【コラム・冠木新市】6月1日。つくば市役所で「つくばセンタービルのエスカレーター設置計画等の見直しを求める要望書」を小久保市議会議長に手渡した(6月1日付)。そのあと懇談し、「センタービルは、つくばが未来に引き継ぐ日本と世界の文化遺産なので、ぜひ守ってほしい亅とお願いした。飯野副市長とも面談、リニューアル計画の進め方や市民広報のあり方など、いくつか提案させてもらった。
6月2日。センタービルを歩いていて、ふと「ソトカフェ」の黒テーブルとイスのそばにある鉄製プレートに目がとまった。よく見ると、「桜村」の文字が刻まれている。これまで気付かなかったとは不覚だった。その文字を眺めながら、当時の人はどういう気持ちでこの文字を刻んだのだろうかと想像した。
6月3日。NEWSつくばの「市議会・中心市街地まちづくり調査委員会」の記事(6月3日付)を見て驚いた。ホテル側の北エスカレーター1基設置が無くなると出ていたからだ。これまで2基設置を主張していた市議が、1基ヘと意見を変えたからである。あとで某市議に聞いたら、我々の要望書は委員会当日に市議に配布されたが、その前から2基を1基にすると決まっていたようだ。
本欄でセンタービル問題を書いてきたが、最近議会では、エスカレーターは不要だ、見直すべきだ―との声が大きくなっている。市民の声が届いたというより、いったん沈静化を図ろうとしていると考えるのが自然だろう。意見を変えた市議たちは、センタービルは老朽化した建築物だから、どうしようと自由だと考えていたのだ。
6月5日。つくばセンター研究会。私は、この問題は要望書提出で一区切りと思っていた。しかし、総合運動公園建設反対を推進した方から「30年前から住んでいるが、センタービルが文化財であることに初めて気がついた。市民にどんどん語っていかなくてはいけない」と、逆にハッパを掛けられてしまった。
『影の軍隊』のリノ・ヴァンチュラ
そのとき、フランスのジャン・ピエール・メルビル監督の大作『影の軍隊』(1969)を思い出した。『いぬ』(1962)、『ギャング』(1966)、『サムライ』(1967)などで知られたメルビルは、フィルム・ノワール映画の名匠。だが他のギャング映画とは雰囲気が異なっていた。登場人物はギラギラした欲望を感じさせず、皆寡黙で淡々と行動する。
ナチスドイツ占領下の仏。レジスタンス活動で捕虜となったジェルビエ(リノ・ヴァンチュラ)は牢獄から脱出し、隠れ家に身を潜める。レジスタンスのリーダーが書いた数学の本を読み、孤独を癒やす。若いころ、メルビルは2年間のレジスタンス生活を送った。メルビルのギャング映画はナチスへの抵抗運動を投影したものだったのだ。
1983年。つくばセンタービル誕生時、その運営管理は桜村が担当だった。同じころ、筑波町、豊里町、大穂町、谷田部町、桜村の合併話が活発化していた。桜村はいずれ村から市となる運命にあった。だから何気ないプレートに「桜村」を刻んで残したのだろう。センタービルには桜村の人たちの思いがこもっている。
あと2年でセンタービルは40周年を迎える。今ではシン旧住民となった私だが、レジスタンス活動はまだ続きそうだ。サイコドン ハ トコヤンサノセ。(脚本家)