【コラム・沼田誠】2025年1月1日現在の「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数調査」において、つくば市の人口増加率は特別区を除く市で全国1位になった。私が5月に本欄(5月7日付)で書いたより早く、その時が訪れそうだ。茨城県内一の人口ということになれば、地方自治体としての責任や行政サービスの質も、県を代表するものでなければならないだろう。そのことを考える例として、今回はペット行政を取り上げてみたい。
つくば市と水戸市の違い
ペット行政は、迷子や負傷動物の保護、譲渡、TNR(捕獲・不妊去勢・元の場所に戻す)支援、啓発活動など、市民生活に直結し、行政の姿勢が可視化されやすい分野だ。また、茨城県は犬の人口あたりの飼育率が全国6位(2023年、厚労省資料より算出)など、比較的ペットを飼っている方が多い地域というイメージもある。
つくば市のペット行政を見てみると、不妊去勢やマイクロチップ装着への補助制度を県内でいち早く導入する(つくば市ホームページ)など前向きな施策もある。しかし、犬猫の収容や譲渡といった中核的な機能は県動物指導センター(笠間市)に依存しており、つくば市独自の愛護センターは存在していない。迷子や譲渡情報も県のサイトに誘導され、市民団体による譲渡会などを市が支援するにとどまっている。
一方、水戸市は2020年4月に中核市に移行し、県から野良犬捕獲や収容、返還・譲渡、愛護啓発などの事務を移管された。その拠点が水戸市動物愛護センター「あにまるっとみと」である。ここでは収容動物の情報公開、譲渡会やしつけ教室の開催、TNR支援や不妊去勢手術への助成、学校や親子向けの啓発事業などが、市の裁量で一元的に展開されている(水戸市ホームページ)。
こうした違いは、市の区分に基づく権限の差から生じている。つくば市は「施行時特例市」という位置づけで、県から一部の仕事を先行して移されてはいるが、保健所を設置する権限はなく、動物愛護の主要事務も県が担っている。これに対し、水戸市のような「中核市」は、保健所を自前で設置し、動物愛護センターを運営することで、犬猫の収容・譲渡、TNR支援、啓発活動までを市が一体的に行える。
つまり、つくば市はペット行政については県に依存し、市独自にできることが限られるのに対し、水戸市は市役所内で施策を完結させ、市民に近い場所で柔軟に対応できるという違いがある。
中核市並みの視点が必要
現場のボランティアや愛護団体からは、TNRの多くが今も個人の持ち出しで行われており、例えば、猫の保護を行っている方からは、「まず増やさない」ための公的支援をもっと充実してほしい、との話も聞く。こうした市民の努力にもっと寄り添うことで、命を大切にする姿勢を明確に市民に示してもよいだろう。例えば「動物愛護推進協議会(仮称)」のような場を設け、獣医師や市民団体と共に現状と課題を共有することから始めてみてはどうだろうか。
もちろん、施行時特例市から中核市への移行は、人材や財政の負担も伴い(水戸市の場合は、コロナ禍の最中での保健所の新規立ち上げだったので、大変な苦労があった)、権限移譲によって課題がすぐに解決するわけではない。それでも人口が増えるということは、市民のニーズが多様化し、行政の責任も重くなるということでもある。
少なくとも、中核市並みの自立的な視点で施策を考え、行政サービスの質を高めていくことが、つくば市には必要だろう。(元水戸市みとの魅力発信課長)
<参考資料> 水戸市とつくば市の権限比較(クリックすると読めます)