金曜日, 7月 24, 2026
ホームコラム黒い心 《短いおはなし》17

黒い心 《短いおはなし》17

【ノベル・伊東葎花】
5歳の夏、弟が生まれた。僕は一週間、伯母の家に預けられた。
伯母は古い一軒家に、ひとりで住んでいた。
慣れない家で眠れずにいたら、天井に黒いシミが現れた。
シミはどんどん大きくなり、やがて液体になって僕の額にポトリと落ちた。
悲鳴を上げたら伯母が飛んできて、背中を優しくなでてくれた。
黒いシミが、じわじわと体の中に入る気がした。

母と弟が退院して、僕は家に帰った。
「卓ちゃんは、お兄ちゃんになったのよ」
母はその日から弟の世話ばかりで、僕は甘えることができなくなった。
ある日僕は、心の中で念じてみた。
「弟なんか消えてしまえ」
すると翌日、弟は高熱にうなされて、生死の境をさまよった。
僕は怖くなり、命を取りとめた弟に何度も謝った。

小学生になり、僕は自分の力を確信した。
いじめっ子に「消えてしまえ」と念じたら、翌日交通事故で入院した。
嫌な先生に「消えてしまえ」と念じたら、翌日不祥事を起こして学校をやめた。
宿題が終わらなくて「学校なんか燃えてしまえ」と念じたら、ボヤ騒ぎが起きて3日間休校になった。
僕は自分の心が怖くなって、念じることを一切やめた。

12歳になった夏、母が原因不明の病気で入院した。
僕は弟と一緒に、再び伯母の家に預けられた。
伯母は僕にだけ、異常なほど優しかった。
弟が寝た後、伯母が僕の顔をのぞき込んで言った。
「ねえ卓ちゃん、伯母さんの子供にならない?」
伯母は、嫁いですぐに夫を亡くして子供がいない。寂しいのは分かる。
だけど僕は、すぐに首を横に振った。

「伯母さん、僕はこの家が怖い。だからこの家の子にはならないよ」
僕は、あのシミを見た夜のことや、その後に起きた不思議な力の話を打ち明けた。
「なんだ。卓ちゃんもそうなの。実は伯母さんにも、その力があるのよ」
伯母は、嫁いで間もないころ、僕と同じ経験をしたそうだ。
「でも、卓ちゃんの念はちょっと弱いね。優しい子だから、本当に消すことは出来ないのね。伯母さんの念は強いよ。意地悪な姑(しゅうと)と小姑、ふがいないダンナ、みんな消しちゃった」
伯母はさらりと言った。笑みさえ浮かべている。

「伯母さん、まさかお母さんに何かした?」
「ふふ、卓ちゃんが欲しいって言ったら断られちゃったから、ちょっと嫌がらせ。ねえ卓ちゃん、私がもっと強く念じたら、あんたのお母さん、どうなるかな」
「やめて」
「ねえ卓ちゃん、伯母さんの子になって」
伯母が手首をぎゅっとつかんだ。やめて、痛いよ、やめて。

伯母の手が急に離れたと思ったら、胸を押さえて苦しみだした。
「えっ、伯母さん?」
伯母の呼吸が止まった。僕は念じていない。僕じゃない。

後ろの襖がすうっと開いた。弟が立っていた。
「ぼく、この伯母ちゃんキライ」
弟の額には、黒いシミがべったりと付いていた。(作家)

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世界一臭い花 ショクダイオオコンニャクが開花 筑波実験植物園

独特の悪臭を放ち世界一臭い花といわれるインドネシア・スマトラ島原産のショクダイオオコンニャクが23日、つくば市天久保、国立科学博物館 筑波実験植物園(遊川知久園長)で開花した。見頃は2~3日で、その後は枯れてしまう。 この株が開花するのは同園で7回目。2023年に開花し人工授粉によって実を付けて以来の開花となる。実を付けたら枯れてしまうことが多い中、結実後に開花したのは日本で初めて。世界でも珍しいという。 世界で最も大きな花の一つで、23日開花した花は、高さ2メートル38センチ、直径は93センチ。世界最大の花として、高さ3.1メートルのものがギネスブックに登録されている。 開花後、ろうそくのような突き出た部分を発熱させて、食べ物が腐ったような臭いを放つ。本来、夜に開花し、昼は花びらの役割をする花序(かじょ)を閉じる。開花中の深夜、独特の臭いを1キロ先まで発散させて、昆虫や動物の死骸をえさにする夜行性の甲虫、シデムシをおびき寄せる。花序(かじょ)の内側に雌花と雄花の集まりがあり、シデムシの体に花粉を付けて媒介させる。 しかし同園での今回の開花は昼夜逆転となり、23日午前7時ごろ出勤した職員が、開花が始まっているのに気付いた。朝方に開花が始まったのは同園で初めて。今回なぜ朝開花したのか、原因は分からないという。ただし、昼夜逆転により、来園者は今回初めて、開花した状態を見ることができる。 独特の強烈な臭いは、今回、昼夜逆転の影響なのか、「今年の臭いは本来より弱め」だと同園育成員の小林弘美さん。「いつもは服ににおいが染み付くぐらい臭い」という。 ショクダイオオコンニャクは絶滅危惧種で、原産地のスマトラ島では、限られた森の中だけに生える。今回開花した株は、2006年に東京大学の小石川植物園(東京都文京区)から譲渡を受けた。筑波実験植物園ではこれまで2012年5月に初めて開花して以降、2~3年に1度、計7回開花している。同実験植物園では、京都府立植物園(京都市)から譲り受けた別の株も2023年と25年に2回開花しており、ショクダイオオコンニャクの開花は筑波実験植物園で9回目となる。 展示している熱帯雨林温室には、開花中のショクダイオオコンニャクと合わせて、タイ原産の高さ約7.5センチの世界一小さいコンニャクの花も展示している。遊川園長は「世界最小のコンニャクも日本ではほとんど咲いたことがない希少種。どういう虫に花粉を運んでもらうかという進化の過程で、こんなにも変わる。両極端の個体を同時に見てほしい」と話す。(鈴木宏子) ◆開花中のショクダイオオコンニャクは、つくば市天久保4-1-1 国立博物館 筑波実験植物園 熱帯雨林温室内で25日(土)か26日(日)ごろまで見ることができる。開花に合わせて同園は24日(金)の開園時間を通常より30分早めて午前8時30分から開園する。閉園時間は90分延長し、午後6時30分に閉園する(入場は午後6時まで)。通常の開園時間は午前9時から午後4時30分(入場は午後4時まで)。入園料は一般・大学生320円、小中高校生と65歳以上、障害者などは無料。