木曜日, 5月 16, 2024
ホームコラム交通手段の利便性と多様性:地方高齢者の観点から《文京町便り》18

交通手段の利便性と多様性:地方高齢者の観点から《文京町便り》18

【コラム・原田博夫】近頃、高齢ドライバーによる自動車事故多発が報じられる。高齢ドライバーの認知症検査の厳格化や、運転免許証返上も促されている。

しかし、交通事故を起こした高齢ドライバーの(平均的な)言い訳としては、自分の近年の運動神経や反射機能(の低下)には不安を感じないでもないが、自分の日常生活でマイカー運転は不可避・不可欠だ、だから運転免許証も手放せず、(結果的に事故を起こした)この時もいつものようにマイカー運転を続けていたのだ、ということだろう。この感覚・認識は、現役を退き故郷に戻って生活している私にも、実感としてわかる。

私が評議員を務める日本計画行政学会の年次総会での公開シンポジウムが、2023年6月17日、都内の大学で開催された。テーマは「国土計画の今と今後の在り方」だった。登壇した講演者は、国土交通省(2001年1月の中央省庁再編後は官房長を含めて14の局長を抱える巨大官庁)の担当局長(現・国土政策局長、元・国土計画局長)の現職・元職、さらには国土審議会の中核メンバーなどだった。

このシンポジウムでの基本的な問題意識は、かつての全国総合開発計画から国土形成計画法を経て、21世紀前半の全国の国土整備をどのように進めるべきか―というものだった。

そもそも全国総合開発計画は、法律それ自体は1950年に公布されていたが、池田内閣の国民所得倍増計画(1960年)策定を受けて、1962年10月に第1次(全総、一全総とも略される)が閣議決定されてから、1998年の「21世紀の国土のグランドデザイン」まで、5次にわたって約10年ごとに策定されてきた。

しかし、中央省庁再編も経て、それまでの開発中心主義からの転換を目指して、新たな国土形成計画(全国計画)が2008年と2015年に策定されている。現在は第3次計画の公表に向けての最終段階である。

「シルバー民主主義」が成立していない

「中間とりまとめ」(2022年7月公表)によると、国土の現在の課題に対する令和版の解決の原理は、①民の力を最大限発揮する官民共創、②デジタルの徹底活用、③生活者・事業者の利便の最適化、④横串の発想―で、検討されている重点分野は、(1)地域生活圏、(2)スーパー・メガリージョンの深化、(3)令和の産業再配置、(4)国土利用計画―だそうである。

私には、この計画策定にかかわっている関係者の説明は、全国で展開しているさまざまな課題に対してDX(デジタルトランスフォーメーション)に代表される新機軸を取り入れその全国展開を図ろう、という(旧来型の)スタンスの継承、と受け止められた。そこで私は、地方在住の年金生活者の立場からは、新機軸の安易な押し付けではなく、旧来型のシステム・技術体系の使い勝手の改善を心掛けてほしい―と質問・問いかけた。

具体的には、バスの使い勝手が悪いのは、その運行が時刻表とは乖離(かいり)していること。運行本数も多く経営規模も確かな大都市部では、近年、バスの運行状況はバス停ごとに確認できるようになっているが、本来バス利用への依存性が高いはずの地方圏ではそうしたサービスが未整備のままである。

こうした利用者の現在のニーズを無視して、5~10年先のバラ色を披露されても、地方在住の年金生活者には当面の課題解決には至らず現実的とは思えない。こうした計画策定のプロセスや方向性を見ると、とても「シルバー民主主義」が成立しているとは思えない。高齢者の運転免許証返上が進まない所以(ゆえん)でもある。(専修大学名誉教授)

➡NEWSつくばが取材活動を継続するためには皆様のご支援が必要です。NEWSつくばの賛助会員になって活動を支援してください。詳しくはこちら

1コメント

コメントをメールに通知
次のコメントを通知:
guest
最近NEWSつくばのコメント欄が荒れていると指摘を受けます。NEWSつくばはプライバシーポリシーで基準を明示した上で、誹謗中傷によって個人の名誉を侵害したり、営業を妨害したり、差別を助長する投稿を削除して参りました。
今回、削除機能をより強化するため、誹謗中傷等を繰り返した投稿者に対しては、NEWSつくばにコメントを投稿できないようにします。さらにコメント欄が荒れるのを防ぐため、1つの記事に投稿できる回数を1人3回までに制限します。ご協力をお願いします。

NEWSつくばは誹謗中傷等を防ぐためコメント投稿を1記事当たり3回までに制限して参りましたが、2月1日から新たに「認定コメンテーター」制度を創設し、登録者を募集します。認定コメンテーターには氏名と顔写真を表示してコメントしていただき、投稿の回数制限は設けません。希望者は氏名、住所を記載し、顔写真を添付の上、info@newstsukuba.jp宛て登録をお願いします。

1 Comment
フィードバック
すべてのコメントを見る
スポンサー
一誠商事
tlc
sekisho




spot_img
spot_img

最近のコメント

最新記事

「死が遠ざかった」今の時代《看取り医者は見た!》19

【コラム・平野国美】今、週刊誌の表紙を見ると、「飲んではいけない薬」とか「老後の問題」といった医療介護関係の話題が必ず出ています。特に、毎週月曜日に発売される2つの週刊誌はこれらが必須の記事になっています。昭和や平成のころは、こういった記事はほとんどなく、「新橋の居酒屋情報」とか「買ってはいけないマンション」といった記事が多かったのですが…。 私も、『看取りの医者』(2009年、小学館)を出版した後、よくそういった内容の記事依頼を受けました。あるとき、「こんなに毎週、病気や死ぬ話ばかり出していて、いいの?」と編集者に尋ねたことがあります。 答えは「読者層が昭和、平成から変わらないようで、60~70代がメーンなのです。彼らが現役のときは、飲み屋や旅行、家や車の購入方法が関心事でしたが、今の最大の関心は病気や死ですから、そういった話を盛り込まないと売れません。グラビアも、現代の女優やアイドルではだめで、昭和のスターを出さないと…」でした。 「顔に白い布」を見ていた日常 今は「多死社会」と言われる時代ですが、この分野は誰にも未知の世界です。それゆえに、恐怖を感じるのでしょう。 親との同居が当たり前だった大家族時代には、祖父や祖母、もっと言えば曽祖父が同居しており、腰が曲がり、寝たきりとなり、顔に白い布がかかる日を日常の生活で見ていました。その過程に家族として寄り添うことで、現実として受け止めていました。しかし、核家族化の今の時代、病人や高齢者が同居しておらず、リアリティが消失しているのです。 今年の春は気象予報が立てにくく、桜の開花予想が大きく外れました。桜の名所で満開を期待してきた外国人旅行客が「満開かと思ってきたら、もう葉もなく、枯れ枝ではないか」と話していました。そこの桜はまだ蕾さえ小さく、開花前なのですが、日本の桜を見慣れていない彼らには、花どころか葉さえ散ったように見えたのでしょう。 ドラマの中の死だけでは現実味がなく、心に痛みが伴わぬものです。普段から現実を見ることが大切だと思います。昔の地域共同体では共同で葬式を出していました。近所の家での看取りを通し、死を感じることができた時代でした。死は私にも恐怖ですが、仕事ですから私には日常です。自分の親の死に際にしても、周囲に鈍感と思われるほど淡々としていました。自分の人格を疑われるのではないかと思ったほどです。(訪問診療医師)

ハクレンの大量遡上始まる 桜川 つくば 松塚の堰 

15日朝、桜川 松塚の堰(つくば市松塚)に、ハクレンが大量に遡上したのを桜川漁業協同組合(鈴木清次組合長)が確認した。朝は水面が真っ黒になるほどだった。大量遡上が確認されたのは今年初めて。夕方には、朝より数は半分ほど減ったものの多くのハクレンが見られ、背びれを水面にのぞかせて泳ぐ様子に、川辺で農作業をしていた近隣住民も驚いていた。 ハクレンジャンプと言われる集団跳躍行動はまだ見られず、何匹かが堰を上ろうとジャンプする様子が観察された。堰を上りきれず浅瀬にジャンプし、岸に打ち上げられたハクレンも5、6匹見られた。 年々遡上する数が増加 桜川漁協の鈴木組合長によると、ハクレンが桜川に大量に遡上し始めたのは3年前からで、年々遡上する数が増えている。「おとといの13日、雨が降ったので桜川が増水し産卵のために上ってきた。今日は松塚の堰はそれほど水が多くない。松塚の堰を上ったハクレンは(さらに上流の)田土部堰(たどべぜき)が閉まっているのでこれ以上は行けず、ここにとどまったり戻ったりしながらジャンプしている。前は利根川のハクレンジャンプが有名だったが、最近は桜川でも見られるようになった」と話す。 20時間で稚魚になり霞ケ浦へ ハクレンは、1匹のメスに数匹のオスが寄り添って産卵と受精が行われる。受精した卵は下流に流されながら、20時間ほどでふ化して稚魚になるという。鈴木組合長は「3年前には霞ケ浦のワカサギ漁の網にハクレンの稚魚が大量に入り、ハクレンとワカサギをより分けるのが大変だったという話を聞いている」と話し、「去年も今年もワカサギはあまり獲れないと聞く。このままではハクレンばっかりになってしまう」と懸念する。 ハクレンは中国原産の外来魚で、成魚の体長が100センチ、重さが10キロほどになる大型魚。アオコなどの植物プランクトンを餌としている。産卵期が5月から7月で、この時期に集団跳躍をする習性がある。産卵は、産卵日の前日や前々日が雨天で、川の水量が増加した早朝から行われる傾向があるという。 昨年5月には田土部堰でハクレンの大量酸欠死が発見され(23年5月27日付)、6月初めには台風の影響による増水で大量の死骸が霞ケ浦に流される事態が発生した(23年6月2日付)。(田中めぐみ) https://youtu.be/mEdw6IGQxy4

県内の生産は低位推移 消費は緩やかに回復【筑波総研リポート】

筑波銀行グループの筑波総研が15日まとめた「茨城県経済の現状と展望」によると、2月の鉱工業指数(2020年=100、季節調整済み)は106.9と、前月比3.5%上昇したものの、低位の水準で推移している。中国経済の減速などを要因に、自動車や建設機械、半導体関連の生産が減少しており、生産活動には弱さが見られるという。 3月の大型家電店販売は大幅増 個人消費は一部に弱さが見られるものの、全体としては緩やかに回復している。3月の販売額を分野別に見ると、百貨店・スーパーは前年同月比5.2%、家電大型専門店は同23.0%、ドラッグストアは同5.6%、ホームセンターは同5.7%の各プラス。コンビニエンスストアは同0.2%マイナスだった。 筑波総研の担当者は「県内のサービス業の声を聞くと、物価上昇で節約志向がうかがえる一方で、宿泊や小売りは良くなっており、個人消費は緩やかに回復している」という。 空港国内旅客はコロナ前水準に 茨城空港の3月の国内旅客数(定期便)は6万650人になり、コロナ禍前の水準に戻っている。しかし、国際線旅客数(定期便)は2081人と回復が遅れている。「台北便は昨年から運行を再開したが、上海便は5月末まで運休、西安便も10月下旬まで運休が続く」ことがその背景。 コロナ禍でクルーズ船の寄港がほぼストップしていたが、県の誘致戦略もあり、今年度は国内船・外国船とも寄港数が増えそうだ。筑波総研が作成した寄港一覧によると、11隻が予定されている。(岩田大志)

5年ぶり200人規模に 18日 恒例の田植祭 JICA筑波

20年以上続く恒例行事の田植祭が18日、国際協力機構(JICA)筑波センター(つくば市高野台)内の水田で催される。当日は、JICA筑波で農業技術などを学ぶアフリカ、アジア、中南米からの研修員と地域住民が力を合わせて苗を手植えする。コロナ禍で2020年から2年間は開催が見送られ、昨年までは人数を制限して開催だった。今年は5年ぶりにコロナ前同様の200人規模での開催となる。 当日は「ネリカ米」を使ったエスニック料理の試食会もある。ネリカ米はアフリカの食糧事情改善を目的に開発され、JICAも品種開発と普及を支援する。 「日本は途上国を一方的に支援しているわけではなく、開発途上国に支えられている」とJICA筑波連携推進課の西岡美紀さん(38)はいう。食料自給率は4割未満。さらに近年は労働力人口の減少から、途上国とのつながりなしでは人手不足も解消できなくなりつつある。「田植祭の目的はJICA筑波の活動を知ってもらうと共に、交流を通じて、地域の方に日本と世界のつながりや途上国への関心を持ってもらうこと」だと話す。 つくばだからこそできる国際協力 全国に15カ所あるJICAの国内拠点の中でも特に農業に特化する筑波には、各国の政府機関や自治体から来る年間700人余りの研修員が、それぞれの国が抱える課題を解決しようとやってくる。各国の主要な作物について、品質や収量の向上、病害虫対策など、研修員は自国が直面する課題に対する実験計画を立て、日本の指導員と取り組み、最後にテクニカルレポートを作り上げて帰国する。 研修業務を担当する須田麻依子さん(45)は、近隣にある多様な専門機関と連携できるのがJICA筑波の特色だと話す。「つくばには、近距離に専門機関がたくさんある。気候変動を例にすると、農業分野でどう適応していくかを学びたい方がいれば農研機構の専門家にレクチャーしてもらうし、森林分野の問題では森林総研に最新の研究について講義をお願いする。筑波大の先生から海岸地域の気候変動対策に関するお話を伺い実際に施設を見せてもらうこともある。バスで15分も行けば専門家から直接レクチャーが受けられるのは国内でここだけ。オンラインで海外や日本全国の専門家と接続することは可能だが研修でしか学べないことがたくさんある」と話す。 道の駅を自国でオープン 近年は農業県である茨城の特色を生かし、自治体や農家を交えて多角的な視点で農作物に付加価値を付け、市場を広げる研修にも力を入れている。道の駅のアイデアを自国に持ち帰り、実際にオープンさせた例もあるという。 2020年からは研修員と、途上国での活動に関心を持つ企業や大学を結びつけるためのプロジェクト「農業共創ハブ」をスタートさせた。「企業にとっては現地の人の声を聞ける機会になり、研修員にとっても企業から話を聞くことは非常に有益。JICA筑波がハブとなり、日本の民間企業や大学と途上国のつながりが生まれるよう立ち上げた」と連携推進課の西岡さんは言う。 18日の田植祭は、交流を楽しみにする地元住民らから多数の応募があり、予定より早く募集を締め切った。 「アフリカでも若者の農業離れが進んでいると聞く。田植えは研修員にとっても日本人との貴重な交流の場。日本語を勉強している人もおり、地域の日本人との交流の機会になってよかったと言っている。双方向の文化の理解につなげたい」と西岡さんは企画への想いを語る。(柴田大輔) ◆田植祭は5月18日(土)午前10時40分から12時30分まで。場所はJICA筑波圃場内にらう水田で開催する。秋には収穫祭が予定され、例年9月に研修員と稲刈りを楽しみエスニック料理を食する。詳細はJICA筑波ホームページへ。