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情報戦争とオシント 《雑記録》38

【コラム・瀧田薫】7月16日付の毎日新聞に、「本社オシント新時代取材班がPEP・ジャーナリズム大賞を受賞」との記事が掲載された。「PEP」とは、「Policy Entrepreneur’s Platform」の略称で、一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブが立ち上げた日本発の政策起業家コミュニティーである。

そのホームページには、専門性、現場知、新視点をもって課題を発掘・検証する活動を支援し、公共政策プロセスへの国民1人1人の参画を促し、政策本位の政治熟議を生み出すことを目指すとある。

「オシント新時代取材班」の受賞理由は、オシントの技術を駆使して、報道内容の精度を高めたことと、フェイク・ニュースの欺瞞(ぎまん)性を積極的に暴こうとする「報道姿勢」にある。たとえば、ロシアと中国におけるサプライチェーンの動態を取材した「隠れ株主『中国』を可視化せよ AI駆使し10次取引先までチェック」(2021年12月)や「ロシア政府系メディア、ヤフー・コメント改ざん転載か 専門家工作の一環」(2022年1月)といった特集記事が高く評価された。

ところで、オシントとは「open-source intelligence」の略語であり、公開情報を検証する情報分析手法である。

2013年に、シリア政府軍による化学兵器使用疑惑が持ち上がったとき、1人のネットウォッチャーが攻撃の日に撮影された映像や画像をネット上で収集・検証し、どのような兵器がどこから来たかを突き止めた。兵器の正体は神経ガス・サリンを搭載できるソ連製M14型ロケットであること、さらに、ロケットがシリア軍の施設の方角から発射されたことまで明らかにした。これがオシントの事実上のデビューである。

「ベリングキャット」の衝撃

その後、このネットウォッチャーが立ち上げた独立系調査グループ「ベリングキャット」はウクライナ上空で撃墜されたマレーシア航空17便の事故を解明するなど実績を積み、最近はオシントの講座を開くなどの普及活動も展開している。

今回表彰された毎日新聞「オシント新時代取材班」のキャップ・八田浩輔氏もこの講習に参加し、そのときの体験を新聞紙上で紹介している(「ベリングキャットの衝撃」毎日新聞2020年2月6日付)。また、ベリングキャットの創始者E・ヒギンズ氏自身もオシントの現状を紹介している(『ウクライナ危機後の世界』宝島社新書)。

この書によると、ベリングキャットはロシアのウクライナ侵攻を調査中で、すでに多くの証拠がアーカイブ化されているという。将来、これがウクライナ紛争のアカウンタビリティ(説明責任)を果たすことになるだろう。

今後、AIを導入するなどして、オシントの存在感がさらに高まっていくものと期待される。旧来のジャーナリズムがオシントを取り込んで自らをどのように変えていくのか、また変えていけるのかどうか、見極める段階に来ているように思う。(茨城キリスト教大学名誉教授)

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解消が進まない所有者不明土地問題《文京町便り》27

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