【コラム・岡田富朗】筑波大学の図書館情報メディア系講師を務める大庭一郎(おおば いちろう)さんは、図書館情報大学(現・筑波大)大学院・図書館情報学研究科(修士課程)を修了後、海外での経験も経て、筑波大の教員として教壇に立ち、「図書館情報学」という領域の教育と研究に携わっています。
大庭さんと図書館との出合いは、熊本で通っていた小学校でした。そこには珍しく2つの図書館があり、紙の書籍だけでなく、教育番組などを収録したカセットテープの音声資料も収蔵されていました。本を読むことも好きでしたが、それ以上に、さまざまな資料にアクセスできる図書館という場所に興味を持ちました。
大庭さんは現在、「記録による知識共有の重要性」を理解し、「知識共有の制度や技術」に熟知した人材養成をしています。共著に、『図書館情報学を学ぶ人のために』(世界思想社、2017)、『読書教育の未来』(ひつじ書房、2019)などがあります。
壺井栄『二十四の瞳』展

軽井沢タリアセン内の旧朝吹山荘「睡鳩荘(すいきゅうそう)」で開催された特別展「戦後80年 壺井栄『二十四の瞳』~図書館情報学の世界から~」(6月28日~8月31日)は、大庭さんの企画・資料協力により実現しました。
戦争と平和を見つめる文学作品として、親から孫の3世代にわたり読み継がれてきた壷井栄(1899~1967)の小説『二十四の瞳』(1952)を、図書館情報学の視点で収集された網羅的コレクションによって、多角的に紹介。壺井栄は1956年に中軽井沢に山荘を建てて以降、晩年まで毎年5月から11月ごろまで山荘で仕事をしていた、軽井沢にゆかりの深い文学者です。
この企画では、①直筆原稿(複製)②作品の初出掲載雑誌③初版本から各種の単行本・全集・児童書④研究書・研究論文⑤映画化・テレビ番組化された映像資料⑥映像資料の脚本・シナリオ・スチール写真⑦海外で翻訳出版された図書⑧『二十四の瞳』に関する観光グッズ―などの資料が一堂に展示されました。
昨年秋に同会場で開催された展覧会「石井桃子とクマのプーさんの世界」は、大庭さんの貴重なコレクションの提供を受けて実現しました。
ヴォーリズが設計した山荘
展示会が開かれた「睡鳩荘」は、軽井沢別荘建築史の中でも最上質なものとされています。1931(昭和6)年にW.M.ヴォーリズの設計により建てられ、帝国生命や三越の社長をつとめた朝吹常吉の別荘であったのち、常吉の長女でありフランス文学者でも有名な朝吹登水子が夏場を過ごすための山荘としてこの建物を引き継いで使用しました。2008年に軽井沢タリアセンに移築され、現在一般公開されています。(ブックセンター・キャンパス店主)