【コラム・海老原信一】クモの巣とメジロにいったいどんな関係があるって言うのかしら?そんな疑問が浮かんでくれたら、話し手としてはこの先の展開がしやすくなります。
10年以上も前になりますが、相も変わらず重めの機材をセットした三脚を担いで林道を「鳥さんヤーイ」と念じながらテクテクと。少し視界が開けた所に出たので三脚を下ろし、一息深く呼吸。目の前の風景に視線を向けていました。
すると、樹間を1羽のメジロが飛びぬけようと左手から右手へ。直後にはその姿が見えるはずと見ていたが、「あれ、出てこないぞ、どうして?」。途中で止まるような飛び方ではなかったのですが…。
不思議に思い、少し立ち位置を移動してみる。ありゃー、何てことだぁ~。こんなことってあるのかぁ~。なんとそこには、クモの巣に引っ掛かり、羽をばたつかせながらもがくメジロの姿が。鳥は見かけよりずっと軽量とは言うものの、この光景には驚くばかりでした。
こちらが手を出せるような場所ではないので、ハラハラしながら見守る以外には手だてなし。30秒(私の感覚的な時間)ぐらいしたところでクモの糸が切れたらしく、かの鳥は無事飛び去って行きました。体長11~12センチぐらい。体重も10グラムちょい程のメジロですから、クモの糸にからめとられたのも納得と、後から思うのでした。
羽に糸がへばり付いてしまい、飛行が困難になっていたらと思い、そうならなかったことに一安心した顛末(てんまつ)でした。(残念ながら写真はありません)
花と鳥、どっちが主役?
写真展開催時、持参したポストカードの一枚をご覧になった方の「花と鳥とどっちが主役?」の質問に一瞬戸惑いました。一呼吸おいて「確かに言われる通りかもしれないですね」。花の蜜に上からアタックするメジロ、歓迎するかのごとき妖艶な赤い花(上の写真は花と鳥の取合わせは同じですが別のものです)。
鳥を主役に撮ったつもりの私には、思いもよらない感想をいただいた訳です。人々の風雅をめでる心持ちを思えば、花と鳥はよい組み合わせと言えます。花鳥風月といった言葉もありますから、花と鳥、どっちが主役でもよいのかな。
その経験が、後々の鳥を撮影する際の心構えに大きく影響しています。誰かの一言が新しい発見となったり、自身の指針となったりって、「やっぱりあるんだなあ」と思います。耳や目をもう少しだけ動かしてみようかな。心も体も動くかもしれないから。(写真家)