【ノベル・伊東葎花】
わたしは、前世の記憶を持って生まれた。
前世のわたしは、老舗料亭のひとり娘。
裕福な家庭に育ったけど、家に縛られ自由はなかった。
そしてわたしは恋をした。相手は売れない画家だった。
将来を誓い合ったけど、結ばれなかった。
身分違いの恋だ。周囲からの猛反対に遭って別れた。
わたしたちは、誓い合った。
「生まれ変わったら、絶対いっしょになろうね」
きっと何度生まれ変わっても、わたしは彼を見つける。
だって彼は、運命の人だから。
あれから数十年。わたしは生まれ変わった。
今のわたしは、料亭の娘じゃない。親の束縛もない。とても自由なの。
彼との出会いを夢見て過ごした。
一目見ればわかるはず。だって運命の人だもの。
穏やかな春の日、何かに導かれるように、夕暮れの公園に来た。
通りかかったひとりの男が、わたしをじっと見ている。
運命を感じた。ああ、この人だと思った。
姿は変わっているけれど彼に間違いないと、わたしは感じた。
「わたしがわかる?」
呼びかけてみた。彼が少しずつ近づいてくる。
「ああ、ずっと探していたんだ」
彼は、わたしをぎゅっと抱きしめた。
ああ…、やっぱりそうだ。運命の人だ。
「僕の家に来る? すぐそこなんだ」
彼が耳元でささやいた。もちろんわたしはうなずいた。
「ほら、見えるだろう。あの赤い屋根の小さな家だよ」
彼が指差す家は、わたしの理想の家だった。
いつかあなたが絵に描いた家。
赤い屋根のかわいい家で、ふたりで暮らそうと言ったこと、憶えていたのね。
うれしい。わたしは目を閉じて、彼に寄り添った。
「これから一緒に暮らそう。きっと君も気に入るよ」
庭には、かわいいお花がたくさん咲いている。ふたりの楽園ね。
彼はドアを開けると、「お~い、帰ったよ」と誰かに声をかけた。
家族がいるの? わたし、気に入られるかしら。
「おかえり」と顔をのぞかせたのは、若い女だった。
女は、わたしを見るなり目を潤ませた。
「なんてかわいいの」
「公園で見つけたんだ。ピンときた。君が絵に描いていた子にそっくりじゃないか」
「ええ、そうよ。なぜだかずっと夢に出てきたの。きっと運命よ。やっと会えたのね」
そう言って、女がわたしを抱きしめた。
ああ、そうか…。
彼女のぬくもりに触れたとき、わたしにははっきり分かった。
運命の人はこの人だ。
彼が男に生まれ変わるとは限らない。
わたしが人間に生まれなかったのと同じだ。
わたしは、いとおしい人の胸に抱かれて目を閉じた。
そして「ニャ~」と甘えてみせた。
(作家)






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