【コラム・中尾隆友】歴史を振り返ってみると、インフレが進む社会では格差の拡大が進み、豊かな中間層が疲弊して厚みをなくす。そして、既存の政治が信頼を失い、ポピュリズム政治が台頭する。
アメリカではすでに富裕層と庶民との格差が絶望的なまでに広がり、ポピュリズム政治が台頭する素地が形成された。その結果、トランプ政権が二度も誕生し、深刻な国家の分断が起こった。先日の参院選では、我が国でも同じことが起こることを予感させてくれた。
野村総合研究所が2005年から1年おきに実施している調査によれば、日本でも過去10年あまりで、格差拡大が恐ろしいほど進んでいた実態が浮き彫りになっている。
同調査では、純金融資産(金融資産の合計から負債を引いた額)の保有額に応じて、「超富裕層」(金融資産5億円以上)、「富裕層」(同1億円以上5億円未満)、「準富裕層」(同5000万円以上1億円未満)、「アッパーマス層」(同3000万円以上5000万円未満)、「マス層」(同3000万円未満)―と5つの層に分類している。

2025年2月に公表された調査をみると、2023年時点の「超富裕層」「富裕層」「準富裕層」の世帯数は、大規模金融緩和開始前の2011年時点と比べると、それぞれ2.4倍、2.0倍、1.5倍に増えた。「マス層」も9.3%増えている。一方で、中間層に位置する「アッパーマス層」だけは9.7%減となった。
ポピュリズム政治の台頭を懸念
この推移が意味するところは、中間層から準富裕層以上に昇格する世帯が一定数いたのに対し、中間層からマス層へこぼれ落ちる世帯数が圧倒的に多かったということだ。アメリカほどでないにしても、日本の格差拡大の進行は深刻な状況にある。
2024年以降も株高とインフレが継続しているので、格差拡大が一層進んでいるのは間違いないだろう。今後はアメリカのようにポピュリズム政治が台頭し、国家が分断されるリスクは十分に考えられる。日本は大きな岐路に立たされている。(経営アドバイザー)