研究から実装まで一体
産業技術総合研究所(産総研)は5日、つくば市東の産総研つくばセンター内に整備した「バイオものづくり研究棟」(油谷幸代センター長)の開所式を行った。産総研の総合力を生かし、研究開発から社会実装までを一体的に進める産学官連携の拠点として活用するという。
バイオものづくりは、微生物からつくる物質の生産を増やしたり、新しい物質の生産に遺伝子技術を利用するテクノロジーで、国が推進するバイオエコノミー戦略の中核に位置付けられる。開所式には経産省や産業界、自治体などの関係者を集めた。
北海道との2拠点で
研究棟は同センター中央事業所6群にあった既存の地上2階建て2棟を改装し、3月までに完成させた。企業が占有して使用できる居室と実験室を4セット整備した。すでにコニカミノルタ(本社・東京)が研究ラボを設けたほか、企業や大学など多様な研究者が集い、活発な議論ができるようオープンなコミュニケーションスペースが複数設置された。分析機器室には微生物培養リアクタ―装置や質量分析装置などが設置されている。

産総研では4月に、これまでの微生物や植物を利用したバイオものづくり研究を集約化し、北海道札幌市の拠点と結び、バイオものづくり研究センター(油谷幸代センター長)を発足させている。10の研究チームに約70人の研究員が所属している。
北海道センターには、バイオリソース解析プラットフォームが設けられている。国内最高速レベルのゲノム解析用クラスタマシンや各種分析装置などを保有しており、つくばのバイオ拠点と連携することで、圧倒的な速さと精度でゲノムやDNA、遺伝子発現情報の解析を実現できるという。これらの迅速で正確な情報解析によって、最終的にバイオ製品のコスト削減への寄与などが期待される。
産総研の総合力を生かした研究開発の社会実装までの取り組みについて、生命工学領域の千葉靖典領域長が示したのは、微細藻類のミドリムシからつくる高性能の接着剤開発の例。この接着剤には、石油由来の代表的な自動車構造材用接着剤であるエポキシ系接着剤に匹敵する接着強度があり、他のバイオベース接着剤の接着強度も上回ることが突き止められた。
従来の構造材用接着剤は、接着力が高い反面、解体が容易でない短所もあった。ところがミドリムシ接着剤で接着したアルミニウム板は加熱により容易に解体できる特質をもつ。この易解体性により使用済み自動車の解体や部品の再利用が簡略化できる。さらにミドリムシは二酸化炭素や糖を栄養源にしていることから、カーボンリサイクルの面でも貢献ができるとされ研究開発が進められている。
産総研の量子・AI 融合技術ビジネス開発グローバル研究センター(GQuAT)、AI 橋渡しクラウド(ABCI)、マテリアル・プロセスイノベーション(MPI)プラットフォーム、計量標準総合センター、知財・標準化推進部などとの協働によって産総研の総合力を生かした革新的な次世代バイオものづくり技術の開発と実証、バイオものづくり製品の評価方法に関する標準化・認証スキームの整備などを目指すとしている。(相澤冬樹)