初回の講座は市内の不登校支援イベントで開いた出張教室だ。野菜の色素を分離すると「おもしろい」と参加者から声が上がった。丸いケーキを7等分する方法を参加者同士で考え合うイベントも盛り上がった。地域の小学生向けに医療や科学の出張授業を開く元薬剤師の母親とも「コラボ」し、つくば市内の公民館、小・中学校で開いた講座は1年間で10数回を数える。自分が考えた企画を多くの人が面白がってくれたり、熱心に質問してくれたときに楽しさを感じ、豊かな気持ちになったと話す。

「学ぶことは楽しいことだし、人生を楽しく生きるためには知恵が必要。知っているのと知らないのでは人生の選択肢の幅が違ってくる。一人でも多くの人に、その面白さを知ってほしいし、学習の仕方を身につけて自分でゴールに行く力を身につけて欲しい」

夢は全国展開

夢はフェルミカフェの全国展開。「お店には、そこに通う人の間でコミュニティができる。各地にできれば互いに交流し合って出会いを広げることができる。私も色々な人との出会いがあって、今の自分があると思っている」。

「未就学の子どもから100歳まで、色々な人に来てほしい。私が得意なのは科学と心理学。でも、やりたいものを持ち寄って自由に学び合える場にしたい。勉強が楽しくないと思っている人を減らせたら」

カフェの名前の由来は、1938年にノーベル物理学賞を受賞したイタリアの物理学者エンリコ・フェルミだ。統計力学、量子力学、原子核物理学と多様な分野で顕著な業績を残した彼から、「沢山実行に移せる人が増えるといい」という思いを込めた。

いきいきと、やりたいことを語る島本さんが新たな一歩を踏み出す。(柴田大輔)

◆フェルミカフェはつくば市上広岡407-1、ボードゲームショプ・フライヤー1階。営業は、木・金が午前10時から午後3時、土・日・祝が午前10時から午後5時まで。月・火・水は休業。料金は1時間、大人500円、学生300円、1日利用は大人3000円、学生1800円。月間パスもあり。利用者は時間内に紅茶とお菓子を自由に飲食できる。料金に工作・実験などの利用料も含まれる。5月3日(金)は正午から軽食付きのオープニングパーティーが開催される。詳細は同店ホームページへ。

➡NEWSつくばが取材活動を継続するためには皆様のご支援が必要です。NEWSつくばの賛助会員になって活動を支援してください。詳しくはこちら

3 コメント

コメントをメールに通知
次のコメントを通知:
guest
最近NEWSつくばのコメント欄が荒れていると指摘を受けます。NEWSつくばはプライバシーポリシーで基準を明示した上で、誹謗中傷によって個人の名誉を侵害したり、営業を妨害したり、差別を助長する投稿を削除して参りました。
今回、削除機能をより強化するため、誹謗中傷等を繰り返した投稿者に対しては、NEWSつくばにコメントを投稿できないようにします。さらにコメント欄が荒れるのを防ぐため、1つの記事に投稿できる回数を1人3回までに制限します。ご協力をお願いします。

NEWSつくばは誹謗中傷等を防ぐためコメント投稿を1記事当たり3回までに制限して参りましたが、2月1日から新たに「認定コメンテーター」制度を創設し、登録者を募集します。認定コメンテーターには氏名と顔写真を表示してコメントしていただき、投稿の回数制限は設けません。希望者は氏名、住所を記載し、顔写真を添付の上、info@newstsukuba.jp宛て登録をお願いします。

3 Comments
フィードバック
すべてのコメントを見る
スポンサー
一誠商事
tlc
sekisho




spot_img

最近のコメント

最新記事

県「学級増必要な状況でない」 竹園高2学級増求め つくば市議長、意見書手渡す 

つくば市議会が6月定例会議で、県立竹園高校の募集定員を8学級から10学級に増やすことを知事に求める意見書を全会一致で可決したことを受けて(6月27日付)、黒田健祐市議会議長らは4日、県庁を訪れ、庄司一裕県教育庁学校教育部長に意見書を手渡した。これに対し県高校教育課高校教育改革推進室の片見徳太郎室長は「学級増が必要といえる状況ではない」と話し、竹園高の学級増に否定的な見解を示した。 片見室長は「県全体で5年後までに中学卒業者が2000人減少し、10年後までに5600人を超える減少が見込まれている。つくば市は2030年まで生徒数増が見込まれていることを承知しているが、県立高校改革プランを策定した際、子供たちにどのくらいの通学時間なら大丈夫かと聞いたところ、一番多かったのが1時間程度だった。つくば市周辺地域では、つくば市の増加分以上に生徒数が減少すると推計している(24年10月24日付)。今年度はつくばサイエンス高校に普通科を設置し大学進学を打ち出して、志をもった中学生にたくさん入ってきていただいたが、サイエンス高校と筑波高校併せてまだ117人の欠員がある。県としてはサイエンス高校と筑波高校の欠員解消を中心に取り組んでおり、学級増が必要といえる状況ではない)と話した。 「落としどころ見いだしたい」 4日は、つくば市議会の意見書提出と併せて、市民団体「つくば市の小中学生の高校進学を考える会」の片岡英明代表が、同じ竹園高校の2学級増を求める要望書を手渡した。ほかに、篠塚英司つくば市副市長、つくば市選出の鈴木将、山本美和、うののぶこ、ヘイズ・ジョン県議4人らが同席した。 黒田議長は「(2013年に県立並木高校が閉校し並木中等教育学校に移行した後の)10年ほど前から『ちょうどいい県立高校の受け皿がない』といった声が出て、ここ最近、切実な声が大きくなっている。つくば市の県立高校は(中学卒業者数で比較し)水戸市の3分の1しかないというデータもある。市内には小中学校がたくさん新設されているが高校はそのまま。教育環境の充実は重要なこと」だなどと話し、理解を求めた。 これに対し県の庄司部長は「貴重なご意見としてお受けさせていただきたい」などと答えるにとどまった。 意見交換の席で、考える会の片岡代表は「(中高一貫により)土浦一高が(高校入試の募集枠が)8学級から4学級になって1年目の2024年は、県立高校志願者の波が土浦二高と竹園高に行き、両校とも志願者が100人以上オーバーした。2年目の25年は牛久栄進高校の志願者が137人オーバーになった。この波は2026年にどこに向かうのか。受け皿はあるのか」と迫り「県立高校改革プランに沿って学級増をやってほしい。オールつくばの願いを受け止めてほしい」と要望した。 同席した県議からは「子供たちのために何ができるか、ぶつかり合いながらも落としどころを見いだしていきたい」(山本県議)などの意見が出された。(鈴木宏子)

二十四節季と虫のはなし《続・平熱日記》182

【コラム・斉藤裕之】夏草の生い茂る季節となり、件(くだん)の打ちっぱなしゴルフ場の草刈りに出かける。ついでにナラ枯れの木を数本伐る(確実にナラ枯れは進行している)。そのうちの1本は直径60センチの大きなクヌギで、確か一昨年あたりはカブトムシが群がっていたのを見たのだけれども、かわいそうに新芽もつけずに立ち枯れてしまった。 開けた斜面に立っていたので、伐り倒すのはそう大変ではなかったが、このクヌギの皮一枚下には恐らくカミキリムシの幼虫がはびこっていて、玉切りにした幹から何とも言えない「ワシワシ…」という幼虫のはみ音らしきものが聞こえ、それを割って薪(まき)にして積んでいくと、不気味な音のする壁となった(この幼虫は県が指定している特定外来種ではないようだ)。 しかし、一方では世界中で昆虫がどんどん減っていて、例えばミツバチの減少で草木が受粉できないで困っているとか。とはいえ、我が家では今年も軒下にテニスボールほどのスズメバチの巣を発見したので、人間様のご都合で叩き落した。多分周りはツルツルしたサイディングのお宅ばかりなので、木造の我が家の軒下は巣をかけやすいのだろう。 昔の人は(中国の人は)小さな動く生き物は大ざっぱに虫としたようだ。トカゲやコウモリも虫偏(むしへん)だし、虹も小さな虫の仕業だと思っていたらしい。 最近は聞かなくなったが、赤ちゃんが泣いているのは疳(かん)の虫のせいだなんて言っていたし、虫の居所が悪いとか、目に見えないものの犯人は虫ということにしたのだろう。というのも、パクの目の周りが急に赤くなって医者に連れて行ったらアレルギーだと言われた。飲み薬と塗り薬でよくなったが、昔だったらアレルギーも虫の仕業だと思われたに違いないと思った。 カエルも虫偏? 平熱日記の掲載が月に一度になった。隔週の寄稿が長く習慣になっていたせいか、せっかちな私はあまり早く原稿を書いてしまうと、掲載されるころには季節も世の中の話題も変わっていてやや戸惑っている。 そういえば、2週間をひとつの区切りとする「二十四節季」というのがある(これも大陸経由)ことを思い出した。今まであまり気にしたことはなかったけれども、2週間という長さは何となくひと区切りになる「ちょうどいい周期」なのかもしれない。してみると、草が勢いよく伸び始めたとか、蜂が巣をかけたとかというのは五日毎の七十二候に当たるわけで、はて、私は知らぬうちにこのペースで絵を描いているような気もしてきた。 農作業とも深いつながりのある二十四節季。ひと月前には備蓄米を喜々として手にする人々の画像が流れていたが、よくよく考えてみると米もガソリンも高いから怒っているのではなくて、本来は安いはずのものが高く売られていることに人々の腹の虫は収まらないのだと思う。 パクとの散歩道にある田んぼは、今年とうとう田植えをしまずじまいだ。雨の後などはケチャダンスのようにカエルの大合唱だけが勢いよく響いている。「コメ、カエル? カワズ? ケロケロ…」。カエルも虫偏だな…。(画家)

筑波実験植物園で倒木30本超 1日、35メートルの突風で被害

ダウンバーストかガストフロント 水戸気象台 つくば市が豪雨や雷に見舞われた1日午後、同市柴崎付近で突風が発生した。水戸地方気象台は3日、現地調査を実施し、4日、突風について、ダウンバーストまたはガストフロントの可能性が高いと発表した。突風の強さは秒速約35メートルだったと推定されるという。 発表によると、1日午後4時30分ごろ同市柴崎付近で、豪雨やひょうに伴って突風が発生し、木造住宅の損壊、作業用足場の損壊、倒木などの被害が発生した。同市天久保の筑波実験植物園では樹木30本以上が倒れたり折れたりした。 ダウンバーストは積乱雲から吹き降ろす下降気流が地表に衝突して水平に吹きだす激しい空気の流れ。ガストフロントは積乱雲の下で形成された冷たく重い空気の塊が、重みによって、温かく軽い空気の側に流れ出すことによって発生する空気の流れ。柴崎付近の被害は面的に発生し、突風の強さは、0~5まで6段階で評価する「日本版改良藤田スケール」で、最も小さい0階級(JEF0)という。 全て東から西に倒れる つくば市天久保、国立科学博物館 筑波実験植物園の遊川知久園長によると、雨が降り始めたのは1日午後4時30分ごろ。瞬く間に激しさを増す雨が窓を打ちつけ、建物全体が揺れるような落雷の音が響き渡ったという。同施設内の研究管理棟にいた広報の久保田美咲さんは「全く外に出られないくらいの大雨で、あっという間に屋外が川のようになっていた。帰れないかと思った」と話す。その後、午後5時15分ごろまでに雨は小降りになった。 園内では展示室の一部でガラス窓が割れ、敷地内の東側周辺部を中心に、高さ15メートルほどのモミや、コウヤマキなど30本以上が根本から倒れたり、幹が割れるなどしているのが確認された。折れた木は全て、東から西に向けて倒れていた。 遊川園長は、「台風などで1、2本の木が折れることはあったが、一度にこれだけ倒れたのは初めてのこと。敷地に隣接する住宅に倒れなかったのは風向きが幸いした」とし、「来場者出入りのある主だった部分では倒壊した木々の除去は進んでいる。遊歩道から離れた箇所についてはこれから順次、除去作業を進めていく」と話す。 同市消防本部によると1日午後は、突風の被害やけがなどによる救急車や消防車などの出動要請は無かったという。市危機管理課によると柴崎で2カ所、金田、玉取、今鹿嶋でそれぞれ1カ所倒木の被害があった。市公園・施設課によると筑波実験植物園近くの山鳩公園(同市天久保)のほか、流星台北公園(柴崎)、松見公園(天久保)、天久保公園(同)で各1本、倒木の被害があり、4日までに撤去した。(鈴木宏子、柴田大輔)

常総だから勝たなきゃではなく歴史つくるチームに 島田直也監督【高校野球展望’25】㊦

県内強豪校の名監督インタビュー最終回は、常総学院の島田直也監督。第107回高校野球選手権茨城大会開幕を控え、チームの仕上がりや手応えをお聞きした。 低めの投げ分けがうまい ―今年のチームについて教えてください。昨年と比較してどのような特徴を持っていますか? 島田 昨年は投手力、打撃力、守備力ともに個々の力が高かったのですが、今年は全体的に力が落ちます。投手も野手も、調子の良い選手を見極めながら起用しています。 ―投打の中心となる小澤頼人投手についてですが、秋は最速145キロをマークしながら、春は球速がやや落ちていた印象です。 島田 球速を求めすぎるとフォームが崩れ、コントロールが乱れてしまいます。春の大会ではその点を意識して、あえてコントロール重視で投げていたと思います。土台ができれば球速は自然と戻るもの。鋭いキレのあるボールを意識してほしいと伝えています。 ―春の大会ではインコースとアウトコースの投げ分けが非常に効果的に見えました。 島田 そこが彼の持ち味です。低めへの投げ分けが非常にうまい。関東大会では少し高めに浮いて打たれましたが、夏に向けては修正して臨みます。 ―打撃陣では佐藤剛希選手と柳光璃青選手が印象的でした。 島田 調子を落とした選手がいる中で、この2人がしっかりとカバーしてくれました。小澤と佐藤剛希は昨年メンバー入りしており、今年の中心選手です。柳光も力がありましたがけがでメンバー入りできず、今年こそはチームを引っ張ってくれると期待しています。 次の代のチームつくる難しさ実感 若手の育成と課題 ―春の県大会では1年生の出場も目立ちました。 島田 将来を見据えて、若い選手に経験を積ませました。上級生にも刺激になったと思います。 ―秋・春の戦いを経て見えてきた課題は? 島田 実力ある代の次にチームをつくる難しさを改めて実感しました。監督1年目だった「大川・秋本・田邊世代」のあとも、結果が出なかった。今回も似たような状況で、最初は秋に勝てる気がしませんでした。ですが、そこからチームがまとまり、秋に4強まで進出できたのは大きかったですね。 ―春は県大会3連覇を達成されました。 島田 3年生たちは1年時から優勝の景色しか見ていません。「3連覇を君たちの代で止めるのか」とプレッシャーをかけながら臨みました。達成できたことは大きな自信になると思います。 ―関東大会では東海大相模に大敗。受け止めを教えてください。 島田 強豪校との対戦で悔しさを経験できたことは、選手たちにとってプラスでした。練習に対する姿勢も変わってきたと感じています。 自分の強みアピールしていた ―夏の組み合わせ抽選についていかがですか。 島田 Aシードでしたので抽選はありませんでしたが、会場で結果を見ていて童心に戻りました。「さあ、やるぞ」と気持ちが引き締まりました。 ―これまで出会った指導者の中で、影響を受けた方はいますか? 島田 プロ4球団、独立リーグでも8年やってきましたが、特定の誰かというより、出会ってきた多くの指導者から良い部分を吸収してきたと感じています。 ―ご自身の高校時代を振り返って、どんな選手でしたか? 島田 「絶対負けない」という強い気持ちを持っていました。与えられたチャンスは必ずものにするつもりで、自分の強み(肩・足)をとにかくアピールしていました。 ―今の選手たちとの違いは? 島田 最近の選手は「どうしたら使ってもらえるか」を考える力が弱く、自主練でも好きなバッティングばかり。私は「守備や走塁、バントでベンチ入りできる」と伝えているのですが、なかなか行動に移す選手が少ない。逆に、過去には自己プロデュース力でベンチ入りをつかんだ選手もいました。社会に出ても大事な力ですので、今のうちから身につけてほしいです。 「常総学院の使命」転換点に ―常総学院は夏の甲子園から9年遠ざかっています。そのプレッシャーは? 島田 「常総は勝って当然」という空気が、選手にとってプレッシャーになっていると感じています。これまでは「気にするな」と言ってきましたが、今年は「楽しもう」という方向に意識を変えたいと思っています。 ―「楽しむ」とは、どのような意味ですか? 島田 緊張感の中での本気の楽しさです。その感覚があれば自然と力が出せると考えています。 ―センバツよりも「夏」にこだわりがあるということでしょうか。 島田 やはり「夏の常総」が周囲からの評価にも直結します。「甲子園で勝つ」ではなく、まずは「茨城を勝ち抜く」。そこに焦点を置いています。 ―最後に、今年のチームに期待することを教えてください。 島田 「常総だから勝たなきゃ」ではなく、「自分たちが歴史をつくる」という意識を持って戦ってほしいです。甲子園出場はゴールではなく、その過程で得る経験こそが大きな財産。今年は、常総学院としても大きな“転換点”になる予感がしています。 【取材後記】過去4年間、夏を前にしたタイミングで島田監督に話をうかがってきたが、今年のインタビューではこれまでと少し違う空気を感じた。かつては「今年こそ」という悲壮感がどこかに漂っていたが、今回はむしろ“開き直り”にも似た落ち着きと、確かな覚悟が伝わってきた。選手たちに求めるのは「結果」ではなく「本気の中で楽しむ」こと。そこに、勝ち負けを超えた野球の本質がある。名門・常総学院の重圧を背負いながらも、今あるチームの可能性を信じて進む監督の姿は、頼もしくもあり、まさに“歴史をつくる”旅の先頭に立つ存在だった。今年こそ、夏の常総に新たな物語が刻まれるかもしれない。その瞬間の目撃者でありたい。素直に、そう思わせてくれる取材だった。(伊達康) 終わり