【コラム・佐々木哲美】認定NPO法人「宍塚の自然と歴史の会」は、1989年の設立以来、緑豊かな宍塚の里山を次の世代に引き継ぎたいと活動してきました。私も30年間携わっていますが、振り返ってみると、保全活動が続けられたのは次の3点に集約されます。
1つは、宍塚里山それ自体の魅力です。ここに来ると、何かホッとする空間があります。2つ目は、多くの仲間に恵まれていることです。老若男女、様々な経験と知識がある素晴らしい人たちが活動しています。3つ目は、社会正義です。この素晴らしい場所を短期的な視野で開発させてはいけない、という使命感です。
宍塚里山保全の最大の課題は、その大部分が個人所有地だということです。数百人の土地所有者は、収入を生まない土地を抱え税金を払っています。この場所は幾多の開発計画が持ち上がり、頓挫(とんざ)してきた歴史があります。最近でも、太陽光発電所の建設が始まり、事業者の誘いに心が動く所有者の気持ちもわからないではありません。
我々、保全活動団体の最大の欠点はお金がないことです。そのために、里山の価値を多くの方に理解していただくために、地道なボランティア活動をしています。
太陽光発電所や残土処分場は困る
将来的には、法律で公有地化を図り、土地所有者の利益も守る。維持管理は、公社設立や指定管理者制度を採用、雇用の場を提供する。利用方法は、学識経験者にも関わってもらい、学校教育、市民団体、一般市民の活動の場としてもらうーと、私は勝手に妄想しています。
しかし、現在は保全に関わる法律はなく、所有者の意向で利用方法が決まります。そのため、太陽光発電、集合住宅、残土処分場―などに利用される脅威にさらされています。
そんな中で、少し希望が持てる話が持ち上がりました。2021年6月のサミット(主要7カ国首脳会議)で、生物多様性維持のため、2030年までに国土の陸域と海域の30%を保全・保護することで一致しました。これを受け、環境省は同年までに国土の30%以上を国が指定する自然保護区などとする方針「30by30」を示しました。
そのため、環境省は、従来の制度による区域を拡大するとともに、来年度から民間の土地などを生物多様性保全に貢献する場所として認定する「OECM(Other Effective area-based Conservation Measures、自然共生区域)」制度を試行的に導入するとしています。その対象は、寺や神社、企業が所有する山林・里山だけでなく、棚田のような農地も認定対象になり得るとしています。(宍塚の自然と歴史の会 副理事長)