前回まで紹介した染色人(せんしょくびと)は藍染に専念する人々だが、染色にはよりナチュラルな表現を伴う技法が存在する。草木染がそれだ。草木染の伝統は弥生時代にさかのぼる。天然素材としての木枝や草花を用い、生み出される色彩は古代から受け継がれたアースカラーなのだ。
「futashiba248(フタシバ)」を営む関将史さん(32)、裕子さん(31)夫妻は今年8月、土浦市板谷に工房を開設し、草木染のクリエイターとして活動を本格化させている。彼らの草木染は、剪定された木枝や規格外で市場に出ない野菜・果物などの農業廃棄物を、県内各地の農家から提供してもらい、その原料から生み出される色彩を「農color(カラー)」と名付けてアピールする。
「消費者の側にいる私たちは、農業生産物が作られるプロセスや生産者のことを意外に知りません。私自身もそうでした。茨城県北部の大子町でリンゴが栽培されていて、県内でリンゴ狩りができることも知らなかったのです」と、将史さんは語る。

関夫妻は東京モード学園の同級生だった。互いにアパレル産業に憧れそれぞれ企業に就職したが、地域の農業生産者が抱える苦労や問題を見聞し、自分たちの持っている服飾の世界を通して何か手伝うすべはないかと模索し、出合ったのが草木染だった。
染料の素材と染色製品をもって、農業生産者と消費者をつなぎ、双方の縁を広げていくこと。それが「農color」だ。衣服の染色だけでなく、アクセサリーや小物もデザインし、オリジナルの形と色を販売する。
「日々、生産者の方々と連絡を取らせていただき、廃棄があるときに回収してきて、その日のうちに素材を加熱処理、つまり寸胴で煮込んで染料を作ります。翌日に実際の染色をするのですが、素材によってどんな色彩に染まるのかはやってみないとわからない。このドキドキ感はとても楽しいですよ」(将史さん)

大子町のリンゴをはじめ、ひたちなか市のサツマイモ、笠間市の栗、阿見町のトマト、つくば市のヤーコン、小美玉市のブルーベリーなど、収穫の時期によって素材は変わる。この時期は漆や柿の枝を煮込んでいる。桜や梅の枝木も材料となる。茨城の農資源を地産地消するという側面も大事にしている。以前はホームページと連動して、製品タグから農業生産者の情報を得られるQRコードを添えていたが、現在は「見てすぐにわかるように」と、タグに直接、情報を記載している。
なぜ「futashiba248(フタシバ)」というブランド名なのかも、郷土としての茨城に敬意を表した意味がある。
裕子さんによれば「フタシバの『フタ』は、2人で始めたブランドであることや、それまで捨てられてしまった農生産物を『ふたたび』世に送り出したいという願いを込めています。『シバ』は、私が柴犬が大好きなので」とのことだ。柴犬がどう郷土と関わるのかと思えば「茨城県の形が、犬が遠吠えしているように見えますから」(裕子さん)と、きちんとつながりを持たせていた。

現在の課題は、染料を取り出すために使った木枝などの再利用。乾燥させ破砕してコンポスト化まではたどり着いている。その活用の道を模索している。すると、地域の人々が、コンポスト化までの手伝いのアイデアを助言してくれたことがあったという。
「将来、茨城県以外の素材も手掛けてみたいと思っていますが、今は県内の資源と、人々のつながりを見出すことが主たる目標です。この工房では予約制で体験染色も開いています。沢山の人々と出会いながら、茨城発の『農color』を伝えていきます」(関夫妻)
ささやかながら壮大なストーリー。草木染の新しい魅力が2人の手で産み出されていく。(鴨志田隆之)

関 将史(せき・まさふみ)
出身地:茨城県つくば市
担当:染色、デザイナー
関 裕子(せき・ゆうこ)
出身地:長崎県諫早市
担当:染色、製作