【コラム・海老原信一】今回は前回(5月8日掲載)触れました「スズメの親子」への思いを話します。22年前、那須高原の観光施設の一角に土木用重機が置かれており、その傍にスズメの親子がおりました。姿勢を低くして近づき、数枚を撮影。内心、良いのが撮れたぞとの思いでした。
その後も空き時間は野鳥撮影に費やす日々が続き、野鳥を撮影することに専念すべく、56歳でそれまで勤めていた会社を退職。体力はまだ十分ありましたから、その後3年間、毎日、野鳥の撮影に走り回っていました。そんな日、ふと「野鳥の写真を撮るって彼らの生活の中に踏み込むってことかな」との思いが湧きました。
スズメの親子の画像を撮り、自分では良いのを撮ったぞと思っているけど、本来なら逃げてしまっても不思議ではないはずだ。逃げなかったのは、親から子に食べ物を受け渡す最中であったからで、逃げるという選択肢は無かったからなのだ。やはり彼らの生活の中に踏み込んでいたのだ。
撮れたぞと思っていたけど、撮らせてもらえたと言うべきなのだ。改めて野鳥との関わり方を考えさせられることになりました。それからは、彼らの生活に入り込む以上、彼らの許してくれる距離以上には極力踏み込まないように気を付けてきました。すると面白いことに気づきました。
人とスズメの間の難しい関係
決定的瞬間には程遠いけれど、彼らの普通の表情が見られるようになってきたのです。もちろん、いつもという訳にはいきませんが、私の中での大きな変化でした。そんな時は「ありがとう」とつぶやいています。健気なところを見せてくれる彼らの姿に、彼らを知ることの楽しさを知って欲しいとの気持ちから写真展を開催しようと決めました。
親子の写真一枚が自分の心持ちを変えさせ、個展を開催しようと決めるインパクトを持つとは思いもしませんでした。たかが「スズメの親子」、されど「スズメの親子」でした。来月7月には50回目を迎える個展ですが、「親子」にも出てもらいます。
スズメのことをもう少し話します。昨今、スズメが少なくなったとの話を聞くことが増えました。70歳代の私が知っている限り、子供のころはうるさいほどいました。それからすれば確かに少ない。スズメは人の近くで生活し、人けのない所には棲まない。人家のない所には居ない。要は、家などの隙間を利用して営巣するからで、スズメが少なくなった理由の一つに最近の住宅の造りによるとの説も。近ごろの家は熱効率アップのために隙間がない。スズメが巣を作れないからではないかと。
だとすれば、人とスズメの間にはなかなか難しい関係がありそうですね。人家に営巣するツバメにとっても同様の悩みごとがあると聞きます。(写真家)