【谷島英里子】発達障害の子どもを育てる、つくば市在住の翻訳家・林真紀さん(42)が、発達障害の一つ、自閉症スペクトラム障害の高校生の成長を描いた米国の小説「Kids Like Us(キッズ・ライク・アス)」(ヒラリー・レイル著、2017年)を翻訳し、日本語版として出版したいと、クラウドファンディングで支援を募っている。
小説は、思春期を迎えた自閉症スペクトラム障害の男子高校生が主人公で、特別支援学校から普通高校へ通うことになり、友人ができたり恋に落ちたりして「普通とは何か?」と葛藤するストーリー。
林さんも主人公と同じ自閉症スペクトラム障害の9歳の長男を育てる。その傍ら、発達障害ポータルサイト「LITALICO発達ナビ」のライターとして活躍、発達障害に関わるコラムを連載してきた。子育て中の保護者の集まりで頻繁に耳にするのが「この子たちの思春期はどんな感じなのでしょうか」といった悩み。いろいろな人の希望になるような、でも、リアルな書籍を探したが、マニュアル本や幼少期にスポットを当てた話、そして悲観的な話ばかり。その後も探し続けて3年目、ようやく見つけたのが米国で発行された「Kids Like Us」だった。
林さん自身、子どもが幼いころは将来の不安ばかりが先に立ち、親子共々休む暇なく、言語療法、作業療法、音楽療法、運動療育などに通わせた。ある日、子どもに「僕、疲れた。ママといるときはもっとゆっくりしたい」「自分が『できない子』だと思うのはもう嫌」と言われたことが立ち止まるきっかけになったそうだ。
「自分は一体何をやっているのだろう、子どもの将来のためにはどうすることが良かったのか、我が子にどうなってもらうことを目指していたのか、その答えが見えないままに子育てをすることは本当に辛いことだった」と振り返る。現在は、日ごろから子どもに「頑張ったらいいことがある」という意識付けをし、行動力を身に付けさせているという。
発達障害の子どもの教育環境は、幼児期には病院や療育施設でさまざまな療育が準備され、学校に入ると学習支援があり、親子共々忙しい日々を送る家庭が多い。しかし、その先の思春期以降のビジョンが空白になっているという。「恋をしたり、友情を築いたり、将来の夢について考えを巡らせたり、そんな思春期の子どもたちの毎日を、発達障害の子どもたちがどのように迎え、感じていくのか。保護者は、それが見えてこない不安を抱えながら、とにかく幼少期の療育と支援に奔走せざるを得ない」と林さん。
こうした発達障害の子どもを育てる周囲の保護者たちの声が、この本の翻訳を後押ししたという。
同書の読みどころについて、主人公だけでなく家族や周囲の人たちの葛藤も生々しく描かれて共感する部分も多い。「普通とは何か?」を主人公が自分なりの解を見出していき、その解答には「爽快感や希望を感じられた」。読み終わった後、「私は私のままで、我が子は我が子のままでいい」と思うことができ、「この子と親子でいられてよかった」と感じられるはずと語る。
2020年春の出版を目指す
クラウドファンディングを活用した翻訳出版プロジェクトを数多く立ち上げるサウザンブックス社(東京都渋谷区)に運営を委ねた。購読希望者を事前に募り、プロジェクト成立後、版権購入費や翻訳費、印刷・製本費などに充てて出版していく。
出資額の目標は230万円。募集期限は9月9日。2020年春の出版を目指している。
クラウドファンディン募集を6月に始めて1カ月が経った。驚いたのがLGBTや精神障害者からの反応があること。林さんは「生きづらさを感じている人にも伝わる。普遍的な本なのかもしれない」と手ごたえを感じている。
クラウドファンディング募集のページ⇒http://thousandsofbooks.jp/project/kidslikeus/