金曜日, 3月 7, 2025
ホームつくば「反対は一部」と民間一括売却 パブコメ受け最終方針 つくば市旧総合運動公園用地

「反対は一部」と民間一括売却 パブコメ受け最終方針 つくば市旧総合運動公園用地

つくば市が昨年示した旧総合運動公園用地(同市大穂、46ヘクタール)を民間に一括売却する案について、五十嵐立青市長は11日、パブリックコメント(パブコメ)などの結果を受けて最終決定した方針を、市議会高エネ研南側未利用地調査特別委員会(浜中勝美委員長)に説明した。「一部で反対もあったが、民間による敷地全体の一体的整備の考えは維持する」とし、民間一括売却に向け、今年春か夏にも開発事業者を公募し、2022年度内に売却するとした。

市の説明によると、昨年12月に3回開催した市民説明会には延べ76人が参加し、11、12月に実施したパブコメには77人から意見や提案があった。その内訳は、市の一括民間売却案に①明確に賛成が2人②反対ではなく具体的施設提案が57人③明確に反対が6人④反対し具体的施設提案が7人⑤方向性(賛否)が明確でないが5人だったとした。

その上で、②具体的施設提案の57人は、方針案に反対ではないとし、③明確に反対と④反対し具体的施設を提案を合わせると17%なのに対し、①明確に賛成と②具体的施設提案を合わせると77%になったとした。

その上で、市民から一部反対はあったが、過剰な公共投資をすべきでない、防災拠点など一部公共利用を図る、国や県から利用を求める声がない、取得費の負担や(現状のままでは)税収が見込めないなど財政的憂慮がある、市場性が高まり好機が到来していることなどから、民間に一括売却すると結論付けた。

さらに事業者公募の条件として、売却価格は利子を含む取得原価(68億5000万円)を基準とする、事業者が計画を守るよう10年間の買戻し特約を付けるなど、新たに条件を付けていくことを明らかにした。

一方、11日の特別委では、市民説明会での賛否の人数を明らかにしてないこと、パブコメで具体的施設を提案した57人を「方針案に反対ではない」とくくって、反対意見出ない人が77%だったと結論付けたことに対し、異論が出た。五十嵐市長は閉会後、記者団の質問に対し「(パブコメの結果を)意図的に曲げたり、誘導する意図はない」とした。(鈴木宏子)

11日開かれた市議会調査特別委員会

賛否の分析めぐり異議

【11日の特別委員会の主なやり取りは以下の通り】

飯岡宏之市議(自民党政清クラブ) 私が数えたところ市民説明会では76人のうち(民間一括売却案に)賛成は3人だったと思う。パブコメは明確な賛成は77人中2人しかいない。(市の方針と市民の意見が)乖離(かいり)しているのではないか。

五十嵐市長 市民説明会ではさまざまな意見があった。それを受け止めて方針を作成している。市民説明会で賛成が3人というのは飯岡議員の解釈だ。

橋本佳子市議(共産) パブコメ結果で、具体的施設を提案した57人は「(一括売却の)方針案に反対ではない」となっている。賛成でも反対でもどちらでもないのに、反対ではないと書くべきでない。

市課長 (57人は)一括売却に言及しているのではなく、こういった施設があったらいいなと具体的提案をしている。

山中真弓市議(共産) パブコメのどの意見を「方針案に反対ではなく具体的施設を提案した方」としたのか、具体的に明らかにすべき。

市長 さまざまな意見があった。(売却先の)事業者に取り入れてもらうためにこのように(市民からの提案施設という表に)した。

山中市議 議会は一括売却を提案してない。市民意見を取り入れるのであれば一括売却を白紙にすべき。

橋本市議 (何をつくるかという)基本のキが議論されないまま、売るのが前提なのは民主的やり方ではない。市の財産だという意識で長期的に考えるべき。

小森谷さやか市議(市民ネット) 議会が一括売却を提案したわけではないが、(一括売却を)妨げるというのでもない。一括売却すれば市民から提案が上がった施設ができないかというとそういうものではない。(市が)今持っている土地の中で検討していけばいい。(民間に一括売却した場合の)固定資産税の見込みはどうか。

市課長 (市に入ってくる固定資産税は)山林なら年5600万円程度、造成し雑種地にすれば6100万円、施設が立地すれば宅地になるので6100万円程度になる。建物の固定資産税は3億5000万円程度になり、計4億3000万円程度の固定資産税が毎年入ってくると見込んでいる。法人市民税と住民税を合わせて少なくも5億円程度になると見込んでいる。

小森谷市議 URがずっと持っていて50年間買い手が付かなかった土地。今が(売却の)千載一遇のチャンス。住民投票では8割が反対した。あの時の議論を思い出していただきたい。大きな箱モノをつくることに不安をもった。身近なスポーツ施設の改修や教育施設にお金をかけてほしいというのが住民の意見だった。8割の人が反対した理由をもう一度思い出していただきたい。

橋本市議 私たちも住民投票で反対をしたが、今回は、公のものを民間に売ってしまうということに対し、慎重に考えるべきだと言っている。市民の財産を、千載一遇のチャンスだからと一括売却してしまって本当にそれでいいのか。

川久保皆実市議(つくばチェンジチャレンジ) 防災多目的広場と災害用水源が有事のとき本当に使えるのか確認したい。広場と水源は民間が整備し、維持管理は市ということだが、使用貸借契約を結ぶのか。

市課長 今のところ協定。今後必要であれば契約締結も考えたい。

川久保市議 災害協定には一般に損害賠償がなくきちんと履行されるか疑問だが、損害賠償の規程があるところもある。

市課長 今後研究したい。

川久保市議 転売防止だが、会社法上の関連会社(に限定する)とするなどのルール付けをしているところもある。

市課長 そこまで考えてなかったので検討したい。

山本美和市議(公明) (特別委に出されたパブコメ意見を閉会後に回収するという当初の市の方針に対し)どんな意見が市民からあったのか分からない。市民から提案があった施設を表にしているが、どういう意見を反映させたのか、それはなぜなのか書いた資料を付けるべき。

市長 (市民提案施設の表は)市民の意思を形にして残し、事業者に見ていただいて(カフェやテニスコートなどの従たる施設として)この先、事業者に検討材料にしてもらおうと(表のような)まとめ方をした。載せないと何のために説明会やパブコメをやったのかということになる。

飯岡市議 高エネ研南側未利用地(旧総合運動公園用地)は(筑波研究学園都市の一角として)UR(当時は日本住宅公団)が土地収用法を背景に、一団地の官公庁施設用地として土地を全面買収した。土地収用法9条は事業の承継、10条は手続きの承継について書いてあり、公共の利益に沿うよう管理しなければならないと書かれている。

飯野哲雄副市長 (元の所有者の)URとの取り決めの文書の中に(公共利用の)定めは無い。

市課長 2014年3月31日にURと市土地開発公社が締結した文書に、公的利活用に限定する条文はない。

副市長 (用地は)URから取得している。土地収用法で取得したわけではない。

中村重雄市議(創生クラブ) 用途地域変更にどのくらいかかるのか。

市部長 来年度から、1年ほどかかる。

中村市議 先に用途地域を決めて(事業者を)絞るのか。

市部長 (今回の)方針に沿って用途を決め、地区計画も合わせて決める。

高野文男市議(創生クラブ) 準工業地域にするということだが、どんな企業が入ってくるか読めない。

市部長 準工業地域は住宅や商業施設も建てられるので、地区計画の中で住宅や大規模商業施設を除外する。

橋本市議 買戻し特約はどのようにするのか。建物が立地してしまったら、そのまま市が買い戻すのか。

市課長 債務不履行があった場合に市が買い戻すことができるようにする特約で、10年間は転売できないようにする。建物が立地する前に事業計画変更があったり、転売があったりのリスクを防ぐための担保になる。

鈴木富士雄市議(自民党政清クラブ) 一括売却という方針だが、市民からは公共施設の提案がある。市民意見を売却条件にどう入れるのか。

市課長 市民からの提案施設は事業者に(従たる施設をつくる)参考資料にしてもらう。

鈴木市議 市民意見が入らなければ市民の意見を聞かないことになるが、すり合わせはどうするのか。

市長 市民意見は様々。(市民から出た)施設を全部入れると、300億円の総合運動公園をつくるのと同じ、財政破綻と同じになる。必要なものは必要な土地を見つけてつくっていく。(市民提案施設は事業者への)参考として載せている。

鈴木市議 市民説明会では、市は何をしたいのか説明がない、という意見があった。これについてはどうか。

市長 (今回の)方針で説明していること(=民間一括売却)が私が実現したいこと。

橋本市議 市民説明会(の分析)も追加して掲載してほしい。

市長 市民説明会については「敷地一括売却方針案の是非、公共利用の可能性、周辺環境への配慮、防災拠点の考え方、公募の条件など様々な論点で活発に意見交換を行うことができた」と書いている。現時点で修正の必要はない。

橋本市議 パブコメの意見結果総括表で、具体的施設を提案した57人を「方針案に反対ではなく」と書いてある箇所だが、「方針案に反対ではなく」の部分を省いて方針を修正すべきだ。

市長 そもそもパブコメは賛成、反対ではなく、全般について意見を求めるもの。1人1人の賛成、反対ではない。

橋本市議 賛成、反対を聞いてないというなら、「方針案に反対ではなく」と書くのではなく、事実をそのまま載せるべき。

塩田尚市議(山中八策の会) 用地を購入する時、市が債務保証をし、議会が議決をした。売却の時は議会の議決は必要か。

市課長 市開発公社から民間への売却になるので議会の議決は必要ない。

【訂正12日午後5時】本文3段落目「③明確に反対と④反対し具体的施設を提案を合わせると11%」は17%の誤りです。訂正します。

➡NEWSつくばが取材活動を継続するためには皆様のご支援が必要です。NEWSつくばの賛助会員になって活動を支援してください。詳しくはこちら

31 コメント

コメントをメールに通知
次のコメントを通知:
guest
最近NEWSつくばのコメント欄が荒れていると指摘を受けます。NEWSつくばはプライバシーポリシーで基準を明示した上で、誹謗中傷によって個人の名誉を侵害したり、営業を妨害したり、差別を助長する投稿を削除して参りました。
今回、削除機能をより強化するため、誹謗中傷等を繰り返した投稿者に対しては、NEWSつくばにコメントを投稿できないようにします。さらにコメント欄が荒れるのを防ぐため、1つの記事に投稿できる回数を1人3回までに制限します。ご協力をお願いします。

NEWSつくばは誹謗中傷等を防ぐためコメント投稿を1記事当たり3回までに制限して参りましたが、2月1日から新たに「認定コメンテーター」制度を創設し、登録者を募集します。認定コメンテーターには氏名と顔写真を表示してコメントしていただき、投稿の回数制限は設けません。希望者は氏名、住所を記載し、顔写真を添付の上、info@newstsukuba.jp宛て登録をお願いします。

31 Comments
フィードバック
すべてのコメントを見る
スポンサー
一誠商事
tlc
sekisho




spot_img
spot_img

最近のコメント

spot_img

最新記事

牛久栄進高の志願増と竹園高の学級増《竹林亭日乗》26

【コラム・片岡英明】つくば市内の県立高校不足に土浦一高の定員削減が重なり、つくばの受験生と保護者の不安が高まっている。つくば市からの進学者が多い土浦一高、竹園高、土浦二高、牛久栄進高への志願数を調べた。 牛久栄進の志願者が激増 今年は土浦一高4学級化の2年目。高校入試で何が起きているかを、2024年と25年の志願先変更前の志願者数で調べてみる。 削減1年目の昨年、土浦一高への志願者は222人(定員160)となり、志願先変更で208人(前年比75人減)となった。この土浦一高の定員削減のあおりを受け、土浦二高志願者が430人(定員320)、竹園高435人(定員320人)と、両校に100人以上オーバーの波がきた。 2年目の今年はどうか。土浦二高と竹園高は昨年の100人以上オーバーで難校化、今年の受験生は牛久栄進高に497人(定員360)の波となって現れた。志願先変更で466人となったが、106人の定員オーバーである。 31人という志願先変更の多さには心が痛む。多くの方に、これら生徒、保護者、教師の苦労を感じてほしい。 心配なのは、削減1年目に土浦二高と竹園高、2年目に牛久栄進高に向かった受験生の波が、3年目はどこに向かうのかだ。その受け皿として、改革が始まったつくばサイエンス高校と筑波高校に期待している。つくば市内の両高の魅力アップは地域の発展にも重要で、私たちも応援したい。 しかし、中卒生が激増し、6人に1人しか市内の県立高校に入学していないつくば市で、それだけでは不十分である。 24年からの受験生の大波は、つくばエリアの県立高校不足と土浦一高の定員削減によって生まれた波と考えている。その波の性格に注目し、大人は受験生が安心して学べる入試環境を用意する必要がある。 竹園高に2学級増を TX沿線開発で人口と子どもが増えているつくばエリアに、県立高校新設が必要なのは明らかである。県も牛久栄進高1学級増や市内3校のうち2校で対応(サイエンス高の普通科設置、筑波高の進学クラス設置)しているが、生徒増に追いつかない。そのため、生徒と保護者の期待は竹園高に向かっている。 県は2019年の高校改革プランで、当時のつくばエリアの57学級(中等4学級を含む)を、26年までに59学級にすると発表した。 25年入試では58学級だが、その1学級増は水海道一高付属中からの内進枠である。一般の高校受験枠は改革プラン実施後も53学級のままで、増加していない。この点でも学級増の必要性は高い。県はTX沿線への高校新設を検討しつつ、26年から竹園高に2学級増やし、昨年から起きた受験生の波を受けとめてほしい。 つくば市も、竹園高学級増のために校舎建設の協力を表明している。1月の県教育委員会との懇談では、県も独自の調査で校舎増設が可能であると述べた。条件は整ったと思う。今年の受験生の波を受け止め、竹園高の学級増で小中学生と保護者の希望に応えてほしい。(元高校教師、つくば市の小中学生の高校進学を考える会代表)

未払いの特殊勤務手当て 17人、延べ700日分に つくば市生活保護業務

昨年末に計19万円支払う 市職員から指摘を受け、つくば市が昨年5月に明らかにした市社会福祉課職員に対する特殊勤務手当てと残業代(時間外勤務手当て)未払いのうち(2024年5月9日付)、生活保護業務に従事する職員の特殊勤務手当てについて、市は昨年末、未払い分を請求できる過去3年間にさかのぼって、職員17人に同手当て計19万1675円を支払った。同手当ては1日当たり275円で、3年間で延べ697日分が未払いだった。支払いが遅れたことによる遅延損害金(遅延利息)について5日、市議会2月定例会議本会議に専決処分の追加提案があり分かった。 市人事課によると、昨年末に支払った特殊勤務手当ては、2021年1月~24年3月まで3年3カ月分で、昨年12月26日付で支払われた。遅延損害金は17人のうち、受け取りを希望した6人に計5403円が今月4日に支払われた。 一方、未払いの残業代については、2024年4月~10月の7カ月分について、職員18人に対し計197万5111円が昨年2月21日にすでに支払われているという。延べ何時間分が未払いだったかについて市人事課は「計算してない」としている。残業代についても過去3年間にさかのぼって支払う予定だが、残りの支払いについては現在精査中だとし、支払い日などは現時点で未定。4日は、すでに支払われている197万5111円の遅延損害金について、18人のうち受け取りを希望した5人に計1万6054円が支払われた。 損害遅延金は、特殊勤務手当てと残業代未払分合わせて2万1457円で、いずれも人事課の予算から流用したという。 特殊勤務手当ての未払いは2024年2月、残業代の未払いはさらに半年前の23年9月、市社会福祉課職員から指摘があり判明した。特殊勤務手当て未払いの原因について市社会福祉課は、各職員で業務の解釈が異なっていたことが原因だったとした。残業代未払いの原因については、当時の管理職が、できるだけ申請しないよう不適切な指導を行い、職員が申請しにくい状況になっていたとし、監督責任から、五十嵐立青市長が給料を2カ月間10%、副市長2人が1カ月間10%減給した。さらに不適切な指導をした管理職に対し処分を実施するとしているが、処分はこれからという。 市は加えて、社会福祉課以外にも同様の未払いがないか全庁的に調査を実施するとし、全庁的調査は昨年6~7月に、管理職の不適切な労務管理について、実名を名乗ることを条件に全庁的に実施された。実名で回答した職員にヒヤリングが実施され、新たに分かった社会福祉課以外の未払いについても今後、未払い額の調査を実施するとしている。 今回、特殊勤務手当て支払いの対象となった職員の一人は「時間外手当て未払いの方は3年分が支払われて初めて全容が分かると思うが、なぜ未払いが発生したのか、どうして支払いが遅れたのか、遅れたことによる遅延損害金の発生や、責任がどこにあるかなどが明らかになってほしい」とし「遅延損害金は不適切な労務管理や支払い手続き事務の遅延の結果であり、一時的にせよ市民に負担をかけてしまったことは一職員としてはひじょうに心苦しい」と話している。(鈴木宏子)

次世代育成や社会実装目指す サイバーダイン、台湾の大学などと提携

医療用の装着型ロボット、HAL(ハル)を開発、販売する筑波大発ベンチャー「サイバーダイン」(つくば市学園南、社長・山海嘉之筑波大教授)と台湾の研究機関、大学など5者は4日、戦略的パートナーシップの提携を結んだ。同社が開発する、医療とロボット工学、情報技術などを融合したサイバニクス医療技術を台湾に展開すると共に、共同研究や教育プログラムなどを通じて次世代の専門家の育成やイノベーションの創出、社会実装につなげたいとする。 5者はサイバーダインと、山海社長が籍を置く筑波大学サイバニクス研究センターのほか、台湾バイオテクノロジー開発センター、輔仁大学、輔仁大学附属病院。サイバーダイン本社で調印式が開かれ、山海社長をはじめ、各機関の代表者らが出席した。 今後5者は共同で、バイオ・医療系テクノロジーとAI、ロボット、情報系テクノロジーを融合した技術を活用し、日台における医療・ヘルスケアサービスの向上を目指していくとし、脳神経・筋系の機能改善、機能再生を促進する装着型サイボーグ HALを用いた治療や、日常的にメディカル・ヘルスケアデータを収集・解析・AI処理する技術を台湾で展開し、社会実装を目指す。 台湾からの関係者(左)に製品の説明をするサイバーダインのスタッフ サイバーダインは、筑波大サイバニクス研究センター長の山海教授が2004年に立ち上げたベンチャー企業で、同氏が開発した、人が体を動かそうとする際に脳が発する微弱な電気信号をセンターが読み取り動作を補助する動作支援ロボット HALを国内外に展開している。HALは、人間の皮膚につけたセンサーが感知する電気信号を、内蔵コンピューターが解析し、足や腰、腕などに着けた補助装置のモーターを作動させることで人の動作を助けるものだ。事故や病気、高齢などにより自力で動かすことができなくなった身体部位に対しする機能回復にもつながるという。 社会課題解決策、新たな輸出産業に 同社は近年、開発した技術の海外展開に力を入れており、2024年12月にはマレーシア政府系機関と7億円規模のサイバニクス製品導入契約を結び、同国に建設される東南アジア最大級のリハビリ施設「国立神経ロボット・サイバニクス・リハビリテーションセンター」に、異なる3タイプのHAL 65台を納入した。また、昨年11月には、国際協力機構(JICA)によるウクライナ復興支援の一環として、ロシアによる軍事侵攻が続く同国で負傷した市民らの機能回復訓練を目的に、HALを46台納入すると発表している。 山海社長は海外活動について「新しい領域の開拓は非常に重要」であるとし、「日本が直面する社会課題には、高齢化など世界に先んじていることがある。社会課題の解決は、税金を使い公的機関が取り組んできた分野。しかし、社会の変化が加速する中で、公的機関の力だけでは全てをカバーできない難しい状況が生まれている。課題解決のためには新しい経済のサイクルを発想しなければいけない。日本の経験を生かした解決方法をつくり出し、各国と相互に情報共有しながら社会変革をスピードアップしていけるよう、まずはアジアから開拓している」と話す。 今回の台湾とのパートナーシップ協定締結については「台湾も高齢化が進む国の一つ。日本でつくり上げてきた技術が、高齢化により台湾で起きている課題に直接介入し、支援できるような構造をつくることで、台湾の中の高齢化問題の解決にもつなげていきたいと考えている」とし、「早い段階で、社会課題の解決策を産業として各国の社会に導入することで、それが日本にとっての輸出産業に仕上げていくことができる。日本が世界に貢献できる新たな取り組みにしたい」考えを述べた。(柴田大輔)

音楽に包まれて《ことばのおはなし》79

【コラム・山口絹記】先日、久しぶりに学生時代の友人のライブに行った。学生時代、私はなぜだかクラシックギターをやっていたのだが、当時ジャズサークルでやかましいドラムを叩いていた同期の彼に「クリスマスに爆音で大学のチャペルをぶっ壊したいんだけど、一緒に演奏しない?」と声をかけられて以来の付き合いである。 クラシックギターをやっている人間に対する誘い文句ではないと思うのだが、たぶん何も考えていなかったのだろう。私も何も考えずに生きているからこそ承知したわけで、人のことは言えない。 ライブに行くと、毎度会場でDJを担当しているのも学生時代から付き合いの友人だ。なぜ毎回いるのだろう。暇ではないと思うのだが、毎回いるので、もしかしたら本当は暇なのかもしれないが、そんなことはどうでもよい(コラム42に登場する2人である)。 芯まで響くバスドラに、サックスとギター、ベースの音が乗って、頭がピリピリする。やかましくもどこか変わらない音に身を包まれながら目をつむると、途端に自分が今どこにいるのかわからなくなる。 発破をかけてくれる音 音楽に限らず、何かをずっと続けて、日々進化し続ける意思というのは尊い。どれだけ洗練されようと、そうした精神には何かずっと変わらないものが宿るのだと思う。そんな音にあてられると、ふわふわとした日常の不確かな自己の座標なんて簡単に吹き飛ばされてしまう。初めてその音を体験した日に連れてかれてしまう。 何もかもが簡単に過ぎ去り変わっていく日々の中で、本当に変わらないものというのは、実は常に前進し続けるものだけなのだと私は考えている。停滞すれば、歩みを止めれば風化が始まる。変わってしまう。 たぶん私は、定期的にそんな音に発破をかけて欲しくて、あの音を浴びに行くのだと思う。(言語研究者)