【コラム・海老原信一】野鳥を観察し、野鳥に助けられながら撮影・展示する活動を続ける中、絵画を愉しむことも増え、身近に鑑賞の機会があれば出かけるようになりました。地元で活躍されている画家さんと知り合え、世界が少し広がった喜びを感じています。
8月中旬、茨城県天心記念五浦美術館の企画展チラシを手にする機会がありました。そこに載っている写真を見たとき、私の心は60数年前に瞬間移動しました。校外行事に参加した後、先生や級友と入った食堂兼喫茶室での休息時間です。
本来なら子供だけでは入れないような場所なのに、引率の先生の配慮でしょう。家を出るとき、事前にそのことを教えられていたからと思うのですが、確か、親が200円を用意してくれました。その範囲での飲食となると、200円では飲み物一つが限度。
悩んだ末に注文したのがソーダ水。泡が緑色の液体の中を登ってくる様子にワクワクしながら見入っていた時間。同時に、それしか頼めなかった懐具合の悲しい思い。親にとっては200円が簡単でないことも知り、子供心に切なさのようなものも感じました。
この少年は私だ
チラシの絵の写真に視線を戻したとき、描かれている少年が見ている先はトレーを抱えた女性ではなく、トレーの上で宝石のように輝く、緑色の冷たそうな液体に注がれています。右手ははやる心を現すように、自分の所にやって来るのをじっと待つかのように。
私の絵画理解はかなり怪しいのは自認していますが、この絵は観てみたいと思いました。実際に観賞して、「やはりそうだったか。この少年は私だ。そして描いた人そのものなのだ」と感じました。
描いた人は小田野尚之さん(1960年生まれ)。題名は「クリームソーダ」(2004年の作)。私より12歳ほどお若いですが、私の勝手な解釈で楽しませてもらいました。(写真家)