スマホで遺跡を多方向からスキャンして3次元データを集め、市民参加の文化財保護に組み立てるという実証実験が26日、つくば市平沢の平沢官衙(かんが)遺跡で行われた。同市のSociety(ソサエティー)5.0社会実装トライアル支援事業の採択案件の一つで、筑波大学が遺跡管理を行うアプリ開発を目指して取り組んできた成果を五十嵐立青市長、森田充教育長らと市民一般に公開した。
実験は3Dスキャンアプリを使って遺跡のモニタリングをするトライアル。奈良・平安時代の筑波郡の役所跡で、国の史跡に指定されている平沢遺跡に復元された高床式倉庫など3棟の建物が対象になった。
スマホからミリ波レーザーを照射し、対象に当たって跳ね返ってくる時間をとらえ、スキャンデータを取得、撮影画像と合わせて3次元イメージに加工する。今回は、建築に使われている市販のアプリを使い、専門業者による詳細な計測データを集約することで、遺跡の最新状態を把握した。
参加者は、対象物を一筆書きでなぞるようにスキャニングする手順の説明を受け、貸与されたアプリ内蔵のスマホで思い思いのポジションで撮影に取り組んだ。平面の土地から高床式倉庫を見上げるように撮影しても、柱が垂直に並んで立ち上がる様子が立体的にとらえられた。
筑波大学芸術系の黒田乃生教授によれば、こうして多方面からスキャンされたデータを集積していくと、VR(バーチャルリアリティー)の形で多くが共有できる。文化財の保存状態の確認や新たな発見による書き変えが継続してできるという。
市民向けの公開に帯同した研究室メンバーは「遺跡の見方が『見物』から『観察』に切り替わり、楽しみ方も変わってくることで参加意欲も湧いてくるようだ」と手応えを語る。
五十嵐市長は「文化財をどう維持管理するかはコストも労力も大変だ。その作業に市民が参加する意義は大きい。市民の意識も変わってくるなら、どうかアプリ開発を加速させてほしい」と感想を述べた。
同市による今年度の支援事業はこれで一旦終了する。筑波大学側はこの先、アプリ開発を継続して進めるための実施主体と資金調達に見通しのついたものではないとしている。(相澤冬樹)